大洗女子 第64回全国大会に出場せず
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最終話 かくして現実は克服される
オーロラビジョンには『試合終了』と表示されている。
試合中断でもなく延期でもなく……、終了と。
試合が始まる前に『終了』してしまった大洗女子対黒森峰の試合。
何が起きたのか理解できない観客たち。その中には西住流宗家家元、西住しほもいた。
『皆様にご連絡いたします。戦車道全国高校生大会第一回戦第1試合、茨城県立大洗女子学園対黒森峰女学園の試合は、開始5分前に大洗女子学園の反則が判明したため、黒森峰女学園の不戦勝と決定いたしました』
しほは凍り付いた。いったいどういうことだと。
みほは西住流の恥辱をすすぐ生け贄になるのを拒否して、あえて違反を犯したのか。
あいつはどこまで西住流をおとしめれば気が済むのだ。
しははそう考え、内心だけで怒り狂う。種を蒔いたのは自分自身だと言うことを棚に上げて。
しかし次の瞬間、彼女はさらに驚くことになる。
『これより東京の戦車道連盟本部にあります大会審判部本部の本部長が、皆様に詳細な説明をいたします。皆様、オーロラビジョンにご注目ください』
画面が切り替わり、各種機材が持ち込まれた部屋で戦車道界の重鎮たちや連盟職員らがあわただしくやりとりをしている情景が映る。連盟本部の大会議室のようだ。
その正面、部屋の壁一面のディスプレイの前に一人の女性が立っている。
『審判本部最高判定責任者 戦車道島田流家元 島田千代』
オーロラビジョンのテロップには、そう表示されていた。
今大会に全く関わりをもたない戦車道関係者の中では、彼女が最上位の人間なのだ。
だから黒森峰の理事長である自分が外され、島田があそこにいるのは、しほももちろん納得している。仇敵黒森峰を勝たせる判定をしたのだから、公平性にも疑義はない。
問題なのは、なぜ大洗女子が不戦敗を喫したのか、その理由である。
『これより、審判本部最高責任者から、今回の判定についての説明がございます』
『ただいまご紹介にあずかりました島田でございます。
詳細な事由説明の前に、今回問題になった事案に関するルールの引用をさせていただきます。戦車道ルール第3-01項にはこうあります……』
島田千代があげた規定は、戦車道関係者なら誰でもそらんじることができるものだ。
戦車道で使用できるものは、西暦1945年8月15日以前に設計完了、試作に着手していた戦車および当該戦車に搭載される予定が基準日までに決定していた部材であり、この条件を満たせば現実に存在しなかった車両に改造することも可能というものである。
次項以降の規定上では密閉式の装輪装甲車も可能と解釈できるが、荒れ地走行に支障のあるものをあえて選択するものはいないだけの話だ。
『さて、今回の大洗女子参加車両のなかで、この規定を適用したとして改造を受けたものが2両ありました。Ⅳ号戦車D型と、Ⅲ号突撃砲F型です。
この両車両が本来の主砲を外し、ドイツ製対戦車砲Pak41口径漸減砲、いわゆる「ゲルリッヒ砲」を搭載して出場いたしました』
しほも、それのどこが問題なのかと不審に思う。
75-55mmゲルリッヒ砲はティーガー計画においても候補にされた砲であり、Ⅳ号H型化においても、傾斜装甲車体とともに検討されたいきさつがある。だが……
『この、ゲルリッヒ砲が問題になりました。なぜならゲルリッヒ砲を戦車に搭載する「予定」は存在しないのです』
戦車史に詳しい者たちがざわめき出す。『予定』はあったはずだ。
誰もがそう考えた。
『当時のドイツ軍内部では、Ⅳ号戦車の強化策として、また後にヘンシェルティーガーとなるVK36.01計画戦車の主砲として、ゲルリッヒ砲を搭載することを考えていたのは事実です。
そしてⅣ号H型の主砲としてPak41牽引砲の戦車砲版、kwk41の設計を開始しました。
しかし、このときすでにドイツ兵器局は、国内で産出しないモリブデンとタングステンを大量に消費し、短時間で射耗してしまうゲルリッヒ砲に見切りをつけておりました。
kwk42の対戦車砲型Pak42が通常砲身でありながら同等の性能を発揮したこと、また48口径75mmのPak40でさえ牽引移動に難儀していたことからPak42以降の対戦車砲の自走化が進められたことにより、ゲルリッヒ砲の存在意義は消滅。
