真剣で納豆な松永兄妹
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第十一章 始まりの鐘
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川神学園は毎週水曜に全校朝礼がある。
今日はいつもとは違った雰囲気が漂っていた。
テレビカメラが入り、アナウンサーがいる。
朝礼の様をTVで流すと分かる。
浮つく学生が多いなか、朝礼がはじまった。
「さーて、楽しい楽しい夏休みは目の前じゃ」
ざわつきが残るなか、学長である川神鉄心は続けた。
「さあ、ここからが本番。テレビ、よくとっておくんじゃぞ。夏といえば、祭。今年はデカイ祭があるぞい」
それは、川神院が恒例行事として行なっている8月の川神武道会とは違うものである。
「せっかく、義経達も現れた事じゃし、今年は特別に規模をでかくしてやってみようと思うんじゃ」
一気に周囲がざわついた。
それもそのはずで、スポンサーは九鬼財閥であり、舞台もかなり大きい。
「どんな武道大会になるかというとじゃな、それは若獅子タッグマッチトーナメントじゃ!」
タッグマッチトーナメント。
つまりは、1人ではなく2人で戦う武道大会だ。
「日時は8月2日、場所は七浜スタジアムで行われる」
結構早めだが、俺は以前から8月頭にやるとスポンサーである九鬼財閥から聞いている。
およそ1ヶ月間、九十九髪茄子に慣れるのに時間を使った結果今では以前と同様に動ける様になっている。
当日まで九十九髪茄子を外すつもりはない。
そして、大会の参加資格とルールが発表された。
参加資格は25歳以下の男女であること。
ルールは、刀剣類は峰打ちか、レプリカなら使用可能。
銃火器も専用の弾を使うのなら使用可能である。
試合のルールは、2対2で戦ってどちらか片方でもKOすれば勝ち。
リングアウトして10カウントで負け。
このルールを活用すれば、腕に自信がなくても勝ち進めるのだ。
自分より強いペアを探しだすのも1つの勝利への道であるし、試合前に闇討ちするのもありだ。
闇討ちに関して説明がないという事はしても良いとも取れるからだ。
「さて、このトーナメントを勝ち抜いた者に与えられる権利は何か? それは、まず1つ。絶大な名声」
松永としてこの権利は絶対だ。
スポンサーである九鬼の贈り物は金に換金するか、家族サービスに使えばいい。
何より、重大なのは、
「また、この大会を優勝した者達には、武神・川神百代と決闘する権利が与えられる」
川神百代に勝利することだ。たとえ、彼女との決闘がエキシビションマッチであっても、勝利すれば家名が挙がる事に間違いはない。
ついでに言えば、この大会はテレビで中継される。
観客には絶対の安全が保障されている。
つまり、注目が集まる大会なのだ。
――開催日まで約10日間。
俺はとある人物の元へ協力を申し込みに行く。
●
初めから俺は燕ちゃんと組むつもりはない。
少しでも優勝に近づく為に俺達は別々に相方を見つけるという段取りになっている。
燕ちゃんは当然、川神百代の心を乱す為に直江大和君の元へ。
俺はと言うと、
「トーナメントのペアに私をですか? お誘いは有難いのですが、私が出た所で瞬殺必至ですよ?」
葵冬馬に声をかけていた。
黛由紀江では、剣聖の娘だから。他の実力者でも同じように相手のお陰で勝ち進められたという印象が残ってしまう。
だからこそ、戦闘向きでない人物で頭の切れる人物を選ぼうと考えていた。
実は京極彦一《きょうごく ひこいち》に声をかけたのだが、断られていた。
彼の言霊があれば相当楽に勝ち進められたのだが、それではある意味で彼のお陰になってしまう。
「君は戦闘に関しては何もしなくていいさ。俺がメインで戦う」
「……つまりは、家名を挙げる為に敢えて無力な相手とペアを組み松永久秀個人の実力で勝ち上がって名を挙げると?」
流石に頭が良い。
俺が見込んだ通りの男だ。
「そのとおりだ。あと、葵冬馬君は目的の為に手段を選ばないタイプだろうしね。だからこそ、組みたいと思う」
彼の賭博場での噂はいくつか聞いている。
それに、悪者としての素質があると思う。
俺も同じく悪者を演じている真っ最中だからわかった。
「そうですね。私は私の目的のためならば手段を選ばなかったでしょうね……」
手段を選ばなかった、という事は、何かしらやろうとしていたらしい。
「で? どうだい? 俺としては九鬼の贈り物は君に全て渡しても良いと思っているが」
「そうですねぇ。温泉旅行など一緒にお付き合い頂けると嬉しいです」
「それは断るが、ペアを組む事に了承したと言うことでいいのか?」
「残念。ええ、別に構いませんよ。小雪に英雄と準まで出場して私だけのけ者というのも何ですし、お誘いを受けましょう」
葵冬馬に言わせれば、俺も充分タイプだそうで、一緒に入られる時間が多ければ落とせるかもという嫌な言葉を聞いた。
松永久秀と葵冬馬の智略チームの誕生である。
「基本的に逃げに徹してろ」
「ええ、わかってますよ。私は攻撃も防御も一般レベルですから。場外へ逃げます。10カウント以内に勝負をつけてくださいね」
試合場での基本方針は決まった。
だが、試合当日に動くのは遅い。
「試合前の動きとして――」
こうして、智略チームの動きが早々と稼働し始めた。
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戦う腕力がなくても
守る術がなくても
知がある
配点:(智略)
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