マジック
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第五章
「あと一球か」
「一球で延長か」
「もう決めてくれ」
「ホームランだ」
「ホームランを」
切実な祈りだった、そして。
その夢が適った、何とそのバッターがだ。
思いきり振り抜き打った、ボールは一直線にバックスクリーンまで飛んでそのバックスクリーンを直撃した。
一瞬のことだった、しかしその一瞬で試合もペナントも決まっていた。球場も視聴者も一瞬静まり返り。
その直後大歓声を挙げた、広島は見事優勝したのだ。
打ったバッターは跳びはねガッツポーズをしつつダイアモンドを回る、広島ナインもファン達も跳びはねていた。
「やった!優勝だ!」
「遂に決まった!」
「やったぞ!」
「優勝したぞ!」
「カープが優勝だ!」
「また優勝したんだ!」
彼等は爆発した様に喜んでいた、そうして。
ホームベースに選手が到着した時にだ、彼等はさらに叫んだ。
「やっとな」
「今年はマジック点灯から苦しんだけれどな」
「それがな」
「やっと優勝したな」
「マジック減らすのに苦労したが」
「いや、本当にな」
「優勝したんだな」
ファン達は抱き合ってさえいた、そうして優勝したことを心から喜んでいた。
そしてだ、阪神ファン達を見ると。
やっぱり駄目だったか、そうした顔で肩を落としていて球場を粛々として去っていく。広島ファン達はその彼等を見てこうも言った。
「まあな」
「こうした時は仕方ないな」
「目の前で優勝を見たらな」
「やっぱり落ち込むよな」
「俺達もシリーズでそうだったしな」
「日本ハムに」
負けてそうなったというのだ。
「そうなったからな」
「あの時は無念だったからな」
「ああなっていただろうしな」
「気持ちはわかるな」
「だからどうしても言えないな」
声をかけたりそうしたことがというのだ。
「どうしてもな」
「巨人だったら笑ってやるけれどな」
「あのチームだけはな」
「これまでどれだけFAで選手獲られたか」
「怨みあるからな」
「散々好き勝手盟主風吹かせてな」
「何様だって感じだったからな」
それで巨人相手なら遠慮せず笑ってやっていたというのだ。
「本当にな」
「そうなっていたけれどな」
「阪神相手だとな」
「そこまでする気にはなれないな」
「あそこにも結構選手獲られたけれどな」
「兄貴にしてもな」
まず彼のことが思い浮かぶのだった。
「悔しいって言えば悔しいにしても」
「阪神はそこまでしたくないな」
「巨人以外のチームには」
「そこまではな」
「何はともあれ優勝したしな」
またこのことを思う彼等だった。
「やっとな」
「マジック点灯から本当に長かったけれど」
「本当に優勝出来たぜ」
「それだけに嬉しいな」
「よかったよかった」
「優勝喜ぼうな」
「店で飲もうぜ」
祝いの話にもなった。
「酒も安売りになるしな」
「ああ、優勝したからな」
広島の常だという、カープが優勝したら飲み屋が大安になってそれで皆これでもかと飲むのである。
それでだ、ファン達もなのだ。
「それじゃあな」
「飲もうな」
「カープ優勝を祝って」
「今日はどんどん飲もうぜ」
彼等は球場を満面の笑顔で出てだった、そのうえで。
彼等は実際に居酒屋で酒を浴びる様に飲んだ、そうしてカープの優勝を喜んだ。ここまで長かっただけに酒は実に美味かった。
マジック 完
2017・9・13
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