剣聖がダンジョンに挑むのは間違っているだろうか
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第10話:前編
前書き
おはこんばんにちは、沙羅双樹です。
今回は久しぶりに剣まちを更新してみました。
内容はロキ・ファミリア賠償金徴収編といった所なんですが、話が少し長くなりそうなので分割しました。
余り長々と前書きを書くのもなんですし、更新を待っていた読者もおられたと思うので本編に移りたいと思います。
それでは皆さん、お楽しみください。
【視点:ベル】
どうも、5日前の怪物祭でシルバーバックと大立ち回りをした新人冒険者のベル=クラネルです。
え?いきなり時間が跳び過ぎ?そんなことを言われても、これから起こることからすれば、この5日間に起こった出来事なんて対して語るべきことでもないんですけど……。
というか、僕は一体誰に語りかけてるんだろう?…………まぁ、いいか。取り敢えず、説明をしておかないといけない気がするから、簡単にでもこの5日間に起こった出来事を説明しておこうと思う。
まず、シルバーバック討伐後に神様―――ヘスティア様が倒れちゃったんだけど、これは大事という程の出来事じゃなかった。
倒れた原因を端的に述べると寝不足による寝落ち。ちなみにその診断を行ったのは、神様が倒れて戸惑っていた僕の前に現れたテレシアさんとルルティエさんだ。
この時、テレシアさんとルルティエさん以外にもアトゥイさんとムネチカさん、ヤクトワルトさんも何処からともなく現れ、ムネチカさんは寝落ちしている神様を背負い、ヤクトワルトさんも初めて斬魄刀を解放した戦闘の疲れで動けなくなっていた僕を背負ってくれた。
で、神様をゆっくり休ませられるダイダロス通りから一番近い場所として豊穣の女主人が選ばれ、神様を休ませるついでに僕の斬魄刀初解放祝いの宴が夕方から行われた。
それから今日に至るまでヤクトワルトさんとルルティエさんから斬術、ムネチカさんと途中から本拠地に帰って来たフォウル君、アトラさんから白打という格闘技、アトゥイさんから体捌きの特訓をして貰ったりしていた。
その特訓の成果なのか、僕のステイタスはこの5日間で急激に伸びた。具体的な数値は以下のものになる。
ベル=クラネル
LV.1
力……D550→B721
耐久…F307→D514
器用…E462→C683
敏捷…C632→A823
魔力…E403→C637
【魔法】
≪ ≫
【スキル】
≪ ≫
特訓期間はたった4日だったけど、全アビリティ熟練度の上昇値はトータル1000オーバー!普通に考えてあり得ないよね!?アトゥイさんと夜通しやったモンハンの様な命の危険を感じることもない特訓でこの上昇率はあり得ないよね!!?
この数値を見た神様は頭が痛いって言わんばかりに額に手を添えてたよ。……頭痛の種になってごめんなさい、神様。
そんな神様の頭痛の種になった僕は現在、ヘスティア・ファミリアの眷属全員と共にある場所に向かっている最中だったりします。
ちなみに、僕を含めたヘスティア・ファミリアの皆は完全武装状態なんだけど、向かっている場所は迷宮のある摩天楼とは別方向だったりします。
その為、さっきから擦れ違う冒険者から注目の視線を浴びせられるだけでなく、ヒソヒソ話までされています。
「おい。あれって、【剣聖】だよな?」
「ああ。しかも、【剣聖】だけじゃねぇ。【鎮守】や【陽炎】、【狂姫】もいる。間違いねぇ、ヘファイストス・ファミリアだ」
「はぁ?お前何言ってんの?【剣聖】が所属してんのはアストレア・ファミリアだろ。ヘファイストス・ファミリアじゃねぇよ」
「お前こそ、何言ってんだ?アストレア・ファミリアは何年も前に消滅しただろうが!【剣聖】が所属してんのはヘファイストス・ファミリアでもアストレア・ファミリアでもねぇ!!へ、へ、ヘス………、ヘストレア・ファミリアだ!!」
「「「「「「「「「「それだ!!」」」」」」」」」」
全然違います!!何ですか、ヘストレア・ファミリアって!?神様とテレシアさんの名字が混ざってるじゃないですか!!僕達はヘスティア・ファミリアです!ヘストレアなんて名前の派閥じゃないです!!