また現実の戦場においても砲身が摩耗したPak41は砲弾の供給も滞ったため、そのまま遺棄されてしまうことが多かったことなどから、kwk41は計画途中で放棄され、ついに日の目を見ることはありませんでした。
つまり、ゲルリッヒ砲75-55mmは、kwk41の設計が中止された時点で「戦車に搭載される予定の部材」ではなくなってしまったのです。そのため大洗女子学園のⅣ号D型およびⅢ号突撃砲F型はルール違反であると判定され、同校は不戦敗と決定しました。
また、戦車道の根幹に関わる当該ルールに違反した大洗女子学園の責任は重大であり、同校による全国高校生大会への参加を翌年度も禁止する処分に処したこと、また本年度当初にさかのぼり、参加許可自体を取り消すことに決したことを、あわせて報告いたします』
島田千代は、ここまで一気によどみなく話した。
話し終わった千代が一礼すると、オーロラビジョンの画面が切り替わり、あぜんとする黒森峰選手団と、全員がすすり泣く大洗選手団を画面の半分ずつで映し、その上にかぶせて『勝者:黒森峰女学園』とのテロップを流した。
「あの無能者めが……」
しほは原野を罵った。しかし、元をただせば自分自身が策を弄した結果に過ぎない。
策を逆手に取られ、したたかに反撃を食らってしまった。みほにとってはしほの望みを打ち砕ければ、それで勝ちなのだ。
「……いや、私がしてやられたのだ」
しはは、自分が負けてしまったことを認めるしかなかった。
翌日、大洗女子生徒会は「知らなかったではすまされない失態であり、連盟に異議申し立ては行わない。大洗女子としては翌年度終了まで全国大会のみならず、すべての対外試合も行わない」と発表して、審判部と連盟が降した処分に服すると表明した。
大洗町教委は「補助金は事実行為に対してのものであり、実際に試合会場まで遠征した大洗女子に対しては補助金返還を求めない」と発表し、これですべてが終わった。
その次の日、茨城県教委はすでに島田家が提起している下北タンクディストリビューションおよび親会社大間崎ホールディングスに対する訴訟に参加することを発表した。
県レベルの地方公共団体が法務や財務のプロを連れて訴訟に乗り込むならば、さらに徹底的な証拠調べや、国の機関による査察すらあり得る。もはや事態は最悪となった。
これ以上傷口を大きくすることは、大間崎グループ全体の破滅につながる。
彼らに残されたのは、無条件降伏しかなかった。
大間崎ホールディングスは直ちに下北タンクディストリビューションの破産を申し立てた。
そして債権者集会に島田家代理人と茨城県代理人を招き、要求された賠償金と訴訟遂行費用を全額支払うことで、ようやく和解にこぎ着けることができた。
こうして暗部に巣くう「政商」は、ここに消滅した。
むろん「大洗女子の奇跡」にも傷は付かない。
強くなりたいばかりに『悪質業者』の下北タンクディストリビューションにつけ込まれて欠陥商品を売りつけられた『被害者』なのに、何の言い訳も抗弁もしなかったから。
表向きはともかく、世間は実際には大洗女子が可哀想だと思っている。
そして、大洗女子は「あと10年は戦える」というだけの資金も得ることになる。
こうして角谷の政略、島田家の戦略、みほの戦術が勝利した。
彼女たちは最後まで「善意の第三者」でいつづけ、悪意であったことは関係者以外の誰にも察知されなかった。
大洗女子を公衆の面前で叩き潰し、「所詮邪道は邪道でしかない」と決めつけ損なった西住しほをのぞいて……。だが彼女もまた口を緘した。これは痛み分けだと理解したから。
それに今の状態でさらに大洗女子戦車道撲滅にこだわれば、今度は西住流自体が鼎の軽重を問われることになる。今は「与えられた勝利」で満足すべきだろう。
なお、下北タンクディストリビューションの債権者集会に西住家は参加しなかったが、後日同社の破産管財人から「債務不履行」として、すでに支払った報酬+2億円+αの金額が振り込まれた。
「完敗だな。……慣れない策謀など弄した結果がこれか」
どうやらあの小さな巨人がまた裏で暗躍していたのだなと、しほは悟った。
こんな戦いは自分らしくもない。そして西住の家の戦いでもないのだ。
そしてこの日以降、西住家が大洗女子に何かアクションを起こすことはなくなった。
