緋弾のアリア ~とある武偵の活動録~
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~The hijack‐ANA600~
「…………!」
今、理子から聞いた話と、過去の話が―俺の脳内にフラッシュバックされる。
このままだと―取り返しのつかない恐ろしい事態になる!―ヤバイ……今すぐ動かないとだな。
「悪いな、理子―!」
俺の指が、理子の顔の前で指パッチンをする。
理子が瞬きをした、その刹那―俺は境界を開き、羽田空港へと向かう。
「あ、あれ? ……どこ?」
―俺の推理が正しければ……アリアはもう少しで、武偵殺しと会ってしまうハズだ。そうなると……死ぬぞ。
相手は金一さんをも倒したヤツだ。
―勝てない、絶対に。
ブワン。境界を閉じ、羽田空港のロビーへと走る。
空港のチェックインを武偵手帳の徽章で済ませて、金属探知機はスルーし、ゲートへと飛び込む。
武偵殺しが金一さんを倒したとしたら……アリア1人では勝てない、絶対に。…金一さんは強かった。誰よりも。
そして、賢かった。ESSの俺より桁違いに。
次は―!
殺されるぞ、アリア!
俺はボーディングブリッジを突っ走り、今まさにハッチを閉じようとしているANA600便・ボーイング737-350、ロンドン・ヒースロー行きに飛び込む。
バタンッ。機内に飛び込んだ俺の背後で、ハッチが閉じる。
「―武偵だ!今すぐ離陸を中止させろっ 」
キョトンとしている小柄なCAに武偵徽章を見せる。
「お、お客様っ!?失礼ですが、どういう―」
「つべこべ説明してる時間が無いんだっ!とにかく、この飛行機を止めろ!」
「は、はいっ!」
CAがビビりまくった顔で、2階へと駆けていく。
それと同時に―ESSの効果が切れた。
だが……ひとまずこれで、飛行機の離陸を止めることは出来ただろう。 ―そう思った矢先。
ぐらっ……
機体が揺れた。動いている……! 何でだ!?
「あ、あのぉ……ダメでしたぁ。規則で、このフェーズからは、管理官からの命令しか離陸を止めることはできないって、機長が……」
2階から降りてきたCAが、ガクガクと震えながら俺を見る。
「ッ…………!」
「う、撃たないでください!ていうかあなた、本当に武偵なんですか?『止めろなんて、どこからも連絡もらってないぞ!』って怒鳴られちゃいましたよぉ」
このバカっ……!
どうする。今の話によると、機長は俺を信用していないらしいな……。今さら脅しても無駄か。
窓の外を見ると、ANA600便はもう……滑走路に入ってしまっている。もう手遅れだ。
後手に入ってしまったのなら、それなりの対処をしないと―こっちがやられる。
作戦を変えるか―!
機体は上空に出て 、ベルト着用サインが消えた。
俺はCAを落ち着かせた後、アリアの部屋へと案内してもらう。
この飛行機のキャビン・デッキは、普通とは少し異なる構造になっていた。1階はバーになっており、2階、中央通路の左右には扉が並んでいる。
これは……『空飛ぶリゾート』こと、全席スィートクラスの超豪華旅客機。12の個室を機内に造り、それぞれの部屋にベッドやシャワールームまでもを完備した、セレブご用達しの新型機だ。
―ここか…。ガチャッ、と扉を開けると、
「……彩斗!?」
よし。まずは合流できたな。
「……なんでついてきたのよ」
「―『武偵殺し』― これが理由だ」
「何か分かったの?」
「分かったには分かった、が。何勝手にロンドンに帰ろうとしてる? パートナーの俺を置いて」
「えっと、それは……」
アリアが口ごもる。
「まぁ、元からロンドンに帰させるつもりはない。それに―かなえさんにも頼まれたしな。アリアを宜しく頼む、って。そう言われた以上、俺にも責任はあるわけだ。お前のパートナーとして、イ・ウーを倒し、かなえさんを釈放させるっていう、な」
―で、と俺が続ける。
「理由だったか? …強いて言えば、お前を助けるため、だな」
「あたしを助ける…?」
「そう。今までの武偵殺しの被害者…バイク・車以外にもあと1人いたんだ。浦賀沖海難事故、シージャックの被害者で…武偵庁特命捜査部員、遠山金一武偵」
「遠山ってもしかして…キンジの?」
「ああ。キンジよりも、ESSの俺よりも強い。あれほどの人が武偵殺しに倒されたんだ。 こんなことを言うのはあれだが―お前1人じゃ、勝てない。絶対に。だから俺が…お前のパートナーとして、お前を守るために、こまでやって来たんだよ」
「彩斗…………」
「武偵殺しは俺1人でも倒せない。お前1人でも同様だ。でも……俺たち『パートナー』なら武偵殺しを倒せるかもしれない」
「かもしれない、なのね。そこは」
「この世界に100%の事象は存在しないだろ?」
「まあね。 …分かったわ。2人で『パートナー』として、武偵殺しを逮捕しましょ」
「ああ」
「あと……悪かったわ。アンタを置いて、勝手に帰ろうとして」
「他人に迷惑かけたくないから自分で何とかする、とか思ってたんだろ、どうせ」
「うっ…、そうよ。悪い?」
若干赤面しつつも、答えてきた。
……………………………………………………
強風の中、ANA600便は東京湾上空に出た。
「―お客様に、お詫び申し上げます。当機は台風による乱気流を迂回するため、到着が30分ほど遅れることが予想されます― 」
と機内放送が流れ、600便が少し揺れる。
それはいいのだが……
ガガン! ガガーン!
