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とある3年4組の卑怯者

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54 誇示

 
前書き
 ピアノコンクールが開会した。城ヶ崎は緊張しながらも自身の演奏を終える。そして雲沢も自身の番に向けて気合を入れるのだった!! 

 
 城ヶ崎の番が終わり、城ヶ崎は観客に向かってお辞儀をして退場した。中部の代表までの演奏が全て終了したところで一旦休憩に入った。
 藤木はトイレから出た後、リリィに声をかけられた。
「藤木君、城ヶ崎さんの洋琴(ピアノ)最高だったわね」
「うん、僕もすっかり聴き入っちゃったよ」
「私も洋琴(ピアノ)始めようかな」
「いいね、是非リリィのピアノ聴いてみたいな」
「ありがとう。あと、花輪クンも小提琴(ヴァイオリン)弾けるのね」
「え?よく知ってるね」
「私の(洋琴)ピアノと花輪クンの小提琴(ヴァイオリン)合奏(アンサンブル)皆に聴かせたいわね」
 リリィは花輪との合奏を夢に見ていた。
「うん、いいね、楽しみにしているよ」
(さすが音楽じゃ花輪クンには敵わないな。やっぱりリリィは花輪クンの方がお似合いだろうな。でもリリィのピアノもいつか聴いてみたいな。弾けるようになれたらの話だけど・・・)
 藤木は花輪の凄さに舌を巻きながら二人の合奏は素晴らしいものになるだろうと期待していた。

 楽屋に戻った城ヶ崎は雲沢から声をかけられた。
「城ヶ崎さん、お疲れさん。最高だったわよ」
「雲沢さん・・・。ありがとう、雲沢さんも頑張ってね」
「うん、だんだん・・・」
「『だんだん』って・・・?」
「おちの住んどる出雲(とこ)で『ありがとう』って意味よ」
「へえ・・・」

 こうして後半が始まった。近畿代表から演奏をした。雲沢は自分の順番が近づくと共に緊張してきた。
(なんだか緊張する・・・。もし失敗したらどうしよう・・・?いや、これはおちの唯一の特技なんだから、絶対に成功させるわ!!)
 鳥取県の代表の少女の演奏が終了した。そして雲沢の番が来た。
『続いては、島根県代表、雲沢ゆかりさんです』
 雲沢は緊張気味で観客にお辞儀をして、ピアノの椅子に座った。その頃、楽屋では城ヶ崎が楽屋のモニターで雲沢を応援していた。
(雲沢さん、頑張ってっ・・・!!)

 雲沢が伴奏を始める。その時、観客席では藤木達は雲沢の美しさに見惚れていた。
「たまちゃ、あの子、可愛いねえ~。ピアノも可愛さでも優勝しそうだよ」
「まるちゃん、ピアノ弾くのに顔は関係ないよ・・・」
 まる子とたまえはそんな会話をしていた。
(あの子、凄い可愛いな、あの子と知り合いになれたら・・・、って俺はまたそんな事を!!)
 藤木は自分で何考えてんだと自分の頭を殴った。隣に座っている笹山が藤木を心配そうに見て声をかけた。
「藤木君、どうしたの?」
「さ、笹山さん、いや、なんでもないさ・・・!」
 藤木は慌てて誤魔化した。
(もしあの子に見惚れちゃったなんて笹山さんに知られたらどうしよう・・・。もし永沢君がここにいたら絶対バレてたよな・・・)

 その時、楽屋のモニターで演奏を観ていた城ヶ崎は雲沢の伴奏に驚愕していた。
(凄いっ・・・!あの指裁きっ・・・!!もしかしてっ・・・!!)
 城ヶ崎は雲沢が金賞を獲るのではないかと予感していた。
 
 雲沢の演奏が終わった。多くの人から拍手を受け、雲沢は舞台から退場した。楽屋に戻ると、城ヶ崎が出迎えた。
「雲沢さん、お疲れ様っ!!雲沢さん私より凄い上手く弾いてたわよっ!!」
「え・・・?ああ、だんだん。おちも緊張したけどきばんたわ。賞が獲れなくても今すごい自分を誇りに思うんだ!」
「私も、自分が自信もって弾けたことで満足しているわ」
 
 やがて全ての演奏が終了した。ステージマネジャーが参加者全員に呼び掛ける。
「これより結果発表を行いますので、舞台袖に集まってください」
「それじゃあ、雲沢さん、行こうか」
「うん」
 こうしてコンクールの参加者は舞台袖へ向かった。

