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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第65話『青年と老人』

果てなど見えず、永遠と拡がる海が眼前にはある。それだけでも異常事態だが、よく見ると空にも異変があった。


「なんか空が・・・紫色じゃないですか?」

「あぁ。おまけに月も紅い。こりゃ、とんでもない所に来ちまったな…」


終夜は頭を抱えて嘆息する。その気持ちはとても理解できた。

一人も欠けていない魔術部一同が立っているのは何処かの砂浜。紫色の夜空に包まれ、紅一点とばかりに紅い月が輝いている。
普通に考えて、現実で見れる光景ではない。


「となると、ここは異世界…?!」

「『そんな訳ないだろ』って言いたい所だが・・・今回ばかりは、その可能性が否定できねぇ。少なくとも、ここは学校の敷地内ではないからな」


辺りを見回し、場所の手がかりを探す一行。しかし、景色だけをヒントにするのは無理があり、結局場所については何もわからなかった。


「たぶん、あの人魂の仕業なんだろうけど・・・ここには居ないな」

「じゃあ私たち帰れないの!?」

「そう焦るな。確かに手がかりゼロだが、少し歩けば何かあるだろう。行くぞ」


緋翼のようにパニックに陥っても仕方のない状況だが、終夜は冷静に打開策を探していた。いつものふざけた態度から一変して、真剣な表情をしている。

そして一行は、海に沿って砂浜を歩くことにした。





『ウゥ……』

「…ん?」


歩き始めてすぐのことだった。突如くぐもった声が辺りに響く。全員は足を止め、周囲を注意深く見渡した。


「何だ今の声…?」

「人魂…ではないですね」

「じゃあ何よ、お、お化けって言うの!?」

「お前ビビり過ぎな…」


声の主の姿は見当たらない。しかし、気配は何となくだが感じる。得体の知れない緊張感が、その証拠だ。


『『ウゥ…』』

「また…!」

「というか…数が増えてない?!」

『『『ウゥ…』』』


再び聞こえる不気味な声。その声は何重にも重なり、何度も何度も繰り返された。しかも、一声ごとに音量が大きくなっている気がする。つまり・・・


「近くに──居るっ!」


『ウゥ…!』ズズズ


「うわっ!?」


突如として砂が盛り上がり、中から2mを超える人型の物体が現れた。全身は砂から作られていて、まず人間には思えない。


「部長、何ですかアレ?!」

「砂の巨人・・・たぶん"ゴーレム"だ!」

「え、何でわかるんですか?!」

「勘だよ勘!」


終夜が"ゴーレム"と云った巨人達は、そんな会話の間にもみるみる増えていき、いつの間にか一行を取り囲んでしまっていた。


「…何の用だ」

『ウゥ…』

「返答は無し…か。それなら、お前らに構ってやる時間はねぇ! 魔術部、出陣だ!」

「「はいっ!」」


終夜の掛け声と共に、晴登、結月、伸太郎、緋翼は動いた。各々が戦闘態勢をとる。


「おっと、二年生は下がっていろ。俺らが守ってやる」

「「は、はい!」」

「よし。・・・数はざっと20体。蹴散らすぞ!」


戦闘においては無力な二年生を下げ、晴登達は前線へと踏み出た。
そういえば、魔術部での共闘はこれが初めてになる。晴登は内心ワクワクしていた。


「鎌鼬っ!」ビシュ

『ウゥッ…!』ズシャア


いつぞやの技で1体を倒す。しかし、ゴーレムと名付けられるだけあって、かなりの硬度だ。両断には至らない。


「はぁっ!」ブン

『ウゥッ』ガキン

「ちょっと、コイツってホントに砂!?」



「おらぁっ!」ボワァ

『ウゥ…』

「全然効いてねぇ…!」


このゴーレム達は砂から生まれているようだが、表面はもはや岩同然。緋翼の刀は弾かれ、伸太郎の炎は意味を為さない。この二人は相性的に不利なようだ。


「弾けろっ!」バシュン

「貫けっ!」ヒュ

『『ウガァ…!』』ドゴン


一方で、終夜と結月は難なくゴーレムを一掃していく。やはり、戦闘力においては、この二人は他の追随を許さない。黒雷が、氷槍が、戦場を縦横無尽に飛び回る。


「──いや部長、超危ないです!」

「…あぁ、悪い悪い」


あまりの危険度に、姿勢を低くしている二年生。そんな彼らの忠告に対して、終夜は反応が薄かった。たぶん、既に配慮済みなのだろう。何だかんだ、終夜の黒雷は敵に一直線に向かっている。


