提督はBarにいる。
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持ち込み食材で晩酌を・2
「それでは提督、オヤスミナサイ」
たどたどしい日本語でペコリと頭を下げながら挨拶をしたコマ子は、フンフンと鼻唄を唄いつつ上機嫌で店を出ていった。龍驤の頼んだサバの具沢山味噌汁を分けてもらい、美味い美味いと連呼しつつ、具材を粗方平らげた所に麦飯をぶちこみ、猫まんまにしてかっこんで満足げに微笑んでいたのだから、そりゃご満悦だろうさ。
「あの細身でよう食うなぁ、コマ子」
「まぁ水上機母艦とはいえ、大きく分ければ空母の親戚みたいなモンだからな」
空母系艦娘は総じて、消費カロリーが多いのか大喰らい・大酒飲みが多い。ウチの赤城も食事量はそうでもないが、その代わりに酒はしこたま飲むしアッチの方はガッツリ肉食系だ。……まぁ、ソッチの被害者は主に俺な訳だが。
「それに、細身でよく食うのはお互い様だろ?龍驤」
「せやなぁ、ウチも独特のシルエットやから……ってやかましわ!」
「提督、何を漫才してるんです?」
龍驤の華麗なノリツッコミが決まった所で、新たなお客が店に入ってきた。
「いらっしゃい……って珍しいなぁ夕雲」
「うふふ、こんばんは♪」
やって来たのは夕雲型の長女である夕雲。その手には何やらビニール袋を提げている。
「今日は持ち込みが多いなぁ……んで?夕雲は何を持ってきたんだ」
「あら、持ち込んだつもりじゃなかったんですけど……でも、折角だからコレで何か作ってもらいましょうか」
と、ビニール袋を手渡される。中にはゴツゴツとした質感の黒い卵形の実がギッシリ。
「アボカドか。どうしたんだ?こんなに」
「遠征帰りに山雲さんの農園の前を通りかかったら配ってたの。温室栽培で試験的に育ててた奴なんですって」
最近、山雲農園に明石や夕張、それに妖精さんの『悪ノリさせるとヤバイ連中』がテコ入れを始めたとは聞いていたが、温室なんか作ってやがったのか。空き地を見つけて水田も作るような計画もあるらしいし、そうなると鎮守府内で生活がほぼ成り立ってしまう。攻める方には気の毒だが、難攻不落過ぎやしないか。
「籠城戦になっても負ける気がしねぇな」
「あら、それは今更ではないかしら?」
俺の軽口にクスクス笑いながら返す夕雲。そんな事より今は夕雲の注文だな。
「アボカドを使った料理、って事だったが……何でもいいのか?」
「そうねぇ、出来たら身体が温まるスープなんかいいわね」
「またスープ系か。やけに出るなぁ今日は」
「そらそやろ、もう師走やで?幾ら南国のブルネイかて冷えはするやろ」
言われてみればそれもそうか、と龍驤の指摘に納得する。既に12月も半ば、あと2週間もしない内に各艦種の忘年会シーズンにクリスマス、大掃除に正月と忙しい時期に突入する。それに徐々にではあるがブルネイの気温も下がってきており、温かい煮物やスープ系が好まれるのも当然っちゃ当然か。
「んじゃま、適当に作っちまうわ」
《アボカドと豆乳のクリーミー味噌汁》※分量2人前
・アボカド:1/2個
・玉ねぎ:1/6個
・ベーコン:1枚
・豆乳:300cc
・バター:5g
・みりん:小さじ1
・ほんだし:大さじ1
・味噌:大さじ2※お好みの味噌でいいが、赤だし系はあんまり合わないぞ!
