銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百三十話 疑惑と混沌
第百二十九話のネタ晴らしです。リューネブルクの回想として書かれています。
リューネブルグが同盟に居た事が影響しているのですかね。
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第百三十話 疑惑と混沌
帝国暦483年8月5日 午後0時35分
■ノイエ・サンスーシ謁見の間
クロプシュトック侯の自爆により発生した爆風により強襲揚陸艇バート・デューベンは壁から外れて外へと落下していったが、パイロットの機転により軟着陸に成功し怪我をしたが致命傷には成らなかった。
「皇帝陛下は御無事か!」
相変わらずランズベルク伯が時と場所を考えない大声を上げているが,装甲擲弾兵すらヘルメットを被っていてもバイザーを下げていなかったために爆風で鼓膜が破れた者や耳がキーンと耳鳴りがしているために、ついつい大声になってしまうのである。
皇帝とリヒテンラーデ侯とクラーゼン元帥はライムバッハー上級大将達が覆い被さるように残骸から身を挺して守り抜いたためかすり傷程度で済んでいたが、生身の皇帝達もライムバッハー達に輪をかけて耳鳴りが酷く身振り手振りでの応対である。
「陛下、お怪我はございませんか?」
「なんじゃ?」
「陛下、救出が大変遅れ申し訳ありません」
「ライムバッハー上級大将、卿が何を言っているか儂もわからん、陛下も判らんはずだ」
「リューネブルクを追います」
そんな中、オフレッサー達は皇帝陛下の無事を確認すると身振り手振りでリューネブルクを追撃していく。途中謁見の間控え室から逃げだそうとしていた、フレーゲル内務尚書を見つけ、一撃で昏倒させて部下1人に謁見室まで運ばせた。
しかし、他の装甲擲弾兵に再会してもリューネブルクの行方は様として知れず、煙の如く消え去ったのである。その頃には耳鳴りも止み普通に会話が出来る様に成って居たが、埒があかない状態で有った。
「リューネブルクが来なかったか!」
「いえ我々は見ておりません」
「判った、見つけ次第捕縛しろ、出来なければ殺しても仕方がない」
「はっ」
結局宮殿の隅々まで探したが、リューネブルクが見つけることはなかったのである。
モニタールームから装甲擲弾兵に担がれて駆けつけたケーフェンヒラー中佐により皇帝陛下の御無事が完全に確認された。
「皇帝陛下、御無事でございますか」
この頃には皆がある程度耳が聞こえる状態になっていたために返事が聞こえる。
「皇帝陛下は御無事、賊は自爆した!」
「陛下、侍従武官たる小官がお役に立てず陛下を危険に晒した事万死に値します。其処で死を賜りとうございます」
責任感が強すぎて生真面目な、ケーフェンヒラー中佐が馬鹿な事を言い出すと、続いてクラーゼン元帥とリヒテンラーデ侯までもが同じ様に言い出した。
「陛下、小官も幕僚総監としてお役に立てませんでした。死を賜りとうございます」
「臣もテレーゼ様の襲撃にワイツが係わっていた以上、大逆罪の連座で死を賜いたく存じます」
其処言葉を聞きながら、煤で顔を真っ黒にした、フリードリヒ4世が真面目な顔で窘めるように全員に言い聞かせる。
「良いか、今日の事誰も悪くはない、強いていえば予の不徳の致すところだ。子1人まともに育てられぬ者が全人類の支配者とは烏滸がましいわ。良いか、今回の事でこれ以上血を流す事まかり成らん!此は予の頼みじゃ、リヒテンラーデ、クラーゼン、ケーフェンヒラー、そして皆良いな」
「陛下・・・」
「陛下」
「陛下・・」
其処にいた全員が涙ぐみながら皇帝陛下に頭を垂れる。
顔は煤けてコントのようであるが、まさに其処にいたのは偉大なる銀河帝国皇帝の御姿であった。
「陛下、お体の検査を致しませんと」
「陛下を直ぐさま安全な場所へご避難有らせられろ」
