とある科学の裏側世界(リバースワールド)
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remember memory
ep.0002 remember memory 騎城&七草 後編
前書き
最終回です。
謎の相手との死闘を乗り越えて1年以上が過ぎた。
大量出血にも関わらず生還できたのは奇跡だった。
俺は相変わらず姿が見えない相手をどうやって知るのかを考えていた。
俺はこの時には自分の能力に気付いていた。
名前は付加理論。
触れたものに独自の法則を付与できる能力。
(世界に対して我儘を言う能力ってか。)
まるで恵まれない俺を皮肉っているような能力だ。
だが、便利な能力なのは確かだった。
この能力があれば瓦礫を触れるだけで片付けられる。
物に対して能力で浮力を付加することで大きな岩でも宙に浮かせることができるわけだ。
生活は少しだけ安定した。
俺に仕事ができたからだ。
雇い主の本名は分からないが、イニシャルはS.K.だ。
仕事の内容は事件後の跡地の調査。
そこでどういった内容の事件が起きたのかを調査することが今の俺の仕事になっている。
といっても第0学区は全域で事件が絶えず起きているような場所だから1件1件ごとの調査はそこまで意味をなさないだろう。
ただ、この仕事を俺が選んだのには意味がある。
1年ほど前に俺を襲った男の組織を特定する。
それが俺がこの仕事をする最大の理由だ。
今のところ判明しているのは、組織の名が「アナコンダ」だということと、大規模な暗殺組織だということくらいだ。
その後、俺はアナコンダの真相を追って証拠品が燃やされずに残ったとある屋敷を調べることになるのだが、それから少ししてこのアナコンダという組織は崩壊する。
もっとも、今の俺には知る由もない話だが。
報酬はそこそこで食べ物を普通に買えるようになった。
寝床に関しては廃墟の一角に買った布切れ数枚を敷いて少しはマシになった物があるくらいで、冬になると地下とはいえまともに眠れるような暖かさではなかった。
そんな時に姿の見えない相手は俺に寄り添って俺を暖めながら眠ってくれた。
姿は見えないのに体温はちゃんと伝わってくる。
そんなこんなで俺たちは何とか生きていた。
だが、俺は妙な変化を感じ始めていた。
日を追うごとに少しずつ相手の体温が下がっていた。
およそ一年近く経過した今だからこそ鮮明に分かることだが、体感からして感じ取れる温度が10℃くらい落ちているように感じた。
それだけではない。
感触もなくなりかけていた。
相手は気付いてないのかも知れないが、手を伸ばせばまるで何もないかのように既にそこに実体があるという感触が弱くなっていた。
◆◆◆◆◆◆
それからしばらくして俺が相手を感じ取る方法はもう寝る時に寄り添ってくれた際に感じ取れる体温くらいになっていた。
どうすることもできないと思いながら俺は眠りにつこうとした。
その瞬間、遂に俺は何も感じ取れなくなった。
衝撃に目が覚め、途端に辺りを見る。
気配はもともと感じ取れなかったのに、俺は完全に取り乱していた。
「そんな...嘘だろ!」
初めて誰かが居なくなる恐怖を覚えた。
床を見ると「助けて」と書かれている。
俺はパニックになりそうな感情を無理矢理理性で押し殺した。
「そこに居るのか!」
「頼む...消えないでくれ!」
何もないはずの空間に手を伸ばす。
その時、声が聞こえた気がした。
「ここだよ」と声がした。
俺はそれで完全に冷静になった。
自分の目を前の空間を抱き締めるようにして、俺は自分の能力を使った。
付加理論には1度しか使えない奥の手があった。
2度目を使えば俺は負荷に耐え切れず自滅する。
この能力が世界に我儘を言うだけの能力なのなら、この奥の手は我儘を通す能力だろう。
『絶対理論』。
この力によって与えられた理論は永続的なものになる。
言わば、俺が無理矢理常識を作る能力だ。
本来なら神の領域に達するはずの妙技をこの能力はたった一度だけ実行することができる。
無論、自滅することを前提にするなら2度目を使うことも出来るのかもしれないが自滅してしまったら何もかも終わりだから俺は2度目を使うことはない。
それに、能力自体は付加理論をそのままグレードアップしただけの能力だから対象に触れる必要があった。
ただ、能力が発動すれば俺が死んだとしてもその理論を取り払うことはできない。
「お前を消させたりなんかさせない。」
俺の腕が奇妙な光を放つ。
今から考えればあれはきっと『神の手』か何かだったんだろう。
その腕は万物への接触を可能とし、完全に消滅したかに思われた相手に触れた。
そして俺は絶対理論を行使した。
(対象の能力を俺に対して完全に無効化する。)
俺の腕の光は強さを増し、辺りを包み込んだ。
ようやく視界が定まると、1人の少女がいた。
それが俺と七草の初めての対面だった。
彼女が見えた途端、肌の感触、体温、匂い、重みが一気に伝わり、それが彼女がここに確かに存在していることを俺に再度伝えた。
俺はこの感覚を忘れないために彼女を強く抱き締めた。
「ん...。」
強く抱き締められた彼女は思わず泣き出していた。
俺は彼女の頬に手を当て、親指で彼女の涙を拭う。
頭を撫でるように若干ボサッとしている彼女の髪を、俺は少し乱暴に掻き回した。
彼女は嫌がる素振りはなく、受け入れているようだ。
そして俺は自己紹介をした。
「俺は騎城優斗だ。お前は?」
「な...七草花夜...です。」
七草から聞いた話だが、当時彼女は自分の能力をコントロールできなかったらしい。
電源の入れ方は分かっても切り方が分からない状態だ。
その結果、能力強度の向上に合わせて他者からの認識が薄くなっていき、最終的に制御できなければ誰からも認識されない存在になっていたらしい。
◆◆◆◆◆◆
「へぇ。自らレベル7としての力を放棄するなんて。」
1人の少年が彼らを見ていた。
この少年は彼の絶対理論をレベル7の力だと確信し、しばらく彼を監視していたのだ。
『常識を作る能力。』
万物との接触を可能とする腕で神格に触れ、その存在を否定すればそれが常識になる。
それは人間が許されることではない。
だが、それが可能だからこそレベル7になり得る可能性を秘めていた。
しかし結果はどうだろう。
彼が作った1つの常識は世界の我儘どころか、彼の子どもじみた我儘に過ぎなかった。
失望を通り越して呆れてしまう。
だが、触れたものに独自の法則を与える能力はそれだけで強力だ。
一方通行のように単にベクトルを操作する能力とは違い、彼は法則を操作する能力だとも言える。
「絶対理論がなくてもレベル6にはなるかな。」
少年は去る。
もう彼を監視する意味はなくなった。
だが少年は後々、彼らと大きく関わることになる。
無論、今は誰も知らないことだ。
◆◆◆◆◆◆
それから数年後。
俺と七草は1つの組織の情報を耳にした。
その組織の名前は「STUDENT」そして俺たちの運命は大きく動き出すことになった。
remember memory 騎城&七草編 END
後書き
今回の過去編はここまでです。
メンバー9人中の4人が終わりました。
次回の過去編は「影縫編」を書こうと思ってます。
またお楽しみに。
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