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キコ族の少女

作者:SANO
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第18話「出会い-1」

 人通りの多い歩道にある、若者に人気のオープンカフェ。
 そこで朝食を終えた俺は、食後の一服として紅茶を飲みつつ適当に買ったファッション誌を広げてセレブのマネ事をしていた。
 実際は、テーブルの上で食後の毛づくろいをしているテトの愛らしさをチラ見しているだけだが……。

 まあ、傍目にはお嬢様がペットと共に優雅な一時を満喫しているように……見えるわけがなく、フードコートで全身を隠した子供が小さなペット(もしくは魔獣)を連れている。という怪しさ満点という状況であるのだが、大半の人はこちらを一瞥することもなく通り過ぎていく。
 闘技場が近くにある以上、ガラのよろしくない連中が多く滞在しているのを知っている町民からすれば、あからさまに面倒事の雰囲気が漂う子供には関わらないようにするのが、ここで生活するうえで必須な処世術(スキル)なのだろう。
 元の世界であっても、嫌な感じのする面倒事へ好き好んで近づこうとするのは、余程のお人好しか、状況を理解できていない阿呆な人ぐらいだろう。
 そして、注目を集めていないといえども、こんなにも人目の多い場所で無防備に姿を晒し続けているのには、当然ながら訳があってのことだ。というか、意味なくやってればノブナガのゲンコツが脳天をへ直撃する……ここにはいないけどね。
 まあ、ノブナガの事は今は関係ないので置いておいて、ここにいる理由なのだが……


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 受付のお姉さん’sとの握手会後に貰えたキーを使って部屋へと到着した俺は、すぐに対戦日決定通知がテレビに映し出されているの気づいた。
 対戦日が明日となっていたのは予想通りだったのだが、対戦相手がギドやサダソ、ニールベルトといった原作に出てきた新人キラーではなくエミリアという選手の名前は予想外であった。

 受付で感じた気配が三つだったので新人キラーの三人だろうと予想してたために、思わず「誰……?」と首をひねりながら独り言がポロっと出てしまったのはフラグだったのかもしれない。
 そして、フラグが建ったと同時に回収するかのようなタイミングで噂の人物であるエミリアと名乗る女性からの電話があり、「試合前に、会わないか?」という旨のお誘いと、自身への興味を持たせるために〝前払い”として情報の一つを渡されたことで、相手からの申し出を受け入れることとなった。


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 ということで、不用心と思われるような現状の説明を回想風に思い出しつつも、張り巡らせた〝警戒網”の微調整をさりげなく行う。
 今の俺は情報弱者であり、後手に回ってしまうのは確実である。それでも会うことにしたのは、前払いとしてもらった情報が余りにも衝撃的だったからであり、有りえない事だったからだ。
 だからこそ真偽を確かめる為に、約束の時間よりも早く到着するのは当然として、部屋を出た時から50体ほどのハクタクを周囲へと散らして独自の警戒網を形成している。

 別に自慢をしたいわけではないが、ハクタクを使った警戒網にはそれなりの自信を持っている。
 壁や地面といった物理的な障害をすり抜ける事が出来、念獣は“隠”でそこいらにいる念能力者では容易に視認できないだろうし、通信機能を応用した集音能力から覗き見る事が難しい場所の様子も窺うことが可能だ。
 さすがに、カメラなどを使った遠方からのデジタル的な監視等を感知することは出来ないが、周囲に散らしている念獣からカメラの位置や向きを確認して予測をすることは可能だ。
 それに俺の警戒網を潜り抜けられたとしても、保険として野生の勘というべきテトの警戒網がある。
 もしも、これら全てを潜り抜けて俺達に何からしらのアクションを起こせる相手だとしたら、実力が違いすぎて対応なんて不可能だろうが、そんな強者であれば態々こちらを呼び出す必要性はな……

 っと、予定の時間より10分ほど早いが、こちらに近づいてくる“それっぽい人”を捉えた。
 
 見た目は20代前半と言ったところか?
 肩まであるストレートの茶髪、黒のパンツスーツに身を包み歩いてくる姿はビジネスウーマンのようで、“練”も垂れ流しと言うか周囲との際はないしで、通勤途中の一般人のように見える……が、それとなく周囲へと〝視線”を飛ばしている点で一般人ではないだろう……というか、監視に気づかれそうな予感がして安易に念獣を移動させづらく、相手の表情が確認できない。