「あやや~。他の冒険者の人ら、またウチらの派閥のこと間違って覚えてもうとるぇ」
「ま、うちの派閥はテレシアの姉御が一番有名だから間違って覚えられるのも仕方ないじゃない」
「うむ。我々の本拠地の外観は明らかに零細派閥のそれだからな」
「しかし、それも今回の取り立てが上手くいけば改善されます。姉上」
「本拠地の外装がまともになれば他の冒険者にも派閥名をちゃんと覚えて貰えるのです。まぁ、私としては姉様の家名であるアストレア・ファミリアでもいいですが」
「ちょっ、ネコネさん!?そんなこと言ったらヘスティア様が泣いちゃいますよ!!?」
アトゥイさん、ヤクトワルトさん、ノスリさん、オウギさんは何で派閥の名前を間違って覚えられているのに落ち着いてるんですか!?あと、ネコネさんは神様を蔑ろにし過ぎ!!キウル君は良く言った!
ちなみに、同眷属のツッコミ所があり過ぎる発言に内心でもツッコミきれない僕の心境など知りもしない周囲の冒険者は未だにヒソヒソ話を続けている。
「ってかヘストレア・ファミリアの連中、全員完全武装じゃねぇか。1週間位前に深層遠征から戻って来たばっかだろ?もう次の深層遠征に行くのか?」
「いや、流石にそれはねぇだろ。見覚えのねぇ奴もいるし、新人冒険者の付き添いじゃねぇか?」
「新人冒険者の付き添いが上級冒険者14人って、どんだけ過保護なんだよ。っていうか、それ以前にヘストレア・ファミリアが向かってる方向って、摩天楼とは逆じゃね?」
「確かに。………ってことは、出入りか!?どっかの馬鹿派閥がヘストレア・ファミリアに喧嘩売って、今から派閥間抗争――戦争遊戯をするってことか!!?」
「それもねぇだろ。もし、戦争遊戯がされるなら、神々がもっと騒いでるって」
「…………それもそうか。なら、何で完全武装なんだ?」
「他の派閥と模擬戦でもするんじゃねぇか?【鎮守】と【陽炎】はタケなんとかって派閥によく出入りして、冒険者に戦い方とか教えてるって噂もあるし」
「そういえば、ヘストレア・ファミリアが向かってる先ってロキ・ファミリアの本拠地があるよな?ロキ・ファミリアも上級冒険者が多いから、模擬戦するとなると【剣聖】が出張る必要があるって訳だ」
えっと、先のネコネさんの発言で大体の人は分かってると思いますが、周囲の冒険者には聞こえていなかった様で勘違いしているみたいです。
念の為言っておきます。僕達が集団移動しているのは、ロキ・ファミリアに模擬戦をしに行く為じゃなくて、借金の取り立てをしに行く為です。まぁ、正確には借金の取り立てではなく賠償金の請求になるんだけど。
何でロキ・ファミリアが僕達ヘスティア・ファミリアに賠償金を払うかというと、9日前に豊穣の女主人という酒場で起こった出来事が原因なんだ。
端的に述べるなら酔っ払った冒険者が酒場という公共の場で他派閥の冒険者を罵倒するという、テレシアさん曰く名誉棄損と呼ばれる行為が行われたから。
加害者はロキ・ファミリアでも主力とされているLV.5の幹部眷属。被害者はヘスティア・ファミリアの新人である僕。
これでヘスティア・ファミリアがただの零細派閥なら、僕が泣き寝入りって言えばいいのかな?兎に角、ロキ・ファミリアの様な大手派閥に物申すことなんてできなかったと思う。
けど、実際のヘスティア・ファミリアは僕以外が全員LV.3以上という上級冒険者で構成されていて、特にオラリオ最強であるLV.10のテレシアさんも所属している。
だから、戦力だけなら大手派閥と対等な立場といえることもあって、名誉棄損の賠償金を請求しに行くことになった訳です。
というか、僕なんかのせいで実家から派閥に帰って来たばかりのエミリアさんやレムさん、ラムさんまで賠償金請求に駆り出されるのは申し訳なく思う。
というか、眷属の全員で賠償金請求に行く必要があるのかな?何かしらの揉め事を想定してるとしても、明らかに過剰戦力だよね?