さて、作ろうか。アボカドは皮を剥いて種を取り除き乱切りに。玉ねぎは1cm幅のくし切り、ベーコンは1.5cm幅でカット。
鍋にバターを入れて熱し、ベーコンと玉ねぎを炒める。玉ねぎが透き通ってきたら豆乳とみりんを加えて軽く煮込む。この時、豆乳を加熱しすぎると分離してしまうので注意。
軽く煮立ってきたらアボカドを加えて味噌を溶く。沸騰直前で火を止め、椀に盛ってお好みでパセリを散らせば完成。
「『アボカドと豆乳のクリーミー味噌汁』、お待ち」
「ん~♪いい香り」
お椀に盛られた味噌汁に鼻を近付け、その香りを確かめる夕雲。たっぷりとその香りを楽しんだ後、両手でお椀を持ってふぅふぅと息を吹き掛け、少し冷ましてズズズと啜る。そして満足げにぷはぁ……と息を吐き出す。たったそれだけの動作。それだけなのに、
「なんでそんなエロく見えんねん!」
という、龍驤の鋭いツッコミが入る。確かに、何故か味噌汁飲んでるだけなのに妙な色気がある。駆逐艦なのに。
「そうかしら?私自身としては、そんなに自覚ないんですけど……」
はて?と言った具合に小首を傾げる夕雲。
「でもこのお味噌汁、味噌汁というより味噌風味のポタージュスープ、と言われた方がしっくり来そうなお味ですね?」
「あ、やっぱりか?実はコレ、日本食に馴染みの無い海外組を徐々に馴れさせる為に作ったレシピでなぁ」
すぐに和食に馴染んで納豆やら塩辛やらパクパク食べてるビス子やアイオワは例外として、食生活の違いと言う奴は意外と難しい問題だったりする。中でも和食に欠かせない味噌と醤油は、その独特の香りが苦手という外人も少なからず居る。世界的に和食ブームになった現在でもだ。俺もその辺を危惧して、色々と試作したりはしていたんだが……ウチに来た連中はあっさりと馴染んでしまい、ほぼお蔵入りになってしまったレシピを掘り起こしただけだったりする。
※海外組が馴染めた理由が、自分の腕の良さだと提督は気付いていません。
「ん~、せやなぁ。この味付けなら白飯もイケるけどパンにも合いそうな感じやし」
味見にと別の椀に盛って出してやった味噌汁を啜りながら、龍驤がそんな事を呟く。そう、この味噌汁飲んだ〆にもいいが、焼いたフランスパンなんかを浸して酒のアテに食べるなんて食べ方もオススメだったりする。
「そう来ると思ってな、フランスパントーストしといた」
「流石やなぁ」
ついでに言うと、ただ焼くのも芸がないのでガーリックバターを塗ってガーリックトーストにしてある。コレを浸すとにんにくの風味がプラスされて、スープも美味くなるって寸法よ。
「いや~、満足満足。ほなご馳走さん」
爪楊枝でシーシーしながら、ほろ酔い気分で店を去る龍驤。その姿は背丈に似合わずオッサンにしか見えない。そんな後ろ姿を苦笑混じりに見送ると、
「提督……今夜は飲みたい気分なの。お付き合い下さるかしら?」
と、夕雲が誘ってきた。勿論俺に否はない。
「お付き合いしましょう、お嬢さん。何をご所望で?」
「そうねぇ……クリスマスも近いし、シャンパンを使ったカクテルをお願いするわ」
「かしこまりました。早霜、そっちは任せるぞ。俺はツマミを作る」
無言で頷く早霜にカクテルを任せ、俺はアボカドを使ってもう一品といこう。
《混ぜて焼くだけ!アボカドグラタン》※分量2人前
・アボカド:1個
・ベーコン:2枚
・ゆで卵:1個
・マヨネーズ:大さじ3
・ブラックペッパー:少々
・とろけるチーズ:適量
・にんにくパウダー:少々
さて、作ろうか。アボカドは種に沿って1周させるように切り込みを入れて半分にし、種を取り除く。スプーンを使って実を取り出したら、皮は捨てずに取っておく。
アボカド、ベーコン、ゆで卵を1cm角で刻み、ブラックペッパー、にんにくパウダー、マヨネーズを加えて和える。
取っておいたアボカドの皮に、和えたアボカドの身を戻し、上にチーズを乗せる。後はオーブントースターでチーズがとろけるまで焼けば完成だ。
「お待ち、『アボカドのグラタン』と……」
「こちら、《ミモザ・ジャパニーズスタイル》です」
「美味しそう……いただくわ」
気の利く早霜は、ミモザを俺の分と自分の分、3人分を準備していたらしい。軽くグラスをぶつけて鳴らし、クイッと軽く煽る。
「これ……お蜜柑?」
「はい、オレンジジュースの代わりに蜜柑の絞り汁を使いました」
なるほどな。ミモザってのはシャンパンを同量のオレンジジュースでビルドしたカクテルだが、オレンジジュースの代わりに蜜柑の絞り汁を使ったからジャパニーズスタイルってワケか。
「ん!こっちのグラタンも美味しいわ……」
アボカドのグラタンを頬張って、顔を綻ばせる夕雲。妖艶な色気を漂わせる夕雲も、無邪気に笑う夕雲もアリだな……なんて考えてしまう辺り、俺もまだまだスケベの虫は収まらんらしい。
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