 参加した少女全員がステージに立った。ステージにあったピアノはしまわれていた。司会が真ん中に立って進行を行った。
「観客の皆さん、お越しいただきましてありがとうございました。そして、参加者の皆さん、お疲れ様でした。これでは、結果発表を行います。まずは銅賞から、銅賞は・・・」
 観客が静まった。
「石川県代表の、島村(しまむら)みつ子さんです!」
 呼ばれた島村みつ子という少女が観客と他の参加者から拍手を受けた。
「続きまして、銀賞は・・・、島根県代表の雲沢ゆかりさんです!!」
 雲沢は驚いた。
(え・・・、おちが銀賞?)
 雲沢はまさか自分が銀賞を獲れるとまでは予想していなかった。雲沢は前に出てお辞儀をする。そして銀賞のメダルを贈呈係の男性から受け取った。
(あのかわいい子が銀賞か・・・)
 藤木は雲沢の事を覚えていた。
「では、金賞の発表です。栄えある金賞は・・・」
 客席では、城ヶ崎の応援をしている藤木達が、城ヶ崎の名が呼ばれることを祈っていた。
「・・・」
 司会が名を呼ぶまで意図的にもったいぶらせていた。
「・・・、埼玉県代表の浦野美智子(うらのみちこ)さんです!!」
 呼ばれた浦野美智子という女子が顔に手を当てて喜んでいた。
「城ヶ崎さんじゃなかったか・・・、残念だったわね」
 笹山が肩を落とした。
「うん・・・」
 藤木が返事をした。
 
 こうしてコンクールは閉会した。
「雲沢さん、銀賞おめでとうっ!!」
 城ヶ崎は雲沢を祝福した。
「だんだん・・・」
「これで好きな子もきっと感心するわよっ!」
「うん、そげね」
 雲沢は顔を赤らめた。
「私は入賞はできなかったけど、自分の実力を出せたから悔いはないわ。それからここで雲沢さんと会えたこと誇りに思っているの」
「え・・・、そげなの?うん、おちはここで金はムリども銀を獲れたけんそれを誇りに思うわ」
「うん、学校でも自慢できるわよ」
「城ヶ崎さん、おちもおみゃはんに会えて嬉しかったわ。そうだ。住所交換せん?手紙だすわ」
「ありがとうっ、私の住所も教えるわっ!」
 城ヶ崎も雲沢に自分の住所を教えた。こうして二人は着替えて共に楽屋から出た。
「それじゃあ、手紙送るわ。あ、ウチのパパと皆が待っているわっ!さようならっ!」
「うん、また会えるといいね!」
 城ヶ崎は雲沢と別れ、応援に来たクラスメイトと自分の父の元へ向かった。
「皆来てくれてありがとう」
「城ヶ崎さん、残念だったわね」
 笹山が城ヶ崎を慰めた。
「いいのよ。私は自信もって弾けただけでも楽しむ事ができたし、それに皆が応援に来てくれてホント嬉しかったわ。それから銀賞を獲った人とも仲良くなれたしね」
「銀賞を獲った人ってあのすごく可愛い人?」
 リリィが聞いた。
「ええ、そうよ」
「うおお~、城ヶ崎さん凄いねえ。アタシらさっきまでその人の話してたんだよ~」
 まる子が雲沢の顔を思い出しながら言った。
「へえ、確かに可愛いわね。今度その人に手紙出そうと思ってね」
「ええ、そこまで仲良く!?」
 皆が驚いた。
「ええ、そうよ」
「素晴らしいじゃないか、それじゃあeverybody、そろそろ帰ろうじゃないか。明日は学校だしね」
「うん!」
 こうして皆はホールを後にしてヒデじいが運転するマイクロバスに乗った。
「じゃあ、姫子、帰るか」
「ええ」
 城ヶ崎も父の車に乗って清水へと出発した。
 
 花輪の家に到着し、皆はバスを降りた。皆がそれぞれの家へと帰る。藤木は笹山に話しかけられた。
「藤木君」
「な、何だい?」
「藤木君と一緒に行けて楽しかったわ。ありがとう」
「笹山さん・・・。うん、こっちこそありがとう」
 藤木は笹山に礼をされ嬉しく感じた。以前笹山と遊園地で偶然出会い、共に楽しんだ時と同じような気分だった。藤木は大阪へ行けてよかったと思うのだった。 
 

 
後書き
次回:「社会科実習」
 社会科実習として町内の店を取材することを宿題に出されたみどりのクラス。みどりは堀がいない班で貢献できるのか不安に駆られ・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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