 テトをチラリとみると耳を立てて周囲を探ってはいるようだが、リラックスした状態を変える様子はないようで、近づいてくる相手は彼の野性的な感性に危険信号を与える(感じさせる)タイプではないらしい。
 念の為に彼女ではなく周囲へと〝目”を走らせてみたが、俺の警戒網に引っかかるような存在は確認できない。
 事前の告知通りの単独ということなのだろう。もちろん、警戒は継続して行うが……。

 そうこうしているうちに視認できる距離まで近づいてきたので、その方向へ顔を向けると念獣を介して観た服装の女性が歩いてくるのが見え、ここで初めて相手の表情を確認することができた。
 整った顔立ちにブルーの切れ長な目、リムレスのメガネをかけた顔からは知的でクールな印象を受け、こちらの視線に気づいて微笑みを浮かべる表情から余裕が見てとれることで、最初の印象をよりハッキリとさせてくる。

 知的なお姉様好きの男が居たら、鼻の下を伸ばしてしまうだろうな。まあ俺の好みとは違うから問題ない(?)かな、というか団員ではパクがそのポジションにいるから見慣れた……いや、微妙に感じが違うから別種になるのか?


「ユイ=ハザマさんね?初めまして、昨日の電話の主で今日の対戦相手の、エミリア=サローニよ」
「初めまして、ユイ=ハザマです」


 非生産的な自問自答している間に近くまでやってきた彼女は、礼儀として本人確認を行いつつ自己紹介をしてきた。
 既に調べが付いているのだろうから正直に身元を明かし、相手が仕草で対面への着席を求めてきたので、椅子へ軽く手を向ける事で了承の意を示す。
 さすがにリラックスできる状態ではなくなったのだろう。テトは軽く体を伸ばしてから、私を護衛するかのように傍らに移動すると、その場にお座りをしてエミリアへと視線を込めつつも耳を小刻みに動かして周囲を警戒し始めた。
 そんな小さな護衛(ナイト)に、たぶん同じ意味の笑みをエミリアと共に浮かべつつも、こうして会談の席を設けた目的を果たすために気持ちを切り替えると、それに気づいたエミリアは笑みの意味を変えつつも、僅かに姿勢を正してこちらを見据える。


「さて。こうして私と会ってくれたと言う事は、一定の信用を得られたという事で良いかしら?」
「……ええ」


 正直にいえば信用云々よりも、“前払い”の出元をハッキリとさせたいから会う事にしたのだけれど、それを話すようなことはしない。
 だから、言葉遊びに入る前にこちらの本題へ入らせてもらう。変に言葉遊びを持ちかけられても応えられる応用力と舌を持ってないからね。


「貴方の目的は、何ですか?」
「随分と性急ね?まあ、貴女の気持ちは分からなくはないけれど」
「…………」
「そんな怖い顔しないで、貴女と接点を持ちたかった理由は二つあるわ」
「二つ?」
「そう、“警告”と“協力”よ」
「……っ」


 世間話をするかのようにスルリと出てきた“警告”と言う言葉に、身構えていたにも関わらずピクリと体が震えてしまった。
 幻影旅団の庇護下という十分に狙われる要素を持っているというのに、まるで心当たりがあるかのような反応をしてしまった自分を内心で罵倒しつつ、相手の言動に注視する。


「心当たりがあるようだけれど、たぶん別件よ」
「……?」
「これを見て。貴女の事を知っていた事と、警告という言葉の理由よ」


 テーブルに滑らせるようにして差し出された二枚の紙が、俺の目の前で止まる。
 一枚目は、文頭に「天空闘技場選手一覧」と書かれており、左側の帯にズラリと並んだ名前から俺の名前が選択されており、履歴書のように登録時に記入した名前等の個人情報、戦績と簡易的な戦闘スタイルと共に隠し撮りされた俺の写真が数枚掲載されている。
 そして二枚目は―――


「……捕獲依頼?」 
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