緋弾のアリア ~とある武偵の活動録~
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~In this, an affair is settled……?~
「さいっこー―見せて、オルメスのパートナーの力」
ワルサーの引き金を引こうとした理子に、俺はベッドの脇に隠しておいた酸素ボンベを盾にするように掲げる。
「―!」
撃てば、爆発する。理子ごと、そして俺ごと。
理子の手が、一瞬止まる。一瞬あれば十分だ。ゼロ距離ならば―体格で圧倒出来るだろう。
シャンッ!と背中の西洋剣を抜き、ベレッタを構える。
「―!」
理子が眉を寄せた、その瞬間。
再び、ぐらり。と機体が斜めに揺れる。
斜めに傾いた部屋の中で―ワルサーの銃口がこっちに向いているのが見えた。
狙いは―俺の額。 そして―
―パァンっ!
銃弾が発射される。
これは…避けられない。正面に銃弾、仮に避けても、側面にはナイフが投擲されるだろう。
ならば―
ギィィィィンッ!!
―剣を縦に構え、銃弾を切る。
…本当に、自分のやったことに驚いた。
『弾丸切り(スプリット)』今回のESSは、かなりの力だな。
すぐさま理子のワルサーを撃ち、両方とも手から落とさせる。
「ッ!」
「動くな!」
理子の動きを数瞬止めた後―
「アリア!」
―がたんっ!
天井のキャビネットに潜んでいたアリアが、日本刀を2本、抜刀すると同時に―理子のツインテールを切り落とす。
「理子・峰・リュパン4世…」
「…殺人未遂の現行犯で―」
「―逮捕する!!」
「そっかあ……ベッドにいると見せかけて、シャワールームにいると見せかけて―どっちもブラフ。本当はアリアのちっこさを生かして、キャビネットの中に隠してたのかぁ…………すごぉい。ダブルブラフってよっぽど息が合ってないと出来ないことなんだけどねぇ」
「パートナーという名目で、一緒に暮らしてたからな。嫌でも合うよ」
「2人とも誇りに思っていいよ。理子、ここまで追い詰められたのは初めて」
「追い詰めるも何も―もうチェックメイトよ!」
「ぶわぁーか」
憎々しげに言うと、理子は髪をわしゃわしゃと動かせた。
突然のことで、少し反応が遅れる。
(髪の中で、何かを操作している!?)
「やめろ!何を―」
理子を捕らえようとした、その瞬間―ぐらり!と飛行機が大きく傾く。
(急降下、している―!)
姿勢を崩したアリアが、壁にぶつかる。
「ばいばいきーん」
(―おかしいとは思っていたが、この飛行機は理子に都合よく揺れすぎている。恐らく髪の中にコントローラーを隠し、遠隔操作をしてたのか―!)
乗客らの悲鳴をバックに、階段をかけ降りてバーに向かうと―バーの片隅で壁に背を付けるようにして、立っていた。
壁際には―理子を取り巻くように、粘土状のものがいっぱいくっ付けられている。……爆薬か。
俺の思っていることを悟ったのか、こう言ってきた。
「―ご存知の通り、『武偵殺し(ワタクシ)』は爆弾使いですから」
続いて、
「ねぇ、彩斗―この世の天国、イ・ウーに来ない?1人くらいならタンデムできるし連れていってあげられるから」
と、言ってきた。
「残念だけど……断らせてもらう」
「ホントに?……イ・ウーには―金一さんもいるよ?」
……そこでその名を出してくるか。
「どういうつもりだ?」
「そのまんまの意味。…それじゃ、アリアにも伝えといて。あたしたちはいつでも―2人を歓迎するよ?」
理子は両腕で、自分を抱くような姿勢になると―
ドウッッッッ!!!
―いきなり、背後の爆薬を爆発させた!
「ッ―!」
壁に、丸く穴が開く。
理子はその穴から機外に飛び出ていった。
パラシュートも無しに―!
室内の空気が外へと吹き荒れる。
警報が鳴り響き、天井から無数の酸素マスクが流れ落ちてくる。
バーにあった紙や布、グラスに酒ビンまで、外へと吸い出されていく。
「―!」
なんとか耐えていると―天井から消火剤とシリコンシートがばらまかれてきた。
そして理子が開けた穴を覆うように、埋まっていく。
手近なものに捕まって、外を見ると―ヒラヒラの改造制服をパラシュートに変え、降下していく理子の姿が見えた。
(高度を下げていたのは、パラシュートで機外に脱出するためだったのか…)
そして、ESSの視力があり得ないものを捉えた。
(なっ!?あれは―)
超高速で、こちらへと向かってくる飛行物体。
「―ミサイル!?」
ドオォォォォンッ!!!
