リリなのinボクらの太陽サーガ

すみません、ようやく投稿できました。

ちなみに次の章であるエピソード４のパーティメンバー（予定）ですが、
サバタ、アリサ、すずか、の初期メンバーを想定しています。 

ミッドチルダ衛星軌道上、アースラブリッジ。

「……クロノ君、本局から放り出された人達の回収、終わったよ……」

『そうか……ご苦労だった、エイミィ。皆も魔法の使えない中、宇宙空間での救助活動に尽力してくれて感謝の言葉もない』

「偉い立場になったせいか、口調もそれなりに箔がついたね」

『ガワだけ立派なだけで、中身はまだまだ若輩者さ。それで……被害の程は？』

「まだ正確な数値は出せていないけど……およそ１万人以上が死亡して、アースラが助けた人も半数以上が鼓膜破損による聴力低下などの身体に関わる障害を負った。結果的に、本局にいた人は保護施設の子供達も含めて約９０％以上が死亡か重傷、または行方不明ってことになる」

『生身で大気圏突入なんてしたら、人間の身体なんてたちまち消し炭だ。残念だが、行方不明者は全員死亡しているだろう……』

「行方不明者のリストには……リインフォース・アインスと、マリエル・アテンザも……」

『ッ……そうか。はやてには辛い報告をすることになるな……』

「……悔しいなぁ」

『エイミィ……』

「本当なら……もっと助けられたはずなんだ。本局……今はギジタイか。あそこから容赦なく撃たれるレーザーの妨害が無かったら、もっとたくさん救えたはずなんだ。アーネストさんとカイさんの率いる１１８空士部隊が決死の覚悟で防いでくれなかったら、今頃アースラも間違いなく撃沈していた。でも……でも……！」

『……ッ』

「ねぇ、クロノ君……アースラって呪われてるの？　この艦に関わった人が悉く不幸な目に遭ってるんだけど……。なんで皆正しいことをしようとしているのに、こんなにも辛いことばかり続くの？　なんで親子揃って死なせちゃってるの？　なんで犠牲ばかり増えていくの？　なんで仲間達が宇宙の藻屑となるの……！？　こんな犠牲は避けられるはずなのに……！　なのに……うぅ……！」

『ああ、わかっている。泣きたくなるほど悔しい気持ちは僕も同じだ。叶う事ならすぐにでもギジタイに乗り込んで、公爵を殴りたい。どれだけの人を犠牲にすれば気が済むのか、と思うさまこの怒りを叩きこみたい。だが……今は出来ないんだろう？』

「ぐすっ……うん……ギジタイ周囲に次元断層の障壁が張られてるから、現状の手段であれを突破するのは不可能だよ。相手の陣営なら一時的に解くなり、一部分だけ開けて通ることもできるだろうけど……」

『敵に捕獲されたらワンチャンスあるかもしれないが、何にせよ僕達にはまず出来ない手段だな。しかし次元断層なら以前、第１３独立世界フェンサリルの次元航行艦ゴリアテがニブルヘイムの次元断層を突破したことがあるだろう？　あの世界も２年前からイモータルと因縁がある以上、何かしらの手を打ってくれているのを期待するしかない』

「要するに、ミッドの外にいる人達次第なんだね。でも……正直無理なんじゃないかな……。確かに一応、外の世界に私達の知り合いもいるっちゃいるけど、その人達だけでフェンサリルの協力を得られるかって言われると……。だって元々ミッドチルダないし管理局は、フェンサリルにとっては侵略者なんだし……」

『都合の良い話だが、過去の遺恨とかその辺りはアウターヘブン社がどうにかしてくれると信じるしかない。あともう一つ、今回の襲撃でふと気づいたんだが、停戦協定の返答が一ヶ月後までというのは、“こちらの意思決定を待つ”という意味じゃなくて、“その日まで生き延びれたら降参を受け入れてもいい”という意味だったのかもしれない』

「何それ……つまりそれまでの間はこっちを散々なぶり殺しにするってことじゃん！　公爵はヒトを何だと思ってるの……！」

『少なくとも対等には見ていないだろうな……ん？　エイミィ、ギジタイに動きが……！』

地上にいるクロノと宇宙にいるエイミィ達は、静かに挙動を始めたギジタイを眺め、事態の変化を見守った。やがてギジタイから柱のようなものが飛び出し、地上へ向けて突き出る。直後、柱の先端部がパラボラアンテナに展開、そこから暗黒物質や電磁波などが滝の如く放出され、ミッドチルダの天候に影響を与え始めた。

『首都を中心に雲が集まっている……雨でも降らせる気なのか？　雨……雨……公爵のことだ、これにも何か重要な意味があるはず……雨……ハッ！　そうだ！　昔、サバタから聞いたことがある。世紀末世界の雨には暗黒物質が染み込んでいて、生身の人間が浴び続けると太陽の戦士ジャンゴでも悪影響(カーモスの呪い)を受けるのだと……！』

「悪影響……！？」

『エイミィ、アースラは現宙域でギジタイを監視！　僕は地上の人達に雨を浴びないよう、急ぎ伝える！』

「りょ、了解！」

敵が打ってきた次の手に対策すべく、クロノは慌ただしく動き出す。しかし……敵の襲撃中に雨宿りなんて易々と出来るはずがない。襲撃に対応せざるを得ない状況である以上、外に出なければ何も出来ず撃たれるだけ、かと言って外に出れば暗黒物質の雨がその身に降りかかる。

敵のあまりに周到な戦略に対し、果たしてミッドチルダは生き残れるのか……。エイミィは地上で奮闘中の仲間達の無事を、遠い宇宙から祈った……。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ミッドチルダ北部、孤児院周辺。

「ここは……見覚えがある？　確か、地下シェルター？」

かつてファーヴニル戦の際に入ったことがあるが、老朽化のせいで誰もここに避難していないシェルターに、私達は転移してきた。

「隠れるならうってつけの場所だしね、ちょうど近くにあったことだし。一応は安全圏に逃げられたことだから、いい加減シャロンの傷を治療しよう」

とりあえずシオンが治癒魔法を発動し、私達の体力を回復する。イクスのバトルドレスも解けて私服に戻った私は、民主刀を鞘に納めて……。

「共和刀、奪われちゃったか……」

鞘が片方開いてしまい、何とも収まりのつかない状態になっていた。……まぁ、予備の鞘ってことにしとこう。

一応安全かどうか周囲の様子を探るべく、入り口の扉を少しだけ開けてみる。相変わらず戦闘音が凄まじいが、耳を澄まし、外の声を細かく聞いてみると魔法が急に使えなくなった、という話が聞こえて来た。確かにちょっと外を覗くと、視界に映った局員は前衛後衛関係なく全員が魔法を封印されており、文字通り普通の人同然となっていた。

「これ……世界規模の絶体絶命って奴かな……？　―――あっ」

「おっと」

膝からガクッと倒れかけた私をさり気なくケイオスが支える。その様子を見たシオンはしばし私の身体を眺め、考えを口にした。

「気を張り詰めた戦闘を長時間したせいか、全身に疲労が溜まっている。大人しくケイオスに身を任せておくと良い」

「ん、俺は構わない。それにシャロンって軽い……むしろ軽すぎる。ちゃんとご飯食べてる？」

「食べてるよ……少なくとも世紀末世界にいた頃は」

これでも一応、ジャンゴさんのホームの台所を預かっていた身だ。大抵のものは材料と料理道具さえあれば肉じゃがだろうがグラタンだろうが、どこにいてもポンッと作れる。栄養バランスも考えて作ってたし、時々スミレにも料理を教えていたんだから、世紀末世界での食生活に関しては問題は無い、むしろ改善させたとさえ思っている。

……どこかの王子の軍師みたい？　じゃあ私はキャンプ地とかで便利なバフ付きの料理を御馳走するのかな。

「それにしても、このままだと地上が全滅するのも時間の問題だね……。……仕方ない、ちょっとジャンク漁りに行ってくる」

「ん、いってらっしゃい」

何か考えがあるのか、シオンが一時的に外へ出て行った。ひとまずケイオスと共にその場に座り込んだ私は、一応ではあるが戦闘の緊張が少し落ち着いてきた……。そして……とめどなく涙があふれて来た。

『私はマキナ・ソレノイドの心臓を喰ったんだ』

マキナが……死んだ。死ん……でた。彼女の……高町なのはのせいで、マキナは……。

『彼女の心臓は極上だったよ……喰った瞬間、全身にすっごい力が溢れて来たんだから』

嘘に決まってるウソにしか思えないそんなはずウソを言ってるんだそうに違いない。

マキナがマキナでマキナニハマキナヲ……！

死ぬはずが死ぬはずが死ぬ筈がしぬはずが筈が筈がハズがハズガナイ！

「マキナがシンだハズガナイよネ……？」

「シャロン……！」

震える私の手を握り、抱きしめるケイオス。私は……彼の胸で泣いた。

「嘘だよね……なんで……なんでマキナが死ななきゃならないの……！　なんで……マキナがあんな奴に殺されなくちゃならないの……！　なんで……また会うことすら許してくれないの……！」

「……」

偽りの夜闇の中、外で雨が降ってくる。雨音を背景に、慟哭に震える私達を涙の滴が濡らす。

「どうして……マキナは十分苦しんだのに……！　親も友達も記憶も故郷もたくさん……たくさん奪われて、その上命までだなんて……！　そこまで失わなくちゃいけないことなんてしてないのに……！」

「ああ……そうだね。マキナはただ、ありのままの自分で生きようとしただけだ。憧れた暗黒の戦士と同じように、自分の生き方を示し続けていただけだ。彼女は決して、非難されるような真似はしていない」

