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巳 ── secondmatter

作者:田辺 蒼
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《第零巳》~プロローグ



随分、山奥にきたなぁ。と男は思った。

やはり山は虫が巨大だ。と感じたのはこの男、春日井 颯図が運転する黒いオープンカーには、先程から『カメムシ』やら『蛾』やらが頻りに車内に侵入してきて、何ともおぞましい空間になってしまっていたからだ。

颯図は思わず溜め息を吐く。

現在早朝で、まだまだ太陽は出てこない時間帯である為、辺りはまだ群青色に薄暗い。
颯図はこの上なく迷惑そうな声で、大きく溜め息をついた。

何故彼が早朝(午前中の五時辺り)から、わざわざ外出しているのかと云うと、昨日の夜遅くに(午後十一時半)一通のメールが届いたのだ。
そのメールの送信者は、狩高見 六四と云う、年老いた老人である。
内容はこうだ!


{ 長雨がうっとうしい季節となりましたが、颯にはご清祥にお過ごしのこととお慶び申し上げます。急なことで申し訳ないのですが、明日の6時に○○県○○市○○○迄来ていただきたいのです。お忙しい中にすみません......。私、雨が大嫌いなのです。と云うのは、颯図くんは知っていますね。はははっ。───明日は晴れると良いですね。それでは。}


このメールが余りに急だったので、最初は断固断ろうとした彼であったが、颯図はこの老人に学生時代に色々と世話になっていた為、断るにも断れなかった。

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「それにしてもこんな朝早くから.......一体なんの用事だよ狩高見さん......。」

私が家を出発してからもう二時間くらい経つが、未だに寝癖をなおしたり目を擦ったりして、兎に角恐ろしく眠い。
昨日なんて殆ど睡眠出来ていない......。

時々、山特有のひんやりした風が頬に触れることがあって、その度は私はいちいち身震いをした。

『目的地迄後二百メートルデス。』

この間購入したばかりのナビゲーターが、無駄に丁寧に教えてくれた。

おうおう、ようやくだなっ。と云いながら、前方に木々で見え隠れする古くさい看板に目を通す。

(ここから先、関係者以外立ち入り禁止!!)

看板には錆や苔等があり、かなり見辛い。

「俺は一応関係者でいいんだよ」

暫く走行すると、いよいよ目的地と思われる建物が見えてきた。昔はしっかりとした建物だったのだろう。と、思った理由は、柱ひとつひとつが建物を力強く支えている風に見えたからである。
しかし、あちこちにあの看板と同じく苔や錆があり、私にはとても人が居そうな感じはしなかった。

私は、界隈の適当な場所に車を停車し、オープンカーから降りた。

「早すぎたかな?」

左手首の腕時計で時間を確認する。約束の時刻は六時であるが現在五時半、三十分早いがまあ妥当か。

私はだんだんその建物に近くに歩み寄ると、目前に玄関を見つけた。

「何か無気味だなぁ……。」

しかし真っ暗で怖かったので、取り敢えず窓ガラスから内装をこっそり覗いてみることにした。

私は、そっとガラスに手をおき、ひっそり中を覗き込んだ。
─しかし何も無かった。人気は無く、ほとほと真っ暗である。

「あれっ、俺場所間違ったかなぁ、有無......。」

私は何処かしら心配になったので、もう一度オープンカーに駆け寄りエンジンをかけ、ナビゲーターの方を確認した。が、モニターには間違いなく○○○の地名が確かにあった。
私は、一人首を傾げ、又あの殺風景な建物に向かうと、再び窓ガラスから内装を確認してみた。

──すると、様子が先程とは大きく異なっていた。

私はその著しい変化に、私は首を傾げた。

部屋の中では、得体の知れない青白い光たちが、作業服に見にまとった男共を明るく照らしていた。作業服の男達は、まるで機械のように規則正しく、作業に勤しんでいた。
刹那、一人の男が、こちらを向いた。

──目が合ってしまった!!

私は、心臓が止まるかと思う程驚いて、反射的に息を殺し、目をそらして知らん顔をした。

男は暫くこちらを見て不信に思う様子だったが、暫くすると作業に戻っていった。

私は甚だしく溜飲を下げた。
そして今度は別の窓ガラスに移動して見る。

一時してみて、何より存在感があるよなぁ。と、思ったのが、部屋の真ん中に居座るボンベである。

そのボンベは、部屋の三分の一をしめる程、結構な大きさであった。

これらのものは、私と何か関係があるのだろうか?
狩高見さんは何故今頃私を呼んだのだろうか?

「なんだよ......、ますます意味が分からん。狩高見さん何考えてんだよ!!」

呟くと同時に、私は彼に電話をかけようとポケットの中にあるスマートフォンを取り出そうとした。

────その時だった!!

