| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第七章 C.D.の計略
  打ち合う強者

トゥスクル市街地に現れた絶鬼

「浄化」を始めようとする絶鬼に対し、オボロと強鬼が立ち向かうも敗北。


知らせを聞いてハクオロとヒビキが現場に到着すると、そこにいたのは「EARTH」副局長、蒔風ショウだった。



------------------------------------------------------------


「鬼のくせに破壊活動とはな。なかなか伝承通りの「鬼」だな、あんた」

剣と音撃棒が交差し、そのまま睨み合う両者。
その光景を目の当たりにしながら、ヒビキもハクオロも前に出れない。


もしこの状況を崩せば、この二人の戦いが始まるような気がしたのだ。


そしてそうなれば


「俺とあんたが闘えば、この町は無事じゃすまないだろうな」

「某はそれでも構わぬ。もとより撃滅させる所存故に」

空気がピリピリと緊張を帯びていく。

ここの町民は表に出ていないだけで、すぐそこの家の中にいるのだ。
もし戦いとなったら、家屋が吹き飛びその人たちも無事ではすむまい。


「なあ絶鬼さんよ。あんたこのまま戦って勝てると?」

「某には世を浄化する大義がある。自らの身の上などどうでもよい」


今回は引かない?と提案するショウに、絶鬼は即答で返事をする。


こいつはヤバいかもな・・・

と、ショウの頬を冷汗が垂れる。
勝つとなればそう難しい相手ではないが、この街を守りながらとなると厳しい。

ショウは自分の戦い方を十分に理解している。
おおよそ、仲間を守りながら、というには向かない戦いだ。どうしたって周囲に被害が出る。これほどの相手なら、なおさらだ。


ならば、選択肢は一つ。
思い切り攻撃して吹き飛ばすか


「いいぜ。相手してやる」

少しだけ相手をして、相手に諦めてもらうかだ。



ガンッ!!と、ショウの剣が音撃棒を弾く。
その瞬間に絶鬼は軽くステップを振んで下がり、ショウは突き出しながら突進していった。

それを絶鬼は首の皮一枚で回避し、水鞭を走らせてショウを打った。


バチィ!と打たれたショウの左肩。
斬れはしなかったものの、服と肉が少しだけ抉れた。

だが、それ以上の追撃はなかった。
ショウはその痛みに顔をしかめるでもなく、その水鞭を掴み取って捕えたのだ。


まずい、と絶鬼が水鞭を解いて水にする頃には、もう遅かった。

ショウはすでに水鞭を引き、絶鬼の身体ごと自らに引き寄せていたのだ。
一度引かれては、いくら水を解こうとも身体は前に出る。

その腹部に向かって思い切り剣を薙ぐショウ。
だが相手も侍だ。その剣を音撃棒で弾き落とし、難なく攻撃を防いだ。



しかし

(軽い・・・!?まさかこやつ!!)

弾いた剣は、想像以上に軽かった。
それはそうだろう。振るうだけ振るって、当たった瞬間に手の離された剣など、軽くて当たり前だ。

(囮かっ!!)

相当の思考が走る脳内とは裏腹に、もはや肉体にストップなどという時間はありはせず


「ぬんっ!!」

ゴッッ!!

「ごぶっ!!」


ショウの拳が、思い切り絶鬼の顔面にめり込んだ。
真正面から殴られた絶鬼の身体が面白いように後方へと飛び、それを追ってさらにショウが駆ける。

そして絶鬼の身体が突き当りの家に当たる前に、今度は蹴り上げ。
上に打ち上げて、それを追ってさらに跳躍。

後ろ回し蹴りで、来た方向へと戻ってもらい、絶鬼は元の位置に落下して土埃を起こしていた。


そしてその一点にめがけて、ショウが宙を蹴った。
斜めに落下していくショウは、土埃の中の絶鬼に向かって両拳を構えて振りかぶり、それを突き出して――――


「音撃打」

「な」

「剛撃一破ァ!!」

ドォン!!と、思い切り振られた音撃棒の一撃にショウの拳が弾かれた。


フワリと浮くショウの身体。
そのショウに向かうは、すでに全身を青に染めた――――絶鬼蒼であった。


「音撃打・激流怒涛の型!!」

ド・ド・ド・ド・ォッッ!!


