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偉いつもりが

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第一章

               偉いつもりが
 海上自衛隊のある教育隊では給養員達は非常に嫌われていた、教育隊の被服班にいる奥野誠一三曹はよく苦い顔で周りに言っていた。
「飯炊きって何で偉そうなんですかね」
「ああ、うちの基地はね」
「特にですよね」
「そうですよ、見ていて腹が立ちますよ」
 周りにも怒って言う、四角い面長の顔で髪の毛は自衛官らしく短く刈っている。背は高く引き締まった体格だ。まだ二十二歳と若い自衛官だ。教育隊はここで今は教育隊の被服を担当している。
 その彼がだ、彼の職場で先輩達に言っているのだ。
「教育隊の時から」
「飯作ってるからね」
「それも三食ね」
「人間食わないといけないからね」
「絶対に」
「それでだろうね」
 周りも奥野に言う。
「ああしてね」
「自分達が飯を作ってやってるって思ってね」
「それでなんだよ」
「偉いって思ってるんだよ」
「勘違いしてるんだよ」
「実習で舩にいた時なんか」
 奥野は曹候補学生出身だ、それで三曹になる間に実習で艦船と航空基地でそれぞれ実習を受けたことがあるのだ。
 その時の船で野ことをだ、忌々し気に言うのだった。
「もうあいつ等大威張りで補給や経理の人達をこき使ってたんですよ」
「船は特にだね」
「酷いね」
「威張ってる給養員いるね」
「態度も悪くてね」
「士長でもですよ」
 三曹である奥野から見て下の階級だ、ただし階級は下でも勤務年数や年齢が下であるとは限らない。
「威張って」
「そうしてだね」
「偉そうにしてて」
「もう何様かっていうんだね」
「そうです、それがです」
 奥野はさらに言った、今は特に大きな仕事もなく彼がいる被服係の事務室の自分の席で話している。
「物凄く腹が立ってました」
「それでこっちでもだね」
「給養員の態度が偉そうで」
「腹が立ってるんだね」
「そうなんだね」
「はい、何とかなりませんか?」
 彼は怒りを込めてこうも言った。
「あの連中」
「難しいね」
「御飯作ってるの実際に彼等だしね」
「胃袋人質に取られてるみたいなものだし」
「特に教育隊の方はね」
「きついことになってるね」
「あれですよね、食事の係出させられてるんですよね」
 奥野は忌まわしい思い出、船でのそれと同じ種類のものをそうしてまた目を怒らせて言った。
「私達の時と同じで」
「その前からだよ」
「ここじゃずっとだよ」
「食事入れる係教育隊から出してるんだよ」
「その教育受ける新人からね」
「そうしてるよ」
「もうそうしてるのうちだけって聞いてますけれど」
 食事の時間に食事係を出すのはだ、食事に来る隊員達に食事をよそって出す学校で言う給食係だ。
「あれはもう」
「そうなんだけれどね」
「他の教育隊ではないよ」
「もうやってないよ、他は」
「うちだけだよ」
「そんなの止めさせないと」 
 奥野は給養班への個人的な嫌悪も込めて言った。
「駄目ですよ」
「いや、君個人的に給養班嫌い過ぎじゃ」
「確かに問題ある給養班だけれどそれは入れたら駄目だよ」
「嫌いだっていう感情はね」
「あまり強く入れたら駄目だよ」
「わかってますけれど」
 自分でもそれは認めている、だがそれでも言うのだった。 
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