テキパキと装甲擲弾兵達が陛下やリヒテンラーデ侯やクラーゼン元帥を謁見の間からほど遠い宮殿黒真珠の間に移し手当を始める。
手当を受けながら、皇帝にリヒテンラーデ侯が小声で尋ねる。
「陛下、クロプシュトックとリューネブルクの言って居たクローン、如何なる事でありましょうや?」
「うむ。予もルドルフ大帝がクローンを研究させていたなど初耳じゃ」
「やはり、与太話ではないかと」
「いずれにせよ、事態が収まってから、調べるより他なるまい」
「御意」
その頃、宮殿の異変を知った近衛兵達が宮殿内へ侵入を考え始めたが、ノビリンク大佐達から決して宮殿内に入ってはならないという皇太子殿下の命令が有ると言う事で手をこまねいて居た。其処へ近衛第四中隊がテレーゼ皇女殿下の御旗を掲げて次々に到着してきた。いぶかしむ近衛兵が誰何すると意外な答えが返ってきた事で、近衛兵は混乱を始めたのである。
「誰か!官姓名を名乗れ!」
「小官は、テレーゼ皇女殿下筆頭侍従武官ヴィッツレーベン大佐だ、皇女殿下は御無事、皇帝陛下と皇太子殿下の勅命は反逆者クロプシュトック侯が捏造したもので有る!直ぐさま宮殿の包囲を解き原隊へ帰投せよ」
「しかし、我々の任務は宮殿の警護であります。指揮官の命令がない限り動く事が出来ません」
「指揮官は何処へ行ったか?」
「宮殿内へ行ったきりで有ります」
「貴官の官姓名は?」
「はっ、近衛第一連隊付きフォン・ヴァーサー少佐であります」
「どうしても駄目か?」
「責任者が居ませんので」
押し問答が続くかと思われたその時、ヴィッツレーベン大佐の携帯端末にテレーゼから直接連絡が来たのである。
『ヴィッツレーベン御苦労、近衛の説得は難航しているのか?』
まるで見ているようなピンポイントの連絡であった。
「申し訳ございません、今だ。小官の力量不足であります」
『そうは言えぬ、卿は良くやってくれている。近衛の指揮官の携帯端末に連絡を妾が入れよう』
「その様な事、殿下に患わす訳には行きません」
『父上の命のためならばその様な些細な事気にするでない。妾に早う相手の官姓名を伝えるのじゃ』
「御意、近衛第一連隊付きフォン・ヴァーサー少佐と言います」
『判った』
そう言ってテレーゼはヴィッツレーベン大佐の携帯端末を繋いだままで、フォン・ヴァーサー少佐の携帯端末に連絡を入れる。突然鳴り響く携帯端末にフォン・ヴァーサー少佐が出ると、画面に何とテレーゼ皇女自身が現れたのである。
驚きまくるフォン・ヴァーサー少佐にテレーゼが話しかける。
『フォン・ヴァーサー少佐ですね、妾はテレーゼじゃ、勤め御苦労。卿等が受けた指示は謀反人クロプシュトック侯が兄上を人質に取り捏造したものじゃ。妾を信じて直ぐさま妾の代理ヴィッツレーベン大佐に指揮権を預け指揮下に入って欲しい』
この本物の通信が決定打となり近衛兵は次々にヴィッツレーベン大佐の指揮下に集結し、宮中の一触即発の事態はやっと落ち着いていったのである。
その頃、皇帝陛下御無事、ルードビッヒ皇太子、クロプシュトック侯死亡。リューネブルク逃亡の報告がグリンメルスハウゼン上級大将以下の憲兵隊、ラプンツェルのテレーゼ達に伝えられ、皆が皆ホッとしながらも、事件が未だ未だ終わっていない事を感じるのであった。
帝国暦483年8月5日 午後0時40分〜
■ノイエ・サンスーシ 地下通路
ハアハア。
ここから地下通路だな、フッ。この俺がクレメンス大公のクローンだという与太話は此から帝国を悩ますだろうな。尤もクレメンス大公のクローンなど元来から存在しないのだがな。俺はヘルマン・フォン・リューネブルクであり、それ以上でもそれ以下での人間ではないのだから。
帝国に逆亡命以来、俺の地位の向上を目指して色々な人物を見てきた。そして俺を拾ったのがクロプシュトック侯だった。奴は30年の怨念により当初は皇帝の居る中で爆弾テロを行うつもりだった様だが、クロプシュトック侯が皇太子を誑かしているならもっといい手があると教えてやると些か誇大な妄想に囚われ始めていた奴はそれに乗ってきた。