「なのに……それなのにどうして……この世界はマキナが生きることを許してくれなかったの……！　なんであんな奴は生きているのに、マキナは生きられなかったの！　うぅ……アアァァァアアアアア！！！！」

私の叫びは雨音にかき消され、周囲には響かない。だがケイオスは私の悔しさや悲しさがかき混ざった感情を無言で全て受け止めた。

「（誰かを救えば、どこかで別の誰かが死ぬ。世界とは、プラスとマイナスの総量が常にイーブンになる下で成り立っているのかもしれない。もしそれが摂理なら……誰かにマイナスを押し付ければ、誰かにプラスを与えられる、とも言える。ならば……俺は……）」








「ひ～濡れる～！　やばいやばい！」

あれから少しして落ち着いた頃、扉の外からシオンが急ぎ足で帰って来た。彼女はニーズホッグの兵器の残骸をいくつか持ってきており、要するにさっき口にしてたジャンクとはアレのことを言っていたらしい。

「おかえり、シオン」

「……おかえりなさい」

「二人ともただいま、適当にジャンクかき集めて来たよ。……ケイオス、シャロンの目元が赤いけど、大丈夫かい？」

「別にダメージは負わせていないよ、シオン」

「肉体的な意味じゃなくて、精神的な意味でだ。親しい者の死は、そう容易くは受け止められないからね。まぁ散々泣きはらしたんだろうけど、あえて深くは聞かないでおこうか」

「……。さっきから急に雨が降ってきて、異常に湿気が凄い。今朝の天気予報じゃ今週に雨天はなかったはずだけど？」

「天候を操作されていない、天然のままの天気ならばそうだったろうね。でも今はギジタイがミッドの天候を熱帯雨林気候にしているらしい。おまけに暗黒物質付きだ」

「道理で濡れただけなのに辛そうな表情をしてる訳だ」

「早めに切り上げたから私は大丈夫だったけど、今も戦闘中の仲間はマズいかもしれない。カーモスの呪いだけで済めばまだ良いが、それ以上に浴び続けると……」

「吸血変異を引き起こす、と？」

「そう。ここで重要なのは、生者だけでなく死者も変異を起こすってこと。襲撃のせいでそこら中に遺体が転がってるから、ラクーンシティ的な展開が……………実はもう起こってる」

「……へぇ？」

「さっき外にいた時に偶然見たんだけど、ある局員が仲間を背負って撤退してたんだ。どうも自分を庇って敵のレーザーを喰らい、胸に大穴が開く致命傷を負ったらしい。当然、その局員は私が遠くで見た頃にはとうに絶命していたんだが、庇われた方の局員は返事が無くなっても必死に声をかけ続けていた。だがね……この雨に打たれて、死んだ方の局員は吸血変異を起こし、背負っている局員の首筋に噛みついた。ま、普通の魔導師がアンデッドに直接噛みつかれたら耐えられるわけがない。結局、両者仲良くアンデッドの仲間入りさ。……ま、私が一発で消し飛ばしたけど」

「慈悲も無いな。それにしても……自分が救った相手を自分で殺したのか。相手も相手だ、死体なんて置いて逃げれば助かってたのにな」

「人間ってのはそんな機械のON/OFFみたく、簡単には割り切れないんだよ。感情なんてものがあるから、残念なことにね」

機械のON/OFF……か。ヒトの中にある割り切れない気持ち……対象に固執する感情こそが、本当は争いの火種なのかもしれない。正しいヒトが正しく生きられず、正しく評価されないのが、今の次元世界。誰もがそんなの間違ってるとわかってるのに、感情のせいで直せない……いや、直さない歪な世界。だったらいっそ……全てのヒトの感情、心なんて消してしまった方が、世界は平和になるのかもしれない。

いや……そもそもヒトなんていない方が、世界の維持……銀河の存続に繋がる……？

な……何を考えてるんだ、私は。流石に飛躍し過ぎだ、銀河意思でもあるまいし。でもこの……死にたくなるほど辛い感情を捨て去ることが出来れば、楽になれるんじゃないかとは思う。もしアンデッドになったら……もう何も考えなくて済むようになるのかな？

「さぁて……御開帳♪　ふふ、ニーズホッグの兵器のお腹の中身はどうなってるのかな～？　っと、これはあくまで電子的な意味で卑猥な意味で言ってる訳じゃないから、そこんところ注意ね」

「誰に向けて言ってるのさ。……しっかし本当蒸し暑い、まるでジャングルにいる気分だ」

「湿度が高いと、パソコンとか機械には辛いからね。こうして天候が急に変えられると、体が弱い人も寒暖差で体調崩しかねないし。ある意味、季節がごちゃごちゃにされてるようなものさ。……ここだけの話、水着サンタとかあり得るんじゃない？」

「夏と冬のメインイベントが夢のコラボ……？　……いや、南半球は北半球と季節が逆だから、場所次第ではそう大したことでもないか」

ケイオスはかつてマキナと少しの間旅を共にしていた頃に、土産物屋でサーフィンボードに乗るサンタのフィギュアを見たことを思い出した。あのボード、そういや南十字星の模様がついていたなぁ、と今更な感想を漏らす。

『このサンタって波乗りしながらプレゼント配るのかな？　こう……ヒーハー！　プレゼントの配達だぜベイビー！　的な！』

「（こんな事を言っていた彼女に、元ヤンか！　とアギトがツッコミを入れて、二人して腹を抱えて笑っていた。俺は……その笑顔を守りたいと思った。そのために俺は今の世界を知る必要があった。だからマウクランのマザーベースに行って、レヴィ隊長の所に配属されて……人らしいことをたくさん学んだ。確かに俺は人間らしくなれたが……最初に望んだことは出来なかった。最善の道が最善の結果を生むとは限らない、か……）」

『聴くが良い、晩鐘は汝の腹を指し示した。飯を出せ！！』

「おっと、そういや夕食時だ。状況はアレだけどご飯食べようか」

パソコンを操作していたシオンの端末から、なんか首を切られそうな着信ボイスが響いた。こんな状況なのに飯食ってて良いのか、色んな意味でツッコミどころ満載なんだけど……腹が減っては戦は出来ぬとも言うし、解析にも時間がかかるそうだから、これはこれで実は最良なのかもしれない。

道具も材料も無いので流石に料理はできないため、ケイオスとシオンがアウターヘブン社生産の携帯食料の赤レーションを取り出し、私にも分けてくれた。そういやこれ、サバタさんがマテ娘と作った麻婆豆腐のレシピが使われてるんだったね。久しぶりに食べたけど、あの時のものと比べて辛さが若干マイルドになっていた。やっぱり激辛では受け入れられなかったか……。

「いや、激辛のもあるよ。ただ需要と供給のバランス的に、配布数が少ないだけ」

あ、そうなんだ……。私はあまり濃い味は好みじゃないけど、ザジは辛党だから激辛麻婆豆腐は好みの味だろう。……想い人補正もあるかもしれないけど。

余談だが、アウターヘブン社の人は戦闘中だろうとお構いなしにカップ麺やレーションなどで食事をする。カップ麺をすすりながら銃を撃つ彼らの姿はどことなくシュールだろうが、それは決して隙にはならない。何度も言うようだけど食事は普通、戦闘中にしないものなんだが……ジャンゴさん並みに早食いできる彼らは、銃弾やレーザーに撃たれようが構わずに食べる。例えLIFEゲージが尽きる攻撃を受けようが、レーションさえあれば彼らは倒れることなく一瞬でLIFEを回復させる。食料がある限り、決して死なないのだ。

……PMCはすごいなぁ、わたしにはとてもできない。

「そういえばさっきからずっと疑問に思ってたんだけど、今訊いてもいいかな？　シャロンってリンカーコアを持ってたのかい？」

「いや……私は持ってない」

「じゃああの騎士甲冑は何なんだ？　どう見ても魔力で構築されているバリアジャケットだったけど……」

「確かに私自身のリンカーコアは無い。あれは私と同化している子のリンカーコアから展開したものだよ……」

「同化だって？」

「シャロン、誰があんたと同化している？」

『あ～いい加減質問される頃だろうと思ってました。で、どうします？　私はこの二人になら正直に答えても大丈夫だと思いますが？』

同感だ。ま、この二人にはイクスのことをちゃんと伝えておいた方が良いか。世間一般で知られていることと、私が知っている彼女の真実もね。

「これは二人を信用して教えることだ。私と同化しているのは、古代ベルカに存在していた国、ガレアの王イクスヴェリア。一般的には冥府の炎王と呼ばれている少女だ」

「冥府の炎王……あの虐殺とかネクロマンサー的な意味で有名なあの王かい？」

「一応聞くけど、無理やり同化されたのか？」

「ううん、お互いに納得した上で同化してる。それと、冥府の炎王とか虐殺とか、現世に知られている悪評は実は擦り付けられたものなんだ」

「へぇ……続けて」

「まず同化した経緯を最初から話すと、私がこのミッドチルダに投げ出された時、海底に沈んでたガレアの戦艦に―――」

というわけで私が次元世界に来た時点から説明を始める。あの航海日誌、マリアージュ・コアシステム、抑止していた側の彼女が冥府の炎王と呼ばれることになった理由、その他諸々……。二人は私の辿って来た出来事に軽く同情しながらも、イクスに関する大体の事情を理解してくれた。

「冥府の炎王イクスヴェリア……周りに真実を歪められて悪評ばかり残っていても、彼女はずっと世界を守ってくれていたんだ。やれやれ……これは私も感服せざるを得ないや。並大抵の精神じゃあ成し遂げられないよ」

「俺は過去の真実とかはよくわからない。ただ……どうしても言いたいことがある。イクスヴェリア、シャロンを守ってくれていたことを感謝する。……ありがとう、あんたのおかげでシャロンは生きてくれている」

