キコ族の少女
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第4話「○○が飛び出してきた!」
自分の系統が分かってから、3ヶ月程の月日が流れた。
場所は流星街から離れた亜熱帯地域の人里離れた場所。
天に昇るほどの高い木々が鬱蒼としている中、その間を縫うように無駄の少ない動きで抜けつつ、俺は無我夢中で俺は走っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
既に数十分ほど全速力で走っているせいで胸が締め付けられるように痛み、熱帯気候のため纏わりつくような熱気と体温の上昇によって汗が滝のように流れ出てくる。
そして、その流れ出た汗は着用しているジャージに全て吸収され、全体の重さは代わらないのに厄介な錘となって俺の体力をガリガリと削っていく。
このまま走るを止められたら、どんなに楽なことか……何度も頭を過ぎる欲求。
でも、足を止めるわけにはいかない。
なぜなら…
「ブモォォォォッ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
無意識に外見相応の悲鳴を上げながら更に速力を上げて逃げる俺を、グレイトスタンプだっけ?ゴンたちが受けたハンター二次試験に出てきた豚の大群が、進路上にある木々をなぎ倒しながら俺を追撃してくる。
軽々と倒されていく木々は自分の数倍以上の太さを持つ木々という現象に、ブワッと背筋から別の冷たい汗が吹き出す。
と言っても、それだけで俺がこうも必死に逃げるわけではない。
もう一つで最大の理由。
それは、俺の腰にある臭い袋にある。
何の臭い袋かというと、こいつらのメスが繁殖期に放つフェロモンと似た匂いを放つ合成薬。
チラリと後ろを確認する。
迫ってくる奴等は全てオスで、目が血走っていたりして完全にイッてしまっており、全てのオスが鼻息は荒く一部の奴は下品な笑み(?)と涎を垂れ流しながら迫ってきている。
死ぬ! こんなのに襲われたら、いろんな意味で死ぬ!!
俺の貞操とか、俺の貞操とか、俺の貞操とかーーー!!
「の……ノブナガの、バカーーーーーーーーーッ!」
何処かで俺を見ているであろう、こんな修行を思いついた人間の悪口を叫びながら、俺は更に走るスピードを上げた。
だが、今はまだこっちのほうが速いのだが撒けるほどの速さは無い。何度かギアを上げて一気に撒こうかとも思ったが、密集している木々が障害物となって思ったように走れない。
それに念を使って身体能力をあげて今の状態であるために、今だにオーラの総量に不安がある俺では失敗は「ガス欠→豚の餌食」という結果となることは目に見えている。
何とかしないと……R18の展開が!!
獣と○○○なんて、どんだけマニアックな内容だよ!
誰も望んでない成人誌展開とか、読者が逃げちゃうだろうが!!
メタな発言を……って、メタ?……そういえば原作でのこいつ等の弱点って!
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――
「ラスト一頭!!」
そういって道中で回収した小石を数個、最後の一頭であるグレイトスタンプへ念で強化してから投げつける。
さすがに仲間の犠牲の元、こちらの意図は理解している為に、1個2個3個と自慢の鼻を左右に振って弾いていくが、捌ききれずに、弱点である額に小石が直撃。
直後、雷に打たれたかのように身体をビクリと痙攣させると、数歩ほど歩いた後に、地鳴りを響かせて巨体が地面へ倒れこんだ。
原作で頭が弱点と言うのは分かったから、後は倒す方法として昔の維新志士が行った戦術で、逃げ続けて突出した敵を一人ずつ倒していくという戦術(?)を試した結果が“これ”である。
すごいぜ幕末時代!!