俺も最初は冗談のつもりで同盟にいた頃のアングラSFや立体TVのクローンやSF世界の妄想を、アイデアとして沢山教えたところ、なんと俺をクレメンス大公のクローンとして皇帝フリードリヒ4世に対する意趣返しを行うために猿芝居を行うはめに成った。
クロプシュトック侯は見事に同盟のB級C級映画やアニメの設定を気に入ったようだった。クローンよる重要人物の入れ替わりや、死んだ子供をクローンで復活させたが、結局はその娘は死んだ娘ではないと虐待し、実の娘の遺体を復活させるために、願いの叶う魔法の石をクローンに奪わせようとする魔法少女ものとか、電送実験失敗で蠅と融合した蠅人間とか、ガス化したガス人間とかの記憶ディスクを、フェザーン経由で俺が注文し、それらB級、C級ホラーやアニメを参考にクロプシュトック侯や俺が散々頭を使って作った設定を最後まで使い続けたとは、馬鹿は死ななきゃ治らないと言うがその通りになったな。
しかし、此で内務省も社会秩序維持局も終いだな。特に俺の家族を虐待した社会秩序維持局にクローン作成など全ての罪を着せてた以上は、彼処はもう終わりだな。クロプシュトック侯領にもそれらしき施設を作って如何にも本当としてあるから、かなりの期間クローン騒ぎと皇位継承の騒ぎにより帝国の内情は混乱し続けるだろう。
此で面白くなってきた。間違えなく帝国は俺の抹殺を計るだろうが、ノイエ・サンスーシの地下迷宮はランズベルク伯の作った物だけでは無いのだ、我がリューネブルク家もコルネリアスI世陛下の御代に抜け穴を作成しているのだよ。流石にリューネブルク侯爵家が潰えた後はメンテナンスもされていないが、動く事は確認済みだ。
この事までは、クロプシュトックにも教えては居ないがな。
フフフ。このまま抜け穴を抜ければ、重犯罪人の死体置き場に出るだけだ。ここでヘルマン・フォン・リューネブルクは消え去るという訳だな。此処で死体の山と共にヘルマン・フォン・リューネブルクとクローンである、クレメンス・フォン・ゴールデンバウムは消え去るのだ。
後に残るのは、焼け焦げた死体の山だけだ。
「抜けたか」
流石に腐りかけた死体の臭いはこの俺でも辛いものが有るが、此も俺の野望のためだ。
さらばだ、ヘルマン・フォン・リューネブルク、クレメンス・フォン・ゴールデンバウムよ、卿等はアルベルト大公と同じく帝国に長きにわたり伝説を残すであろう。
しかし本来なら、皇太子に皇位を継がせたあと、皇女殺しでリッテンハイム侯を処断しその娘サビーネを俺が娶るはずだったのだがな、まさか皇女が生きていたとは、あの時、皇女と面談した時の違和感は此であったかと今更思った。
旨く行っていれば、ブラウンシュバイク公を謀反で潰した後で、ルードビッヒとエルウィン・ヨーゼフを暗殺しサビーネを女帝に就け、俺が女帝夫君として帝国を乗っ取るつもりであったのに残念だ。しかし事破れた以上は潔く退場するとするかな。ヘルマン・フォン・リューネブルクはだがな。
さて、変装も外して、フランツ・アーフェンとして生きる事とするか。フフフ、顔も既に整形済みだからな、しかも経歴も完璧だからな、さらばだ!
帝国暦483年8月5日 午後1時
■ノイエ・サンスーシ グリューネワルト伯爵邸
一難が去ったアンネローゼに近づく影があった。
「グレーザー、私のせいで、あれほどの多くの方の命が・・・・」
「伯爵夫人、余りお考えになりますとお体に障りますぞ」
「けれど・・・」
「それならば、責任をお取りになるために、御自害為さるが宜しいかと」
「な・・」
「全ての罪を伯爵夫人に取って頂かないと、私が困るのですよ」
「グレーザー貴方は?」
「気がつかれませんでしたか、さる御方の命で伯爵夫人を監視していたのですよ。さあ此処に、毒酒がございます。御自害なされませ」
ジーク助けて!
アンネローゼは心の中で叫んでいた。
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