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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第133話「一時撤退と京都戦線」

 
前書き
何気に空振りに終わって無駄になった神降しです。(浄化に一役買ったけど)
まだ代償を払うタイミングではないのでまた神降しする事になりますけど。
 

 




       =優輝side=



「…戻ってきたか」

「…ああ」

 アースラへと一時帰還する。もちろん、神降しはもう解いてある。
 ついでに言えば神降し後の椿の気絶も気つけで治してある。

「それで、そこにあるのが…」

「幽世の大門近くにあった二人の死体。…それと、ロストロギアだ」

 ティーダさんと男の死体にはちゃんと創造しておいた布を被せてある。
 ……さすがに、死体を見せびらかす訳にもいかないからな。

「神力だからこそあっさり封印できたが、中々危険なものだと思う」

「ユーノがもうすぐやってくる。転移で行方不明になったとされているティーダ・ランスターが追っていたロストロギアもついでに調べさせていたから、何か知っているだろう」

「そうか。…それで…」

 クロノは布に覆われた二人の死体を見る。
 …皆、それが死体だと分かっているからかあまり近づこうとしない。

「…手配は既に指示してある」

「…助かる。…デバイスに記録があるかもしれない。回収していいか?」

「ああ」

 クロノから許可を貰い、待機状態に戻っていたティーダさんのデバイスを回収する。

「…どんな状態だったんだ…?」

「男の方は首を切断されて即死。…ティーダさんは右腕を切断された上に心臓を一刺しからの左肩からばっさりとやられている」

「それは…」

「…悪い、あまり気分のいい話じゃないな」

 そこで手配していた人達が死体を運んでいく。
 とりあえず一時的に然るべき場所に置いておくのだろう。

「…血塗れ…だね」

「最期まで抵抗していたのだろう。…くそ……」

 個人的な知り合いだったからこそ、やるせない。
 知っている人が死んでしまうと言うのはやっぱり辛いものだ。

「…さすがに皆気分が悪そうだな…。クロノ、記録の閲覧は別室にするべきだな」

「元よりそのつもりだ。…見たい者は来てもいいが、自己責任で頼む。…確実に、映っているものは気分のいいものではないからな」

 皆顔色が悪い。このままではいけないな…。

「エイミィ、行けるか?」

「…程度によるかなぁ…。ちょっと辛いけど、クロノ君の補佐としては見ない訳にはいかないよ」

「…わかった」

 平静を装っているクロノも若干辛そうだ。
 クロノの場合、僕から状態を聞いてそれを想像してしまったからだろうな。

「皆…大丈夫か?」

「…むしろ、なんで優輝達は平気なの?」

「僕らの場合はな…」

 アリシアに聞き返されて、ちょっと口ごもる。
 ……織崎がまた睨んできている。また何か思い違いをしているな…。

「私達、いつの時代から生きていると思っているの?歴史で今までに何が起こったかは知っているでしょう?」

「江戸から現在まで…そっか、第二次世界大戦を経験してるんだったね…」

「そう言う事。…と言っても、人が死ぬ事が辛いのには変わりないけどね…」

 戦争の悲惨さは実際に経験したものにしかわからないだろう。
 だけど、それを経験している事から、平気な事には納得したようだ。

「……僕だって、目の前で人が死ぬのを見た事がない訳じゃない」

「あ……」

 僕の場合は、導王の時を差し引いても司の事がある。
 それ以外にも、生き抜くために常に平静を保たないといけなかったからな。

「…きつい言い方になるが、いちいち気を滅入らせてたら話にならないぞ。…このままだと、日本中があのようになる。…気を引き締めてくれ」

「っ……!」

「お前……!」