一番ひどい目にあった原野はゲルリッヒを渡したのが島田愛里寿であると暴露しようとしたが、第三者の手に渡った為替手形に島田家の裏書きはなく、原野の持っていた『領収書』も市販の用紙に偽造印が押されただけのものであり、さらに島田家には彼の言う「家令」の男性はおらず、家令と執事の役割は2人の女中頭が担っていたため、逆に島田家から風説流布と偽計業務妨害、名誉毀損で訴えられ、その直後に姿をくらました。
その後「第64回全国大会で、もし大洗女子が戦車の改造をせずに出場していたら」というイフは、このあとも長い間議論され続けることになる。
そのイフは魅力的であるが故に、戦えば必ず優勝したであろうと信じる者を増やしていく。
あらたな「大洗女子の最強伝説」はこのときに始まったといっていい。
こうして検証しようのない「現実」は、再び「伝説」と化したのだ。
さて、そんなある日、戦車道連盟の理事長は理事長室で、さるやんごとなきお方からの「苦情」の電話を受けていた。もちろん『私物』の電話で。
彼はそれを全部、知らぬ存ぜぬ申し訳ない役立たずでを繰り返して切り抜けた。
(西住家から仕掛けられた戦争に、また島田を巻き込んで二虎競食の計に持ち込み、そして損失はすべて嫌らしい男どもに押しつけ、西住を含めた三者とも得をするか……。
辻を排除したときといいまったく食えないな、角谷君は。まあわしが死んだあとにでも連盟を背負ってもらおうかな。もっともこんな小さな入れ物では、角谷君が壊してしまうかもしれんね)
声に出して笑おうとした理事長はドアをノックする音を聞き、あわてて表情をとりつくろう。
そして入室してきた秘書の持ってきた稟議書いくつかに印鑑を押した。
こうして今日の彼の「表向きの」仕事が終わった。本当の仕事はこれからだ。
といっても、彼は今回も角谷に働かせただけで、自分は何もせずに暗部に巣くっていた汚物を排除できて万々歳である。
(ははは、旧陸軍がドイツからはるばる取り寄せた「ゲ式砲」の使い古しが、思わぬところで役に立った……)
つまり彼は、今回は連盟本部の倉庫の片隅に転がっていたガラクタを処分しただけだったのだ。
結果、大洗女子には西住しほが「タダで」寄付した2億円と、中規模の市の歳入予算に匹敵する資金が転がり込むことになった。
しかし、みほの目指す戦車の道を理解している華は、この資金を県の基金とし、未来にかけて持続可能な戦車道のための原資とすることにした。
みほにとっては、戦車道は人を育てるものだ。戦車道と勝利のために人間を奉仕させるものでは断じてない。
戦車に乗るために身体を強くするのではない。戦車に乗って身体を強くするのだ。
勝つために頭脳を鍛えるのではない。戦車を運用することで、頭脳を鍛えるのだ。
戦車に乗るために精神を強靱にするのではない。戦車と共に苦労して、強い精神を養うのだ。
そして心と自分自身を磨いて、ひとかどの人物を目指すのだ。
それが戦争と、戦車道のちがいだ。みほの考える勝利は、個々の履修生が自分の人生を勝利で飾ることなのだ。だから別に試合で名をあげる必要はない。
これからのみほと大洗女子の戦いは「強さがすべて。力がすべて」という非人間的なものに対する戦いとなっていくだろう。
全国大会の一回戦も、第一戦以外はすべて順調に執り行われ、第二回戦に進出する学校が出そろった。これから一週間後に第二回戦が4戦とも異なる会場で同時開催される。
石川県の継続高校も、その一校だった。次の相手は、黒森峰だ。
「ふーん。これでパーシングを倒したから何かあるとは思ってたんだけど……」
占有離脱物の拾得に熱心なあまりダブってしまったミカ【男の名前なのに、なんだ女か】隊長の隣に、某義体の女少佐と同じ髪型だが髪を金色に染めて、ガーゴイルのサングラスをかけた、継続ジャージを着た女生徒が立っている。
しかし、彼女のジャージは継続カラーではなくバーミリオンレッドで、しかもジャージなのになぜかノースリーブだ。
「QF114mmはガワだけ。中身は変な大砲さ」
ミカが継続高校の『最高機密』を明かした。
彼女たちが見ているのは、大洗動乱に参戦したフィンランド軍の改造失敗兵器、BT-42突撃砲という異形の戦車だった。
フィンランド人がこれを18両作ってKV-1やレンドリースチャーチル、スターリンと戦い、全弾命中させて1両も撃破できないという偉業を成し遂げた。
だがこのBT-42は、それらと同等の防御力を誇るM26パーシングを3両も食っている。