『な、なんだか照れますね……こうして感謝を正面から言われたら。……ああ、この嬉しい気持ち、随分とご無沙汰でした……』

「二人とも、イクスったら久しぶりに褒められたせいで、すごく照れて恥ずかしがってるよ？」

「（……ニヤリ）あ～知らなかったとはいえ、今まで失礼だったね。ありがとうイクスヴェリア！　まるで神様仏様観音様菩薩様クラスだ！　よ～し、では古代ベルカ時代の分も含めて盛大にゴッドを褒め称えてやろう！　イクス・イズ・ゴッド！　イクス・イズ・ゴッド！　イクス・イズ・ゴッド！　エヴリバディセイ！」

「「「イクス・イズ・ゴッド！　イクス・イズ・ゴッド！」」」

『え、あ、うぅ……ま、待って……！　こ、これは……本当に恥ずかしい……です……！　皆で連呼はホント、勘弁してください……！』

いじめかッ！！　ってツッコミを入れたいところだけど、今の私は半分自棄でノってたりする。アレだ、気を紛らわせないとやってられない気分というか、黙ってるとずぶずぶと落ち込むからこうでもしてないと本当に生きる気力を失いそうだった。まぁ、イクスが真っ赤な顔で可愛い反応を示してるおかげで、ほんのわずかだけど精神は持ち直せた。

「そうそう、今フッと思い出したけどこれ荷物運びの給料ね。忘れない内に渡しておくよ。それと伝言、『色んな意味で大変だろうけど、めげずに頑張ってくれよ』だってさ」

「あ、そう。変なタイミング……」

「ん～やっぱりもうしばらくは立ち直れそうにないかい？」

「そりゃあ簡単には吹っ切れないよ。ねぇ、シオン。なんでマキナのこと……教えてくれなかったの？」

「訊かれなかったから、というのは冗談。本当は当初の予定通りにミッドを出た後、適当に落ち着いた頃にでも伝えるつもりだった。だから彼女の襲撃は完全に想定外だったんだ」

「私を襲ったあの少女、ユーノ・スクライアに高町なのはって呼ばれてた。彼女がマキナの仇なら……私は……」

「仇なら、どうしたい？」

「ケイオス……？」

「シャロンが言うなら、俺はやるよ。例え世界全てを敵に回そうと、俺はあんたの望みを叶える」

ケイオスのその言葉を聞いて、私の胸の中に芽生えた“報復心”が鎌首をもたげる。私自身が戦いに向いてない以上、彼に復讐を任せるのも確かに一つの手だろう。でも……私が復讐の道を選んだら、大切な何かが失われる予感がしていた。その上で復讐を成し遂げたいかと訊かれたら……正直わからない。まだ結論は出すなってことかな。

「戦争が人を変える……人を怪物(ビースト)にする」

「何ブツブツ言ってるの、シオン」

「少し前、この言葉をドレビン神父が言っててね。なぜか今思い出して、ちょっと口に出しただけ」

「ふ～ん」

人を怪物にする、ね……。怪物と聞いて思い当たるのはファーヴニルやヨルムンガンドと、ラタトスクに高町なのはだ。……そういえばあの時、シオンは『リトルクイーンは高町なのはの負の側面が自立した人格を得て誕生した』と言っていた。おおよその経緯などを考慮すると、善と悪の二重人格を扱った小説『ジキル博士とハイド氏』における悪人格“ハイド”にあたる存在が、高町なのはにとってのリトルクイーンってことなんだろう。
逆に善人格“ジキル”にあたる存在は高町なのは本来の人格なのかもしれないが……魂が破壊されて外に流されたらしいからなぁ、復活の可能性は限りなく低いだろう。というか復活されても、正直対応に困る。今の彼女は純粋に倒すべき敵として見られるが、本来の彼女が戻ってしまえば、正直頭の中が狂うぐらい訳が分からなくなりそうだ。

狂うと言えば、イクスも妙なことを言っていたっけ。確か……月下美人の心が闇に落ちてしまったら、と。彼女はその辺りのことを何か知っているのだろうか？

『気になるようでしたら、過去の教訓としてお話しします。……心が暗黒に染まった月下美人は、見た目もそうですが、能力も性格もまるで別人のように変貌します。そして、並みのイモータルをはるかに凌ぐ災厄を世界に招いてしまいます』

……災厄？

『かつて……私には幼馴染がいました。次代ガレア王としてだけでなく、ただのイクスヴェリアとして接してくれた良き友が。殺伐としていたあの時代には不似合いなほどの慈愛をもっていた彼女は、こっちの世界の月光仔の血を引いていたこともあって、やがて月下美人へと昇華しました。しかし……それは彼女の運命が牙を剥いた瞬間でした』

運命……。

『月下美人として昇華した彼女は、人々に多くの救済を招きました。ですが、あの時代はそんな彼女の慈愛だけではどうしようもなかった。我らにも救いを、慈愛の施しを……そういって大勢の人が、彼女の救済を求めて殺到しました。人の身では到底叶えられない無数の願望……優しい彼女はそれでも必死に応えようとした、身を粉にして人々のために奔走した。私もガレアも出来得る限りの助力はしました、でも……救っても救っても、一人救えば十人から救いを求められ、十人救えば百人から求められ、百人救えば千人からと……そうして、彼女は段々壊れていった』

救世主でもないのに無数の人の願いを叶える生き方なんてしていたら、待っているのは破滅に決まっている。“正義の味方”なんて、実際は人の身に余る茨の道なのだから。

大体、人間は全ての他人に対して常に平等であることはできない。誰かの味方をするということは誰かの味方をしないことで、誰かの味方になるということは誰かの敵になること。正義の味方は、正義以外の味方を決してしないし、同時に正義以外の敵となる。

つまり正義とは、全てに対する裏切り者なんだ。正義を体現してしまった人間はどうやっても救えないし、何をしても救いようがないんだ。だってどれだけ取り繕おうとその人の理解者は絶対に現れることはない、永遠の孤独に苛まれるのだから。

『人々に救済を与えて来た彼女ですが、本当は彼女にこそ救済が必要だったのです。だから私は、王としてではなく一人の友として、彼女のことを誰も知らない場所に彼女を連れて行きました。もうこれ以上、彼女が壊れなくて済むように。ただのヒトとして、安らかに暮らせるように。ですが突然彼女がいなくなった結果、ベルカは更に荒れてしまい……しかもこの期を逃すまいと裏でポリドリが各国首脳陣を唆したせいで、ついに長きに渡る戦乱が起きてしまいました……』

イクスは後悔の入り混じった声音で、古代ベルカ戦争の真実を伝えてくる。世間から月下美人の身を隠したことによって、戦乱が起こるきっかけになった。友を守りたかっただけで行った自分の安易な優しさが、多くの無関係な人が死ぬ事態を呼んでしまったのだと。そう悲痛な声で告白してくる。

『私はガレアと市民を守るために戦いました。そうすることが、結果的に友を守ることにも繋がると、そう信じていました。実際、彼女も療養中に知り合ったとある青年のおかげで、徐々に本来の笑顔を取り戻しつつあったのです。……ええ、私はいずれあの二人は結ばれるのだろうと思っていました。しかし、心の修復は同時に彼女の“正義の味方”の面も蘇らせました。十分に心の力が戻った彼女は、裏で戦乱を拡大させていたポリドリに戦いを挑み、青年も太陽の力を以って彼女と共に戦いました』

太陽の力を振るえるってことは、彼女の傍にいた青年は実は太陽仔だったのだろう。月光仔と太陽仔がイモータルに挑む……なんだか聞き覚えのある展開だ。

「そこからは先程もお伝えした通りです。どうにかポリドリを封印できたのは良いのですが、その疲弊は凄まじく……ガレアの国力も相当落ちてしまいました。しかしその代わりに、戦乱を終わらせる兆しが見えました。私はガレアを立て直すために動き、二人も政治関連には疎いため、青年の故郷へと戻っていきました。ですが……運命とはかくも残酷なものなのか。二人がついに夫婦として結ばれようとしたあの日、次元世界に存在していた無数の国が月下美人の力を利用しようと目論み、彼女の身柄を狙ったのです』

何となく、私は左手で右手首を握り締める。それは怒りからなのか、哀しみからなのか、それとも……。

『火急の事態に気付いた私が二人の下へ駆けつけた時、青年の故郷は無くなっていました。慎ましやかな結婚式が、虐殺の地獄へと変わり果てていたのです。そして、どこかの国によって彼女は連れ去られ、青年はそれを追っていきました……』

故郷が燃やされる……アクーナのことを思い出す。ああ、いつの時代でも、あんなことは起こるのか……。

『私も王としての業務の合間に彼女の行方を捜しました。そして季節が半分ほど巡った頃、ようやく彼女の居場所が判明しました。青年もほぼ同時期にその情報を得ていたようで、目的地の近くで私達は偶然再会しました。しかし……ついに見つけた彼女は、何もかもが変わり果てていました。やっと掴んだ幸せを自分達が守ったはずのヒトによって壊されたことでヒトに絶望し、心が壊れて暗黒に染まってしまったのです。その上、人体実験で彼女は兵器として改造されていました。“恒星間戦略統合兵器デウス”という、次元世界最悪の兵器のデバイスとして……』

恒星間戦略統合兵器デウス……次元世界最悪の兵器。きっと、人間の狂気そのものが形になった兵器なのだろう。しかし……どうして？

その名前からは……まるで我が身の如き親近感を抱く。本当に、どうしてだ？

『私達が彼女の下に到達した時、彼女は暴走していました。友に次元世界を滅ぼさせないために、私達は……戦わなくてはなりませんでした。わ、私は……、ぐすっ。す、すみません……これは私にとってあまりにも辛いことなので、戦いの詳細、までは……』