 息を呑むなのは達と、突っかかってくる織崎。
 また酷な事を言ってるだとか言ってくるんだろうけど…。

「生憎、このまま放置していれば確実にそうなるわ。誰しも、霊力は保有している。妖はその霊力を基に襲ってくるのだから」

「クロノ、方針を少し変えてくれ。大門の守護者が行方不明な今、被害を抑えに向けた方がいい」

「…そうだな。艦長と相談して采配を決めるが…既に京都がまずい」

 クロノがそういって、サーチャーを確認してみれば…。

「まずい…神降しと葵に反応してか、妖が…というか、こいつらは…!?」

「嘘ぉ…一気に解き放たれたって言うの…?」

「これは…」

 京都にあるサーチャーの映像には、妖に逃げ惑う人達が映っていた。
 しかし、それよりも目に入る映像がいくつかあった。それは…

「…一際強い妖だ。椿、葵、見覚えはあるか?」

「見覚え…あるに決まってるわ」

「あたし達も実際に戦った事がある…けど、当時だと苦戦どころじゃなかったよ…」

 椿と葵も厄介だと思ったからか、冷や汗を流していた。
 …どちらかと言えば、その妖達が一斉に解き放たれた事に対してだが。

「…酒呑童子、玉藻前、橋姫…いくら京都にも伝承があるからって、集まりすぎだよ…!」

「っ……!」

 その妖の名前は、僕だって知っている。有名どころばかりだからな。
 それが京都に集結…。これは相当やばい。

「急いで救援に向かってほしい!」

「分かった!」

 僕らの影響で出してしまったのだから、責任もって僕らが片づけよう。
 そう思って転送ポートへ急ぐ。

「デバイスの映像の確認と指示は任せた!」

「ああ。…っと、まず向かうのは優輝と椿と葵…それと司と奏だけだ!他は随時すぐに向かえるように待機していてくれ!」

 一斉に向かって不足の事態になればすぐに動けない。
 そのためにクロノは僕らだけを先行させ、随時援軍を投入するようだ。

「(記録の確認やロストロギアの事とかいろいろ確認しないといけないってのに…!)」

 そう考えてしまうが、焦る訳にはいかない。
 …まずは、京都の安全を確保するべきだ。
 大門があるとは言え、それ以外の門を封じればだいぶ安全になるだろう。
 少なくとも、避難する猶予はできるはず。

「よし、行くぞ!」

「まずは一番被害を出している玉藻前から!行くよ!」

 向かう先はまず玉藻前。橋姫は何とか抵抗できていて、酒呑童子は今の所動きがそこまで強くない事から、こちらを優先するようだ。

「転移!」

 転送ポートを使い、僕らは再び京都へと舞い戻った。







「っ!早速か!」

「甘いよ!」

 転送した直後に、妖が襲い掛かってくる。
 しかし、襲ってきたのは雑魚だったようで、あっさり葵に切り裂かれた。

「被害確認!」

「だいぶ建物も倒壊しているわ。この分だと、既に怪我人どころか死人も結構いるかもしれないわ…」

「悠長にする時間はなしって事か…。急ぐぞ!」

「ええ!」

 転移した場所は現場から少し離れている。
 すぐに駆けだし、僕らは現場へと急ぐ。



   ―――きゃぁあああ!!

 叫び声が聞こえ、そこを見れば巨大な狐がそこにいた。

「あそこか…!椿!司!」

「分かってるわ!」

「任せて!」

 玉藻前を見つけ、襲われている人たちを助けるために僕と椿と司で弓を構える。

   ―――“Blitzen Pfeil(ブリッツェン・プファイル)
   ―――“弓技・閃矢”
   ―――“Flèche(フレッシュ)

 三筋の矢が玉藻前へと迫る。
 こちらへ気づいた玉藻前は九つの尾の内三つを霊力で硬化させ、攻撃を叩き落した。

「っ、割と手強いようだな…。あまり時間もかけられないし…司、奏!」

 今の攻撃には、それなりの魔力と霊力が込められていた。
 しかし、それをあっさりと防いだとなると…すぐには倒せない。
 それでは、他の妖がいる場所での被害がどんどん広がってしまう。