一昨日の夜、響鬼に見舞った例の音撃を、気合いと咆哮を十分に兼ね添えてショウへと叩き込む。

その剛撃を真正面から食らい、先ほどとは立ち位置を変えてショウと絶鬼が通りを突っ切る。
しかし、今度のは上空に上げられることなく家へと突っ込み、ショウが仰向けにその中で転がる結果となった。


「フシュゥウウウ・・・・ぐっ」

息を掃き出し、構えたまま残心をとってショウの突っ込んだ穴を睨む絶鬼。
ガクリと膝が挫けるも、立て直して膝を上げる。


それを見て、ヒビキもハクオロも唖然としていた。

当然だ。
ただのパワーなら、蒔風どころか「EARTH」トップであろうあのショウの攻撃に耐え、あれだけ圧倒したのだから。


と、ガラリと板を押しのけながら、肩を抑えてショウが崩れた家の中から出てきた。
ごめんなさいよ、と片手で礼をしながら、グキグキと首を鳴らす。


「ペッ・・・」

血の混ざった唾を吐き、口元の血を拭う。
どうやら口の中を切っただけというわけではなく、内臓にもダメージがあるようだ。

だが、それでもショウから引くという考えはなかったようだ。

絶鬼を睨みつける視線が、それを何よりも物語っていた。


「・・・・よかろう。今の状況を鑑みるに、某の目的は今は果たせぬと見受けられる」

「そりゃぁよかった」

「然らば、御免」

スゥッ、と光と共に変身を解き、その光と共に絶鬼はその場から消えていた。


ショウはその跡をただ黙って見つめていた。




------------------------------------------------------------


「ショウ!来ていたのなら」

「すまないなヒビキ。俺もついさっきついて出くわしたんだ」

救護班と、壊れた家の改修作業の兵が来たころになって、ようやくヒビキとショウは話を始めた。
ハクオロは、様々な方面に絶鬼捜索の包囲網を広げているところで、今はいない。


「あれが絶鬼か・・・」

「ああ。何でも200年前の鬼だとか」

ヒビキが、ショウに絶鬼の話を簡単に済ます。
それを聞くショウだが、どうにもその顔に驚きがない。


「知っていたのか?」

そう聞く響鬼だが、ショウの顔がますます驚きから遠のいていった。
むしろそれは、申し訳なさそうなものと言えるだろう。



「すまない。もしかしたらと思ったが、俺の予想が当たってたみたいだ」

「ん?どういうことだい?」


溜息を掃き出し、目を閉じるショウ。
そして、思い切っていくかと、言葉を漏らした。


「絶鬼が出てきたのな。俺のせいなんだ」

「・・・・は?」



話は、そう。
ヒビキとショウが初めてであった時点まで遡る。

それはすなわち、ヒビキと「奴」との戦いであり、我々の言葉でいうならば「第一章」での話である。



あの時、ショウは「大地の太鼓」に自らの波動を送り込み魔化魍を活性化、大量発生させ擬似的な「オロチ現象」を引き起こしていた。


魔化魍の大量発生という「オロチ現象」
かつてはヒビキがイブキ、トドロキと共に出向き、多数の魔化魍の中を潜り抜けて「大地の太鼓」に向かい、そこから直に清めの音撃を叩き込んで沈めたこともある現象だ。

それを利用して、「奴」はヒビキたちをおびき寄せて戦った。

つまり「大地の太鼓」は短期間に二度――――否、それを再び鎮めるために再度叩いたため三度、刺激されたことになる。

絶鬼は、そこにいたのだ。
その太鼓の地下深くに、絶鬼は200年前から眠り続けていたのである。






どういうことだ?とヒビキの疑問。
ショウの話は続く。


絶鬼は、200年前に発生したオロチ現象を沈めた鬼だ。


当時の鬼たちは、無尽蔵に沸く魔化魍の対処に追いやられ、さらにはその戦いのさなか鬼も倒れて窮地に立っていた。
一度怪我をしても、現代ほどの医療レベルがなかった時代だ。死にやすさは、倍以上だったのだろう。


そんなオロチ現象が発生したなか、絶鬼は以前より思いついていた「大地に音撃を叩き込む」方法を提案する。
だが、当時の吉野のトップたちはそれを許さなかった。

ただえさえ、鬼の数は激減していたのに、そのような賭けに出ることなどできなかった。

反対派の中には、友である公家威吹鬼もいたが、彼個人としては賛成しており絶鬼の提案を実行すべきだと言っていた。

だが当時は戒律に厳しく、公家がそのような個人の意見を出すことは許されず、猛士という組織の代表としての発言しかなかった彼に、賛成意見を述べることはできなかったのである。




「だがこのままでは、すべてが滅びる。どっちにしても滅びるのならば、賭けに出たほうが生き延びる可能性が高い」

そう言って、反対派の多い中で絶鬼は一部の者の賛同を得て半ば強引に実行。


そして彼は少数で行ったにもかかわらず、自分以外の犠牲を出すことなくこれを鎮めることに成功したのだ。
後世に残る「オロチを鎮めるには公家の血の者が必要」とされるのは、元一介の侍であった男に救われたなどと伝えられては、公家の存在意義への疑問と権力の弱体化を恐れてのこと。

※現に、現代でのオロチ現象は公家ではない響鬼主導で沈めることができた。



大地の太鼓の外から叩き込み、しかしそれだけでは足りないと悟り、自らその太鼓の中に飛び込み、地中から音撃を響かせそのまま埋もれていったのだ。
そうして、自らを「音撃の塊」として自分ごと封印したのが絶鬼だ。