アトゥイさんなんて、「【勇者】と死合えるかもしれんぇ」とか言ってるし。シアイって試合のことですよね?何か違う意味合いに聞こえる気がしますけど、僕の勘違いですよね?
フォウル君とアトラさんも、「駄狼風情が白虎族の身内に暴言吐くとか、いい度胸してるぜ」とか、「調教、もとい教育が必要ですね」とか言ってるし。2人はロキ・ファミリアで何をするつもりなの!?
この3人より更に怖いのがエミリアさん、レムさん、ラムさんの3人だ。「氷漬け…。ううん、氷結粉砕……」とか、「『五形頭』で圧殺?それとも【アルヒューマ】で串刺し?」とか、「駄犬の調教には手足の1本位斬り落とす必要があるのかしら?」とか言ってるし。
眷属全員が出張ってる時点でロキ・ファミリアの主神と団長の胃がヤバいと思うので、これ以上の負担を与える言動は勘弁してあげて下さい!!
っと、こんな説明をしている間にロキ・ファミリアの本拠地――黄昏の館に着いちゃった。あっ、門の所に朱毛の男性――いや、女性?多分、派閥の主神であるロキ様かな?と小人族の男性、エルフの女性が立ってる。
「おはようございます、ロキ様。それにフィンさん、リヴェリアさん。私達が尋ねる時間帯も伝えて無かったのに、まさかロキ・ファミリアの主神と団長、副団長の御三方が出迎えてくれるとは思いもしませんでした」
「30分程前から親指の震えが止まらなくてね。もしかしたら、朝から君達が尋ねてくるじゃないかと思って待っていたんだ。それにしても団員総出――しかも、完全武装で来るのは予想外だった。
随分と物々しいね。今日はそちらの派閥の新人への謝罪と賠償金の受け渡し等をするだけだと思ってたんだけど、僕達の考え違いかな?」
「別に戦争遊戯をするつもりはありませんよ。ただ、そちらの派閥は血気盛んな団員が多いみたいなので、念の為自己防衛ができる装備を整えて来ただけです。
駄狼とか、駄狼とか、駄狼とか、団長を愛して止まない盲目恋愛脳アマゾネスとか、駄狼とか、突っ掛って来そうな気がしたので……」
「は、ははは……。ウチの眷属らは随分嫌われてもうたみたいやな~………」
「そうですね。うちは主神も含めて同眷属愛の深い派閥なので、同眷属を馬鹿にされてご立腹なのも多いんです。ここに辿り着くまでの間に駄狼の調教方法や処刑方法を話し合っている子もいましたので」
「さ、流石に処刑は勘弁して欲しいんやけど」
「させませんよ、そんなこと。本当にしたらギルドから罰則が科されるかもしれないじゃないですか」
「……つまり、罰則が無ければベートを処刑しているということか?」
「少なくとも私は9日前に駄狼の顎を砕いたので、それ以上の肉体的報復を行う気はないです。ただ、他の団員の中には私の行った報復に納得できていない者もいるというだけです。リヴェリアさん」
「……取り敢えず、場所を移そうか?こんな所で立ち話をしていたら目立ってしまうし、通り掛かった他派閥の団員が聞き耳を立てるかもしれない。
本来なら応接室に案内する所なんだが、人数が人数だ。話し合いの場を会議場の方にしたいんだけど、いいかい?」
「構いません。それに関しては大人数で押し掛けた私達に非がありますので」
小人族の男性――ロキ・ファミリアの団長である【勇者】フィン=ディムナさんの案内で僕達はロキ・ファミリア本拠地内の会議場へと移動し、全員が用意されていた椅子へと座るとフィン=ディムナさんがいきなり僕に頭を下げてきた。
「君がベル=クラネルだね。まずは僕達の派閥の団員が君を侮辱したことを謝罪したい」
「酒で酔っていたとはいえ、あれは派閥の幹部が口にする様な発言ではなかった。同じ派閥に属する者として申し訳なく思う」