突風や落雷とは明らかに違う、巨大ハンマーで2発殴られたような衝撃。
だが―ANA600便は、持ちこたえていた。
翼は2基ずつある左右のジェットエンジンのうち、内機を1基ずつ破壊されていたが、外側は無事だ。
が、急がないとだな。
この飛行機は今でも―急降下を続けているのだから!
急いでコックピットへ向かうと、機長と副機長が昏倒していた。…理子にやられたのか。
そしてアリアは、彼らから取ったらしい非接触ICカードで室内に入ったところらしい。
「―遅い!」
「アリア、飛行機運転出来るのか?」
「セスナならね。ジェット機なんて飛ばしたことない。上下左右に飛ばすくらいはできるけど」
「…着陸は?」
「できないわ」
アリアが操縦桿を引いたことで、機体が水平になったことが分かる。
俺は無線をインカムからスピーカーに変え、管理塔へと繋ぐ。
『―31で応答を。 繰り返す、こちら羽田コントロール。ANA600便、緊急通信周波数127.631で応答せよ』
よし、聞こえてきた。
「こちらANA600便。当機は先ほどハイジャックされたが、現在はコントロールを取り戻している。機長と副操縦士が負傷、現在は乗客の武偵2名で操縦している。俺は如月彩斗で、もう1人―神崎・H・アリアだ」
…とりあえず、管制塔とは通じたな。
次だ。機長から拝借した衛生電話を操作し、電話回線に接続する。コールの間、これもBluetoothでスピーカーに繋ぐ。
「誰に電話?」
聞いてきたアリアに被せて、繋がった音声がスピーカーから出てくる。
「もしもし、変な番号からで悪いな…武藤」
『彩斗か!?今、お前のカノジョが大変だぞ!』
「カノジョではないが……アリアなら、隣だ」
『ちょ……お前っ…何やってんだよ!』
「か……ちょっ、か……かの…………!?」
俺は黙れ、の意味を込めてアリアの唇に人差し指をあてる。黙らせないと、不平を言いそうだからな。
「それにしても、よく分かったな。ハイジャックされてるって」
『とっくに大ニュースだ。恐らく、乗客の誰かが機内電話で通報でもしたんだろ』
キンジの声が、スピーカーから流れてくる。
「お前もいたのか、キンジ」
『ああ。乗客名簿はすぐに通信科が周知してな。アリアとお前の名前があったってんで、みんなで教室に集まってたところだ』
―俺は管制塔と武藤に、機がハイジャックされたことと、ミサイルを打たれ、エンジン2基が破損したことを伝える。
『如月武偵、安心しろ。B737.350は、先端技術の結晶だ。残りエンジンが2基でも問題なく飛べるし、どんな悪天候でもその長所は変わらない 』
ふむ、大丈夫そうだな。一応。
『それより彩斗、破壊されたのは内側の2基だって言ったな?燃料計の数字を教えろ』
……燃料計は…っと、どこだ…?機械系には疎いからよく分からん。
『EICAS―中央から少し上に付いてる四角い画面で、2行4列に並んだ丸いメーターの下にFuelと書いた3つのメモリがある。そこのtotalってやつだ』
「解説ご苦労。540―今、535。どうやらだんだん減ってるらしい」
『クソッタレ…!盛大に漏れてやがる!』
アリアが叫ぶ。
「ちょっと!止める方法を教えなさいよ!」
『―方法は……ない』
ない…だと?
