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見上げ入道

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第四章

「若し出て来たらどうすればいいか」
「さっきみたいに言えばいいって本で読んでいて」
「難を逃れられたよ」
「そうだったんですね」
「怖かったわ・・・・・・」
 ここでやっと言葉を出した恵利だった。
「今のは」
「そうだったかな」
「私は怖かったの、妖怪とか幽霊とか実はね」
「苦手なんだね」
「そうなの、いないと思っていたからそうしたお話を読まないだけだったけれど」
 これまではこれで済んだがというのだ。
「まさか本当にいるなんて」
「まあそうはないね」
「ええ、けれど助かったわ」
 夫に顔を向けて微笑んでいた、今は。
「和人さんがいてくれて」
「いやいや、君が無事でよかったよ」
「本当にね、子供達も無事だし」
 息子は恵利がずっと抱いていて娘のベビーカーは和人が持ったままだ、二人共子供達は守っていた。
「よかったわ」
「そうだね、じゃあ帰ろうね」
「今からね、じゃあ伸一もね」
 弟のことも忘れていない、そうしたことはしっかりしている恵利だった。
「帰りましょう」
「うん、それじゃあね」
「取り乱しちゃったけれどね」
「いやいや、姉ちゃんにも怖いものあるんだ」
 ここで笑って言った伸一だった。
「それがわかったよ」
「何よ、私だって人間よ」
 恵利は弟の今の言葉にむっとして返した、普段の彼女に戻っていた。
「だからよ」
「怖いものもあるんだ」
「そうよ、お化けとか幽霊は苦手なの」
「そうなんだね」
「けれどこの人がいてくれて助かったわ」
 また夫を見た、微笑んでの言葉だった。
「本当にね」
「それは何よりだよ、じゃあね」
「帰りましょう」
 また夫に言う、こうして一行は再び帰路についた、伸一は今は普段通りに戻っている恵利を見て思った。
 怖いものなしと思われていた姉にも弱点、怖いものはある。そしてその姉を支える夫である和人がいてくれている。和人は喧嘩では無敵の姉を助けて支えられるまでに強くそしてそんな彼だからこそ姉の夫でいられる。そのこともわかって帰路についた。
 そして別れる時にだ、姉に笑顔で言った。
「和人義兄さんとこれからも仲良くね」
「言われずともそうしていくから」
「そうだね、じゃあね」
 姉と彼女の夫、そして二人の子供達に笑顔で別れを告げた。そうして笑顔で帰るのだった。


見上げ入道   完


                  2017・11.26 
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