「言わなくていいよ。泣くほど辛いなら、時間を空けて徐々にでも良いからさ」

『すみ……ません……。ですが、これだけは言わせてください。シャロン……親しい人が亡くなっていたことを伝えられて、非常に辛いのは理解できます。私だって、友も家族も国も民も立場も、守りたかったものを全て失っていますから。ですが……全てには絶望しないで下さい、心を照らす太陽まで沈めないで下さい。あんなことは、もう二度と御免なんですから……』

「そうは言うけど……日は昇れば、いずれ沈む。常に照らし続けてくれる訳じゃない……」

結局の所、世界を救えるほど良いヒトがいれば、世界を壊すほど悪いヒトもいる。そして世の中というものは、善だろうと悪だろうと極端なほど理解されにくいものだ。……この世界にいる限り、月下美人には安息が無い。なら私が取るべき行動は……？

『日は昇れば、いずれ沈む……まさか最後に彼と交わした言葉を、こんな形で再び聞くことになるなんて。これはただの因果？　それとも王でありながら、友一人救えなかった私への罰なんですか……？』

イクスの呟きの意味を知るのは、この戦いの当分後になってからだった。尤も、私はすぐに忘れたのだが。

食後、私は横たわりながら天井を眺めていたが、マキナのことで落ち込んでるせいか、どうも色彩が薄く見えていた。周囲から取り残されたような、世界で独りぼっちになったような、自分の見ている光景が映像越しになっているような、そんな感覚。

はぁ……次元世界にはマキナを迎えに来たはずなのに、そのマキナが既に死んでたなんて……死にたいほど最悪だ。もうこんな世界嫌だ、早く世紀末世界に帰りたい。イクスを治して、ザジさんを見つけたらすぐに世紀末世界へ帰してもらおう……。

「よし、やっとハッキング成功！　これで敵兵器の位置情報をアウターヘブン社の全ての端末に表示できる」

「流石、シオンは電子戦やサイバー方面でいつも頼りになる」

ふ～ん、今までアウターヘブン社でも敵兵器の位置情報を掴めていなかったのか。だから襲撃を事前に予測できなかったり、陣形を上手く作れなかったようだ。いわば相手はソリトンレーダー有りなのに対し、こっちは無い状態って感じだった訳だ。

「だけどこの雨のせいで、地上はアンデッドの大群が闊歩してるからなぁ。今更って感じが強いけど、孤児院の近くのシェルターに立てこもってるなら、まだ大丈夫だろうか？」

「孤児院の近くにシェルターなんて作ってたんだ……」

「当然だ、ミッドに元々あったシェルターは老朽化が激しくて、到底安全とは言えなかった。だからアウターヘブン社が新しく作った。普段は食料や武器の備蓄倉庫として使っているが、非常時には……あ」

何かを思い出したのか、ケイオスが手を打つ。シオンも「あ～アレかぁ」と納得いった様子で頷いてるし、一体何なんだろう？

「しかしユーリ技術部長から『最悪の事態にならない限り、決して使わないように』と念押しされてまで言われた、秘策中の秘策であるアレを今使ってしまうのかい？」

「だけどアレしかこの状況を脱する道は無いと思う。特にラーン商店街の奴らとか孤児院の子供とか、存外タフな連中でもアンデッドを倒す力なんて持ってないだろ？」

「エナジー使いは非常に貴重だからね、特に次元世界では。確かに私達がやらなければ、局員だけじゃなく無辜の市民も全滅してしまうか。安全な場所が世界のどこにもないってのは、想像以上に精神を削るものだしね」

「大体、今以上に最悪の事態なんてあるのかわからないし、あってもその時に使えるかどうかもわからない。なら使える時に使った方が良い、手遅れにならない内に」

「だね。こうなった以上、アレを使う責任は私達で持つよ。本来は部長クラス以上の許可が必要なんだから」

「という訳でシャロン、これから俺達は孤児院まで一気に行くけど、体力とか大丈夫？」

ケイオスに呼びかけられて起き上がった私は、体の調子を確かめるべく軽めのストレッチをする。

「……うん、ちょっとダメージは残ってるけど、問題なく動ける。これでも伊達に世紀末世界を生きて来た訳じゃないから、多少のダメージで根を上げたりはしないよ」

「流石。でも外に出るなら服をどうにかした方が良いと個人的には思う」

ん？　そういやバトルドレスを解いた後、ちゃんと見てなかった。今どうなって……………あ。

「ちょ、な……！？」

「見事に半裸だねぇ。チラリズムの極致とも言えるぐらい面白い感じにダメージ加工されてるから、素っ裸よりむしろエロいかも」

「冷静に分析しないで、シオン！？　というか何で二人とも教えてくれなかったの！？」

「後で面白くなりそうだったからね」

「ご褒美のつもりで見せてくれてるだけだと思ってた」

「なんか酷い！？」

しかもさっきまでのシリアスの間、自分が常に半裸だったって気付いたら途端に恥ずかしくなってきたんだけど……。……あと、これはご褒美じゃないよ、ケイオス。

「もう服としては使い物にならないな、それ」

「でも何らかの需要はありそうだねぇ？」

「そんな需要どうでもいいよ……。それよりここでエクスシア・ドレスを出そうかと考えたけど、あれを今の状況で着るのはもったいない気が……」

「ん、じゃあ俺の防弾コートでも着る？　普段は使ってないし、必要ならあげるけど？」

そう言ってケイオスが端末から取り出したのは、カーキ色のロングコートだった。彼曰く、元々地球のとある特殊部隊(FOXHOUND)で正式採用されてた軍用コートのレプリカらしく、防刃防弾性なら中々のものらしい。……うん、ドレスに着替えて戦場に行くってのもアレだし、こっちを着た方が良いか。ありがたくもらおう。

「中身が半裸の女性がコートを着る……言葉にするとこう、なんかそそるものがあるや」

「人前でバサッとする気は一切ないからね？　……うん、着てみたけど、コートなのに全然動きが阻害されなくてかなり動きやすい。ただ……中が蒸れる……」

「湿度が高いから仕方ない。（レプリカだけどFOXHOUNDのコートをシャロンが着る、か。マキナと蛇絡みで妙な因果を感じるな）」

「恰好も整ったことで、それじゃあ早速外に―――あ、ダメだ」

出発の合図を出そうとしたシオンがすぐに静止の声を上げる。その理由は至極単純……、

「「「「「ホ？」」」」」

このシェルターの扉のすぐ傍に、いつの間にか数えるのも億劫なほどのアンデッドの大群がたむろっていたからだ。

どうやら外ではシオンの言った通り、暗黒物質の雨で大量の死体が吸血変異を起こしたらしい。ニーズホッグの兵器と共にクラナガン中を徘徊し、生き残りを見つけ次第、バイオな映画さながらに人海戦術で蹂躙されて死を迎えていた。……人外なのに人海戦術とはこれ如何に？

「「「「「ファー！！！！！」」」」」

「いけない、扉を閉めるんだ！」

シオンの咄嗟の一声を聞き、ガシャンっと激しい音を立てて扉を閉めるケイオス。直後、バタバタと扉を叩きつける音が無数に響いてきた。……ゾンビに囲まれた空間に閉じ込められるとか、色んな意味でホラー映画じみた展開だ。

「まさかちょっと覗き見るだけで気付かれるなんてね……グールってあんなに察知力あったっけ？」

「それ……多分私のせい。なぜかアンデッドを引き寄せる体質みたいで……」

「体質なら仕方ない。それよりこの後どうする？」

「このまま扉を開けたら、奴らが全員こっちに来る。頑張れば倒し切れない訳じゃないけど時間がかかり過ぎるし、今は迂闊な行動は避けるべきだね」

「しかしこの扉以外に出入口は無い。俺は、強行突破するしかないと思う」

「私達が強行突破できたとしても、この数のアンデッドが私達を追って目的地のシェルターに押し寄せる羽目になるかもしれない。この状況でMMORPGで言うトレインな迷惑をかけてしまえば、最終的に防衛戦線を決壊させてしまう可能性が高いよ」

確かに、世の中には“匹夫の勇、一人に敵するものなり”っていうコトワザがある。無闇に戦いを求める愚か者の勇気は、一人の敵を相手にするのが精いっぱいって意味だ。二人は凄まじく強いから当てはまるとは限らないだろうけど、普通の人は違うんだから多数相手に戦う状況は避けるべきだ。

「だがここに閉じこもっていても事態は好転しない。むしろ悪化していくだけだぞ？」

「戦術的な勝利を拾っても、戦略的に負けてしまったら意味がないんだ。例えばチェスで最強の駒であるクイーンを破ったとしても、その後に自分のキングが破れてしまえば敗北となる。ケイオス、確かに君は強い。それなりに付き合いがある私から見て、君はSSSランク魔導師を１０人以上まとめて倒せる力がある。だけどその分、自分以外への守りが疎かだ。シャロンを守りたいなら、もっと慎重になるべきだよ」

「慎重と言われても、シェルター奥の地下通路は瓦礫が撤去されてないせいで今も塞がってる。強行突破以外に手が無いよ？」

「そこが困った所なんだよねぇ……飛行機もヘリも飛ばしてないからフルトン回収も無理だし、何か良い方法があれば良いんだけど……」

「それなら……私に策がある」

私の言葉にケイオスとシオンが注目する。二人の視線の中、私はその策を打ち明けると、内容を理解した途端二人は堪えきれず噴き出した。

「な、なんだそりゃ……！　確かにそれなら何とかなると思うけど、このタイミングでまさか君がそんなパワフルな作戦を実行しようとするとは正直驚いた！」

「シャロン、あんたって面白いこと考えるな。まぁ四の五の言わず、やってみようか。上手くいけば、外の敵を一気に全部倒せるし」

そんなわけで二人の同意を得たことで、私達は早速準備を開始する。シオンが持っていたC-4爆弾を私が指示した場所に設置し、ケイオスはそれまで扉が破られないように押さえててもらう。準備が整うと、私とシオンはシェルターの最奥に移動、ケイオスに扉を開ける指示を出す。

