とある科学の裏側世界(リバースワールド)
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remember memory
ep.0002 remember memory 騎城&七草 中編
優斗が快楽殺人の獣と化してから2ヶ月ほど経過した頃。
ある組織では1つの噂が広まりつつあった。
噂の真偽を確かめるため、1人の少年が招集を受ける。
「○○。お前に任務だ。」
「はい。内容はなんですか?」
「住民区にて殺人鬼が無差別で人を殺しているという噂を耳にした。そこで...」
「その噂の真偽を見極め、あわよくばこちらに連れて来る.......ということで良いですか?」
「問題ない。お前に任せる。」
「了解です。」
◆◆◆◆◆◆
俺はもう何人殺したかを数えなくなっていた。
覚えているとするなら、野垂れ死んだ死体より俺が殺した死体のほうが多くなっていたことくらいだ。
と言ってもバラバラに解体したものもあるから何人分くらいの死体の山なのかも検討がつかない。
ただ俺が起きるといつも懐にいつもパンが入っていた。
どうやら俺が殺人鬼だと理解してないのか、それとも何か狙いがあるのか、つくづく俺を死から遠ざけるパンだった。
住民区では殺人鬼が彷徨っているという噂が有名になっていてスラム街のようになっている場所には人がほとんど寄り付かなくなっていた。
だが、稀にその噂を知らない人や、怖いもの見たさにやって来る奴らもいた。
俺はそんな奴を見つけては片っ端から殺した。
俺はその日もここに踏み入る奴の気配を感じ取った。
いつも通り殺せるレベルの奴だろうと思い込んだ俺は、路地裏を出た瞬間に明らかに戦闘服らしいものを着ている奴を見て命の危機を感じた。
「お前が辺りで有名な殺人鬼であってるかな?」
「知らねーな。だってもう何人殺したのかも覚えてねーんだからな!」
ナイフを手に持ち、相手に迫る。
相手は戦闘服にフードが付いているようなボロ布のマントのようなものを羽織っている。
顔はフードを深く被っているようで分からない。
相手は戦闘服に固定してある髑髏の絵が入った鞘から刃を抜く。
その刀身はまだほんの少し光を保って鈍く光っていた。
直感から自分の持つナイフと同じ感触を感じ取る。
その刀も人の命を多く吸ってる一品だ。
力一杯振り下ろしたナイフは簡単に受け止められる。
どれだけ力を加えてもピクリとも動く気配がない。
まるで固定でもされているかのようだ。
「油断大敵。」
隙だらけの胴体に重い蹴りが入る。
体が呆気なく飛ばされ、地面に強く擦れる。
立て直し、真っ向から戦うのは不可能だと考えて建物の中に逃げる。
「戦場を変えるか。」
余裕を持って観察しながら戦う相手は、俺を追ってゆっくりと歩きながら追ってくる。
逃げ込んだのは廃ビル。
この辺りにある建物のほとんどの構造を知っている俺だからこそ、ここなら勝機があるに違いないと思った。
無論、管理されていないため電気はついてない。
場所によっては完全に暗黒と化している。
(こんなこともあろうかとトラップを仕掛けてある。まずはそのポイントまで誘うか。)
相手は壁に手を当てる。
俺の足音を壁伝いに把握しようとしている。
そんなことを知らない俺はトラップに向かう。
第一のトラップを仕掛けたポイントまであと僅かまで迫った時、暗黒の中から小刀が振り下ろされる。
俺は間一髪で回避した。
「まさか、暗闇の中なら位置を確認できないと思っているのか?」
「どういうことだよ。」
「足音からもだいたいの把握はできる。あとは行き先を予測して先回りすれば良いだけだ。」
(コイツどこまで把握してやがる。トラップまでバレてたらここに逃げた意味がない。むしろ自分から戦場を狭めて逃げられなくしただけだ.....どうする。)
(さっきの足音は無計画で出たものじゃない。どこかに向かおうとしていた。こちらを誘うつもりで足音を立てたなら上出来だが、恐らくあの足音は何か仕掛けた物に向かっていたというところか.....。)
戦闘の読みは確実に相手が上回っていた。
それも当然だった。
片やつい先日まで真人間だったただの快楽殺人者、対する相手は長年暗殺や戦闘を続け、修羅場をくぐり抜けてきたプロだ。
経験値の差が圧倒的に違う。
俺は仕掛けを作動させるためにロープを切る。
勿論、仕掛けの位置と仕掛けた内容も覚えている。
ナイフを逆手持ちして相手に迫る。
一撃目は完全に防がれる。
二撃目は咄嗟に持ち替えて相手を刺そうとする。
相手はそれを見て後方に回避しようとする。
(だと思ったよ。)
相手は後方から来る妙な感覚を察知し、後方に回避することを諦める。
次の瞬間、二撃目のナイフを横にズレて回避したかと思えばそのままの流れでナイフを持つ腕を片腕と胴体で完全に固定する。
この時に姿勢を低くすることで背後から飛んでくるナイフを避けた。
動けなくなった俺の顎に重い膝蹴りを入れ、俺が怯んでいる内に距離を取る。
「はぁ......はぁ.....はぁ......クソッ!」
