とある星の力を使いし者
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第162話
一緒に暮らそう。
この言葉を理解するのに制理は数十秒くらい時間がかかった。
理解すると顔が一気に熱くなるのを感じる。
「なっ!?・・えっ!?、き、貴様は・・なななな、何を言っている!?」
激しく動揺するが無理もないだろう。
好きな人に突然面と向かって一緒に暮らそう、と言われれば誰だって動揺するだろう。
しかも、相手はあの麻生だ。
冗談などでこんな事を言う性格ではない事を制理は知っている。
だからこそ、これだけ取り乱しているのだが。
「一緒に暮らそうと言っているんだが。」
「どうして突然そんな事を口にするかと聞いているんだ!!」
何がしたいのか全く分からない。
怒鳴るような質問をしてくる制理の言葉を聞いた麻生は質問に答える。
「あの化け物を見てから寝れないんだろ?
腹が減っているのも、それが原因な筈だ。」
真面目な顔をして麻生は言う。
言っている事は間違っていないので、制理は小さく頷いた。
「まぁ、あれを見て平然と暮らして行ける方がおかしい。
制理を襲っている悪夢は、至ってお前が正常である証拠だよ。」
「恭介はどうなの?」
「俺は全く見ない。
ただの一般人と自分で言っているが、一番異常者だよ。」
自嘲気味麻生は少し笑いながら言った。
その表情を見て制理が声をかけようとしたが、麻生は荷物を背負い直す。
制理の鞄を空いている片手で持ち、保健室を出て行こうとする。
「ほら、行くぞ。」
ベットで座っている制理にそう声をかける。
一緒に暮らすという事に対して明確な答えを言っていないが、それでも聞き返す。
「どこに?」
「これから皆で住む場所だ。」
皆で。
そう麻生は言った。
道中、自分の鞄は持つと言ったが、今日くらい休めと麻生は鞄を渡すつもりはないらしい。
何でもクラスメイトが気をきかして、制理の荷物を纏めてくれたらしい。
明日にでもお礼を言わないと、と制理は思う。
数十分くらい歩いてようやく着いたのは、見た目は高級そうなマンションだ。
とても学生の身分では住む事ができない。
麻生は躊躇いもなくマンションに入って行く。
とりあえず、制理も後について行く。
カードを通すだけのロック機能の所で麻生はチラリ、と制理の方を見る。
ロックを解除するカードを麻生は持っていない。
愛穂自身渡すつもりだったのだが、忙しくて忘れている。
能力を使えばカードが無くても解除も可能だが、それだと制理が良い思いはしないだろう。
なので、ポケットに手を突っ込んで、カードを取り出す振りをして能力で複製を創る。
カードを通す瞬間に、セキュリティシステムにハッキングして完全なカードに昇華させる。
中に入り、エレベータに乗る。
「皆で、って言ってたけど他にもいるの?」
「ああ、お前も会った事ある筈だ。」
一三階でエレベータは止まる。
すぐそこのドアをインターホンを押さずに扉を開ける。
いきなり扉を開けた事に制理は驚くが、それを気にせず中に入る。
廊下を抜けた先のリビングにある、ダイニングテーブルの椅子に一人の女性が座っていた。
腕を枕にして突っ伏している。
その後ろ姿に制理は見覚えがあった。
芳川桔梗だ。
桔梗は扉がインターホンなしで、開いて事に気がついたのかゆっくりと顔を上げる。
「あら、恭介。
それとそちらは吹寄さんね。」
入ってきたのが麻生と知ると、桔梗は力のない笑みを浮かべる。
制理の事もあの事件と病院で名前と顔を覚えていたらしい。
声には力が無く、目元にもクマができている。
それを確認して麻生はキッチンの方に足を向ける。
指でキッチンを触ると少しだけ埃が溜まっていた。
「ご飯食べてないだろ。」
再びリビングに戻りながら、麻生は言う。
「食欲が無くてね。」
「あれが原因か。」
あれ、とはティンダロスの猟犬の事だ。
その事を桔梗は分かったのか、ゆっくりと頷く。
制理も気がついた。
自分以外にもあの悪夢にうなされている人がいたんだと。
「そうか。
桔梗、俺は今日からここに住むよ。
後、制理も。」
「・・・・・それはいいけど。
いきなりどうしたの?」
「お前達はあの化け物を見て、精神的なダメージを負っている。」
桔梗は制理に視線を向ける。
視線の意味に気がついた制理はコクリ、と頷く。
「俺が住み込みでメンタルケアをするつもりだ。
今から寮に戻って必要な物を取ってくる。」
「ちょっと待ちなさいよ!