数秒、再び動き出さないか注意深く視線を送るが、ピクリとも動く気配がない。
それを確認できた瞬間、やっと貞操の危機がある逃亡劇から開放された安堵と念の大量消費による疲労で、その場に立っていることができず空気の抜けていく風船のようにヘナヘナと座り込む。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
荒くなっている息を落ち着かせようとしながら自分の体を見ると、いつもは意識せずに出来る”纏”がうまくいかず、微かに残っているオーラが垂れ流し状態になっている。
オーラがこれ以上消費されれば、この場で倒れてしまう。
必死に”纏”もしくは”絶”を行おうとするも、極度の疲労から上手く集中が出来ず逆に無駄なオーラを消費してしまう。
そのことで、さらに慌ててしまい余計に集中できなくなっていく。
そんな悪循環を続けていると、知っている気配が背後に現れた。
「落ち着け、まずは深呼吸だ」
「ノブ、ナガ」
気配の正体―――ノブナガが俺の背中へ手を置き、落ち着いた声で指示を出す。
その声に軽くパニックになっていた俺はゆっくりと冷静さを取り戻し、深呼吸を開始する。
「そうだ。落ち着いたら、呼吸に合わせて自分の中でオーラを―――」
ノブナガの普段聞くこと無いような優しい声の言われるがまま、自身のオーラを操作していく。
最初が上手くいけば、後はいつもの復習と変わらない。故に、数分もすれば……
「どうだ。落ち着いたか?」
「……うん。まだダルい感じがするけど、もう平気」
まだ全身が重い感じがするが、動く分にはもう問題ないくらいに回復できた。
気絶の心配がなくなった俺は、次に火照っている体に我慢できず、修行用に手に入れたジャージの上だけを脱ぎTシャツだけになった。
そして、携帯していたスポーツ飲料水をガブ飲みしたい欲求を抑えつつ、意識して少量ずつ飲みながら体内の水分を補給する。
まだ、ブr…上の下着をつけるほどの大きさではないにしろ、絞れば水が出るのではと思うほどに濡れた服は、小さな小山を二つクッキリと映し出していた。
とはいえ、ノブナガはそんな趣味ないし、俺も気にしてないので関係ないけどね。
いや、この場合は俺に羞恥心がないだけか?
そんなことを余裕の出来た思考の中でしつつ水分補給していると、頭上から注意する声が聞こえる。
「まったく。こいつ等を倒す方法はまあまあ良かったが、自分のオーラの総量を考えてやれ」
「ぅっ、ごめん」
「だが、今回のことで分かったことがあるな。分かるか?」
「……”流”が上手く出来なかった」
「そうだ」
“周”、“隠”、“凝”、“堅”、“円”、“硬”を練度の違いはあれど一通りを出来るようになったものの、なぜか”流”が他と比べて上達速度が遅いのである。
先の作戦も、逃げる時には足にオーラを集中させ、相手に石を投げる際には“周”で石を強化する関係で、足のオーラを手に、そして石へと“流”を行うのだが、迅速に出来ずに尚且つ無駄にオーラを動かしたりした関係で、予定していた以上の消費をしてしまっていたのだ。
こうなると、ちょっと上達が悪いからで完結できる問題ではなくなった。
「”流”が出来る出来ないで、強ぇ奴との戦いで勝てる可能性が雲泥の差以上にある。少しずつ改善していこうかとも思ったが、今回のことで予想以上にできないことが分かったからな。明日からは”流”を中心にした修行に変えるぞ」
「……うん」
これまで順調に上達していったせいで、これくらいの躓きは普通なのに予想以上にショックを受けている自分がいた。
念との相性がいいとはいえ、自分の能力に過信しずぎてたのかもしれない。
俺が倒したグレイトスタンプの一頭を持ち帰るようにしているノブナガを見ながら、小さく溜息が漏れた。
カサッ……
「!?」
突然、俺の後ろで草が擦れる音が小さく聞こえた。
まさか豚がまだ残っていたのかと素早く立ち上がると共に臨戦態勢を取り、音のしたほうへと神経を集中させる。
相手は、そんな俺の行動に気づいたのかカサカサと草が動いているのは確認できるものの、姿を現そうとはしない。
さっきの疲労も抜け切っていない現状での我慢対決は分が悪いと判断し、足にオーラを集中させると一気に音のした草むら辺りを飛び越え、その後方へと跳躍した。
「……あ、あれ?」
「フーーーッ」
そして、音のしていた草むらにいたのは豚ではなくて……