フィン=ディムナさんだけでなく、【九魔姫】リヴェリア=リヨス=アールヴさんまで頭を下げてきた。本来、僕の様な駆け出し冒険者に頭を下げる様な人達ではないということもあって、僕は慌てて返答する。
「そ、そんな頭を下げないで下さい。あの時の僕はあの人が言った通り、ミノタウロスから逃げ回ることしかできない臆病者だったんです」
「いいや。ステイタス強化などのレアスキル持ちでもなければ、LV.1でミノタウロスに挑むなど命知らずか、死にたがりのする行動だ。
当然、私やフィンがLV.1の時もミノタウロスに挑んだことなど無い。今は共に派閥の団長、副団長という立場もあって、格上の者が相手でもおいそれと逃げ出すことができないが、もし私達が君と同じLV.1という状態でミノタウロスに襲われたなら、君と同じ行動を取っていただろう」
「リヴェリアの言う通りだ。それに命知らずや死にたがりより臆病者の方が迷宮攻略では有益なこともある。
臆病であるからこそ、周囲の僅かな変化に気付けることもあり、その結果仲間の命を救えることもある。臆病であることは決して恥ずべきことではないさ」
……ディムナさんとアールヴさんは人格者なんだなぁ。掛け出し冒険者や臆病者を馬鹿にすることもなくて、逆に有益な点を挙げて来るんだから。
けど、ディムナさんの言った臆病者って、『斬月』の言っていた恐怖に呑まれない臆病者――つまり、慎重な人間だよね?
ミノタウロスに襲われた時の僕はただただ無様に逃げ惑うだけの臆病者だった。そう考えると僕は一級冒険者である御二人に擁護して貰える立場とは思えない。
「あまり自分を蔑むものじゃないよ。ベル」
僕が自己嫌悪に陥りかけていると、いきなり会議場にいない筈の人間から声を掛けられた。いや、声を掛けて来たのは人間ではなく、斬魄刀の本体――この場合、僕の相棒である『斬月』だ。どうやら、いつの間にか僕は自分の心象世界に入ってたみたいだ。
「確かにミノタウロスに襲われた当時の君はただの臆病者だったかもしれない。だが、今の君は恐怖を捨てて前を見ている。立ち止まることもなく、少しずつでも前に進んでいる。
ならば、今の君は以前の君とは違いただの臆病者なんかじゃない。慎重に物事を進めることができる、人の上に立つ資質を持つ者だ」
さ、流石に人の上に立つ資質が僕にあるっていうのは持ち上げ過ぎな気がするけど、確かに『斬月』の言う通りだ。今の僕はあの時の僕とは違う。
完全に恐怖を捨てきれずにいるかもしれないけど、それでも前を見る様にした。立ち止まらず、少しずつでも前に進む様にした。少しでも早くテレシアさんの隣に立てる様になる為に。
以前の自分は恥じるべき存在だったかもしれない。けど、そんな自分を変えたいという思いがあったからこそ、今の自分になることができた。
なら、以前の自分を否定するだけでなく、肯定した上で今の自分に自信を持つべきなんじゃないか?でなきゃ、『斬月』の相棒を名乗る資格が無くなっちゃうよ。
「答えは得た。ありがとう、『斬月』。僕はこれからも頑張っていけるよ」
僕が斬月にそう告げると同時に、僕は心象世界から現実世界へと戻った。
後書き
という訳で、第10話前編でした。次回から本格的な賠償金交渉に移りたいと思っています。
といっても、暫くは転スラ二次の憑シュナをメインで執筆しようと思っているのですが……。(笑)
というか、今回の終盤でベル君が某弓兵っぽいセリフを口にしてますが、別に死亡フラグを立てているという訳ではありませんので、変な深読みはしないで頂けると助かります。(笑)
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