私はまだ住むとは言ってないわよ!」
勝手に麻生が話を進める中、制理は少し強い口調で言う。
正直な所、麻生と一緒に住めばあの悪夢を見なくて済むだろう。
それは今の制理からしてとても魅力的なのだが、何も言わずに一緒に住むのは気持ちが許さなかった。
好きな人と一緒に住めるのは嬉しい。
でも、素直になれないでいた。
「出来る事なら一緒に住んでもらいたいのだが。
部屋も余っている。」
「そういう問題じゃなくて!」
「それにお前のあんな姿を俺は見たくない。」
「うっ・・・・」
少し暗い顔をしながら麻生は言う。
自分を責めている。
制理は麻生の顔を見てそう思った。
素直になれない気持ちを振り払うように言う。
「わ、分かったわよ。
私もあんなのはもう見たくないし。」
「ありがとう。」
「べ、別に礼を言われる事じゃないわよ。」
顔を少しだけ赤くしながら言うが、恥ずかしくなったのかそっぽを向く。
麻生からカードを受け取り、制理は部屋を出て行った。
生活に必要な荷物を取りに向かったのだ。
自分の荷物を取りに行くか、と思って部屋を出て行こうとした時だった。
後ろから抱き着かれたのは。
「恐かった・・・・凄く恐かった。」
抱き締めてくる桔梗の身体は震えていた。
さっきまでは大丈夫そうに見えたが、実際はそうでなかった。
心は折れかけていた。
抱き締めてる腕を麻生は解いて、桔梗に向かい合う。
「大丈夫だ。
今日から傍にいる。
お前は・・・お前達は俺が守る。」
「うん、ありがとう。」
安心したのか、桔梗は麻生から離れる。
部屋を出た麻生は自分の寮に向かう。
といっても、麻生が用意する物なんて服くらいだ。
それ以外の物はこの部屋に置いていくつもりでいる。
簡単に荷物を纏めて部屋を出ると上条に出会った。
「あれ、どこかに行くのか?」
背負っている荷物を見て、どこかに泊まるつもりなのだと判断した。
「少し別の家に泊まる事になってな。」
「えっ・・・それじゃあご飯とはどうすればいいんだ。」
「そんなの自分で考えろ。」
横を通り抜けようとするが肩を掴まれてしまう。
「何だ?」
少し鬱陶しいそうな口調で言う。
上条の顔は何かに怯えているような顔だった。
「麻生の料理が無かったらインデックスの処理はどうすれば良い!?
最近、とうまの料理が飽きた、とか言い出しているんだぞ!?
麻生の料理が食えないかもしれないって分かったら、暴動が起こるぞ!!」
「それをどうにかするのが同居人の役目じゃないのか?