「ないってどういう事だ」
『B737.350の機体側のエンジンは、燃料門も兼ねているんだ。そこを壊されると、もう漏出は止められない』
弱々しい声で、アリアが聞く。
「あ…あとどのくらい」
『言いたかないが……もって、15分だ。残量はともかく、漏出のペースが速すぎる』
「……アリア、羽田に引き返せ」
「元からそのつもりよ」
今度は管制塔からの声が聞こえてくる。
『600便。操縦はどうしているのだ。自動操縦は決して切らないようにしろ』
「自動操縦なんてとっくに破壊されてるわ。今はあたしが操縦してる。さっさと着陸の方法を教えなさい」
『素人がすぐに出来るものではないのだが…………現在、同型機のキャリアが長い機長との緊急通信を探―』
「―こっちには時間がないんだ。近接する全ての航空機との通信を開いてほしい」
『それは可能だが……どうするつもりだ』
「彼らに手分けさせて、着陸の方法を1度に言わせる。武藤たちも手伝ってくれ」
『1度に……って、聖徳太子じゃねーんだから!』
「早くしろ。出来るんだよ、今の俺は」
― 一気に喋る11人の言葉から、着陸の方法は理解できた。今は計器も読める。
今の高度は1000フィート―およそ300mだ。
明らかに危険な高度だが、燃料はムダにできないので1mもあげられない。
すると不意に、
『ANA600便、こちら防衛省航空管理局だ。羽田空港への着陸は許可しない。空港は現在、自衛隊により封鎖中だ』
『何言ってんだ!!』
叫んだのは、俺でもアリアでもない…武藤だ。
『誰だ』
『俺ぁ武藤剛気、武偵だ!600便は燃料切れを起こしてる!飛べてあと10分なんだよ!代替着陸なんてどこにもねぇ!』
『私に怒鳴ったところで無駄だぞ、武藤武偵。これは防衛大臣からの命令なのだ』
嫌な予感がして、外を見ると―
「おい防衛省。窓の外にあんたのお友達がいるんだが」
―そう。戦闘機が、ぴったりと横にくっついて飛行していたのだ。
『…それは誘導機だ。誘導に従い、海上に出て千葉方面へ向かえ。安全な着陸地まで誘導する』
アリアが操縦桿をずらし、海上へ出ようとする。
対して俺は羽田との回線を切り、アリアへ話しかける。
「アリア、海に出るな。アイツは嘘をついている。防衛省は、俺たちが無事に着陸できるとは思ってない。海に出たら―落とされる」
「そ…そんな……!この飛行機には、一般人も乗ってるのよ!?」
俺は操縦桿を左へ―横浜方面へと向ける。
「……何するつもり?」
俺も考えなしに、飛んでるワケじゃない。
ちゃんと策はある。
「向こうがその気なら―こっちも人質を取る。アリア、地上を飛ぶぞ」
燃料はもって7分。
ANAはみなとみらいを飛び越え、東京湾へと入った。
アリアが不安そうに聞いてくる。
「―どこに着陸するつもり?都内には他の滑走路はないわよ」
「武藤、滑走路の長さってどれくらい必要だ?」
『エンジン2基のB737.350ならば…2450mは必要だろうな』
「よし、分かった。そこの風速は?」
『レキ、学園島の風速は?』
『―私の体感では、5分前に南南東の風。風速41.02m』
「じゃあ武藤、風速41mに向かって着陸すると、滑走距離はどれくらいだ?」
『まぁ……2050ってところだ』
ハァ……ちょっとあれだな、
「ギリギリか―」
「彩斗、どうすんのよ。東京にそんな直線道路はないわよ?」
「武偵高の人工浮島の形は覚えてるか?縦2km、幅500mの長方形だ。対角線上で2051mはとれる」
『だが、彩斗っ……!』
「大丈夫だ、学園島じゃない。空き地島に下りるんだよ」
『…お前ってヤツは本当に―』
武藤とキンジの呆れた声が聞こえてくる。
『―人工浮島に……か。でもな彩斗、あそこはほんっとーにただの浮島だ。誘導装置すらない。おまけに視界は暴風雨で最悪、そんなとこに着陸なんて―ムリだ』
「ムリ・疲れた・面倒くさい。この3つの言葉は人間の持つ無限の可能性を押し留める良くない言葉。……そうだろ、アリア?」
「みゅっ?」
みゅっ?じゃねえよ。
いきなり話題を振られてびっくりしたのか―キョトンとしてる。人の話を聞け。
「まぁいい。武藤、当機はこれより空き地島に着陸する」
『ちょっ……待て!空き地島は雨で濡れてる!2050じゃ停止できないぞ!』
「それはこっちで何とかする」
『~ッ!勝手にしろ!!』
叫ぶと、武藤はキレたのか―みんなに怒鳴り散らして、電話を切ってどこかに行ってしまった。
―あと3分。 俺は機内放送で、乗客らに告げる。
『皆さま、当機はこれより―緊急着陸を行います』
さぁ、東京湾だ……
(そろそろ人工浮島も見えてきていいハズだが―)
俺の頭が結論を出してしまう。
不可能、と。
(分かってたが、ここまで見えないとは…………だったらどれだけ被害を少なく、墜落させるかだな―)
俺の顔から悟ったのか、アリアが言った。
「彩斗、あんたなら出来る。出来なきゃいけないの。あたしだってまだ―ママを助けてない!死ぬ訳にはいかないの!こんなところで死ぬハズがないわ―!」
次の瞬間、
―空き地島に光が……!