その後、現代までオロチ現象は起こることなく時が流れる。


「俺が叩き込んでるとき、奥のほうにその存在を感じたから間違いない」

「でもさ、土の中で生きてたってことか?」

「いや。その時は間違いなく骨の状態だったはずだ。だが、少しずつ蓄積されていった悪意によって生まれた魔化魍が骨にへばりつき、正と邪の音撃が短期間に叩き込まれたことで蘇ったのだろう」


きっかけからこれまでの時間がかかったのは、肉体の構成に時間がかかったからではないか、とショウは推察する。


「ってことは、絶鬼はもともと正義の鬼だったってことか・・・・」

「だが資料を見ると元々厳しい正義感だったらしいからな。悪意や魔化魍の浸食を受けて、そっちが側が大きく肥大してしまったのだろう」


思いもよらぬ、絶鬼の生涯。
悪寄りで、正義となり、そして今、悪に侵食され「世直し」をしようと画策している。


次は一体、どう出てくるのか。


「放っておけば大変なことになるかもね」

「だな。あいつは今日で自分一人では到底成し得ないことを知ったはずだ」

「ということは、次にあいつは手駒をそろえようとするはずだな」

「ハクオロ!」

「絶鬼は見つかったのかな?」

「いや・・・だが、話は聞いていた。私も協力しよう」


話に入ってきたハクオロが、協力を申し出てきた。
彼としても、自らの国民を危険にさらされたのだ。黙っているわけにはいかない。


「んで、結局どこで手駒を集めると思う?」

「あいつは200年前から復活した男だ。今の時代にコネがあるとは思えない」

「大地の太鼓・・・・絶鬼の生まれたそこになら、何か手がかりがあるのではないか?」

「確かに・・・それに、あそこなら何かをするにはもってこいだな」


大地の太鼓、という単語が出てきて、ショウが考えていたのは一つの可能性だ。

もしも、あの絶鬼がなりふり構わず「浄化」をするとして、もしそのうえで手駒が必要となれば、それは別に「賢い手駒」である必要はない。


「暴れればいい。破壊すればいい。人を根絶やしにすればいい。それが目的ってなら・・・・」

「使うのは魔化魍でもいいってことか」

「んじゃ、なおさら大地の太鼓だ。行こう!」


ザッ!と立ち上がり、身支度をするヒビキ。
京介に一声かけて、お前はここでゆっくりしてろと伝えておく。

ハクオロは、ベナウィにこの場を任せてウォプタルに跨る。
付き人に、今回はトウカがついていくこととなった。

そしてショウは、パキパキと手を鳴らし、パンと頬を叩いて気合いを入れる。
これは自分の後始末だ。しょうもない過去の清算を、今つけなければならない。


その日のうちに、四名はトゥスクルを出た。
向かうは関東。その山奥の地。

ススキの生える、大地の太鼓のある遺跡だ。



------------------------------------------------------------


ぐ・・・ぅお・・・・
あ奴め・・・・なかなか強烈な一撃を・・・・・


このような悪鬼どもの力は借りたくなかったが、致し方あるまい。
この世から、悪となるものは完全に排除せねばなるまい。



「浄化・・・浄化だ・・・・」

フラフラと、男が森の中を進んでいく。
そして風が吹き、その場から消えた。

向かうのならば、あの場所だ。
自分の眠っていた、あの忌まわしき穴の場所。大地の太鼓の遺跡である。



「魔化魍が生まれ、満ち、戦いが起こるだろう。愚劣なるものは食われ、高尚なるものが残る・・・」

そうだ。
戦いとは、最後に優れたものを残す淘汰の手段だ。

戦いとは浄化だ。
醜いものを滅ぼし、生き残った者は強く素晴らしい・・・・


「世の浄化を始めよう。悪は許さん―――――絶対にだ」





to be continued
 
 

 
後書き
美しく強いから生き残ったのではなく、生き残ったから強く美しい説ですね。



絶鬼は過去のオロチ現象を沈めた鬼です。
最初は響鬼みたいにドコドコやったんですが、当時は現代よりも荒れていた分、状況が悪かったのでしょうね。

ついには自らを音撃の塊として太鼓の中に飛び込み、直で大地に音撃叩き込み沈めたのです。
水属性の鬼だったというのも、強味でした。地下水脈を伝わらせられましたから。

時代が挟むと、同じ名を襲名しているとかもあって説明が面倒ですね。


オロチ現象は、公家の者の血が必要とか本編で言ってたくせに、結局ヒビキさんが沈めちゃったじゃん!!という最後に、一応の説明をつけてみました。
というかそりゃ、絶鬼さん半端ないはずですわ・・・・


響鬼
「次回。戦いのとき」

ではまた次回
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