キコ族の少女
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第31話「予期せぬ再会」
朝食後。
スクワラの言葉通り、ネオンの護衛として同行するための準備をすることになったが、俺は当然のように護衛計画に加わることはないので準備といっても、現在の服装を外用に変えるだけである。武装?前世も含めてリアルの銃なんて撃ったことも持ったこともない。
さて確認だが、俺が所持している服は機能性重視で見栄えは絶望的である。
パクから餞別として貰った服も、俺の性格を理解しているからか一人では絶対に着ることのない女の子らしいものではなく、落ち着いた色合いのレギンスにシャツの一式だけであり、オークション会場などのイベントに入場できる所謂“余所行き用”の服がない。
となれば、ノストラード組から貸与なりするしかないのだが、そんな状況になれば動き出す人物を俺は三人も知っていて、なおかつ彼女等から逃げることなどできないことも知っていた。
その結果……
「ん~、この格好だと綺麗な黒髪に合わないわね」
「ユイちゃんの肌は白くて綺麗なんのだから、もっと見せないとね!!」
「下着のラインが出ないように、こっちを……」
もうやめて!!
俺のライフはゼロよ!というか、マイナスだよ!!
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「……とりあえず、ご苦労さん」
「……ぁぃ」
スクワラの適当感が溢れる労いの言葉に、椅子に座って白くなっている俺は力の抜けた返事を返すことしかできない。
本当は寝転んでボロボロになった身体&精神ダメージを回復したいところなのだが、エミリア、ネオン、エリザからなる俺をコーディネートした女性陣がセットした髪や服を崩すわけにはいかないので、座った回復をするしかない。
というか、今のセットされた状態を崩そうものなら、また“お人形さん”として全部を見られたり弄られたりされるのことは確実なのだから、せめて会場に到着するまでは状態維持を完璧にしておかなければならない。
ちなみに俺を弄んだ彼女等は、自分達の着替えのためにスクワラに後を任せて席を外している。
「それにしても、女ってのは本当に化粧や衣装だけでここまで変われるもんなんだな」
着飾った女性(幼女)を褒めることができる男の言葉に、脇にあった姿鏡に映る自分を見る。
肩が隠れる程度の袖がある黒のショートラインドレスに、指輪を隠すための透ける模様?入りの黒いグローブ、右目を隠すための黒い眼帯。ついでに、疲労からくる気だるげな表情をする黒いストレートヘアの幼女。
「……場所が場所なら、厨二病乙とか言われそうですけどね」
「ん?」
「いえ、なんでも」
この世界に“厨二”という俗語が存在するか分からないので、スクワラの疑問の声をする―しておく。
自分から黒歴史を作るということは、俺はしないのだ。
その後、餌付けなのかジュースやお菓子を貰って服を汚さない様に細心の注意を払いつつお腹の中へと収めていると、着飾った女性陣が部屋へとやってきた。
俺のボギャブラリーの乏しさから、細かい説明はできないが、まあ三人ともよく似合っていた。
エミリアとネオンは、某映画祭の赤い絨毯を歩く女優のようだったし、エリザは付き人ということで控えめな感じではあったが十分に綺麗で、スクワラが彼女を見て見惚れていたのが俺でも分かった。……リア充爆発しろ。
「それじゃあ、いこうか。ユイ!」
「……はい」
花の咲くような笑顔で両手を広げるネオンに、若干引きつつも傍に寄って、案の定というか抱き上げられた俺は、自分がいる世界が“どういう場所”なのかを完全に忘れていた。
実戦が試合形式を含めたとしても、数か月以上も行わず。習慣化した基礎の修行はラジオ体操のような感じへと変貌してしまい。バトル漫画でいう戦場の感覚なんてものは完全に風化した。
それを俺は、会場に響き渡る銃声で強制的に自覚した。
オークション進行中に黄色いバンダナを巻いたテロリストが銃をもって乱入したことで、会場は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わり果てている。