「良いよ、開けて！」

ケイオスが開けた途端、我先と言わんばかりに手を伸ばしながらなだれ込んでくるアンデッド達。正直発狂しかねないぐらい怖い光景の中、ケイオスは連中の攻撃が及ぶ前に私達の傍へ戻って来た。

「今の状況は背水の陣って言うより、袋のネズミが妥当かねぇ」

「そもそも陣、張ってないじゃん」

「ま、どっちがネズミなのかはすぐにわかるよ。……よし、行こう！！」

ニーズホッグの兵器もそれなりに入って来たため、ある程度戦闘しながら私達はアンデッドがシェルター内部に満員電車さながらに集まったのを見ると、一目散に離脱を試みる。私は全力で壁走り、シオンは飛行魔法、ケイオスは天井とアンデッドを踏み台にしながら、一気に出口へ向けてレーザーとホルルン液の雨の中を駆け抜ける。

「シャロンって実は忍者なのかい？　壁走りなんて、普通の人は出来ないよ？」

「え、出来るでしょ？　流石に止まってる時は無理だけど、走ってる最中なら普通に……」

「出来ないからね！？　サイボーグでもない限り、そんな人間離れした動きは出来ないからね！？」

「そ、そうだったんだ……。てっきり次元世界の人間なら垂直な壁の上に立つ、なんて化け物じみた姿勢を素で維持できるものだと……」

「飛行魔法を応用すれば出来なくはないけど、生身でそれは無理だからね？　次元世界の人間を化け物扱いするのは一歩譲って構わないけど、それでも限度ってものがあるからね？」

そうなんだ。そもそも壁走りはまだニダヴェリールにいた頃に身に着けていた技能で、結晶の上とかを走る際にバランス感覚が鍛えられて自然と出来るようになっていた。だから今更なんで出来るのかと聞かれても、正直困ったりする……。

「そういやマキナが何度か言ってたな。世界間だけじゃなく、一人一人でも常識は違うって。昔マキナが旅の最中に送って来た手紙によると、善意で治療した途端、村総出で殺しにきた事もあったって。どうもそこでは魔法に頼ると家族全員が死神に憑かれる、なんて迷信が信じられてたらしい。ちょっと怪我した子供を治しただけで、何の罪もない一つの家族が終わった。彼女はそれ以降、理由がない限り、助けを求めた人しか助けようとしなくなった。助けを求めてこないなら、それは助けを必要としていないことだって考えるようになった」

「正しいと思ったからといって、そこの文化を知らずに余計な介入をすれば自分の首を絞める。だから彼女は自分の力が必要か見極めてから動くようになり、結果、“正しく評価されるようになった”。どれだけ正しかろうと、正義を押し売りすれば火種の元になるのだからね」

二人の言う通りだ。人だけじゃなくて国や宗教ごとでも、考え方や習慣は往々に異なる。どこかでは普通に食べられる豚肉やお酒も、どこかでは禁止されていたりするのだから。

そういう意味では私の常識はアクーナとサン・ミゲルのものが混在しているが、次元世界の常識には疎い。世紀末世界に帰るまでの間、この意識の違いには気を付けた方が良いか。……何をどう気を付けたら良いのかは、全然わからないけど。

アンデッドの大群をすり抜けるように外に出た私達は、すぐさまシオンの飛行魔法で近くに再建されていた展望台の上へ移動、無数のアンデッドと敵兵器でごった返すシェルターを見下ろす。周囲が一転して静かな様子を見る限り、狙い通りにここら一帯の敵は全てあの中へ集合しているようだ。

「これで……チェックだ！」

ドドドドドドーンッッ！！！！！！

私の合図でシオンがC-4起爆スイッチを押すと、シェルター内に仕掛けたC-4が一斉に爆発する。老朽化していたシェルターは支柱などを一気に爆破されたことで崩壊を始め、中にいた―――４８９体のアンデッド、３１８機の敵兵器は文字通り生き埋めになった。そして私達を追ってわずかに外に出ていたことで崩落から逃れた敵も、ケイオスとシオンの追撃で為すすべなく撃破される。

「……クスクス……ハハ、アッハッハッハッハッハッ！！！！！　アハハハハハハハハッッッ！！！！！！！！　アハハ、ハッハッハッ……ハァハァ……見たか、化け物ども。これが、私の策だ」

そう、袋のネズミになっていたのは、私達ではなく奴らだった。敵はわざわざ倒されにあの中へ来たのだ。……まぁ、一度は世紀末世界でやった作戦なんだけど、ここまで効果的にハマるとはね。

まぁ、私は直接戦闘するのには向いてなくとも、魔女の魔法に関する知識とか、レディさんのアレな作戦とか、世紀末世界にしか残っていない貴重な戦記や文献、書物、他にも色々見て来たわけだしね。ちょっと変わったベクトルでだけど、知識量なら次元世界の学者にも引けは取らないと思う。

それに実は私、リキッド社長……アウターヘブン社のCEOに『お前はあの面子の中では最も弱いが、なぜか最も敵に回してはならない何かを感じるな』と言われたことがある。言語勉強の空いた時間にやってたチェスや将棋、戦略系ゲームとかでも、あの人はなぜか私とやる時だけやたら本気だったし。まぁ確かに勝負は毎回拮抗してたけど、サバタさんやディアーチェ以上に警戒されてた私って一体……。

ま、まぁそれはともかく、これで敵が追ってくる事態は解決できた。暗黒物質の雨の中を移動するのは辛いが、屋内を出来るだけ通っていけば十分耐えられる。さあ、行こうか。





「ん？　待って」

出来るだけ暗黒物質の雨に当たらないよう、私達は高速道路の下を慎重かつ素早く移動していた。その途中、敵にバレても即始末できるので先頭を進んでいたケイオスが何かに気付いたらしく、後ろに続く私達に手で静止を指示する。

「ここから少し先の地点に、まとまった数の敵兵器がいる。迂回しよう」

「お、確かに端末も反応してるね。了解」

という訳で、先を急ぐ私達は無駄な戦闘を避けるべく進路変更。少し濡れるのを承知の上で近くのビルまで走った。

「（チラッとだけ見えたけど、あれは八神はやてと夜天の守護騎士だった。撃墜した彼女達をニーズホッグの兵器が捕獲、搬送していたようだが…………ん～、ま、いっか。なんか大怪我してたけど、俺が優先する中にあいつらは入っていないし。そんなことより、別動隊がいるということは十中八九どこかに……）」

「どうしたの？」

「黙って……。……来た、どいてッ！」

突然真剣な表情でレンチメイスを振りかぶったケイオスは、咄嗟に伏せた私のすぐ後ろに向けて一気に横スイングする。直後、

ドゴォオォォォォォンッッ！！！

どこからともなく放たれた極大のビーム砲撃が、私達を目掛けて襲来する。先程それにいち早く気付いたケイオスはレンチメイスを振るい、ビームと衝突……跳ね返した！

『なぁ！？　そ、そんなのアリぃ～！？』

跳ね返されたビームが発射元の方へ飛んでいき、大爆発を起こす。襲撃者は爆発に巻き込まれる前にそこから離脱していたが、しかしその驚きは筆舌に尽くしがたいほどであろう。なにせ必殺の一撃が、ピッチャー返しの如く自分達に襲い掛かったんだもの。ましてやそれが元々不意打ちで撃ったものだったのだから。

「オイオイオイオイ！？　カナンの砲撃を跳ね返すとか、普通あり得ないんだけど！　どんだけ馬鹿力なのさ！？」

「……！」

高速道路の上に降り立った二人組の襲撃者の内、槍を持った男の子はケイオスに文句らしきことを言っていた。そしてもう一人……レールガンを彷彿とさせる巨大な銃を持つ、ちょっと見覚えがあるような顔の機械的な少女は、なぜだか物凄く気まずい表情を浮かべていた。

「おや、あの二人は確か……こうして会うのは初めてかな」

「シオン？」

「説明は後でするよ。それよりケイオス……」

「わかってる。シオン、シャロンを任せる」

「え？　ケイオスは……？」

「アイツらの相手をする。ま、程々のタイミングで切り上げるさ」

そう言って相変わらずの無表情でケイオスは高速道路の上へ跳躍し、私達の傍から離れていった。自分が襲撃者の相手をするから、その間に私達には逃げてもらうって寸法のようだ。

一応状況を理解したことで、私はシオンと共に目的のシェルターへの移動を再開した。フレスベルグを倒したケイオスなら大丈夫だと思うから、この場合は私の身の安全に意識を向けた方が良いだろう。また高町なのはに襲撃されないとも限らないし。

「ん、二人は行ったか。にしても……こんな形で再会するなんてね、ゴエティア。それが新しい身体らしいけど、サイボーグだろうと専用の身体よりは弱くなってるな。さっきの砲撃、前の身体だったなら俺の武器ぐらいは最低限壊せていたはずだ」

「……」

「ま、世界の存続のために道具に徹してきたアンタが、生まれ変わったことで今一度幸福を掴もうとしているんなら、それはそれで良し。俺もとやかくは言わない。ただね……俺が今言いたいこと、アンタならわかるでしょ？」

