千雨の幻想
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2時間目
長谷川千雨の朝は早い。
日が昇る前に起き、動きやすいへと着替え、そのまま瞑想に入る。
自分自身の内へ意識を向け、自らの持ついくつかの力を均等に扱うイメージを強く思い浮かべる。
自身が彼女たちから教えを受けその力を扱う術を身に着けたものの、まだまだそれらを十全に扱えるほどではなく、前日に体力を消耗した日や忙しくて忘れていた時以外は毎朝この修行を続けている。
もし、師匠と呼べる人物が一人だけだったのならば千雨はこんなに苦労することはなかったかもしれない。
それもそのはず、千雨は四人の師匠から別々の事柄を学び、それらを並行して身に着けつつあるのだから、一つ一つの練度が上がりづらいのは明白だった。
最初、幻想郷の賢者たる妖怪はそうさせようとしていたが、ここでまたとある吸血鬼からのまったが入る。
吸血鬼曰く「彼女には多くの手段を持たせるべき、それが彼女と幻想郷のためになる」とのこと。
運命を操るといわれるその吸血鬼からの珍しい助言を賢者は受け入れることにした。
かといって人間のそれも子供が身に着けられる技には限度があることも事実。
そこで賢者は三人の人間と一人の半人半霊を彼女の指南役とし、千雨は彼女らから少しずつその技を教わることとなった。
紅白の巫女からは体術と巫術を。
白黒の魔法使いからは魔法を。
緑の巫女からは東洋呪術と妖怪退治の方法を。
半人半霊の剣士からは剣術を。
彼女らのうち二人は最初はそこまで乗り気ではなかったものの、時間が経つにつれ千雨との仲を深め、今ではすっかり師弟として定着している。
しかし、仲良くなったからと言ってその修行に手をぬくようなことなしない。
四人が四人とも全力の千雨と戦い、今まで一敗もしていないところからそれがわかるだろう。
千雨本人もまだまだ自分が彼女らと同等の強さを得たなんて欠片も思ってはいない。
ほかの人間や妖怪からは一人前といわれるくらいの強さを持ち合わせてはいるが、それでも彼女の中では半人前もいいところだ。
体術や巫術は紅白の巫女に及ばず。
魔法は最近人間を止めた白黒魔法使いより拙く、また千雨はまだ不老ではない。
剣術は半人半霊の剣士と比べるにあたわず。
東洋呪術にいたっては基本しかできていない。
自身は未だ未熟、そういつも彼女は自分へ言い聞かせている。
いつか、彼女たちと肩を並べられるような日を夢見て。
―――――――――――――――――――――
瞑想が終わると、そのまま朝食も食べずにジョギングへ出かける。
その後は軽く室内でイメージトレーニングを行い、それを終えると軽くシャワーで汗を流し、朝食を食べ始める。
それらの工程を終えてから彼女は学校へ向か……おうとして引き返した。
「危ない危ない」
そう言って彼女は机の上に置いてある眼鏡をかける。
「これがないと、こっちにいるって自覚がわからねえからな」
彼女にとって眼鏡とは世界を見るための窓そのものだった。
ガラス越しに広がる世界は自身が経験した非常識がはびこる世界。
フレームで囲まれた狭い視界こそ、彼女が今見ている世界。
彼女を拒絶した、歪な世界。
だから彼女は眼鏡をかける。暗示をかける。
今の私は偽物だと。歪な世界に合わせた歪な仮面をかぶる。
そうやって彼女は小さいころから生きてきた。
そしてこれからもそうやっていくものだと、信じて疑わなかった。
―――――――――――――――――――――
「なんですって!? 2-Aが最下位脱出しないとネギ先生がクビ!?」
物思いにふけっていた千雨は急に聞こえたその叫び声の主へと視線をむける。
そこではクラスの委員長である雪広あやかがクラスメイトである椎名桜子へつかみかかっているのが見えた。
「とにかく、なんとか最下位を脱出ですわよ!とくにそこの普段マジメにやっていない方々も!」
と言って数人のクラスメイトを指すあやか。もちろんその中には千雨も含まれていた。
「あーはいはい……」
と適当に返事をするも、テスト返しの時にどうせばれてしまうので結局は本気で取り組まざるおえないのだから仕方がない。
それに千雨自身も、あの少年のことは好きではないが嫌いでもなかった。
(まあ十歳児にしては一応マジメに授業をやってるし、これくらいなら生徒として協力しとくか)
と千雨が思い始めたころに思わぬ一報が入った。
「大変!ネギ先生とバカレンジャーが行方不明になった!!」
その時、珍しく千雨とその場にいたクラスメイト達の心は一つになった。
(((ああ、これはダメかもしれない)))
その後、テストに遅刻したバカレンジャーたちは別室でテストを受けることとなる。
そしてその採点結果から0,5点差で2-Aがクラス別平均にてトップに躍り出ることになるのだけれど、それはまた別の話。
一つ言及するとするなら、慣れない徹夜勉強をして千雨はとても眠そうだったという。
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