キコ族の少女
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第6話「初仕事-1」
ある街の郊外に建つ大きな建物。
俺のような地球の知識を持っているものが見れば、“某人工国家の白い大統領官邸”を連想させるだろう外観のそれを見下ろせる位置―――丘の上に佇む5人の人影。
当然その人影は旅団の皆と俺+αなわけで、シャル、マチ、ノブナガ、ウボォーギン、そして俺とテトという編成だ。
出発前に邪魔にならないようにと、パクがポニーテールにしてくれた髪を何となく弄っていると、豪邸を眺めていたシャルが、時間になったのか俺に声を掛けてくる。
「それじゃあユイ、奴さんの戦力分析をよろしく」
「んっ、分かった」
シャルの言葉を受けて、貴族とかで令嬢が男性からキスを受けるかのように右手を前に差し出し、俺は能力を開放した。
すると、右手中指にあるシンプルな指輪の黒い宝石部分から風船が膨れるかのように、オーラの塊が生み出される。
拳大まで大きくなった“それ”は、地面に向って垂れていき、途中で白蛇へと姿を変えた。
そして、音もなく地面に着地すると俺の足元に擦り寄ってきて脚に纏わり付くと、赤い瞳を俺へと向けてくる。
これが俺の念能力「体を持たぬ下僕達」である。
……そこ!!名前のセンスないとか、厨二病乙とか言うな!!これでも頑張って、自分的に満足のいく名前をつけたんだからな!!
っと、名前の事は置いて能力についての話の続きだ。
一連の流れで予測できた人がいるかもしれないが、“指輪”に記録した念獣のイメージをオーラを送ることで顕現させる。
これ以上は追々説明するから、現状では秘密だ……「今は、これが精一杯(某怪盗風)」なんてな……そこ! 可哀相な子を見るような目で見るな!!
とにかく、上記のような能力であり現在顕現している念獣の名前はハクタクという。
「ほう」
以前に見せたときよりスムーズに顕現させる事が出来た為、ウボォーが僅かに感心した声を漏らした。
自分の成長について好意的な反応が見れた事が嬉しくて、思わず緩みそうになった頬と集中力を慌てて引き締めると、念獣に指示を出す。
「―――行って」
別に声に出さなくてもいいのだけど、まだ開発段階で完璧に使いこなせていないから、声に出すことで自分にも言い聞かせるように使う。
ハクタクは俺の言葉を待っていたかのように、俺の脚から離れると水が地面へ吸い込まれるように消えていった。
消えたハクタクの気配が地中を移動しているのを感じながら、右手のオーラを維持しつつ、右目に”凝”を行う。
すると、右目に映る景色が、今まで見ていた景色から豪邸の門が見えるところまで接近している景色へ……地中から顔を少し出したハクタクの見ている景色へと変化する。
これがハクタクに付加された能力の一つ「下僕達の目」である。
実はこの能力は、最初から意図して作ったのではなく偶然の産物である。
最初、当初は奇襲用としてハクタクを生み出し、操作をしながら“円”や“凝”を出来るように修行していたときに深く考えず、目に“凝”をしたら見えるようになっていたのだ。
自分が意図していない能力の付加については、キコ族に関係しているのかと思ったけど、未だに調べることが出来ないので考えるのは保留にしてある。
「表門には10……ううん、12人いる。全員が銃で武装している“一般人”で、能力者はいないかな」
「ふむふむ」
「次、裏門にいくね」
表門の見張りの人数を確認できたあと、裏門へとハクタクを移動させる。
ちなみに、ハクタクに“聴覚”はないが振動は探知できるので、振動を音へと変換して拾えるよう更なる開発と訓練を行っている最中だ。
「裏門には7人で、銃で武装……あっ、能力者が二人いる」
一般的に垂れ流し状態のオーラを自分の体に留める”練”を維持している体格のいいスーツ姿の黒人男性と、ジーンズにTシャツのラフな格好の西洋系の女性が、周囲に視線を配りながら見張りとして立っている。
「……契約ハンターかな?」
「だろうね」
「次は建物内を見てみるね」
……二人の顔に見覚えがあったのだが、すぐに思い出せなかったので、モブキャラだろうと判断して放置。
原作は恐ろしいほどの死亡率だから、おそらく間違いないだろう。
早々に彼の正体についての疑問を頭の隅に追いやり、代わりにシャルから見せられていた豪邸の見取り図を頭の中で思い描きながら、ハクタクを操作して建物内部へと侵入する。
こうして見張りの配置と人数、能力者の有無などを口頭でみんなに伝えていく。
本来であれば、こんな面倒なことをしなくても団員の能力を考えれば正面突破でも十分仕事の完遂は可能なのだが、今回はクライアントからの仕事なのでそうはいかない。
俺は、この世界に来るまでは幻影旅団は自由気ままに強奪や殺戮をしているだけの組織かと思っていた部分もあったのだが、短くない時間を彼等と共に過ごしているとそうではないことが分かった。
組織というのは、運営する上で確実に資金を消費するものである。旅団の場合は娯楽費が7~8割を占めているのだが……。
そんな資金を旅団は強奪で補っているが、稀に利害が一致すると他の組織から仕事を請けることがあるのだ。
依頼主からすれば、戸籍のない人間は実に便利な存在であろう。
足がつくこともなく、実力は指名手配の等級から安心(?)できる。
今回はそのケースというわけで、依頼内容は「建造物に傷はつけないで、豪邸内の金品すべてを破壊もしくは強奪して欲しい」とのこと。
強奪した物は自由にしても良く、当然いくら死人を出しても構わない。
一見して旨すぎる話のように感じるのだが、シャル曰く「こういうのはよくある話」だそうだ。
裏の世界はまだ分からないが、実力のある組織を襲わせて資金と重要人物の排除を狙っているのだろうか?
