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見上げ入道

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第二章

「穏やかでね」
「厳しくないんですね」
「全然ね、職場で知り合った時もね」
 二人は職場結婚だ、和人の勤務先は八条ソフトという八条グループのゲームソフト会社であり和人は開発、恵利は事務だったのだ。
「いい娘でね」
「結婚したんですね」
「優しくて公平でね」
「姉ちゃん高校時代からそれで評判なんですよ」
「性格がよくてだね」
「はい、よく先生からも言われました」
 恵利を知っている先生にというのだ。
「いいお姉さんだって」
「そうだよね、やっぱり」
「それでいて強くて」
「今空手五段だしね」
「今は護身術の先生やってるんですよね」
「うん、トレーニングルームでね」
「七節棍も使うとか」
 武器の話もした伸一だった。
「とにかく強いんですよね」
「それは伸一君も知ってるよね」
「姉ちゃん格闘技マニアですから、昔から」
 弟だけによく知っていることだ。
「俺はラグビーしてますけれど喧嘩なんてとても」
「伸一君は大人しいからね」
「そうなんですけれど姉ちゃんはいざ喧嘩となったら」
 普段は喧嘩なぞしないがだ。
「大の男が何人も武器持っても適わないんですよ」
「物凄く強いのは聞いてるよ」
 普段は絶対に暴力は振るわないがだ。
「鬼だってね」
「それで怒ったら手がつけられないんですよ」
「そうらしいね、僕は怒ったところは見たことがないけれど君から聞いてはじめて知ったよ」
「俺は家の長男だからって厳しくて」
 恵利はあえてそうしているのだ、彼には。
「いつもああなんです、ただ面倒見はいいんですよね」
「そうそう、君には厳しいけれどね」
「何かと世話を焼いてくれて間違ったことをしたら何度も言ってくれるし」
 そうしたこともしてくれるというのだ。
「何だかんだで姉ちゃんのこと頼りにしてます」
「いいお姉さんだね」
「怖いものなしの」
「ははは、そこは違うよ」
 和人は伸一の今の言葉には笑って返した。
「誰でも怖いものはあるよ」
「えっ、姉ちゃんにもですか」
「うん、妻にも絶対にね」
「怖いものはですか」
「あるよ」
 そうだというのだ。
「誰にだってね」
「そんなものですか」
「僕も成人病とか癌とか怖いしね」
「リアルですね」
「病気が怖いし」
「俺は禿げることとか今は失業とか」
「君もリアルだね、けれどね」
 人間なら誰でもというのだ。
「実際誰でもね」
「怖いものがあるんですか」
「そうだよ」
「あの姉ちゃんでも」
 空手五段で武器も使えて学生時代は数人の武器を持った男が相手でも勝った様な女傑でもとだ、伸一は不思議に思った。
「熊殺しとか言われていても」
「怖いものはあるから」
「男の不良バットとか持ってても無傷で全員叩きのめしたんですが」
「確かに無茶苦茶強いけれどそれでもだよ」
 笑って話す和人だった。
「お姉さん、僕の奥さんにもね」
「絶対に怖いものがあるんですか」
「人間ならね」
「だといいですが」
 伸一は和人の言うことを殆ど信じないままに頷いた、あの姉に限ってそんな筈がないと思っていた。そうしたことを話しているうちに恵利がトイレから戻って来てだった。そのうえで買いものを再開した。
 恵利は一家の買いものもしてそのうえで百貨店を後にした、その時はもう夕方で一行は梅田の街を歩いていたが。
 ふとだ、一行の目の前にだった。
 一人の小さな坊主頭の男の子が立っていた、伸一はその男の子を見てふと不思議に思ったことがあってその思ったことを口に出した。 
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