「……（コクリ）」

「そう、ギア・バーラーにはドライバーが必要だ。俺も、アンタも、いつの間にか愉悦を堪能してるアイツも、そこは変わってない。要するに、他人の大事な女に手を出したら、こっちの手が出るに決まってるだろ……！」

「ッ！」

隣でエリオが息を呑んだ瞬間、ケイオスとカナンはジェットエンジン並みの爆音を立てて一直線に突貫、互いの拳を衝突させる。高速道路のアスファルトがその衝撃でクレーター状にめくれ上がり、直後、高速道路の接続箇所を中心に真っ二つにへし折れる。一旦離脱したエリオが力量差を痛感して見守る中、そのままギア・バーラー同士の戦いが始まった。







ドゴォンッ……！

「噂をすれば何とやら、ケイオスはかなり激しくやってるようだね。こんな所にまで戦闘の衝撃が響いてきたよ」

遠くからの戦闘音が路地裏を進んでいた私達の足元を若干揺らす中、私は頭の中を整理していた。

エリオ・モンディアル……イモータル側に付いたクローン人間にして、次元世界の暗黒少年。ゴエティア……かつて闇の書に対するカウンターだった存在で、古代ベルカの時代に作られた特殊なゴーレム。

あの後、シオンから襲撃者二名に関する情報を教えてもらい、大体の事情を把握することができた。……とりあえず一言、次元世界の人間は阿呆しかいないの？　自分達で敵を作ってばかりじゃないか。やっぱり次元世界は怖い所だ、どんなことでもすぐに力と欲望の食い物にされるのだから。

「闇の書の被害者達は報復心に囚われて突き進んだ結果、自らの身を滅ぼしたのか。まぁ私も立場上、他人事ではないけど」

ふと思った。『復讐をしても意味がない』とか、『そんなことをしても死んだ人が喜ぶはずがない』とか、世の中や物語ではそういった綺麗ごとをよく聞くと思う。確かにそれは正論だろう。世界を平和にしたいなら、そういう報復の連鎖に繋がる行動は止めるべきだと誰もが考える。うん、私だってそれは正しいと理解はしている。けど同時に、こう思う。

なんで自分の所で止めようとする？

どうして自分が復讐を止めなくちゃならない？

自分より前、もしくは後の所で止めれば良いじゃないか。

こうなる前にどこかで止めていれば、こんなことにならずに済んだのに。

復讐しなければ怒り、憎しみ、負の感情は無限に湧き続ける。それを自分が死ぬまで我慢しろと、正論を振りかざす人達は暗にそう言っていることに気付いているのだろうか？　自分達の平穏が脅かされないように、自分達の身内や知り合いが復讐劇に巻き込まれないように、ただ上から目線で抑止しようとしているだけなんじゃないか？　当事者ではなく傍観者だから、身を焦がすほどの感情の乱れがわからないのではないか？

「シャロン、敵を目視した」

先導しているシオンの呼びかけで、闇に向かっていた私の意識は現実に引き戻された。彼女がハンドサインで敵の位置を示し、物陰から私も覗き見る。

「元管理局員のグールが一体か……どうしよう？」

「そうだねぇ……って、あれボッチ局員じゃん。知らない間に勝手にアンデッド化してたんだ」

「ボッチ局員？」

「ああ、任務の度に同じ部隊の仲間から『え、あなたいたっけ？』って忘れられるほど存在感が薄く、友達もいないからボッチ局員と言われてる魔導師だよ。戦いの実力は悪くない、むしろ地上本部に勤務してる局員の中では上位なんだけど……存在自体忘れられやすい性質だから部隊の連携なんてできるはずもなく、あんな風に一人で行動する羽目になっては仕事を終えて帰って来る度に本物の局員なのか疑われて身元確認をされてる」

「誰か助けてあげてよ！？」

「いや、完全にアンデッド化した人を助けるのはもう無理でしょ。ああなった以上は誰かを襲う前に倒してあげるのが、せめてもの慈悲ってやつだよ」

「えぇ……なんか可哀想過ぎて胸が痛いんだけど……」

「シャロン、ここはちょっと訓練のつもりで戦ってみるかい？」

「なんでここで訓練の話を持ち出すの！？」

「いや～君は魔女に匹敵するぐらいエナジーが多いから、使い道を増やしておけば生き残れる確率が高まると思ってね」

そりゃあ仮にも月下美人だから、エナジーだけは豊富だ。しかし……、

「つまり魔法を覚えろってこと？　でも次元世界の魔法はあまり……」

「違う違う、私が教えたいのはリンカーコア経由の魔力素を用いた次元魔法じゃない。エナジーを用いた月光魔法だよ。私がポリドリに放ったレイ・アルオムみたいに、イモータル相手でもちゃんと通用する方の。どうする？　シャロンは格闘術もCQCも学んでないから、刀を失くしても戦える手段が何かしら必要だ。だから一つぐらいは覚えておくべきだと思うけど？」

「シオンの言ってることは、確かに正しいか。ただ、なんでシオンが月光魔法を使えるの？」

「……フフ、良い女には秘密が付き物よ？」

「？」

「おっと、何でもない。つい素が出ちゃった。まあいつか教えてあげるから、今は置いといてくれるかい？」

「素って……後でちゃんと教えてくれるなら……まぁ、一応今はわかったことにしておく」

「それじゃあ早速だけど、月光魔法とは自然界の森羅万象あらゆる物質にエナジーを介して干渉し、局所的に現象を発生させる。例えばレイ・アルオムは術者が指定した場所にある大気を水にして滝にすることで、対象を攻撃するもの」

それからの内容はサン・ミゲルにいた頃、興味本位でザジに魔法を使う感覚を訊いた時とほとんど同じだった。一言でいうなら月光魔法は本の中とかで魔法使いが披露する、“本来の意味の魔法”に近い。次元世界の魔法は何ていうか……機械やハイテクの結果がそれっぽくなってるだけで、ファンタジーな魔法とはむしろ正反対だと思う。

ふと思った。次元世界の魔法は主に機械を用いて使われている。その元となる魔力素は大気中にあるらしいが……その魔力素ももしかしたら、機械で生み出されているのかもしれない。もしそうなら、機械で作った物質を機械が使っている、次元世界の魔法はそういうシステムで成り立つことになる。であるなら次元世界の魔法とは即ち、機械魔法とも言い表せるわけだ。

「―――って感じでエナジーをコントロールすると、水属性の魔法が発動する。わかったかな？」

「大体は。あくまで座学だけだけど」

「シャロンは覚えが早いね。後は実践で感覚を掴んだら、他の属性の魔法も自ずと使えるようになるよ。それじゃあぶっつけ本番でやってみよう！」

「え……！？」

という訳で単身、私はボッチ局員だったグールの目の前に放り出された。あっちも驚いているようだが、私の後ろにいるシオンを見て単独で挑むのは不利だと悟ったのか、仲間を呼びだそうとしていた。でも……この人を相手にするのか……。

「ここからは一時的に、某RPG的表現でお送りします」

「誰に言ってるの、シオン？」

とにかく戦闘開始。苦手だけど全力でいこうか。

シャロンは魔法を唱えた。
……しかし何も起こらなかった。

グールは仲間を呼んだ。
……しかし助けはこなかった。

シャロンは魔法を唱えた。
……しかし何も起こらなかった。

グールは仲間を呼んだ。
……しかし助けはこなかった。

シャロンは魔法を唱えた。
……やっぱり何も起こらなかった。

グールは仲間を呼んだ。
……やっぱり助けはこなかった。

『いつになったら終わるんですか、この不憫な戦い！？　色んな意味で涙が出てくるんですが！？』

我慢しきれなかったのか、いきなりイクスからツッコミが入った。

『シャロンはまだわかりますが、敵は敵で誰か助けてあげてくださいよ！？　アンデッドになってもボッチって、見てるこっちも辛いですよ！』

グールは座り込んで俯いた。
……ちょっと悲壮感が漂ってきた。

『もうすっかり落ち込んでるじゃないですか！　あんな悲しい姿、とても見てられませんよ！』

シャロンは魔法を唱えた。
……ネレイダス・サイクロン！

『なんでこのタイミングで発動してるんですか！　それも水の竜巻という明らかに威力過剰なレベルで！？』

グールは遥か彼方に流されていった。
敵を倒した！

『だ、誰か！　誰かあの可哀想なアンデッドを助けてあげてくださぁ～～い！！！！』

涙目のイクスがやたらあのアンデッドに同情を向けているが、とりあえず……水属性の月光魔法の感覚は覚えた。他の属性は追々覚えていくとしよう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ミッドチルダ北部、シェルター前線。

「化け物ども！　我々が護衛するこの場所で、好き勝手させんぞ！　総員、ここから一歩も退くな！」

防衛隊長の叱咤激励に威勢よく返事するアウターヘブン社の兵士。それ対して局員は魔法封印でまともに戦えなくなったことで、臆病風に吹かれてしまう者が大概だった。

「だ、駄目だ……こっちはもう駄目だ！　撤退させてくれ！」

「逃げるな！　逃げるヤツは俺が縊り―――」

ドォーンッ！

「ぐあぁああああああ！！！」

爆音、そして断末魔。

ついさっき撤退しようとしていた局員の部隊長は、敵兵器から発射された空中機雷に胴体を吹き飛ばされ、いとも容易く死を迎える。敵の小型ロボットは大抵ビームを使うが、時々空中機雷や砲弾を放つタイプが混じっている。威力が高い機雷は接近される前に撃ち落とせば良いのだが、迎撃に集中すればビームや砲弾の集中砲火を浴びる。単純だが効果的な戦術だった。

