アタエルモノ
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第七話
前書き
どうも、こちらはかなりお久しぶりです。ネタがたまったので再開します。
―翌朝―
「………………んぁ?」
俺は目覚まし時計の鳴る音で目を覚ました。
…………あれ、家じゃない。
俺はいつもとは違う天井を見つめて一瞬戸惑った。しかし、すぐに新しい部屋だということに気付いた。
そんな自分に軽く苦笑しながら、鳴り続いている時計を止めようとベッドの横の台の上に手を伸ばす。
しかし、俺が時計に触る前に時計は鳴り止んだ。
「?」
見ると、既にそこには誰かの手があった。その手は、俺の頭上に伸びていた。
その手を辿って見てみると…………。
「やぁ、おはよう。なかなか可愛い寝顔で寝るんだね。」
害悪がいた。
「…………今ここでお前を突き飛ばそうとしても無駄なんだろ?」
…………沙紀は、正座した状態で俺の頭をその太ももの上に乗せていた。
膝枕って奴だ。
…………なんだろ、会って二日だけど、既になれてきた。
「どうだい?ボクの膝枕は。」
俺の顔を覗きこむ沙紀。その顔は相変わらずニヤニヤしていた。当社比二倍位で爽やかさが増してるが。
「筋肉少ねぇな。まぁ、そのお陰で高さはベストマッチ。柔らかさもまぁまぁ。ただし、シチュエーションはかなりヤバい。」
「枕として何点?あと、シチュエーションは?」
「個人的には枕としては百点。シチュエーションも、恋人なら満点、会って二日ってことを考えると五点。」
正直、寝心地は最高だ。今まで使ったことのあるどんな枕よりも格別に違う。クセになりそうだ。しかもやってくれてる相手はボクっ子美少女。どんなご褒美だと。
ただまぁ、沙紀なんだよな。
おまけに会って二日。シチュエーションとしては良くは無いだろう。
…………これが沙紀みたいな『異常』なことを持ってる奴じゃなけりゃ惚れてたのになぁ…………つーかこの状況、どんなエ□ゲだよ。いや、□ロゲでもねーよ。
「うーん、じゃあ、シチュエーションの点数がもっと伸びるような事実を明かしていい?」
すると沙紀は、俺の右手を掴んで、持ち上げる。
「あ、抵抗はできないよ。『脱力』で今の君は赤ん坊位の力しかないから。」
確かに、足を動かそうにも重くて動かせない。金縛りになった感じだ。
「よっと。」
ふにっ。
すると、俺の右手が柔らかいものに触れた。手にちょうど収まるくらいのサイズで、人肌のように柔らかい。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。
「お前本気か!?」
俺は力が入らず、頭を動かすこともできない状態で叫んだ。なんだよこいつ。自分のことをなんだと思ってるんだ。
単刀直入に言おう。
こいつ、何も着てない。
全裸で俺に膝枕をして、俺の右手を自分の胸に押し当てた。
ど変態だ。
「んで、どうよ?全裸膝枕とボクの胸は?」
俺の気持ちなど全く考えてないであろう能天気な沙紀の声。いやほんと、恥じらいも何も無いのかよこいつには。
そして、全国の男子高校生に言わしてもらおう。
羨ましいだろう!
―沙紀の部屋―
「と言う夢を見たんだが、お前の仕業だろう?」
俺は朝一番で昨日訪れた、沙紀が『作り出した』部屋にやって来た。沙紀の髪はまだ白かった。
今日みた、沙紀が出てきた夢について問いただしていた。
いやだって、なんともピンポイント過ぎるんだもん。
「いやぁ、流石にバレた?『夢心地』っていう奴を使ったんだ。」
「バカだろ!」
俺はあまり声を荒らげることはしないのだが、今回ばかりは流石に大声を出した。
他人(会って一日)の奴に全裸の夢を見せる。
突っ込みどころしかねぇよ。バカというか、頭おかしいんじゃねぇの?
「いやー、もしかしたら一晩経てばボクの事を夢だとか、気のせいだとか思いそうじゃん。これ以上無いくらい植え付けてやろうとね。」
「頼むからトラウマを植え付けるな。」
ほんともう、膝枕のフィット感とか、音の感じとか、柔らかさとか柔らかさとか柔らかさとか、リアルすぎて。
暫く朝起きるときの悩みの種だなこれ。
「まぁ、ボクに出会った時点で末代まで自慢できるような体験をどんどんしてあげるよ。」
「一代にも語らねぇよ。」
墓の中まで持ってくよ。言ったところで信じてくれないだろうし。
ほんと、高校生活の方向性が当初の予定とは大幅に違いすぎる。野球で例えると俺の想定してたのが内角高めのストレートだとすると、こいつは振り向いてバックスクリーンに遠投してるようなものだ。
枠に収まりきらない。
「分かりやすいような分かりにくい例えだね。」
「勝手に心を読むな。プライベートぐらい守ってくれ。」
俺はそう言うと、ソファに思いっきりもたれ掛かった。朝七時半だと言うのに既に疲れた。
しかし、改めて沙紀の姿をよく見ると、沙紀はまだ制服を着ておらず、まだ肌寒いのに半袖にショートパンツといった格好だった。
「寒くねぇのかよ。俺は手袋してきたってのに。」
俺はソファにもたれ掛かったまま沙紀に聞いた。まぁ、答えは分かりきってる。
「分かりきってるなら聞かないで欲しいね。『ボクは風の子』で風邪を引かないんだ。」
ほらな?やっぱり何でもありだ。
多分、こいつと話すときはいつも俺達が使ってる物差しじゃなくて、アニメやら小説やらを見るときの物差しで見るべきなのだろう。
「さてと、ボクはそろそろ制服に着替えるから、一回出てくれないかな?」
そんな感じで俺がこれからの事を考えていると、沙紀がそんなことを言ってきた。
「あ?どうせ、『早着替え』みたいな能力あるんだろ?それ使えばいいじゃねぇか。」
「なんで能力の名前までわかるんだよ…………。でもまぁ、使わないよ?」
「…………うん?」
何やら、変なことになってないか?