「たしかにこれなら、直撃すればパーシングはおろか、マウスさえ即死ね」
「しかも反動もゲルリッヒなどに比べればはるかに小さい上に軽い武器。
ガワに合わせるため砲身ぶった切ったから、初速は落ちて精度も悪いから至近距離でしか当たらないけれど」
「そこは、腕と戦術でしょ」
これより3日前、これから翌年度いっぱいまで対外試合もせずに何をするのかと優花里に問われたみほは「人を育てるのに、試合は必要ない」と答えた。
「なにも実戦で実績を残すだけが戦車道じゃない。
大洗女子にいる3年間で、戦車道を取ったみんなにはどこに行っても通用する戦車道選手になってもらえればいいと思う。
大洗育ちは強いというのが定着すれば、皆ここの卒業生を競ってスカウトに来る。
大学チームやこれからできるプロリーグに選手をコンスタントに送り込めるようになれば、大洗もれっきとした戦車道の強豪よ。
また別に戦車道に進んでもらわなくても、なにかで一流の人材になる卒業生を輩出できれば、もう誰も大洗女子に手は出せない。これが「不敗」ということと思う」
それこそが、みほの戦車道。負けない戦車道なのだ。
ノースリーブサングラス女は、BT-42を見て感心しきりだ。
BT-42が15.55口径114mm砲に偽装していた主砲の中身は、Panzerwurfkanone10H64というドイツ製の対戦車砲だ。よく『10cmPAW1000』と呼ばれているが、実際の口径は105mm。砲身の肉厚は薄く軽量、そしてなんとライフルが切られていない滑腔砲だ。
薬莢部に現在でもグレネードランチャーで使われている「高低圧理論」を用い、少ない発射薬で105mm有翼安定成形炸薬弾を発射する。
クルップ社が開発していたこの兵器は終戦までに1門が完成しており、射程は1,000mで、垂直から60度傾斜した200mmの均質圧延鋼板を貫通した。
低反動のため大変軽量であり、砲架は50mm対戦車砲のものでよく、48口径75mmPak40対戦車砲が1.5トンあったのに対し、Pak10H64は1トン強しかなかった。
これは普通に対戦車砲として用いられるだけではなく、統制車両計画25トン駆逐戦車の量産型にそのまま主砲として採用される予定だった。なおこの「25トン駆逐戦車」は「設計完了、試作着手」に該当する。たとえ数枚の装甲板であっても。
他にもポルシェが計画していた「ポルシェ250重小型戦車」の主武装でもあった。エンジンは試作されているため、これもルールに該当する戦車である。
欠点は、初速の遅さ(600m/s)と、命中率だった。しかしライフリングがなく成形炸薬弾を撃つには理想的な砲であるため、カタログスペックどおりの威力を発揮できる。
ざっくり言えば、当たりさえすればマウスでも、中空装甲を採用していない戦後第二世代MBTすらも『即死』である。
「これも『搭載される予定だった』部材なのよね。
そしてこれが載せられるはずだった車両は2種類とも駆逐戦車。作りが簡単で低反動だから、前面装甲の裏に支持架を作ってそのまま載せるというだけ。ゲルリッヒのような問題は起きない。
完成が遅すぎたから知らなかっただけで、ある意味盲点だったわ」
「PAWだけじゃないよ。BT-5や7も主砲を換えた。40mmに」
継続があちこちからかき集めた、足が速いだけのBT戦車たち。
だが、その主砲は45mmM1937ではなく、別名「2ポンド砲」と呼ばれる40mm砲。
そしてその先端には漏斗が引き延ばされたような先のすぼまった形状の、穴がたくさん開いたアタッチメントがついている。
元・ダージリンが言っていた「リトルジョン・アダプター」、ゲルリッヒ砲よりはるかに大量に使用されたポン付け口径漸減砲だ。
「これで超高速徹甲弾APSVを撃てば、初速は1,100m/sを超え、500m先の厚さ100mmの装甲板を打ち抜けるわね。ミカさん」
「しかし口径を絞るのが、実は空気抵抗を減らすためだったとはね」
「初速は弾の質量で決まってるの。だからアダプターには腔圧を逃がす穴がいっぱい開いていて、寿命を延ばしてる。
実際ゲルリッヒの2.5kgAPCNRもPak42の75mm4.5kg高速徹甲弾も初速は同じ。口径を減らせは、表面積はその二乗で減るでしょ。
空気抵抗もその分減って速度が落ちなくなって威力が増すというのが口径漸減砲の原理なの。
でもコスパは70口径75mmよりずっと悪い」
