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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【あなたに贈る一筋の風】

 
前書き
 二部ネジヒナ、日向一族。 

 
「ネジ兄さん、お帰りなさい…! 長期任務、お疲れ様です」

 ヒナタは日向邸で従兄のネジを出迎える。


「あぁ、ヒナタ様、たった今戻りま──クシュンッ」

「(あっ、ネジ兄さんが今、くしゃみを…!)」

「あ…、急にすみませ──クシュッ」

 ネジは口元を片手で覆ったままヒナタから顔を背け、再び小さくクシャミをした。

「こ、ここの所急に寒くなりましたし、任務先でも寒かったんじゃありませんか、ネジ兄さん?」

「えぇ、まぁ……」

 ヒナタに向き直ったネジの鼻が少々赤くなっている。……それがヒナタには可愛く思えた。

「すぐ、温かいお茶を用意しますねっ」

「あ、お構いなく……。ヒアシ様に任務の帰還をご報告したら、自宅に戻りますので……」

 ネジは日向当主のヒアシの元に向かい、ヒナタはいそいそと温かいお茶を淹れ従兄と父の元に運ぶ。



「──ふむ、ご苦労だったなネジよ。して……、先程からクシャミをしているようだが、風邪を引いているのではないか?」

「クシュッ……も、申し訳ありませんヒアシ様、お聞き苦しいと思われ──クシュンッ」

 ネジは手ぬぐいで口元を覆ったまま、申し訳なさそうな顔をしている。


「……自宅には戻らず、このまま日向邸で療養するといい。お前に宛がっている部屋は、いつでも使えるようにしているからな」

「あ、いえ、そこまで世話になるつもりは……」

「父上、ネジ兄さんの看病は私にお任せ下さい…!」

 そこで自信を持って名乗りを上げるヒナタに、ネジは若干の驚きを隠せない。

「え、ヒナタさ…クシュッ」

「うむ、では任せたぞヒナタよ」

 一礼をしてヒアシの部屋を後にするネジとヒナタ。


「あの、ヒナタ様、お気遣いなく……」

「大丈夫ですネジ兄さん、私が付いてますから…! さ、部屋で休まないとっ」

 ヒナタはネジの背中を軽く押しつつ部屋へ誘導する。

「──あ、ネジ兄さま。長期任務から帰ってたんだ、おかえり!」

「あぁ、ハナビさ…クシュンッ」

「えっ、なに、ネジ兄さまがくしゃみしてる!? しかも鼻赤くなってるし! だいじょぶ?」

 ネジのもう一人の従妹のハナビが心配そうに従兄の顔を窺う。

「ハナビ、ネジ兄さん風邪引いちゃったみたいだから私が看病する事になったんだよ」

 ヒナタはどこか嬉しそうに妹に報告する。

「ふーん、そうなの? ……ネジ兄さまちょうどヒナタ姉さまの誕生日に帰って来たから、一緒に誕生日会できると思ったんだけど無理そうだねぇ」

「!? そ、そういえば今日はヒナタ様の誕生日、でしたね……。ならなおの事、俺には気を遣わないで下さ──クシュッ」

「今日が何の日だろうと、そんな事より今はネジ兄さんの身体の方が心配なんです…!」

「(ヒナタ、様……)」

「姉さまもそう言ってることだし、素直に看病されておきなよネジ兄さまっ」

 姉を後押しするように従兄に言い聞かせようとするハナビ。

「判り…ましたよ、お言葉に甘えさせて頂き──クシュンッ」

「(ネジ兄さんのくしゃみ……何度見ても聞いてもかわいい……)」

 心の内でこっそりと、ヒナタはそう感じた。



「すみません、ヒナタ様……誕生日だというのに、何も用意していなかったばかりか世話を掛けてしまって」

 ネジは額当てを取り、後ろに結っている髪を解き、寝巻き浴衣に着替え床に入る。


「私の事は気にしないで下さい、ネジ兄さんの看病を出来る方が私にとっては嬉しいですし」

「そういう、ものですか……? しかし、俺の誕生日には……好物のニシン蕎麦を作って頂いたのに。あと……手編みの髪紐」

「そう簡単に切れたり解けたりしないように、しっかり編み込みましたから」

「ええ、重宝しています……。あとで、俺からあなたに何か──クシュンッ」

「今はそんな事より、風邪をこじらせないようにちゃんと休んでいて下さいね、ネジ兄さん」

「は、はい……」



 そして二日後。


「──本当にもう大丈夫なんですか、ネジ兄さん?」

「ええ、クシャミも出なくなりましたし……熱も大したことは無かったので軽い風邪だったのだと思います。あと、ヒナタ様の手厚い看病のお陰かと。……すみませんヒナタ様、付きっきりでいさせてしまって」

「私がそうしたかったから、そうしたんです。治ったみたいならいいんですけど、無理しないで下さいね?」

「はい。──それでヒナタ様、遅れてしまいましたがあなたの誕生日の……」


「くしゅんっ」


「あ……ヒナタ様、今クシャミを──」

「あっ、大丈夫です! ごめんなさい、今のはほんとにただのくしゃみ──くしゅんっ」

「軽かったとはいえ、俺の風邪が移ったのでは……」

 ネジは不意にヒナタの額にそっと片手を横に宛てがう。
……ヒナタは別の意味で顔が熱くなるのを感じた。


「熱があるように感じます。ヒナタ様、今すぐお休みになって下さい。風邪をこじらせたら大変だ」

「は、はい……分かり、ました。あの、ネジ兄さん……」

「何でしょうか」

「今度は、その……ネジ兄さんが、私の傍に……いて、くれますか」

 俯いてもじもじと消え入りそうな声で言うヒナタ。


「──言われずとも、そのつもりでしたよ」

 ネジにふっと微笑され、ヒナタは更に顔を紅く染める。

「熱が上がったのではないですか、ヒナタ様。……俺があなたの部屋まで運びましょう」

「えっ、あ……」

 あまりに自然な動作で横抱きされ、一瞬何が起きたか分からなかったが、ネジの間近の端正な顔立ちに思わず見とれるヒナタ。

「不本意であなたに風邪をプレゼントしてしまった事は、どうか許して下さいね」

「い、いいんです……! むしろ、ネジ兄さんからならいくらでも風邪を移されたって構わないし」

「フ…、何を仰ってるんです。来年の初日の出、共に見れなくなりますよ」

「ネジ兄さんが傍にいてくれたら、どこに居たって初日の出は見れるよ、きっと」

「強引な事をいいますね……。いいでしょう、俺自身があなたの初日の出になってあげますよ。──っと、我ながら妙な台詞だ」

「ふふ……ありがとう、ネジ兄さん」

 二人は互いにそっと見つめ合い、微笑んだ。


 ──ヒナタはネジとのこのささやかなひと時を、隣を歩む者が異なろうともこの先一生、忘れる事はなかった。



《終》



 
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