「ここらの住民を避難させてから他の二体のどちらかに向かってくれ!その際にクロノに連絡を入れて、なのは達にもう一体を担当させるように!」

「優輝君達は三人で大丈夫?」

「時間はかかるだろうけど、倒せない訳ではないさ」

 何せこちらは初見ではない椿と葵がいる。
 玉藻前は確かに有名な大妖怪で、一筋縄ではいかないだろうけど、それでもそう簡単に負けるような事にはならないだろう。

「椿と葵もいいな?」

「…ええ。その代わり、苦戦するわよ」

「多彩な術を扱う大妖怪…本物ではなく伝承が形を為したとは言え、その力は侮れないよ…!」

「まずは住民の安全からだ…苦戦ぐらい、百も承知だ!」

 そういうや否や、僕は駆けだす。
 目指す先は、玉藻前の術に焼かれそうになっている退魔士らしき人。
 全速力で割り込み、その勢いを以ってリヒトを振り抜き、炎を切り裂く。

「下がってください!」

「なっ…!?」

 退魔士の人(ちなみに男性だった)は割り込んだ僕に驚愕する。
 まぁ、当然か。明らかに年下の子供に庇われるとは思わないだろう。

「いつも通りの配置で行くぞ!」

「ええ!」

「任せて!」

 椿が間合いを開けて陣取り、葵が前に出る。
 単純な前衛と後衛の配置だ。僕はどちらもこなせるから遊撃だな。
 他にも術式の構築や支援などを担い、二人の代役をする時もある。
 基本的には葵と一緒に前衛をこなしつつ、距離が離れたら遠距離攻撃だな。
 …二人のコンビネーションが完成されてて僕でも組み込めないんだよな。

「住民の避難は任せました!」

 先程庇った退魔士の人にそう言うと同時に、その人を抱えて飛び退く。
 寸前までいた場所は炎に包まれていた。玉藻前の術だ。

「(まずは様子見…!)」

 剣を創造し、葵と別角度から接近しつつ剣を射出する。
 しかし、剣は尻尾によってあっさり弾かれ、さらには反撃の術式が構築される。

「九尾の大妖狐とだけあって、術の行使はお手の物か…!」

「仮にも玉藻前だからね!でも…!」

「「対処できない訳じゃない!」」

 放たれる炎の弾や、地面から突き出る氷の刃。
 吹き荒れる風の刃を躱しつつ、間合いを詰める。

   ―――“弓技・螺旋”

「はぁっ!」

「シッ!」

 椿の矢に追従するように、三方向から攻撃する。
 巨体故に、早々躱せない速度で繰り出した攻撃は…。

     ギィイイン!

「ちっ…!」

「来るよ!」

 硬化した尻尾によって防がれる。…あの尻尾は厄介だな…。
 さらに、攻撃後の隙を狙うように術が放たれる。

「はっ!」

   ―――“霊撃”

「足元ご注意ってね!」

   ―――“呪黒剣”

 その術を相殺するように僕は御札を複数枚投げ、葵が玉藻前を包囲するように黒い剣を生やす。

「これはどう防ぐかしら?」

   ―――“弓技・矢の雨”

 包囲し、逃げ場を上以外失くした状態で上空から矢の雨を降らす。
 だが、やはり尻尾に防がれる。

「ならこれはどうだ?」

 だからこそ、僕は追撃として上に位置取り、一つの銃を取り出す。

「穿て、魔砲銃」

 試作の内蔵魔力で砲撃魔法を放つ銃を撃つ。
 耐久性を確かめるために敢えて威力を高めている奴だからおそらく…。

「ギャァアアアアアア!!」

「…さすがに効いただろう」

 砲撃は防御に使っていた尻尾を穿つようにダメージを負わせた。
 ついでに耐久性も確かめられた。反動も大きいから要調整だな。

「ついでよ、受け取りなさい」

   ―――“弓技・重ね矢”