「しかしリトルジョン・アダプターなら、もともとある2ポンド砲はそのまま無改造でいい。
砲弾ももともとある高速徹甲弾をアレンジするだけ。この場合は、英国人の勝ちだね」
「でも最終的には、フランス人の発明した装弾筒に負けちゃったけどね」
「で、今度はその装弾筒付きAPDSを撃てるのもある」
継続の虎の子たち、寄せ集めのKV-1とT34/85、それとどこかのお下がりのⅣ号J型にⅢ突G型。だが、付いている主砲が異様だ。すべて同じもの。そしてKVと85にはあるはずがないマズルブレーキが付いている。
77mmHV砲。コメット巡航戦車が積んでいる、17ポンドの50口径砲身減装薬型だ。
「そしてこれからは、第二回戦で黒森と当たる学校に『義勇兵団』が『短期転校』で参戦する。
たとえそれが大洗の生徒であっても、大洗は「学校としては参加しない」のだからまったく問題はない。だいたい『短期転校』を認めたのは連盟理事長なんだから」
ミカは笑う。自分たちはこれからMBTまがいをそろえた「強ければそれでいいんだ。力さえあればいいんだ」というひねくれた戦車道に、大同団結して戦いを挑む。
わきにいる女生徒とともに組織した『エルネスト・ラファエル・ナイツ』が、これから四強に戦車道のなんたるかを教育するのだ。
四強の先代隊長たちは、高校戦車道がゆがんでしまったことを本当は悔いていた。
だから次代の者たちに裏資金と簿外品を託し、そしてミカはわざと単位を落として留年した。
試合に参加しない大洗の戦車倉庫は、これから自動車部と継続がこしらえた「安い戦車を創意と工夫でチューニングした魔改造戦車」の保管所になり、必要とされる学校に貸し出される。
その維持費は大洗だけではなく「四強」以外のすべての連盟登録校が持ち寄って運用する。さらに以前から連盟に参加すると言われていた「中立高校」も、参加と同時に『ナイツ』の一員になると内々で伝えてきた。
もう彼女らは「かませ犬」ではない。群れをなし、連携して戦う狼の集団だ。
そして今年は継続を優勝させる。それが目標だ。
つぎはまた、第二回戦で黒森峰と当たる学校が優勝を目指すのだ。
高校戦車道がまともになるその日まで、鋼鉄の傭兵部隊の戦いは続く。
「風が言っている。『革命か、死か』と」
「もし私たちが巨象に刃向かうカマキリだというのなら、手の施しようのない中二病だというのなら、可能と不可能の区別が付かないドン・キホーテだというのなら」
「何億回でも答えよう」
「そのとおり! だとね♪」
ふたりは、声を上げて笑う。
そこに1両のタンクトランスポーターが現れた。
1両の駆逐戦車を搭載している。どこかで見たような車体の。
そのトランスポーターの助手席から、小柄な人物が降りてきた。
VIPがよく「入院」することで知られる東京の某病院から「退院」したばかりの、大学選抜の総司令官である。
そして、荷台から降りたTas駆逐戦車魔改造を、二人の女子高生に披露する。
当然のことながら戦車型より、いやそれ以上に背が低い。砲の取り付け位置が高いから俯角はとれなさそうだが、そこは運用だろう。何よりもショットトラップがない。
機関系はHSS&HL230P45パワーパック。脚はホルストマンサスペンション24輪。
そして主砲は……
「……これは、88mmL71(現計画では未定)」
「そう、ただし計画と違って最末期のKwk43p。105mmL7A1と同等の威力」
「じゃあ本当は、これにするために買ったの?」
「そうよ。設計図面は存在し、試作条項も車台が作られていたのだから問題ないわ。
もうすでに3両とも改造を終えて『レンタル』するんだけど、あなたたちにはそのうちの1両を売却するわ。特別に製造原価で大洗女子に譲渡してあげる。だから」
「だから?」
島田家継嗣は、サングラスの大尉に何か耳打ちする。
大尉に降格した誰かは、笑ってサムズアップを返した……。
どうやらこの二人の趣味に関することのようだ。
第64回戦車道全国高校生大会が、四強つぶし合いで終わるのか、それとももうひと波乱あるのか、まだ誰も知らない。
-Fin-
後書き
「バカめ!三度も騙されるか」というルクリリさんのイラストに萌えて書きました。
なお、このあと「蛇足編」を予定しています。
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