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権力の犬

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第二章

「だからだな」
「このキムダイもだな」
「ここ北朝鮮への賛美ひでえしな」
「まだ対話とか言ってるぜ」
「あのカリアゲ黒電話とどう対話出来るんだよ」
「そんなのもわからねえのかよ」
「っていうかここはここで酷過ぎるな」
「汚物マンセー過ぎるだろ」
 こう批判される、そのネットの書き込みを見てだ。
 八条大学社会学部で助手を務めている若木葵は首を傾げさせてだった。自分を助手として使っている教授の岩城健一にこう言った。
「何かどっちのダブロイドも」
「キムもキムダイもだね」
 岩城も応えた、大柄で厳めしい顔はラガーマンを思わせるが言葉は穏やかでかつ知的だ。葵は小柄で面長の顔で目が大きく薄い唇の口も印象的だ。黒上を伸ばしていてお洒落な感じをしている。身体はすらりとしている。
「どっちもだね」
「酷いですね」
 その記事の中身がというのだ。
「本当に」
「タブロイドといってもね」
 岩城も言う、自分の研究室でネットからその記事を見ている葵に対して。
「そうだね」
「はい、かなり」
「僕もそう思うよ」
「あれですね、キムはどっちかっていいますと」
 葵はまずはこちらのことを話した。
「所謂ネット右翼みたいで」
「便乗している風にね」
「そっちの記事であのオーナーをヨイショばかりしていて」
「捕手で権力寄りだね」
「そう言っていいですね、まあネット右翼は保守というよりは」
 これは葵の見立てだ。
「差別的で感情的で」
「ネットの悪い面が出ている」
「そんな感じですが」
「その彼等を煽る夕刊キムもだね」
「差別を煽っていますから」
 それでというのだ。
「悪質ですね」
「そうだね」
「殆どハーストです」
 そのアメリカのイエローペーパーだというのだ。
「これでは」
「日本のハーストだね」
「そう思います、ただですね」
「キムダイもだね」
「こっちはどうかといいますと」
 葵は今度はその日刊キムダイの話をした。
「政府を批判というか出鱈目言いがかりなレベルで誹謗中傷を書いていて」
「汚物伊知郎をだね」
「やたら賛美してそして」
 そのうえでと言うのだった。
「北朝鮮についても」
「やけに好意的だね」
「はい、あんな国を」
「あそこがどんな国か言うまでもないからね」
「ならず者国家ですね」
「独裁に弾圧、粛清、拉致に麻薬に偽札に核兵器とね」
 岩城は北朝鮮の悪事をざっと挙げていった、彼はどれもそれが全て真実であると確信しているのである。
「もう数え役満だね」
「完全にそうですよね」
「そう、しかしね」
「あそこはやたら擁護して。何ていうかここも」
 その日刊キムダイもというのだ。
「煽っていて酷いですね」
「結局結論はどっちもどっちですね」
「何ですかね」 
 首を傾げさせて言う葵だった。
「片方は権力に媚びていてもう片方は反権力で」
「それでもだね」
「どっちも酷いっていうのは」
「ああ、キムダイも権力に媚びているからね」
「あれっ、キムダイもですか」
「そうだよ、そこもね」
「あの、政府には誹謗中傷の限りですけれど」
 葵はまた首を傾げさせつつ岩城に返した。
「キムダイは」
「権力は政府だけじゃないから」
「そうなんですか」
「権力は沢山あるよ」
 政府だけでなく、というのだ。 
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