比較的近くにあった雷雲から、雷の音が聞こえてくる。
ガガガ―――ン!!
一際大きな雷音が轟くと……アリアが目を瞑り、体を縮こまらせてる。
「…怖いのか?」
「こ、怖いわけない。こんなの全然怖くない」
ズガガーン!
「きゃっ!」
やっぱり怖いんだろうに。貴族のプライドというか、意地というか。見栄張らなくてもいいのに。
だが…双剣双銃のアリアにも苦手なものはあったんだな。ちょっと以外。
……少し、イジってみようかな…?
「そんなに怖いなら、ベッドにでも潜ってればいいだろ?」
「うっ、うるさい!アンタは黙ってて!」
―ズガガ―ン!
「―うぁ!」
あ、とうとうベッドに潜り始めた。さっき言った展開と全く同じになったぞ。
「くっ…………ふふっ」
あまりにも面白すぎて笑ってしまった。
「な、何笑ってんのよ!あとで風穴だからね!」
ズガガーン! ガガガーン!
機長の運転が下手なのか、単に運が悪いのか。
さっきから雷雲の近くを飛び続けてるな。
「う~…………」
とうとうアリアが涙声になりながら、俺の服の袖を掴んできた。
っていうか う~ ってなんだ、 う~ って。某カリスマ(笑)吸血鬼か。
「あー、ほら。分かったから……TVでも見るか?」
と言ってTVをつけると……
『この桜吹雪、見忘れたとは言わせねぇぜ―!』
……名奉行、遠山の金さん。キンジのご先祖様だな。
「ほら、これでも見て紛らわせ」
「う、うん…………」
俺が安堵の息をついた、その時―!
―パァン! パァン!
2発、銃声が響いた。
―狭い通路に出ると、12の個室から出てきた人たちと…
数人のCA、老若男女が騒いでいる。
銃声のした機体前方を見ると―さっきのマヌケなCAがずる、ずる、と機長と副機長を引きずり出している。
何をされたのか…2人は全くも動いていない。
そして、どさっと2人を床に放り投げたソイツを見て、俺は反射的に2丁拳銃(ベレッタ・デザートイーグル)を抜く。
「動くな!」
俺の声にCAが顔を上げると、ニヤァとその特徴のない顔で笑った。
そして1つウインクをしながら操縦室へと引き返す時、
「attention please(お気を付け下さい)、でやがります」
そう言った直後、ピンっ。という音を立てて、取り出したカンを放り投げてきた。
俺たちの足元に転がってきた『それ』に、背筋が凍る。
「彩斗っ!」
雷の恐怖を押し殺しつつ、部屋から出てきたアリアが悲鳴を上げる。
シュウウウウウウウ…………!
煙の音から分かる。ガス缶だ!
サリン、ソマン、ホスゲン、ツィスロンB……様々な毒ガスの名前が、頭の中に浮かんでくる。
「みんな急いで部屋に戻れ!ドアも閉めろ!」
バタン!とドアを閉める前に―飛行機がグラリ、と揺れた。バチン!と機内の照明は消え、その代わりに赤い非常灯が付く。
「―大丈夫!?」
「大丈夫、らしいな。どこも問題ない」
手足のマヒもない、目も見える、呼吸も正常―これは、一本取られたな。どうやら無害なガスだったらしい。
「アリア、あのふざけた喋り方―武偵殺しだ。俺のあったチャリジャックのボーカロイドの喋り方が、ちょうどあんな感じだったが…………やっぱり出たか」
「やっぱりって…………アンタ、武偵殺しがここに来ることが分かってたわけ?」
「確証は無かったが。次はお前を殺しに来ることは、推理出来てた」
俺はアリアに、とっくに切れたESSの時の推理を伝える。
「武偵殺しはバイク・カージャックと事件を始め―さっき話したシージャックで、とある武偵…金一さんを仕留めた。そして、恐らくそれは直接対決だった」
「…………どうして」
「そのシージャックだけ、お前が知らなかったんだよ。電波、傍受しなかっただろ?」
「う、うん」
「電波を傍受出来なかった理由は、こうだ。『船を遠隔操作する必要がなかった』 武偵殺し自身がそこにいたからな」
あの金一さんが逃げ遅れた、というのもおかしいとは思ってたしな。
「ところが、バイク・車・船と大きくなっていた乗り物が、ここで一旦小さくなる。俺の自転車に、バスだ」
「…………!」
「……分かったか?これは初めからメッセージだったんだよ。お前は最初からヤツの掌で踊らされてただけだ。ヤツはかなえさんに罪を被せ、お前に宣戦布告した。そして、シージャックで殺られた金一さんを仕留めたのと同じ3件目で今、お前と直接対決しようとしてる。このANA600便の―ハイジャックでな」
ぎり……と推理のニガテなアリアが歯ぎしりした、その時に―
ポポーンポポポン。ポポーン。ポポーンポポーンポーン…………
「「和文モールス…………」」
俺とアリアが、揃って呟く。
直後に俺は、その点滅を解読しようと試みる。
オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ
オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イルヨ
「…………誘ってるのか」
「上等よ。行ってやるわ」
と言って、2丁拳銃を抜く。
じゃあ、俺もだな。
チャキッ……と懐から、ベレッタ・DEを抜いた。
「それじゃあ―」
「―いきますか」
~Please to the next time!
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