 重ねるようにして放たれた矢が、玉藻前の胴体に突き刺さる。
 さらに痛みに悶える玉藻前だが、やはり大妖怪の妖。それでは終わらない。

「グゥウウウウ……!!」

   ―――“妖呪”
   ―――“魂砕き”

 唸り声と共に発せられる妖気。
 同じ霊力のはずなのに、その霊力は禍々しかった。
 瘴気を伴った二つの霊力に、僕は悪寒を感じ…。

「くっ…!」

   ―――“扇技・護法障壁”

 咄嗟に霊力の障壁を張る事で防いだ。
 その判断は合っていたようで、未だに残る退魔士も無事に済んだ。
 ……って。

「早く退け!これは普通の退魔士が手に負える相手じゃない!」

「い、嫌よ!部外者である貴方達こそ邪魔しないでちょうだい!」

 リーダー格であろう少女に撤退を促したが拒否される。
 というか、状況と力量さを分かっているのか…!?

「っ―――!!」

   ―――“滅爪(めつそう)

     ギィイイン!!

 振るわれた爪を導王流を用いて逸らす。
 …やっぱり、この妖、相当強い…!

「椿、葵!少しの間頼んだ!」

「分かったわ!」

 玉藻前の相手をしばらく二人に任せ、未だ撤退しない退魔士たちに向き直る。

「実力差は分かっているだろう!勝てない戦いに挑むぐらいなら、住民の避難を急げ!」

「退魔士でもない貴方に指図される筋合いはないわ!これぐらいの相手、私が倒して見せる…!」

 僕の言葉に聞く耳を持たず、少女と周りの退魔士は霊術を行使する。
 その霊術は椿たちや僕らが使うものに似ていて少し違っていた。
 少女の霊術は一際協力だったが…それでも、椿や葵には及ばない。
 どこか術式に足りてない所があって、明らかに劣化版だった。

「ちぃっ…!」

     ギィイイン!!

 もちろん、そんな霊術では効くはずもない。
 火の粉を払うように尻尾にかき消され、反撃が繰り出された。
 幸い、僕が傍にいたから逸らせたものの、いなければ…。

「意地にならずに退け!ここは専門家に任せるんだ!」

「専門家って…退魔士以上の専門家がいる訳…!」

「退魔士の専門は霊関係だろう?妖は陰陽師や式姫の専門だ」

 那美さんから退魔士について少し聞いた事がある。
 確かに、怪異に対する専門家ではあるけど、やはり陰陽師の方が適している。

「式姫…?どこかで聞いたような…」

「とにかくここは退いて住民の避難に専念してくれ…。こいつは、並の強さでは歯が立たない…!」

 今も椿と葵が玉藻前を相手にしているが、全く致命打を与えられない。
 術に長けているのもあるが、やはりそれだけ強力な妖なのだろう。

「っ…!だからと言って、退くわけにはいかないわ!土御門の名に懸けて!」

「………!」

 しかし、それでも意固地になって退こうとしない。
 …ん?今、“土御門”に椿たちが反応したような…。

「あの妖は、この土御門澄紀(つちみかどすみき)が必ず討伐して見せる…!」

「っ…!馬鹿…!」

 そういって彼女は大規模な術を行使しようとする。
 その霊力から繰り出されるであろう術は、確かに強力なものだろう。
 …だけど、無駄が多すぎる…!

「はぁあああああ……!!」

「(注意は葵が引き付けているから大丈夫だが、これだと…!)」

 霊術を放った所で、玉藻前には今一つの効果だろう。
 せっかく葵が引き付けてくれているのも、それで無駄になる。
 だからと言って、既に発動しかけている術式を止める事もできない。

     バチィイッ!!

「……え…?」

「ふっ…!」

     ギィイイン!!