舞夏にでも手伝って貰え。」
「あいつ、学校の授業で最近ここには来ないんだよ。
だから頼れるのは貴方しかいないんです!」
そんな感じで上条がひたすらに頭を下げつつけた。
結局、上条の部屋で軽く料理をする羽目になった。
予想もしなかったアクシデントに時間をとられた。
マンションに向かう前に麻生はある場所に向かった。
愛穂が入院している病院だ。
カウンターで愛穂がどこにいるかを聞くと、この時間はリハビリ室にいるらしい。
リハビリ室に向かうと、多くの人がリハビリしていた。
その中で棒に掴まって歩いている愛穂の姿が見えた。
汗を掻きながら必死に歩くのを練習している。
休憩するのか椅子に座って、水の入ったペットボトルを口にしながら、タオルで汗を拭いていた。
それを見計らって、麻生は部屋に入り愛穂に近づいた。
「よう、愛穂。」
「恭介じゃん。
どうしたの、その荷物。」
「その事についてお前に話したい事があってな。」
自分が泊まる事情と制理の事情を簡単に説明する。
「ウチは全然問題ないじゃん。
むしろ、恭介が泊まってくれる方がウチは嬉しいよ。」
愛穂の顔色を窺う。
カエル顔のメンタルケアは問題ないように見えたが、どこか無理をしている感じがした。。
義手と義足に視線を向ける。
「リハビリはどうだ?」
「まずまずってところ。
ようやく少しだけ歩けるようになったじゃん。
でも、もう少し退院は先みたい。」
「無理はするなよ。」
「分かっているじゃん。」
その時、愛穂の名前を呼ぶ声が聞こえた。
どうやら休憩時間は終わりの様だ。
愛穂は手すりを掴みながらゆっくりと立ち上がる。
「んじゃあ、頑張ってくるじゃん。」
そう言ってゆっくりとリハビリのサポートする人の元に向かう。
麻生はリハビリ室を出ると、カエル顔の医者に出会う。
「黄泉川君のお見舞いかい?」
「そうだ。
調子はどうなっている?」
「リハビリは問題ないよ。
むしろ順調だ。
けど、問題は精神面だね。」
「見た限りは大丈夫そうだったが。」
「アレはそう振る舞っているに過ぎないよ。」
麻生が感じたのは気のせいではないようだ。
「毎晩うなされる様な声が聞こえるらしい。
何があったか知らないが、相当きているね。」
「これを渡しておいてくれ。」
渡したのは蒼い袋に包まれたお守りだった。
『護』という文字が刺繍されている。
「分かった。
彼女に渡しておくよ。」
「頼んだ。」
渡し物を渡した麻生はそう言って彼から離れる。
そのまま病院を後にして、今度こそマンションに向かった。
麻生が上条の部屋で料理を作っている頃。
制理は荷物を纏めてマンションに着いた。
麻生に貰ったカードを使って中に入る。
一三階について、部屋に入ると桔梗がコーヒーを作っていた。
「あら、いらっしゃい。」
「今日からよろしくお願いします。」
頭を下げて制理は言う。
「この部屋の持ち主は入院中だから私に言うのも変だけどね。
コーヒーいる?」
「は、はい。」
もう一つマグカップを取りだし、コーヒーを入れる。
ミルクや砂糖などを入れるか入れないかを聞いて、入れたコーヒーをテーブルの上に置く。
二人とも椅子に座って、出来上がったコーヒーを呑む。
「おいしいです。」
「ありがとう。
研究とかでよく作ってたから、どんどん上手くなってね。」
「その持ち主が入院ってあの人ですか?」
「そう、黄泉川愛穂。
今は入院してリハビリしているわ。」
簡単な事情は病院で聞いている。
離す会話がなくなり、沈黙が続く。
コーヒーを飲む音と、時計が動く音しか聞こえない。
「ねぇ、吹寄さん。」
すると、桔梗から話しかける。
「何ですか?」
「恭介の事、好き?」
「ぶっ!?」
思わず飲んでいるコーヒーを噴き出しかけた。
少し咽ながらも聞き返す。
「な、何を・・・」
「同じ人を好きになっている人がいると、感が冴えるのかしら。」
「じゃあ、貴女も・・・・」
「貴女もということは、好きなのね。」
あっ、と完璧な誘導尋問にひっかかる。
みるみる顔が赤くなっていく。
「別に好きだからといって、何かするつもりはないわ。
ただ一つだけ言いたくて。」
「な、何ですか。」
少し緊張した面持ちで聞く。
桔梗は片目を瞑ってこう言った。
「負けるつもりは全くないから。」
堂々と宣戦布告を聞いて、呆気にとられてしまった。
この場には二人しかいない。
だからこそ、制理も正直な気持ちで桔梗に言いかえした。
「私も・・・負けません。」
制理の眼を見た桔梗は嬉しそうな笑みを浮かべる。
恋のライバルが増えたのに、何故嬉しそうにしているのか制理には分からなかった。
麻生と同い年でこういう子がいる事を知って嬉しかった。
これは予想だが、きっと友達もいる筈だ、と桔梗は思う。
(それでも譲るつもりはないけど。)
麻生がこの部屋に暮らす事になったと聞いて、少しだけ元気になった。
あの悪夢を見て今まで苦しい思いをしてきたのにだ。
それがきっかけになったのか、二人で麻生について話をする。
麻生が戻ってくる頃には二人はとても仲良くなっていた。
後書き
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