五臓が浮いた。
私が呟いた途端に、足元に大きな穴が空いたのだ!

「うおわわわわわ!!!!」

忽ちのうちに身体中は地中に引っ張られるみたいに、考えられない程ぐんぐん落下する。

私は、普段出さないような情けない大声で叫び放らし、暗闇に消えていった。

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私はゆっくり目を覚ました。

「なんだ.......?」

小声で呟く。

私は知らぬ間に、一般家庭のリビング風な部屋のソファーに腰掛けていた。
そして、何よりも仰天なのが、私の座っているソファーに向かい合って、狩高見さんがソファーに座り独りでお茶を飲み乍らテレビに映る芸人を見て馬鹿笑いしていたのだ。

疑問は色々とあるが、何にしろ、本人聞くしかない。
私は、狩高見さんの目を見て話し掛けてみた。

「随分とダイナミックなおもてなしですね。全く狩高見さんらしいです。それで、どうしたんですか?」

「久しぶりだねぇ、颯図くん。元気してたかい?」

狩高見さんは、深い笑みで私に語りかけた。
しかし、会話は噛み合っていない。
チッと私は舌打ちをした。
もう一度聞く。

「久しぶりですね。それにしても一体何用ですか?」
脅しかける様に問う。

狩高見は足を組むと、頭を掻き、再び微笑すると、颯図にこう言った。

「実は颯図くんには一つ、お願いをしたいんですよ。」

狩高見は悠長に立ち上がると、パチーンと良い音で指を鳴らした。

すると後ろの方から、背が高く体格の良い男二人がずんずんこちらへ歩いてきた。
居丈高に私を見ている.......。

「え!?ちょっ、なんだ!?」
本能的に呟く。

私は無理矢理ソファーから立たされ、羽交い締めにされた。
狩高見は、表情一つ変えずに私を見ている。

「い、いたっ!ふざけ──っ!!」

首を思い切り打撲されて、私は又気を失ってしまった。

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この体全体の窮屈さは何だろう?

そういえば、私は暴力を振るわれて......。

『狩高見様!もうそろそろ実験といきましょう!!予定時刻となりました。』

大勢の部下達は、恐ろしい程に声を揃えて言った。

「ううん、そうだな。────おいっ颯図くん!!起きているんだろ?」

狩高見は大きく手を三回叩いた。

「お前は一体何を考えてんだ?」

狩高見は部下達に、「灯りを消したまえ。演出用意!」と厳か命令した。
ガタンッと一気に暗闇になると、スポットライトが一つ点いた。注目するは狩高見 六四。
彼は又足を組むと、私を見つめてこう言った。

「落ち着いて聞きたまえ。別に物騒な話ではない。」

虫酸が走るが、今は堪え忍び話をきこう。

「いやはや、話が話でねぇ。内容が少しばかり漠然とし過ぎてるんだよな。だから、敢えてこういった形をとらせてもらった。」

狩高見の表情が急に強張った。

「君にはこの地球から出て、ある星に行ってほしいのだ、所謂宇宙旅行という奴だ」

私は思わず腹から声を出して大笑いしてしまった。ここまでされておいて、出た内容がこの様である。それは笑い飛ばしたくなる。

「狩高見さんは私を馬鹿にしているんですか。ふふふ、第一そんな事どうやって.....」
「おい。そこの君。君だよ。もう主導電源をいれたまえ。」
「承知しました」

又もやシカトである。
部下はあるレバーを引いた。レバーは何処だ?と辺りを見回した。
この時私は初めて、先程目視したあの大きなボンベに閉じ込められているのだと理解した。

「百聞は一見に然ずだ。信じない子には、是非を問わず早速、体験してもらう。」

激しく痛みを感じた。

「えっ!?ちょ!?マジ?それマジな奴?ウソっ?ちょ!?マジ冗談抜きで。えっ!?やめっ!?」

そして次の瞬間。

ヴウウウウウウウウウウウウン。とロケットが発射した時のような凄まじい爆音と共に、ジェットコースター落下時に起こるアレの十倍位苦しいものを感じた。

「さぁ颯図くん、行ってらっしゃい!」
いーってらっしゃい!!と部下達も口を揃え乍ら、手を振っている。

私は天井を突き破り、凄まじいスピードで上昇していた。嗚呼、ナニガナンダカ分からないーー!!!!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

颯図が行ってしまった後で暫く沈黙が続いた。
狩高見の部下一同は、主人の命令をまっている様子だ。
狩高見は一つ溜め池をつくと、パンパンッと手を叩いた。

「はい撤収!!本日はお疲れ様でしたー。」

狩高見の号令で、儀式は終了した。


★つづく★ 
 

 
後書き


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