 放たれた術は、あっさりと玉藻前の術に相殺された。
 それだけでなく、相殺の際の煙幕を利用して不意打ちのように尻尾が迫る。
 咄嗟に僕が前に出て逸らすが、尻尾は彼女の横ギリギリに当たった。
 椿と葵が引き付けてくれても、攻撃を抑える事は出来なかったか…。

「ひっ……!?」

「……」

 最大出力且つ、自信があったのだろう。
 術が破られた事で力量差を理解し、完全に戦意喪失してしまった。
 死ぬ所だった事に怯え、その場にへたり込んでしまった。

「っ……!?」

 その時、彼女に向けられた視線を察知する。
 それは殺気や敵意などではなく…どちらかと言えば、失望に近い怒りだった。

「……椿、葵…?」

「………」

 僕が何事かと思って視線を向けても、二人は無言のまま。
 だけど、目が語っていた。“しばらく交代してほしい”と。

「……了解」

「ぁ……」

 何を思って僕に目でそういっているのかは分からないが、僕は了承する。
 何か許せない事があるのだろうと、そう確信して。
 そして、澄紀と名乗った少女がふと気づいたように声を漏らす。
 見れば、玉藻前の術と尻尾の攻撃が迫っていた。

「甘い」

   ―――導王流壱ノ型奥義“刹那”

     ドンッ!

 術は横から霊術をぶつけて逸らし、尻尾の攻撃は拳で逸らす。
 さらに、同時に玉藻前に踏み込み、霊力を込めた掌底を放ち、吹き飛ばす。

「…しばらく任せたわ」

「ああ。…倒してしまっても?」

「構わないよ」

 吹き飛ばした玉藻前を追いかける際に、椿と葵とすれ違う。
 短く言葉を交わしただけだが、それだけで若干の怒りが垣間見れた。
 …とりあえず、今僕が為す事は玉藻前の打倒だ…!

「ふっ…!」

     ギギギギギィイン!

 振るわれる爪、尻尾をリヒトで上手く捌く。
 同時に繰り出される術は創造した剣で打ち消す。
 狙いを僕に絞らせ、流れ弾も極力減らしていく。

「はぁっ!」

「キェァアアアア!!」

 攻撃を受け流すと同時に導王流を以って反撃を繰り出していく。
 しかし、その瞬間に玉藻前は呪詛混じりの奇声を上げた。

「何も対策をしていないとでも?」

   ―――“秘術・神禊(かみみそぎ)

     キィイイイイン…!!

 椿と葵に戦闘を任せていた際に、僕は術式を既に組み立てていた。
 御札をばら撒く事で、その範囲内なら呪いの類は一切受け付けなくなる。
 …“予感”を感じてから、アリシア達を鍛えるのと同時進行で浄化系の術の特訓をしておいて本当に良かった。

「(まだ周囲に被害が出るな…。もっと人気のない所へ…!)」

   ―――“撫で払い”

「吹き飛べ」

   ―――導王流壱ノ型“飛衝波(ひしょうは)

 尻尾の薙ぎ払いを掠って回転するように上に避け、宙を蹴って肉迫する。
 その状態から両手で掌底を打ち込み、衝撃波で吹き飛ばす。
 ダメージは少ないが、これで玉藻前が大きく吹き飛んで移動させれた。

「(よし、後は…)」

 これで流れ弾や街への被害の危険性はだいぶ低くなった。
 椿と葵を少し見て、まだ時間がかかりそうだと思い、僕は追撃に出た。











       =椿side=





 その名を聞いた時、一瞬だけ信じられなかった。
 それは、明らかに私達が知っている陰陽師と同じ名前だったから。
 さらに言えば、容姿もとても似ていた。
 …けど、彼女の子孫が今も生きているのは嬉しいものだった。

「土御門澄紀と言ったわね…?」

「ぇ………」

 言葉に宿る力…言霊によって、その名前の漢字もなんとなくわかる。
 だから、実際に知る彼女の名前と厳密には違う事は分かる。
 ……だけど。

     パンッ!

 ―――頬を叩く。もちろん、人並みに手加減して。

「っ……!?」

「立ちなさい」

 …だからこそ、我慢がならなかった。
 寄りにもよって、あの子の親友の、その子孫が……。
 彼女と同じ名を持つ存在が、ここまで腑抜けているのが……!