「リス?いや、キツネ?」
リスほどしかない大きさの、耳の尖った一見キツネにも見える動物が俺を見て威嚇していた。
「ユイ、お前何やってんだ?」
「あ、ノブナガ」
俺の突然の行動に、木の棒に豚を吊るした物を肩に担いだ状態のノブナガが呆れた声で尋ねてくる。
そういえば、ノブナガが近くに居たのに警戒も何もしていないのだが、危険するべきことではなかったということじゃないか。
ちょっ。俺はなんて無駄な行動を……。
勝手にシリアスぶって警戒していた自分に落ち込む俺を無視して、ノブナガは俺と対峙している生物へと目を向ける。
「なんだ。キツネリスの子供じゃねぇか」
「キツネリス?」
「俺も詳しいわけじゃねぇが、大人になっても体長30センチにもならねぇ小型の魔獣だ」
「魔獣!?こんなに小さいのに」
「まあ、そう分類されてるだけでそこまで危険な生物じゃねぇよ」
俺たちが、話し合っている間もそのキツネリスは威嚇を続けている。
ふと、ノブナガの説明で気になることを思い出す。
「ねえ、この子が子供だっていってたけど……親は?」
「……この状況で親が来ねぇってことは、死んだんだろうよ」
「……」
自然界を、子供だけで生きていけるなんてことは極稀である。大抵は他の生物の餌食になるか、自分の食事を確保できずに餓死するかである。
そう思うと、俺は自然とキツネリスへと歩を進めていた。
ノブナガは俺の行動から、何をするのか分かっているのか黙って見ている。
キツネリスは俺の行動に当然警戒し、さらに威嚇の声を上げると、それに同調するかのように全身の毛を逆立たせる。
俺はそれ以上刺激しないようにその場で腰をかがめると、ゆっくりと手を伸ばした。
「おいで、怖くないから」
魔獣ということは、それなりに知能があるはずだが、人間の言葉を完全に理解できるとは思わない。
だから、声色で安心させようと優しく語りかける。
しかし、依然として俺への威嚇を続けているので、危険な匂いをしないと分かってもらうために少し手を前へと差し出してみる。
「大丈夫。一緒に行こう」
「シャーッ」
「っ!」
しかし、手を前に出しすぎてキツネリスの警戒線に触れたのか差し出した手へ、前足の爪が容赦なく食い込んだ。
しかし子供で力不足だったためなのか、肉は裂けなかったものの指先に爪が食い込んで激痛が俺を襲った。
でも、その痛みを表に出さないように、少し強引だが食い込んだまま手を引っ込めると共にキツネリスを引き寄せると優しく抱きしめた。
強くも無く、でも弱すぎることもない程度の力で……
だが、そんなことをすればキツネリスが暴れるのも当たり前であり、俺の胸の中で逃げようと力の限り暴れ続けた。
何度も切り付けられた胸の部分の服は、無残に裂かれて少し露出した皮膚にも引っ掻き傷が数箇所出来る。
それでも、俺は痛みに耐えてこの子が落ち着くのを待った。
そして、その行動は数分で収束した。
俺が危険な存在ではないと分かってくれたのか、暴れるのをやめて俺の目を見つめてきた後、自身の爪で傷ついた俺の胸にある傷を舐め始め、最後には喉を鳴らしながら俺の胸へと顔を押し付けてきた。
「あははっ、くすぐったいって」
「……まったく、何してんだか」
キツネリスが大人しくなったのを見計らって、ノブナガは近づいてくると俺の頭に手を置き、グシャグシャと撫で上げる。
でもそれが結構乱暴で、脳が揺さぶられ回復しきっていない体には若干キツイ。
「ちょっやめっ…」
「自分と似た境遇だからって助けてもいいが、ちゃんと面倒見ろよ」
「……うん」
自分の考えていたことがズバリ言い当てられ、顔が赤くなる。
親がいないと聞き、無性にこの子を助けたくて仕方なかった。俺の場合はノブナガに拾われ、押し付け的な部分もあるが生きる為の術を教えてもらっている。
そんな比較的安定した人生を歩んでいる余裕からくる、安い同情と思う人もいるかもしれない。
でも、だからと言って見捨ててもいいとは思わない。だから、俺は何の迷いも無く助けることを選んだ。
それと、蛇足だけど。
性別が変わったせいなのか、この子の表情に母性本能(?)が擽られたのも理由の一つだったり、なかったり……
……ん?
そういえば、この状況って……某アニメ映画に似てるな……くそっ、メー○ェがあれば完璧だったのに!
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