幸いというべきか、VIP扱いであったノストラードファミリーは一般客から離れた場所にいたために、一般人用の出入り口から乱入したテロリスト達が巻き起こす騒動に巻き込まれるまでに結構な時間的余裕を得ていた。
当然、そんな宝石よりも貴重な時間を無為に過ごすほど、ネオンの護衛団の面々は無能であるはずもなく。
ダルツォルネの指示のもと、予め確認していた脱出ルートを先行偵察に数名ほど派遣しつつ、ネオンとエミリアそして俺の三人を中心にして周囲を護衛が囲む典型的な防御陣形を摂りつつ出口へと向かい。外には通信機を使って、出口付近で待機させていた人員に周囲の安全確保を厳命していく。
流れるように進んでいく事態に、ネオンの精神安定のために抱きヌイグルミとなっている俺は貸与されていたポーチに隠れていたテトを抱きしめる……フリをしつつ、ハクタクを10体ほどを自分を中心として周囲へと索敵のために放って確認をしていた。
眼帯をしているために視界が塞がれていたので、会場についてからネオンやエミリアがオークションに夢中で若干放置気味だったこともあり、暇つぶしを兼ねて周囲を探検していたハクタクを周囲警戒へと流用しているので、おそらく誰も俺が念獣を捜査していることに気づいていないだろう。
だからこそ、俺が誰よりも早く“ソレ”に気づけた。
「っ!!……壁から離れて!!」
「は?」
懐かしい感じのオーラを探知した俺は、すぐにその大きな力がこちらに向かってきていることに気づいて、即座に警戒の言葉を怒鳴った。
しかし、スクワラやダルツォルネなどの“それなりに”事情を知っている人以外は、俺を“ネオンお気に入りの玩具”として見ているのだろう。前者達が即座に反応したのに対して、後者の人たちの行動は鈍かった。
それでも時間にして、1秒もあるかないかの差で動いたくれたので柔軟性のある人たちであるのだろうが、その1秒程度の差は生死を分けるには十分すぎるほどの差で……
「ぎゃっ!?」
「ごはっ!?」
「ぶg……」
壁を“破砕”して俺たちの方へと殺到してきた“念弾”は、逃げ遅れた護衛の人たちを文字通り“消し飛ばし”ながら、護衛団の中心にいたネオンへと迫ってきた。
ダルツォルネが自信を壁とすべく念弾とネオンの間に入ろうとするが、それよりも早く1秒以上の余裕があった俺が展開させた防御力重視のヒスイを某ロボットが装備しているシールドビットのように、必中コースの念弾だけを選択してぶつけていくことで無力化させていく。
「なっ!?」
「早く指示を!!」
ダルツォルネは、自分が受けるはずだった攻撃がすべて無力化されていることに理解しきれていないのか、盾になるように構えたまま固まってしまっていたが、俺が声を荒げてると、押し倒すことでネオンを攻撃から守ろうとしていたエミリアとともにネオンを守りつつ、動き始めてくれる。正直、これ以上は念弾の嵐を防ぎ続けていける自信がない。
それに、懐かしい感じのオーラを纏って、こんな攻撃をしてくる人物を俺は知っている。
そして、予想通りの人物であれば、俺が勝てる見込みは……
「っ!?きゃあああっ!」
「ユイ!!」
戦闘へ向けていた思考が少しズレた瞬間を狙いすましたかのように、今まで防いできた念弾に紛れて一回り強力な念弾が数発、俺を狙って放たれた。
防御用のヒスイを対消滅目的で体当たりさせるも、減衰させることしかできず咄嗟に急所を手足でガードすることで攻撃を受け止めるが、衝撃で近くの壁へと吹き飛ばされてしまう。
「……やっぱり、お前だったか」
自分の背後で破壊された壁の残骸が崩れ落ちる音に搔き消されてしまうほど小声だったが、確かに聞こえた懐かしい声は、いつもは暖かな声色をしているのに、今はとても冷たい。
「……フランクリン」
いつも優しくて頼りになる大男は、背筋を凍らせルカのような冷たい視線と指先の銃口を、俺へと向けていた
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