「貴女が土御門家の陰陽師だと、退魔士だと言うのなら、この程度で挫けてないで立ちなさい!!」

「ひっ…!?」

 日本人には珍しい金髪に、鮮やかな碧眼。
 外つ国の人らしい髪色と瞳だけど、その姿はかつての彼女ととても似ていた。
 瓜二つとまではいかなくとも、見間違える程だった。

「で、でも、私の最大の術が…」

「敵わないと分かったのなら、別の行動を取りなさい。あの妖の相手は私達がする。貴女は、貴女達は住民の避難及び、他の力の弱い妖の掃討など、出来る事をやりなさい」

「あたし達が知っている君の…君と同じ名を持つ先祖は、この程度で挫けなかったよ。力が足りなければ身に着け、常に前に立とうとしていた。…同じ名を持つのなら、それらを為す覚悟をして」

 正直、なんと情けないのかと、嘆きたくなる程だった。
 これでは、とこよに見られた時なんと言われるのか…。

「葵」

「分かってるよ」

     ザンッ!!

「っ…!?」

 玉藻前の流れ弾の術がこちらに飛んできていた。
 …まぁ、葵があっさりと斬って防いだけど。

「式姫………っ!思い出した…!家の文献にあった、江戸時代にいた式神…!」

「その式姫よ。……っ!」

     ギィイン!

 横から襲ってきた妖の攻撃を、咄嗟に短刀で防ぐ。

「ふっ!」

 即座に蹴りで突き放し、矢を放って倒す。

「…まずいね…霊力に惹かれて一杯来たみたい…」

「まずは包囲をどうにかするのが先ね…」

 いつの間にか妖達に囲まれていた。
 私達だけならどうとでもなるけど、他の退魔士の連中はまずい。
 既に交戦している者もいるが、数の差でいつやられてもおかしくない。

「こういう時どんな判断をするべきかぐらい、見せてみなさい」

「……!…はっ!」

 私がそういうと、彼女は何かに気づいたように目を見開き、すぐに行動した。
 まず御札を周囲に投げて妖を牽制。簡易的な結界を張って時間を稼いだ。

「全員、まず包囲を突破しなさい!囲まれているよりもそちらの方が対処が容易よ!包囲を抜ければ、複数人で固まって確実に倒しなさい!」

「「「はいっ!」」」

 指示を飛ばし、同時に術を放つ。
 やっぱり、才能はある方なのね。経験と今の土御門の技量が劣っているだけね。

「敵を倒した後は、住民の避難と救出を優先して、あの大妖狐は……」

 実力も足りず、どうすればいいのか分からない。
 それでも玉藻前を放置できないと、どうにか対処しようと彼女は考えた。
 …今はこの程度で十分ね。

「私達が担当するわ。…任せなさい」

「……。…とにかく、今は包囲を突破する事を優先しなさい!」

 元より私達は玉藻前を倒すためにここに来た。だから任せてもらう。
 彼女は私の言葉に頷き、今は目の前の事に取り掛かるよう指示を出した。

「私達が突破口を作るから、そこから包囲を出なさい」

「でも、その後は自分たちで何とかしてね」

「……はい」

 葵に目で合図を送り、葵は駆けだす。
 私はその場で跳び、周りの退魔士たちに当たらないように矢を放つ。
 包囲している妖全員となると骨が折れるけど、今は一か所に集中させる。
 矢が突き刺さり、負傷した妖にすかさず葵が切り込み、倒す。

「今よ!」

「私に続いて!」

 私の声に彼女が率先して包囲を突破する。
 さらには術で妖も倒して包囲の穴を広げていた。
 後は私と葵で殿を務めて全員が包囲を脱出した。

「じゃあ、私達は行ってくるわ」

「これを渡しておくよ。それにはかつて江戸の陰陽師が使っていた基本の術の式が入ってる。君程であれば、簡単に術式を読み取れるだろうから、これで今の霊術を改良してね」

 葵が適当な御札を数枚渡す。
 今の陰陽師…退魔士の扱う霊術は弱いわ。
 だから、これで少しは強化されればいいのだけど。

「え、でもそうなるとこの群れを…」

「へーきへーき」

「私達式姫を、嘗めない方がいいわよ?」

   ―――“弓技・螺旋”
   ―――“呪黒剣”

