さらばラバウルよ
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第三章
「街も工場もどんどん焼かれてな」
「人も死んでな」
「日本のあちこちが焼けていくな」
「海は機雷撒かれてだよ」
「この基地にも暇があったらグラマンが来て攻撃してくる」
空母から来る艦載機がだ。
「機銃掃射やら爆撃やな」
「基地に残ってる航空機も僅かだ」
「これからどうなるんだ」
「わからなくなってきたな」
「本当にな」
実際にとだ、彼はまた戦友達と話していた。
そしてだ、大林は暗い顔のままこう漏らした。
「ラバウルにいた時が懐かしいな」
「あの時はまだよかったな」
「ラバウルに航空機が集まっていた時は」
「戦局もよくて」
「勝てるって思ってたな」
「それがな」
最早とだ、もう大林はラバウルの方を見ていなかった。
「こんな有様だな」
「もう負けるか」
「日本は負けか」
「どんどんあちこち爆撃されて」
「基地もボロボロになってりゃ」
「もうどうしようもないな」
誰もが項垂れていた、もう負けると誰もが思いだしていた。そうして実際に八月十五日にだ。
日本は降伏した、大林は正午の玉音放送を聴いてがっくりと肩を落としてだった。基地の滑走路を見て呟いた。
「負けたな」
「ああ、日本がな」
「負けちまったな」
ここでも戦友達が応えた。
「必死に戦ったのにな」
「どんどんやられていってな」
「遂に負けたな」
「無条件降伏か」
「ああ、しかしな」
それでもとだ、大林はもう一機も離着陸することがなくなった滑走路を観つつ戦友達にこうも言った。
「俺何時かな」
「何時か?」
「何時かっていうと?」
「ラバウルに行きたいな」
あの基地にというのだ。
「もう一度な」
「またどうしてなんだ」
戦友の一人が敗戦の衝撃に打ちのめされた放心しきったその顔で彼に尋ねた。
「一体」
「あの時のことが忘れられないからだよ」
だからだとだ、大林は彼に答えた。
「だからな」
「日本がまだ強かった時をか」
「ああ、それにな」
「それに?」
「あの青い空もな」
劣勢になっていく時はあまり見ていなかったその空もというのだ。
「それに出撃して戻ってきていた航空機もな」
「もう飛ばなくてもか」
「何時かはな」
「行きたいか」
「戻りたいな、けれど今はな」
今の状況ではというのだ、敗戦したばかりの日本のそれでは。
「もうな」
「それもな」
「夢物語さ、けれど何時かはな」
またラバウルに行きたい、去ったあの場所にというのだ。こう話してそのうえでだった。
大林は基地から実家に帰らされた後は故郷の静岡に戻った、そこで家業の茶農家をしてだった。
それからは普通に暮らしていた、そうしているうちに結婚して子供が出来て日本も復興してだ。
東京オリンピックもあり日本は復興から発展に至り彼には孫達も出来た。その中でも彼は働き続け還暦を迎えた時にだ。
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