「もう終わりか?」
まだ終わってはいない。
確かに相手の戦闘能力は俺の想像を超えてきたわけだ。
しかし、この廃ビルには幾つも仕掛けを施してある。
その中の1つがこの廃ビルを崩壊させる規模の爆弾だったとしてもおかしい話じゃない。
相手に隠すようにボタンを押すと、相手の足元を閃光が照らし、鼓膜を破るような大爆発が起こる。
周りが瓦礫となり崩れていく中で、俺が居る場所は爆破の衝撃に耐えていた。
このビルを戦場に選んだのには理由があった。
以前、この廃ビルの前を通った時に奇妙な光景を見た。
住民区は暮らす人々の間で殺し合いレベルの戦闘が頻繁に起こるため、建物には銃弾の跡が腐るほどある。
多くの銃弾が壁面を貫通していて、建物の中が見えるくらいだが、ある一角だけは銃弾がめり込んだだけで貫通するまでには至っていなかった。
俺はそれを見てすぐにそこがシェルターだと理解した。
それからしばらくして、快楽殺人者になってから殺した奴の一人が武器商人だったことを知った俺はそいつの持っていた武器を幾つか奪い、廃ビルに仕掛けた。
爆弾もそいつが商品にしていた物だ。
爆弾を見つけた時から仕掛ける場所はシェルターのある例の廃ビルだと決めていた。
爆発とビルの倒壊が終わり、相手は瓦礫の中。
なんとか危機を脱した俺は騒ぎになって人が集まってくるよりも前にここから離れることにした。
(あんな奴...いるのか。)
「まだ、詰めが甘いな。」
驚くほど冷たい声が背後から聞こえた。
俺は不意に振り返って攻撃を防ごうとしたが間に合う訳もなく相手は俺の肩から背中にかけてを斬る。
血が飛び散り、先の戦闘でのダメージもあって俺はその場に倒れる。
幸いなことに大量出血によるショック死こそなかったものの、すごい勢いで血が体から出ているのが感覚として理解できた。
その時点で俺は自分の死を悟った。
正気を保てなくなりそうなくらい体が熱いのに、指一本動かすことができない。
(あの爆弾には少し驚いたな。1つであの規模の爆破が行えるのなら今後使えるのかも知れない。だが。)
「終わりか、呆気無いな。」
相手は俺をまたいでとどめを決めようとしていた。
俺はピクリとも動けない。
この時、目の前に死がある恐怖を俺は初めて知った。
そして諦めた。
「せめて来世が報われますように。」
刀が振り下ろされる。
冷酷な刃は俺の喉を貫通し、鮮血を飛び散らせるとともに俺に死を与える。
そう思った。
しかし、その刃が届くことはなかった。
よく見ると、相手の動きが拘束されたかのように刀を持つ腕が動かなくなっていた。
(腕が動かない。)
相手は少し動揺しているように見えた。
その時、奇跡的に俺の体に感覚が戻り、一時的に動くことを許された。
俺は落としてしまったナイフを咄嗟に拾い上げ、相手を刺そうとした。
しかし、その一撃は当たることなくズレた。
俺の照準が定まらなかったからだ。
(コイツ能力者なのか、でなければ腕が動かない理由が説明できない。どうやらこれ以上やればこちらも被害は考えざるを得ないな。退却か。)
「運が良かったな。」
相手は刀を仕舞うとその場から立ち去る。
その時、相手の肩に入れられた妙な刺青が俺にはやけに記憶に残った。
その刺青は髑髏にヘビが巻き付いたようなものだった。
すると途端にズズズッと音が聞こえ、足元を見ると地面に「大丈夫」と書かれていた。
俺はその時、フラッシュバックしたかのようにパンをくれていた相手のことを思い出した。
ソイツはそこに居るのは確かなんだろうが、俺の視界には全く映らなかった。
◆◆◆◆◆◆
一方、例の組織へ帰還した相手は報告をしていた。
相手は優斗の実力こそ伝えたが、最後に見せた不思議な能力については一切触れることはなかった。
確証のないことを言っても混乱させるだけだ。
それに能力こそ強力かも知れないが、戦闘技術は皆無に等しいと感じたため連れて来ても無意味だと判断した。
今回はボスから判断を任されている。
こちらが無意味だと判断すれば連れて来る意味はない。
「ご苦労だった。IS。」
「いえ、大したことでもないです。」
「それでトドメはさしたのか?」
「あの程度なら殺しても意味がないと判断しました。」
報告を終えたISはその場を去った。
それからこの組織が俺に絡んでくることは組織が内部崩壊により壊滅するまでなかった。
◆◆◆◆◆◆
奇跡的に生還できた俺は1つの考えを持つようになる。
それは自身の殺意などを意図的にコントロールして戦わなければ、今後の相手の前では通用しないだろうという考えだ。
俺を襲った奴には明確な殺意を感じた。
「コイツを殺す」という確定した意志を感じた。
これから先を生き延びていくためにも、ありきたりな殺意を抱くのは良くない。
それと、目に見えないそこに居る相手のことをこれからどう知るべきか、それもこれからの課題となった。
後書き
今回はここまでです。
次回で二人の過去編は終わりです。
次回もお楽しみに。
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