そして今、隣にいた局員達が全滅したことで陣形に穴が開いてしまい、すかさず敵兵器とアンデッドはそこを狙って一気に進軍を始めた。

「こ、こいつら……！　一体どれだけいるんだ！？　数はさっきより減ってる気がするが……クソッ、お前らひるむな！　ここで退いた奴は全員、股間のムスコを切り落としてやる！　一生女を抱けなくしてやる！　ああ！？　嫌か！？　そりゃ男なら嫌だろう！　嫌なら戦え！　死んでも戦い抜け！」

「「「「「ウォオオオオオオオッッ！！！！」」」」」

「我々は後ろのガキ共を任された！　だからここは退けねぇ、退くわけにはいかねぇんだよ！」

魔法の使えないただの人間でありながら、彼らは後ろにいる者達を守るため、決死の抵抗を続ける。質量兵器を手にして、絶望的な状況だろうと諦めない。その血気迫る姿を後ろから見ていた局員や市民は、魔法があろうが無かろうが関係ない人間の強さというものを目の当たりにしたと感じた。そして……魔法が封印されただけで撤退してきた自分達はどうか、と考え……彼らと自分達は違う、という意味のない言い訳を使って黙していた。

「ダメダメダメ～♪　あんた達がいなくなったらラーン商店街が回んなくなっちゃうって。ほれ、ダイナマイトの差し入れだよん♪　ハッ、汚っねぇ花火だぜ！」

「ゴラァ！　うちらのシマ荒らすったぁ良い度胸してんじゃねぇか！　アンデッドだか何だか知らねぇが、落とし前付けてやらぁ！！」

「孤児院のロリっ子達が怖がる顔もそそるけど、やっぱり笑ってる顔が一番キュートなのよ！　トリモチランチャー、一斉掃射！！　アンデッドでもねばねばにされれば動けないでしょ？　ねぇどんな気持ち？　不死者なのにねばねばに勝てないって、どんな気持ちぃ～？」

「攻撃が効かない？　そんなの関係ねぇ、嫌がらせなら私達におまかせあれ～！　ドラム缶ローリングアタ～ック！　あ、ヤバい、吐く！　おぇ～！！！！」

「おい、ラーン商店街の頭おかしい連中！　バカ野郎、ここはお前らが出る幕じゃねぇ！　さっさと下がりやがれ！　あ～クソッ！　アイツら全然他人の話聞きやがらない。世話の焼ける阿呆共が！！」

しかしラーン商店街の嫌がらせ攻撃は地味に効果的だった。マミーに四方八方から火炎瓶とお尻ペンペンの音で色んな意味で右往左往させたり、なんかアレなヌルヌルの液体をぶちまけてグールをすってんころりんと転ばせたり、ひょいひょいと闘牛士の如く煽ってクレイゴーレム同士を衝突させたりと、ぶっちゃけ管理局員や魔法以上に敵にダメージを与えていた。むしろ倒せてるから、それ以上だった。

「こちらの乱れに乗じて進軍とは、バケモノの機械……いや、機械のバケモノ？　どちらだろうと知恵が回るな……。だが！」

ラーン商店街の嫌がらせ攻撃で敵軍が混乱する中、魔法が使えないにも関わらず、ゼストは前線に一気に躍り出た。防衛隊長らの隣を一気に通り抜けた彼は渾身の力で槍を振り回し、敵兵器を斬り落としては鉄くずに変えていく。その様はまさに現世に降りた武人そのものだった。

「はぁ、はぁ……ゼスト隊長！　一人で先に行き過ぎ！」

「クイントさんの猪突猛進っぷりも大概じゃないか！　サポートするこっちの身も考えて動いてほしいんだけど！」

特攻じみた勢いで敵軍に突っ込んでいくゼストを追いながら、防衛戦に迫る敵を強引に殴って倒すクイント、そんな二人をアウターヘブン社から購入したサブマシンガンやグレネードを用い、目くらまししながら援護するティーダ。メガーヌがいないことでゼスト隊はその穴埋めとしてティーダ執務官を加えた形になっているが、一応の連携は取れていた。

「やっと追いついた……！　っていうか隊長、指令を聞いていないの？」

「指令だと？」

「魔法が封印された上にこの暗黒物質の雨で、全局員に撤退命令が出てる。戦線を地上本部まで後退、そこに最終防衛ラインを張るって」

「なるほど、そいつは賢明……とは言えんな。ここで俺達が退いたら、中央部以外の場所にある避難所が襲撃される。市民に多大な犠牲が出ることは、何としても避けねばならない」

「ま、ファーヴニルの攻撃さえ凌いだ隊長なら、やっぱりそう言うと思ってたわ」

「でも現実的に考えたら、このまま戦っても死ぬだけだよなぁ……。あぁ、ティアナ……兄ちゃん、もしかしたら今日死ぬかもしれない。本当にそうなったらごめんよ……」

「なに執務官のくせに悲観的になってるのよ。家族がいるんなら、最後まで守り抜くって言いなさい！」

「クイントの言う通りだ、例えやせ我慢から出た言葉でも、それは生き抜く力となる。退かなければ死ぬが、退けば未来は掴めない。なら掴むぞ、未来！」

「おや、それは頼もしい。だったらもう少し頑張ってくれるかい」

突然敵軍の真っ只中をレイ・アルオムで突破してきたシオンにゼストは一瞬驚くが、それよりもシオンの傍で一緒に走っていくシャロンの姿に、彼は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「クッ、まさか俺が見つけてしまうとはな……。レジアスめ、恨むぞ」

「ゼスト隊長？」

「俺はいい、今は戦いに集中しろ！」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


新造シェルター、内部。

アンデッドの大群を真っ直ぐ突っ切るのは大変だった。命からがら何とか到着できたが、あれではここの戦線が押し潰されるのも時間の問題に見えた。

「それでさっき言ってた“アレ”って何のこと？　そろそろ教えてくれても良いんじゃない？」

逃げて来た市民や局員が座り込んでいる隣を歩きながら、私は先を進むシオンに尋ねる。

「このシェルター、実は船なんだよ」

「………はい？」

「正確には地面に埋まった状態で作られた次元航行艦ってこと。いざとなったらこのシェルターは地上に出て、空を飛び、次元を超える。世界を船とみなした場合、このシェルターは脱出艇となる」

「じゃあこれからやろうとしているのは、このシェルターを……？」

「いや、動かすのは機関だけさ。管理局の戦艦にディストーションシールドがあるように、このシェルターにも障壁(ゲート)がある。私達はそれを動かすべく、ここに来たんだ」

「障壁(ゲート)？」

「ニブルヘイムの次元断層を参考に強化された、ディストーションシールドの数百倍の防御力を誇る絶対的な障壁。でも必要なエネルギーが大きいから、ここのは範囲も狭いし、常時展開できる代物じゃない。衛星軌道上太陽光発電システムなどがあるマウクランのマザーベースなら供給が間に合うから、世界規模で常時展開できるけど、ミッドにそこまでの設備は無いからね。……支社長達のアイデアや開発力がぶっ飛んでるだけ、なんてツッコミは野暮だから言わないでおくれよ？」

冗談気味に苦笑するシオンだけど、私には藪をつついて蛇を出す気はないよ……。

「あー！」

「あなたは……！　良かった、あなたも無事だったのですね……」

奥へ進んでいく最中、孤児院の人達と共に避難してきていたお婆ちゃんシスターが私を見つけ、声をかけてくれた。ホッと安堵の息を吐く彼女の背中でなぜかフーちゃんが手足をバタつかせていて、ベビーキャリーから降ろすだけで一苦労していた。

「あらあら、フーカちゃんったらついさっきまですごく大人しかったのに、あなたの姿を見た途端こんなに元気になって……」

「母親を失って間もないのに、その時と同じような状況になりましたからね。やっぱり不安だったんでしょう。……遅くなってごめんね、フーちゃん。でもちゃんと迎えに」

「だー！！」

「き―――ぶはっ！？」

フーちゃんを抱き上げようとしたら、顎にアッパーをかまされた。赤子ながら見事なクリーンヒットで、頭がちょっと揺れた。な、なんで……？

『お、おぉぉ……！　こ、これは世界を狙えるパンチです……！　ぐふっ……！』

私共々、精神世界のイクスまでノックダウンした。なぜか背景で勝負ありと言わんばかりに、激しくゴングの音が鳴り響いた……。

「あー、あうー」

「殴った後に撫でるとか、この歳にして飴とムチの使い方を心得ているなんて……どんだけ魔性の女なんだ、フーちゃん……」

でも、心の中の鬱屈とした気分はほんの少し晴れた気がした。精神的な喝を入れられたというか、浄化されたというか……「仮にもわしの保護者なら、いつまでも気に入らん顔しとる場合か！」と怒られた感じだ。

「……はぁ。引きずってた後悔を力業でぶん殴るとか、フーちゃんの将来が楽しみというか、怖いというか……。せめて非行には走らないでよね……」

「だー！」

そう思いつつもなぜだろう、仕事中であろうとフーちゃんが不良の集団に単身突撃していく光景が見えた気がした。できればそうならないように気を配ってあげたいが、果たしてそれまで私が傍にいるか……というより、死なないでいるだろうか。

ただ、フーちゃんを背負っていると命の重さを実感できる。このあどけない小さな命を見ていると、私が守らなければ、という気にさせてくる。それに応じて、私の生きようとする気力も若干回復する。もしもの話、私の気力がゼロになったら……本気で自殺するかもしれない。だからフーちゃんの存在はある意味、私の命綱とも言い表せた。