「だって、」
と、沙紀は口を開いて―下手したらこれまでで俺が一番引くような事を言った。
「服脱ぐじゃん?あのときの肌に擦れる感じとか、少しずつ外気に晒されて行く感じとか、『あぁ、ボク、裸になってってる』っていう感覚にぞくぞく来ちゃってね。止められないんだ。」
ガラガラ、ピシャン。
俺は部屋の扉を開けて外に出ると、そのまま教室に歩いていった。
付き合ってられるかよ、あんなド変態に。
『んー、逃がさないよ?こうすればいつでもどこでも話しかけれるからね。』
突然、そこにいないはずの沙紀の声が聞こえた。俺は驚いて後ろを振り向いたが、そこには誰も居なかった。
「…………ホント、何でもありかよ。」
恐らく、これは……………………。
『ご名答。『テレパシー』だね。君も脳内でボクに向かって話しかけたら届くよ?』
やっぱり。
しかし、これはなかなか便利なのではないか?相手が相手だったらの話だが。
『…………一応言っとくが、俺は特段大事な話とかでもない限り無視するからな?』
俺は取り合えず試すように沙紀に話しかけてみた。
『ま、別にいいけどね。ボクの独り言を誰かが聴いてると考えたら…………ね?』
『流石に引くわ。』
もうとっくに引いてるけどさ。
『そんなことより、早く準備しやがれ。まだまだホームルームまでは時間あるけどさ。』
『あるならいーじゃん。どうせ暇でしょ?』
『…………。』
確かに、かなり暇だ。しかし、ここで適当なことを言っとかないと残りの時間ずっとこいつと話しているのかと思うと、なかなか笑えない。
『いや、学校の構造でも見て回ろうかなと。』
『えー、そんなの『マッピング』で一発じゃん。』
てめぇと一緒にするな。
『んじゃあ、トースト食わえた可愛い女の子と曲がり角でぶつかってくるわ。』
『…………………………うん、行っておいで?』
あ、しまった。
俺は沙紀のそんな返事を聞いてとてつもない不安を感じていた。
絶対、『そんな感じの出来事』が起こす気だこいつ。どうせ構ってくれなかったって言ってそんなことをするだろう。
『………………うし、乗ってやろうじゃねぇか。』
しかし、山があったら登りたくなるのが人間。俺はそう伝えると、教室に向かって歩き始めた。
校内地図を見る限り、最低でも五、六回は曲がり角がある。
さぁて、どこでどんなのが来るのやら………………。
『あ、福島君ってのは?』
『ノーサンキューだバカ野郎。』
―数分後―
さて、俺は沙紀の部屋を出てから自分達の教室に向かって歩き始めているわけなのだが。
「…………わくわくしてるってのは、まぁ、うん、仕方ないな。」
だって、男の子だもん。そんなベッタベタなシチュエーションなんて、今どき漫画の中ですら見たことがない。
「…………これで猫型ロボットみたいなのとぶつかったらどうしようか。」
というような一抹の不安も抱きつつ、三つ目となる曲がり角を曲がった。
ドンッ!
すると、なにかにぶつかられたような感覚。
「きゃっ!」
いかにも女の子らしい、高い悲鳴。
…………沙紀さん、マジすか。
さっきは悪く言ってすまない。今度会ったときになんかお礼をしよう。
「あぁ、ごめん。大丈夫?」
と、いかにもな感じで尻餅を付いている女の子を見る。
そして、動きが止まる。
「いやー、大変だったよー。他の人に見付からないように『瞬間移動』して待ち伏せしてね?君が来たところにレッツゴー!いやぁ、我ながら無駄のない動きだったよ!」
「その発想が無駄だわ!!」
結局、俺の中で完成された約束が一つできた。
『神谷 沙紀からは逃げられない。』
「ところで、ここから二つぐらい先の教室で、なんか上級生と思われる男女が(自主規制)なんだけど、見に行く?」
「…………勘弁してくれ。」
親父、お袋。
今から地元の高校に転入しちゃダメですかね…………?
俺は遠く離れた両親に絶対に叶わないであろう願いをしていた。
…………だれだ、明日の俺、ファイトとか言ってたやつ。
後書き
読んでくれてありがとうございます。正直、久しぶりすぎてどんな感じだったのか思い出すだけでも大変でした。これからも不定期ですが宜しくお願いします。
それでは、また次回。
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