ガンダム00 SS
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ep9 西暦2296年 (1)
前書き
1stの11年前を舞台にしました。太陽光発電紛争真っ最中の世界。AEU圏で発生するテロ組織と軍の戦いに、あの人が口を開きます。
テロリストの乗るヘリオンが俺の機体に向かって攻撃を放ってくる。俺はそれを紙一重に躱し、後ろにいた友軍機に戦闘を譲り渡す。仲間の攻撃が敵のフライトユニットに当たり、黒煙を上げながら落ちていった。
それを見た他のテロリストたちは戦闘空域から撤退を始める。MSは貴重な戦力だ。部隊全体をずたずたにされるのは彼らも望んでいないはずだ。
隊長のデニス中尉が全機に向けて通信する。
『こちらも燃料を消費している。一度手を引こう』
「了解」
各機が中尉にそう返し、陣形を組んで基地への帰投ルートに入った。
俺はヘルメットを外し、大きく息を吐いた。
今日も生き残れた。紛争の真っ只中で感じる『生』は、学生時代のものよりもずっと現実味があって感情を揺さぶる。
化石燃料の枯渇による、新たなエネルギー資源確保の動きは長い時間をかけて進められている。3国家群ーーユニオン、AEU、人類革新連盟は軌道エレベーター建設計画に着手、各々の技術差の中で太陽光発電システム確立を目指していた。
その一方で、化石燃料を使用する中東アジア各国は自国のアイデンティティを真っ向から否定するエレベーター建設に反発しており、民間軍事会社や軍を経由して紛争を起こしている。
太陽光発電紛争。俺が生きるこの世界では、これが何年も続いていた。
基地に帰ると、デニス中尉と共に司令官の呼び出しを受けた。隊長であるデニス中尉にも見当がつかないようだった。
「俺はともかく、お前に声がかかるのはよく分からない」
「なぜですか?」
「軍属7年目で撃墜数1桁のお前だからだよ」
デニス中尉は呆れ調子で俺を見る。俺は愛想笑いを作ってごまかした。
司令室では、エルビス大佐が紅茶の入ったカップを片手に待っていた。
ブラウンの短髪に大きな体躯を持つ大佐は、敬礼する俺たちを見てニッと笑ってみせる。
「ご苦労。楽にしてくれ」
「「ハッ」」
俺は両腕を後ろで組み、大佐を見た。確か年齢は50代後半だそうだが、とてもそう見えないほどに精力的な雰囲気を匂わせている。
大佐はカップを傾けて紅茶を口に含む。それから口を開いた。
「貴様らに特命だ。テロ組織『アルストス』に関する作戦に参加してもらう」
中尉も俺も言葉が出なかった。あまりに唐突な命令だった。
デニス中尉が一拍置いて大佐に問いかける。
「作戦開始はいつでしょうか」
「3日後だ。この基地に討伐隊のメンバーが揃う。指揮をとるのは中尉だ」
テロ組織『アルストス』。中東・サウジアラビアからAEU領のアフリカに進出してきた過激派集団だ。彼らは軌道エレベーター開発に否定の立場を取り、自分たちの声を知らしめようとアフリカ各国でテロ活動を続けている。
デニス中尉は顎に手を当て、低い声で呟いた。
「しかし、あれ関係だと傭兵連中が邪魔ですね」
「ああ。各国の要請を受けてAEU軍の特務隊が現地に派遣されている。だが国の1つが自国警備のために傭兵を雇ったせいで軍が動きづらくなっている。奴らはAEUのバックで仕事をしていない。国の領土で戦闘になったら、奴らはアルストスだけじゃなくAEU軍も攻撃してくる」
「それを解決するために作戦が考案なされたのですね」
「いや、解決はできないだろうな」
メルビス大佐はあっさりと言ってのける。その他人事のような台詞に俺は思わず言ってしまった。
「では、作戦は何のために行われるのですか。敵の戦力を削れるだけ削るためだけですか?」
「惜しいな。具体的には抑制するんだよ」
「抑制……」
メルビス大佐は俺たちの後ろに目をやり、声を上げた。
「入りたまえ」
するとドアが開き、1人の女性が司令室に入ってきた。身長は女性にしては高めで、眼鏡の内に光る鋭い目が印象的だった。シミのない顔に口元のホクロが目立つ。スーツを着ているところを見ると、軍人とは言いがたい。
その女性は軽く頭を下げてから自己紹介する。
「ユニオン大学のカティ・マネキンです。本作戦は私が考案しました」
俺もデニス中尉も何も言えなかった。相手が俺たちより若い女だったからではない。
その女は、これまでにAEU領における紛争を3つ解決に導いた噂の大学生だったからだ。
続
後書き
次回は後半を投稿します。
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