 妖の群れに矢で穴を開け、葵が霊力の剣で多くの妖を串刺しにする。
 開けた群れの穴から私達は優輝と玉藻前がいる場所へと駆けていく。
 もちろん、置き土産に私は矢、葵はレイピアを飛ばしておく。

「………凄い…」

 それらの一連の流れを見ていた彼女は、感心したようにそう呟いていた。













 
 

 
後書き
酒呑童子…様々な伝承がある鬼の頭領。その力は他の妖と一線を画す。かくりよの門では大江山に出現する。

玉藻前…狐の大妖怪と言えばこれ。実は本物ではなく、伝承が形を取ったもの。九尾であることから九つの側面を持ち、様々な攻撃を仕掛けてくる。かくりよの門では京都ではなく、殺生石になった地である下野那須野原に出現。

橋姫…嫉妬深い妖として有名。二面性を持つとされているが、嫉妬の面しか見せない。

Blitzen Pfeil(ブリッツェン・プファイル)…閃光の矢。射撃魔法と砲撃魔法の中間のような、貫通力の高い単発魔法。

弓技・矢の雨…名の通り霊力の矢の雨を降らす技。霊力で作った一矢を上空に放ち、それを炸裂させて矢の雨を降らす。29話にはこれの火属性付与版の火の矢雨が出ている。

弓技・重ね矢…器用さによる防御無視ダメージの大きい突属性二回攻撃。戦闘中の使用回数で威力が上がる(五段階まで)。小説では、一か所に継ぎ矢をする感じで集中狙いをする技。

妖呪、魂砕き…どちらも範囲が後列全体で、妖呪は中~高確率で沈黙(術封印)、魂砕きはスタンを喰らう。ちなみに、玉藻前には九つの形態(モード)があり、妖呪が1で魂砕きが2のものだったりする。なお、小説ではそんなモードはないため一遍に使う模様。

滅爪…前列攻撃。高確率で沈黙付与。霊力を纏った爪で切り裂いてくる。

土御門澄紀…土御門家本家のお嬢様。先祖返りとも言える程の才能と霊力を備えているが、如何せん現代に伝わる霊術がだいぶ劣化している。名前の読みがかくりよの門に出てくるキャラと同じだが、転生した訳ではない。(似ているだけの別人)

秘術・神禊…味方一人を状態異常から守る術。小説では御札をばら撒き、その範囲内ならば呪いや瘴気などを一切受け付けない結界を張る。

撫で払い…人数による分散ダメージの溜め攻撃。名前からして尻尾による薙ぎ払いだと推測。硬化した尻尾の攻撃なので、体格もあって中々重い攻撃。

飛衝波…導王流壱ノ型の技。敵の攻撃を受け流した上で至近距離から衝撃波を放ち、間合いを取る。威力は低いが、敵を移動させるのに適した技。

弓技・螺旋…筋力による防御無視ダメージの大きい突属性技。文字通り螺旋を描くように霊力を纏っている。障壁もガリガリ削り、貫通力も高い。


もっと危機感や焦燥感、絶望感を出したい…。どこかパッとしない描写になっている気がするんですよね…。(飽くまで主観です)
あ、リリなの時空(かくりよ時空とも言う)の世界観では、日本人の髪も若干カラフルになってます(今更)。すずかとか紫混じりだし、かくりよの門の主人公や他キャラも日本人のはずなのに黒髪じゃありませんし。ただし、黒髪・茶髪に比べれば少ない感じです。
京都だけで二話以上喰いそう…。まだまだ出したい妖とかもいるんですけどね。 
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