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雪なぞ降るのも

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第一章

               雪なぞ降るのも
 太子橋純子は雪それも大雪が好きではない、それで冬になるとよくぼやく様にしてこう周りに言っていた。
「寒いけれど雪なんてね」
「降って欲しくないっていうのね」
「そう言うのね」
「ええ、だって雪が積もったら」
 それこそとだ、純子は冬の喫茶店の中で同級生に話した。温かいコーヒーが実に美味い季節である。
「交通も駄目になるしね、寒いし」
「大阪だからないわよ」
「それこそ滅多にね」
「雪が積もるなんて」
「幾ら何でも」
「それでも積もるって思うと」
 冬だからというのだ。
「心配になるのよ」
「だからここ大阪だから」
「大阪で雪が積もるのってね」
「滅多にないわよ」
「神戸の六甲とかじゃあるまいし」
「舞鶴とかね」
 この街はよく雪が降ることで知られている。
「そうしたところじゃないから」
「心配する必要ないわよ」
「大阪での雪はね」
「そうそうないから」
「まあ実際滅多にね」
 心配している純子自身はというのだ、どうしてもだ。
 冬になると雪が心配でだ、どうにもだった。
 天気が悪くなると空を見上げて思うのだった、雪が降ったらとだ。それで部活の時も茶道部の部室でもある学校の中の茶室の中で言った。
「降らないわよね」
「降らないですよ、雪とか」
「降るなら雨ですよ」
「大阪で雪とか」
「只でさえ暑いのに人も多いのに」
「熱気が篭ってる街なのに」
 後輩達も言う、それで大阪の夏はかなりの暑さなのだが純子にとってこのことはどうでもいいことなのだ。
「雪なんて滅多に降らないですよ」
「降っても積もるとかないですから」
「それで積もるかどうか不安になるとか」
「杞憂ですよ、杞憂」
「本当に」
「だといいけれどね、動けなくなるし寒くなるから」
 だからと言う純子だった、窓が閉められていて暖かい茶室の中で。
「本当に雪だけは降らないで欲しいわ」
「けれど清少納言さん言ってますよ」
 後輩の一人が言ってきた、茶をたてながら。
「雪なぞ降るのもって」
「枕草子ね」
「はい、言ってますよね」
「私清少納言じゃないから」
 口を尖らせて反論する純子だった。
「雪はね」
「好きじゃないんですか」
「何処がいいのか」
 それこそという言葉だった。
「わからないわ」
「そんなに駄目なんですね」
「アイスクリームは嫌いじゃないけれど」
 白くて冷たくてもというのだ、雪と同じく。
「それでもね」
「積もったらって思うとですか」
「嫌なのよ、大阪は確かに暖かいからね」
 このことは純子もわかっている。
「滅多に降らないし積もるなんてもっとないけれど」
「それじゃあ」
「それでもね」
「気にはなってますか」
「どうしてもね、降らないといいわね」
 その暗い空を見て言うのだった、この日は降らなかったがこの時から二週間後だ。朝起きるとだった。
 窓の外は真っ白でどんどん降っていた、それを見てだった。
 純子は不機嫌そのものの顔で一階のリビングに降りてだ、家族に言った。そこには曾祖母と祖母、両親と姉妹達がいたが。 
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