歌に生き愛に生き
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第三章
「僕のことを愛し続けていてくれて」
「この気持ちは何があっても変わらないわ」
「僕もだよ。けれど」
「言った筈よ。愛とは鳥の様なものなのよ」
ジョルジュはショパンにまたこの言葉を出した。
「自由に飛ぶものだから」
「だから」
「けれど貴方は違うわ」
ショパンのやつれていうが整った顔を見て言う。
「貴方の心も私にあるわね」
「勿論だよ」
「けれど貴方は何処にいても」
ショパンもまたジョルジュを見詰めている。その彼への言葉だ。
「愛しているわね」
「君を」
「いえ、私を愛する以上に」
「それ以上に?」
「祖国を愛しているわね」
フランス人ではない彼のこと自体を言ったのである。
「そうね」
「ポーランドを」
「聞くけれどポーランドを愛しているわね」
「愛せない筈がないじゃないか」
これがショパンの答えだった。表情も必死のものになった。
「僕の祖国だよ」
「そうね」
「今はなくなっているけれど」
周辺国に分割されてしまった。今彼の祖国はない。
だがそれでも彼は祖国を愛しこう言うのだ。
「僕は祖国を愛しているよ」
「そうね。何があろうとも」
「祖国を愛さない人間はいないよ」
やはりこう言うショパンだった。言葉にある切実なものがより強くなりその想いはあくまで純粋なものだった。
「何があろうともね」
「そうよ。私以上に」
「僕は祖国を」
「予言するわ。貴方は死ぬ時に私のこと以上にね」
「祖国を想うっていうんだね」
「私は貴方にとって最も愛される存在ではないわ」
このことを強く感じてだったのだ。
「それはポーランドよ」
「だから君は僕の前から」
「さようなら」
ジョルジュは遂にこの言葉を出した。
「貴方のことは何があっても忘れないわ」
「僕は祖国を忘れられない」
ショパンは俯いてこうジョルジュに返した。
「そしてこのことを否定できない」
「そういうことよ。それじゃあ」
ジョルジュはショパンに背を向けた。涙は流さなかった。
しかし二度と振り向くことなくショパンの前から姿を消した。ショパンは項垂れるままその後姿を見ることもできなかった。
ショパンはそれから彼を慕う弟子に支えられて病と闘いつつピアノを弾き続け作曲をした。病は次第に強くなり死の床にあって。
彼は弟子達にこう言った。
「私の身体はパリに埋めて欲しい」
「この町にですね」
「マエストロが過ごされたこの町に」
「この町には長い間住んでいた」
その為に愛情があるというのだ。
だからこそこの町に埋めて欲しい、ショパンは弟子達に言った。
しかしそれと共にこうも言うのだった。
「だが」
「だが?」
「何かあるのですか?」
「私の心臓、心は」
彼の魂が宿るその場所はだというのだ。
「私の祖国に埋めて欲しい」
「ポーランドにですか」
「あの国に」
「今は消えているが必ず蘇る」
この未来を心から信じていた。彼は死の床にあってもそうだった。
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