「よし、俺も頑張らなきゃ──」

「危ないっ、ハルト!!」ドン

「え?……って、うわぁ!?」ズシャア


気を引き締めた途端、結月に押されて砂浜に突っ込む。何事かと思い振り返ると、巨大な拳を地面に振り下ろしているゴーレムの姿があった。無論、そこは今まで晴登が居た場所である。もし、結月が助けてくれなかったら・・・そう思うと、背筋が凍った。


『ウゥ…』


「マジで紙一重……ナイス結月」

「ハルト、怪我はない?」

「おかげさまで」


晴登は即座に立ち上がり、ゴーレムの次の行動に備える。これ以上、結月に迷惑は掛けられない。何というか、男として。


「──って、あれ?」


ゴーレムに備えるついでに、辺りを改めて見回してみると、晴登はおかしな事に気づく。戦闘開始から時間が経っているというのに、ゴーレムの数が一向に減っていない気がするのだ。むしろ、増えてる気さえする。

同じタイミングで、そのことに終夜も気づいた。


「…おいおい、エンドレスとか聞いてねぇぞ?」

「地面の中にはまだまだ居るってことですか…」


最初の数だけだったなら突破は容易であった。しかし、これがエンドレスとなると話は別。体力と魔力が比例している魔術師にとって、消耗戦は苦手分野なのだ。


「逃げる…にしても、もう退路は塞がれてやがる。さすがに一度にこれだけは処理できねぇし、どうするか…」


大勢のゴーレム達に囲まれ、終夜が珍しく焦る様子を見せる。つまり、今の状況はそれだけ悪いということだ。
このゴーレムが実は大人しくて、戦闘には興味ないのであれば良かった。しかし、晴登は既に奴らによって死の片鱗を味わっている。少なくとも、無害な存在ではないのだ。


「全員で一点を集中的に攻めるのはどうっすか?」

「それも悪くないが、今回ばかりは二年生も居る。下手に攻めると、どうなるかわからない」


伸太郎の策も却下となると、いよいよ万事休すと言ったところか。ゴーレム達はジリジリと、円を狭めていく。

・・・もうすぐ奴らの間合いに入る。


「ちょっと黒木、どうにかできないの!?」

「できねぇこともねぇけど、全員巻き込んじまう!」


『『ウゥ…』』グワッ

「「…っ!!」」


ついに、ゴーレム達の拳が空に高々と掲げられた。勿論、それが一度に落ちてくれば無事では済まない。

一か八か、皆を巻き込んででも吹き飛ばそうか──そんな考えが晴登の頭を過ぎった瞬間のことだった。



「──おらよっ!」ドガン

『ウァァ…』ズズズ


「「え…!?」」


今しがた起こった現象を簡潔に説明しよう。

まず、どこからともなく現れた青年。彼は手にしている鋭い太刀で、瞬く間に数体のゴーレムの胴体を斬った──否、斬ったにしては余りに荒い。もはや、ゴーレムを刀で砕いているのだ。"薙ぐ"と言う方が近いだろう。


「こっちだ、お前ら!」

「「は、はい!」」ダッ


ゴーレムを数体倒したことで生まれた退路の外から、彼は手を振ってこちらに呼びかける。千載一遇の好機、一行はその元へ駆け、ついにゴーレムの群れからの脱出に成功した。


「ありがとうございます、助かりました…!」

「礼はいい。とりあえずこっから離れるぞ。まだ走れるな?」

「大丈夫です。えっと、あなたは一体・・・」


「俺はカズマ。安心しろ、お前らの味方だ」ニッ


青年は"カズマ"と名乗り、爽やかな笑みを浮かべた。






「ここまで来りゃ平気だろ」

「ホント…ありがとうございます…」ハァハァ

「いや、疲れ過ぎな」


ゴーレムの群れから逃れ、砂浜を走ること数分。全速力で走ったから、そりゃ息も切れる。
一方、カズマは全く疲れた様子を見せていない。先ほどの戦闘と云い、きっと凄い人物なのだと思われる。
いやそもそもに、キリッとした目、高身長、整った顔立ちという、美青年と言うに相応しい容姿な時点で凄い。ついでに言えば、袴を着ているところが侍っぽくて格好良い。