それとも、復讐とかケジメとか面子とか、そういった目に見えない部分の話なのだろうか?
まあ、色々と考えたところで裏の世界なんて興味はないから、必要最低限の知識だけ保有できれば後はどうでもいいや。
さて話を元に戻して、依頼内容からして普通に正面突破しての炙りだし殲滅という行動でもいいのだが、相手が金品をもって逃走する可能性が考えられる。
なので、俺の能力を知っているクロロは「練習にはちょうどいいだろう」と俺にこの仕事へ参加するように指示を出したわけだ。
「保管庫……保管庫……保管庫……あ、あった。見取り図通りの地下一階で一番奥の部屋の前に見張りが2人いる。どっちも能力者だね」
軍服のような迷彩服を纏った屈強な白人男性二人、両手を後ろに回して扉の左右に立っている。
服装をスーツなどにすれば、テレビで見た頃あるボディガードとかSPとかの職種が凄く似合いそうだ。
「了解。ユイはその念獣をそのまま見張らせて動きがあったら連絡して」
「うん」
ハクタクを自動操縦に変え、映している景色に変化があれば反応を出すように設定して、右目の”凝”を解いた。
オーラの総量がまだまだ少ないので、無駄使いは極力しないようにしないと、有事の際にガス欠になって満足に動けませんでしたって事になりかねない。
「ユイの見た感じだと、あっちは事前に襲撃があることを予想してるね」
「大方、仕事頼んだ奴から情報が漏れたんだろうよ」
「警備してる人間は計72人で、内4人が能力者か……」
「ユイ、その4人の能力者はどの程度だか分かる?」
最初の仕事が終わり、皆の話を一歩引いたところで聞いていた俺に、マチが話を振る。
ハクタクを通して見た4人の能力者を思い出しながら、おおよその力を判断する。
「見ただけだと、保管庫を警備してる二人が強いかも……外の二人は……ちょっと微妙かな」
「となると、ノブナガとウボォーが囮になる案は難しいかもしれないね」
「だ-っ、面倒くせぇ! 物をぶっ壊すなとか無理だろうが!!」
「吠えない吠えない……そうだね。ユイに能力者同士の戦闘を見せるいい機会だから、このままいってみようか」
結局、ノブナガとウボォーが正面玄関から殴り込みをして敵を引きつけつつ殲滅している間に、シャルとマチ、そして俺が保管庫へ行きお宝を確保という作戦でいくことになった。
もしも能力者が正面の陽動に乗らず、警備をし続けてもシャルとマチが対処する予定だ。
「くれぐれも、家を壊さないようにね」
「ああ、分かってるよ」
シャルの最終確認に、ウボォーが聞いているのか聞いていないのかの返事を返す。
それに溜息一つすることで色々と自分を納得させたシャルは、俺とマチを連れて裏門に向かい大きく迂回しながら移動をはじめ、ノブナガたちは表門へゆっくりと歩を進めていった。
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――――――――
――――――
――――
――
ドゴーーーーンッ
言葉にすれば、そんな爆音が表門から響いた後、無数の銃声と人の叫び声が聞こえてきた。
「……家、壊してないよな?」
「さあ?」
「あの二人は……」
シャルが額を手で押さえる姿を見てると、将来ハゲないか心配になる。参謀という役職は大変そうだ。
と、右目に小さな違和感を感じた後、今まで見えていた景色からハクタクからの視界へと変化した。
見えた風景は、見張っていた二人のうち一人が一言二言、話をしてから持ち場を離れて何処か……たぶん表に向かっていくのが映った。
「シャル!マチ!保管庫にいた二人のうち一人が持ち場を離れた!」
「現場慣れしていない素人か?」
「裏門の奴等も表に移動したし、チャンスだね」
「うん」
”絶”で気配を消しながら、俺達は裏門からお宝のある地下一階へと移動していく。
移動をしている間にも、表門の方向から悲鳴と銃声が鳴り響いて、生死を賭けた分の悪すぎるギャンブルをしているの分かる。
悲鳴が聞こえるたびに、人一人の命が消えているのだと思うだけ自然と体が震えを起こす。
こんな世界に身をおいて、もうすぐ1年が経つ。
前の世界―――前世では、戦争の記憶が風化し始めている日本で生きてきた純粋な日本人の俺であったら、醜態を晒しつつ確実に逃げ出していただろう。
こうして一見して冷静でいられるのは、ノブナガとの修行のお陰か、はたまた感覚が麻痺し始めたのか。
そんな思いを抱きながら移動していたのがいけなかったのか、すぐ近くから感じたオーラへの反応が数瞬遅れてしまった。
「っ―――!?」
「ユイ!!」
数瞬前まで気配を感じなかった背後から伸びた腕で首を絞められ、身体を羽交い絞めにされてると、すぐに後ろへと引きずら……いや、何かに飲み込まれていく感覚。
首を絞めている腕を両手で剥がそうとする事で僅かに出来た隙間を利用し、視界を後ろへと向けて状況を確認する。
そうして視界の端に映ったものを見た瞬間、自分が何に飲まれていくのか理解した。
壁に飲み込まれてる……!!
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