ベビーキャリーにフーちゃんを背負ってお婆ちゃんシスターに感謝を伝えた後、私とシオンは改めてシェルターの奥を目指した。先程シオンはこのシェルターが船だと言っていたが、それを裏付けるかのように下層へ行けるエレベーターが中央付近に設置されていた。私達が乗り込んだ後、シオンはエレベーターのボタンを特殊な順番で押していく。すると扉が閉まったエレベーターはボタンには表示されない階層、機関室へ移動していった。そこで私が見たものは、空飛ぶ円盤を彷彿とさせるエンジンだった。

「これ、ディーンドライブって名前だったりしない？」

「SF映画のUFOの動力炉じゃないよ。これはスレイブ・ジェネレーター、アウターヘブン社がオーギュスト連邦と共同開発した新型動力炉で、これのエネルギー変換効率は管理局製魔導炉のそれをはるかに凌ぐ。オーギュスト連邦内でエネルギー資源が不足するような状況は、それこそ千年単位で先の話になっているんだ」

「千年！？　そ、それはまたとんでもない話だね。でもこんな代物を管理世界に持ち込んで大丈夫なの？　これを巡って争いが起きかねない気がするんだけど」

「だからこうして厳重に隠してるんだよ。これは管理世界の事情や経済の問題を根っこからちゃぶ台返しするほどの代物なんだから。なにせ永久機関に最も近い動力炉、と言っても過言ではないし、公表すればまさに革命が起きるだろうね」

「次元世界規模の産業革命……アウターヘブン社の持つ手札の中でも最大級の切り札であり、同時にジョーカーでもあるってことか。でもやろうと思えばエネルギー資源不足の問題は一応これで解決できる辺り、ユーリには星の開拓者スキルでもあるんじゃないかな……」

地球にはトーマス・エジソンやニコラ・テスラといった偉大な発明家がいた。彼らの発明が、今の地球の文明の根幹を為した。次元世界において、ユーリはそんな彼らに匹敵するレベルの発明をしたのだ。……明らかにPMCの範疇を超えてるけど、アウターヘブン社はそういう常識なんて余裕で無視してるから今更か。

「とはいえ、これはシェルターの動力炉としてのみ使えるよう設定されてる上、障壁(ゲート)に回すだけで大量のエネルギーを使うから、余剰分はせいぜいシェルター内部の電源程度にしか使えないんだ」

「ユーリが出来る限り使わないように言ったのは、こんな情勢のミッドに余計な火種を生み出さないためか……。下手すればここだけ安全地帯ってことになって、場所の奪い合いが起こる可能性は高いから」

「その通り。本来は生存者の数がこのシェルターに入る分だけになったら、ここでしばらく籠城するか、ミッドを捨てて脱出するという最終手段のために用意されてたんだけど、もう四の五の言ってられる状況じゃなくなったからね。……さて、起動開始っと！」

シオンが操作を終えると同時に、ゴゴゴゴ……！　と重音を響かせ、目の前のエンジンは回転し始めた。この機関室での用事は済んだため、エレベーターで元の階層に戻るなり、シオンはすぐに前線へ戻っていった。
というのも障壁を展開しても範囲内にいる敵を倒せるわけではないため、掃討戦を行う必要があったのだ。尤もこれ以上増援は来なくなったため、戦いの終わりが見えたことに前線の兵士達の士気は一気に向上、凄まじい勢いで巻き返していってるそうな。

「はぁ……今日はアルバイトを終えた直後に誘拐されて、ショッピングモールで立てこもり事件、イモータルの襲撃とギジタイの発覚、フレスベルグと高町なのはの奇襲、旧シェルターの爆破離脱にエリオ・モンディアルとゴエティアの狙撃と、もうなんか色々あり過ぎて疲れた……」

シェルターの奥、ちょっと人目に付かない場所で腰を下ろした私は、今日一日の疲れがどっと押し寄せてきて、深いため息をついた。

『今日はまだ終わっていませんが、それでも立て続けに大きな出来事が起きたせいで非常に疲れたのは同感です』

「私、次元世界に来てから不幸続きな気がする。まるで世界に嫌われてるんじゃないかってぐらい大変なんだけど、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだろう……」

「あー、あー」

『嘆きたくなる気持ちはわかりますが、あまり後ろ向きにならない方が良いですよ。ほら、フーカも泣き言を言うなって言ってますよ』

「無理言わないでよ……私、そんなに心は強くないんだから。……ケイオス、大丈夫かな……」

まぁ、彼なら例え丸腰で戦場に放り出されたとしても、なんか普通に帰ってきそうだ。私なんかが心配した所で、何の意味も無いか。

うつら……うつら……。

『眠そうですね、さっきから船を漕いでますよ』

「そりゃあね……体も重いし、今の内に少し眠っとこうかな……」

「うー？」

『流石に体力も限界ですからね、わかりました。シャロン、おやすみなさ―――ッ！？』

バシュッ！　と何かが発射される音がした直後、私は繭みたいな魔法陣に全身を覆われてしまう。慌てて意識を覚醒した私は外に脱出しようとしたが、その魔法陣は壁のようになってて出ることが出来なかった。

「重犯罪者用、転移式捕縛ネット。強力な魔導師を本局に取られてばかりだった管理局地上本部が、高ランク魔導師の犯罪者を強制的に無力化するために用意していた切り札だ」

「だ、誰！？」

声のした方を向くと、大柄の屈強そうな男が渋面を浮かべて私を見つめていた。って、重犯罪者！？

「私、犯罪なんてしてないよ！？　なのにどうして…！」

「すまない、これも任務なんだ」

「任務！？　何の罪もない人にこんなことをするのが、任務だって言うの！？」

「……」

「ねぇ！？　何か言って―――」

「ゼスト・グランガイツ！　彼女に何をするつもりだ！」

「し、シオン！！」

戻って来たシオンがこの光景を見た途端、血気迫る表情でゼストと呼ばれた男に詰め寄った。ゼストは眉間に更にしわを寄せ、苦々しく言葉をつく。

「月詠幻歌の歌姫。レジアスは今朝、地上本部勤務の局員に対し、どんな手段を使おうとこの者を最優先で確保するように命令している。ミッドを守るためには、彼女の存在が不可欠だと言ってな……」

「ミッドを守る……ファーヴニルの封印のことか！」

「彼女がいなければミッドが、地上が滅ぶ。ならば俺は、非道と罵られることでもやってやろう……！」

「彼女の身柄は私達アウターヘブン社が預かっている！　彼女に許可もなく問答無用で手を出すということがどういうことなのか、あなた達はわかっているのか！　管理局最強の騎士とも謳われたあなたが、こんな人の意思を無視した真似をするのか！」

「わかっているとも！　ああ、わかっているとも……！　だが、仕方がないのだ。この世界が生き残るためには、他にどうしようもないのだ！　……クッ、転送！」

直後、魔法陣に囚われた私の身体が転移を始めてしまう。どこに連れていかれるのかわからないが、絶対にロクな目に遭わない！

「嫌だ……！　嫌だ……！　助けて……！」

「シャロン！！」

「い、嫌ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ！！！！！！！」

私の悲鳴と同時に閃光が周囲に走る。その光と声が収まった時、私の姿は完全に消えていた……。

 

カーモスの呪い：ボクタイより、太陽の効果を受けなくなる状態異常。サバタにとってこの状態はむしろ好都合だったりします。
デウス：ゼノギアスのラスボス。
FOXHOUNDコート：MGSでのリキッド衣装。
はやて達：ケイオスに助ける気が無いので、そのまま敵に捕まってます。
ドライバー：ゼノブレイド２より。ここでは要するに行動の指針となる存在のことです。
ボッチ局員：ネタ枠。また出るかは不明。
ネレイダス・サイクロン：ゼノギアス、ハイシャオとマリンバッシャーの技。つまりシャロンが使う魔法はエレメンツ系統のものです。
障壁(ゲート)：ゼノギアスより。今回発動したのはイメージで言うとシェバトのものに近いです。
スレイブ・ジェネレーター：ゼノギアスより、ギアの動力源。あっちには凄まじい設定があります。
ゼスト：損な役回りをしています。彼は内心凄く悔やんでいますが、仕方がないことだと無理やり割り切っています。


マ「こんばんは～！　バッドエンドまっしぐらな君に愛のライダーキックゥ！　瀬戸際なレスキューコーナー・マッキージムでーす！」
フ「今ドッキドキしとる弟子フーカじゃ」
マ「お？　もしや弟子に春の到来？」
フ「なわけあるか！　ラストじゃラスト！　今回はわしもおるんだぞ！？　明らかにヤバいじゃろ！」
マ「まぁまぁ、向こうはシャロンの協力が欲しい以上、手荒な真似はしないと思うよ。……君は人質にされるかもしれないけど」
フ「赤子のわしぃ～！？」
マ「そもそも管理局の近くに行く=クローン化フラグが立つんだよね、マジで。だからもしかしたらVividStrike時点に出てくる君が実は……なんてことも？」
フ「未来のわしに変なフラグ立てんでくれんか！？」
マ「変なフラグという意味ではシャロンもかな～り危ういんだけどね。特に精神がアレな方向に行ってるし。せっかくケイオス達が慰めてるのに管理局が悪影響ばっかり与えてるからもう呆れるしかないんだけど、そもそもフェイトも八神も撃墜してるから、イモータル相手に管理局勢は勝ち目がないんだよ。だから生き残るためには、ラストのようにどうしても強引な手段を使うしかないわけ。正義を取るか、仁義を取るか、二者択一な状況って創作物にはよくあるでしょ？」
フ「一人を犠牲に世界を救うか、世界を犠牲に一人を救うかって話でもあるんじゃな。しかし改めて考えると、犠牲にされる側はたまったもんじゃないのう。それが本人の意思とは無関係だったら尚更じゃ」
マ「だよね。それじゃ、今回はここまで！」