「さてさて。さっきは忙しかったから簡易にしたが、もう一度自己紹介しよう。俺はカズマ。歳は二十一くらいか。特技は・・・特になーし」

「さっきの剣術は…?」

「あんな力任せ、特技なんて呼べねぇよ。俺に"斬る"なんて、器用な真似はできねぇんだ」


短い茶髪を掻きながら、彼は嘆息した。
確かにさっきの剣術は単純な力技にも見える。それでも、緋翼にできないことをやってのけてはいるのだ。伊達な剣術ではないと思う。


「それにしても、何でお前らはゴーレムの群れに囲まれてたんだ?」

「それが────」


晴登はカズマに今までの経緯を話してみる。謎の人魂によって見知らぬ場所に飛ばされ、いつの間にかゴーレムの群れに襲われたのだと。自分でも突拍子もないことだと思う。

しかし彼はなんと、驚く様子を見せることもなく、むしろウンウンと頷きながら聞いていた。さすがに人を信用しすぎではないかと、逆に心配になる。


「なるほどなるほど。だったら話は早ぇな。ちょっとばかし、ついて来て貰うぞ?」

「えっ?」

「もちろん拒否権はありませーん。ほら、行くぞ」スタスタ


こちらを振り返ることもせずに、彼はズンズンと進んでいく。余りの展開の早さに拍子抜けするが、ついて行かない訳にも行かず、一行はカズマの後を追った。






「…何処ですか、ここ?」

「俺の住んでる村だ。目的地はもっと奥だ」


晴登達が辿り着いたのは、弥生時代にでも在りそうな村だった。家の造りが簡易的で、村の周囲を柵が取り囲んでいる。住人もチラホラと確認できた。

ちなみに、村の規模はあまり大きくないようで、目的地にはすぐに着いた。


「婆や、俺だ。カズマだ」コンコン


カズマは目的地である家の扉を叩く。その家は他の家と大差ない造りで、特別な感じは見受けられない。


「お入り」


扉の向こうから女性の声がした。カズマが「婆や」と呼んだ割には、声は若々しい印象である。


「「失礼します」」


カズマがドアを開けるのに合わせて、晴登達は挨拶をする。その時顔を上げた晴登は、やはり第一印象は裏切らないのだと知った。何せ、目の前で椅子に座っているのはお婆さんなどではなく、まだ二十代程のお姉さんだったのだ。


「よく来たね」

「紹介するぜ。この人が俺を育ててくれた人、呼び名は"婆や"だ」

「いや、若くないですか…?」

「はっはっは、よく言われるよ。一応歳は三桁いってるけどね」

「っ!?」


予想外の返答に驚きを隠せない。今の言葉は信じても良いのだろうか。とりあえず保留にしておくことにする。

さて、"婆や"の見た目は実に若々しい。肌も白く瑞々(みずみず)しいし、髪も綺麗な金髪ロングだ。妖艶で豊満な体つきであり、つい恥ずかしくて目を背けてしまう。


「…さて、もう少し談話を楽しみたいところだけど、早速本題に入らせて貰うよ。まずアンタらがここに、"この世界"に居る理由だ」

「「!!」」


いきなりの核心をついた本題に動揺する。彼女の微笑みが恐ろしく感じた。


「単純な話さ。儂らを──助けておくれ」


婆やは真っ直ぐで鋭い視線をこちらに向け、強い口調で言った。 
 

 
後書き
修学旅行エンジョイしてたら、いつの間にか前回の更新から一ヶ月が経とうとしていました。危ない危ない。

さて、新キャラ登場ですよ。燃えますね。萌えはしません。ホントは、婆やはロリババアにしようかとも思いましたが、それでは余りにもこの物語の年齢層が若くなるので避けました。悪しからず。

「ストーリーは作りながら生み出す」という、訳のわからないモットーの元、必死に書いてるこのストーリー。未だに終わりが見えません←
いつかインスピレーションが降って来るのでしょうか。自分はそれを願います。

それでは、次回もお楽しみに! 
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