『おい彩斗!聞こえてるか!?』
「―武藤!?」
『オレ、車輌科で一番デカイモーターボートをパクっちまったんだぞ!装備科の懐中電灯も無断で借りてきたんだ!』
武藤の言葉に続けて、第2次回線、3次回線と割り込んでくる回線があった。
『―彩斗、機体はもう見えてる!』
『もう少しだ!あとちょっと頑張れ!』
「この声って…………」
アリアが呟く。
「うちのクラスの連中と、バスジャックで助けた奴らだよ。…ここまで言われちゃ、失敗出来ないな」
「失敗出来ない、じゃなくて。失敗しない、の間違いでしょ」
……そう、だな。
武偵憲章1条。仲間を信じ、仲間を助けよ。今がまさに、この状況だ。ここは仲間を信じるしかない。
俺は灯りのついた空き地島へと、慎重に高度を下げる。
そして―
ザシャアアアアアアアア―!!
―ANA600便は、空き地島へと緊急着陸を敢行した。
今までにないくらいの振動の中、アリアが逆噴射をかける。
「止まれ、止まれ、とまれとまれとまれぇーっ!!」
甲高いアリアの声に合わせ、俺は素早く地上走行用のステアリングホイルを操作し、機体を若干ドリフト気味にカーブさせた。
もちろん、さっき武藤が言った通り、2050じゃ止まれない。だが―ちゃんと策はある。
……来たな。
目の前に向かってきた。風力発電の柱が―!
ガスッンンンンン!!!
柱に翼を当て、ぐるんと1回転するような形で……
ANA600便は、止まった。
外にはレインボーブリッジも見えるし、ギリギリだったが…………何とかなったみたいだな。
…全言撤回。あと1つだけ、問題があった。
今、俺がアリアを抱いていること―は良いとして。
スカートが思いっきりめくれ上がっているんだが………
…もういいや、面倒くさい。
…あの後。どうやら気を失ってしまったらしい俺は、アリア共に武偵病院でベッドに寝かされていた。
幸いに入院は半日で済み、現在は俺の家のベランダにアリアといる。
「あー。こんな綺麗な星空、東京で見られるとは思わなかったわ」
「星空は綺麗なんだが……下見ろ、下。風車発電の柱が折れ曲がって、飛行機が鎮座してるぞ。お前はこれをどう思う」
「別に。どうとも思わないわ」
夕日と星空を見る妨げになるとは思わないのか。
「あとね……ママの公判が延びたわ。武偵殺しが冤罪だって証明出来たから、最高裁が年単位で延期だって」
「そうか」
一応、そうとだけ言っておく。
「武偵殺しの冤罪は証明出来たから……次はイ・ウーとやら、か?」
「うん…………」
……何だ?ちょっと気にかかるな。
「…………」
…………しばらく沈黙が続きそうだったので、急遽話題を変える。
「お、おい。……飛行機の中で言ってた『オルメス』―H家って、どこの一族なんだ?」
ちょっとテンパってた俺は、いきなりそんな事を聞いてしまう。
「ハァ?あんた、あたしのパートナーのくせにそんなのも知らなかったの!?」
知らないよ。教わってないもん。
「……ホームズ」
えっ……?聞き間違えたか?
「わ、悪い。聞き間違えたかもしれないから……もう1回―」
「だっかっらっ! ホームズ!神崎・ホームズ・アリア4世よ!」
……シャーロック・ホームズ!?
「で!あんたはあたしのパートナー、J・H・ワトソンにしたの!」
―シャーロック・ホームズ。1世紀前に、イギリスで活躍した名探偵。拳銃と格闘技の達人で、我々武偵の基礎となった人物。
そして、理子はアルセーヌ・リュパン4世。
探偵科のキンジに連絡をとって聞いたところ、初代ホームズとリュパンはフランスで戦っている。そして、引き分けている。
因みに、『ホームズ』はフランス語で『オルメス』と発音するらしい。
だとしても、だ。
拳銃ぶっぱなして、刀を振り回すホームズがいるか?
ありえんだろ。明らかに。
~Please to the next time!
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