悪行が善行に
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第一章
悪行が善行に
品行方正、そんな言葉はもう聞きたくなくなっていた。
オーストラリアのシドニーに住む高校生ポール=クロムウェルはクラスメイト達に言っていた。
「俺の名前あれだろ」
「ポールがどうしたんだ」
「それがどうしたんだよ」
「違う、クロムウェルだ」
姓の方だというのだ、黒髪に黒い目は父親のものだが父親はイギリス系だ。肌は白く鼻が高く長身であるのは純粋な白人である証だ。しっかりとした体格で服装はラフなものだ。コーヒーを飲む仕草もラフだ。
「この名前だよ」
「ああ、それか」
「イギリスの清教徒革命の指導者だった」
「すげえ糞真面目な性格だったらしいな」
「自分にも他人にも厳しい」
「何が面白くて生きているんだっていうおっさんだったそうだな」
「俺は違うんだよ」
姓がそうでもというのだ。
「品行方正とか真面目とかな」
「全然か」
「興味ないか」
「そうなんだな」
「ああ、そうだよ」
実にというのだ。
「というか嫌なんだよ」
「だからか」
「真面目な生活は嫌だってか」
「クロムウェルみたいに」
「そんなのはか」
「ああ、本当にな。だからな」
品行方正や真面目なぞそれこそ糞くらえと思ってというのだ。
「今日からはワルになるんだよ」
「ヘルスエンジェルスになるか?」
「あれに入るのかよ」
「いや、ああいうのは興味がなくてな」
日本で言う暴走族になるつもりはないというのだ。
「何かこう人が言ういいこととは逆のことをしてやりたいんだ」
「そういう意味のワルかよ」
「そっちになりたいんだな」
「真面目とか品行方正とは正反対の」
「そうなりたいんだな」
「そうなんだよ」
まさにというのだ。
「そうなりたいんだよ」
「法律は守れよ」
「さもないと刑務所に行くことになるからな」
「そういうのはするなよ」
「ばれなきゃって思ったらそこからミスるからな」
友人達はポールにこのことは注意した、彼等もそれぞれラフな格好と姿勢でコーヒーを飲んでいる。
「捕まるつもりはないよな」
「流石にそうしたワルになるつもりはないな」
「そうしたのにも興味はないんだよ」
ポールはまた友人達に答えた、今度の返事はこうだった。
「あれだよ、悪戯とかな」
「そういうことをしたいのかよ」
「そうした意味のワルか」
「ヘスルエンジェルスや犯罪者じゃなくて」
「そっちはか」
「ああ、フォルスタッフ爺さんみたいになるぜ」
シェークスピアの作品に出て来る好色で大酒飲みで図々しく無反省なある意味において痛快な人物だ。ヴェルディの歌劇にもなっている。
「ああいうな」
「ああ、あの爺さんか」
「あの爺さんみたいならまだいいな」
「全然真面目でも品行方正でもないしな」
「とんでもねえ爺さんだぜ」
友人達もこの老人のことを知っている、とかくとんでもない人物だと。
「ああいう感じか」
「ああいう感じになりたいのか」
「悪戯をしてか」
「羽目を外して生きるんだな」
「誰がクロムウェルみたいに生きるか」
とかくこの名前とその名前の歴史上の人物に反感を持っていた、それが言葉にも実にはっきりと出ていた。
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