魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第130話「説明、その一方で」
前書き
緋雪の真実、それと現状の説明。
そして、その頃の各地の様子です。
=優輝side=
……吹っ切れたとはいえ、蒸し返されれば憤りは感じるのだろう。
緋雪の事を好き勝手言われた時、それほどまでに僕は頭に来ていた。
むしろ、よくあの場で怒鳴り散らさずに済んだと思える程だ。
「優輝!」
「アリシア、一足先に来たのか」
「うん。藍華と明人に一言声を掛けてからだけどね」
体育館で皆が来るのを待っていると、アリシアが一番乗りしてきた。
どうやら、友人(僕から見れば弓道部の先輩)に声を掛けてから来たようだ。
「……複雑な事情があるみたいだね」
「さすがにわかるか?」
「優輝が怒るぐらいだよ?遠目でもわかるくらいの怒気に、思わず神夜を止めに行くのを忘れてしまうぐらいだったよ」
……あの時、止めていたはずのアリシアが降りてこなかったのはそういう訳か。
多分、なのはも同じ理由だろうな。
「緋雪……過去に何かあったんだね?それも、優輝が怒る程の何かが」
「……まぁな。説明は集まってからにさせてもらう」
「……了解。ま、私は優輝の味方でいるからね。これでもお姉さんなんだから!」
“ふんす”と言った感じに腕をまくるアリシア。
最近は姉らしい貫禄を持つようになったけど、如何せん身長と威厳が足りない。
「それにしても、いつもは頼りにしてる癖に、こういう状況になったら恐れるなんて、酷いものだよ。確かに信じられないだろうけどさ」
「……そうでもないぞ。どうやら、僕は友人に恵まれていたようだ」
体育館の入り口の方に視線を向けると、そこには聡と玲菜がいた。
その後ろには、小学校からの友人やこの学校で出来た友人もいた。
……他の生徒よりも先にここに来たようだ。
「……優輝」
「真実を聞く覚悟はできているんだな?どう言い繕った所で、僕が緋雪を殺したという事実は変わらないし、否定しない」
「そうなのか……」
代表して聡が僕に声を掛けてくる。
「……いや、お前程の奴が思い詰めてしまう程の事だ。……なら、せめて俺達はお前を否定しない。俺と玲菜も、お前に助けられたからな」
「そうか……助かる」
本当にいい友人を持ったものだ。
ほとんど知らなくても、こうして信用してくれる。
「……集まった……か」
総勢750人程の生徒と教師が集まる。
……どうやら、全員が集まったようだ。
「……さて、全員が集まったようだし、話すとしよう」
前の檀上に立ち、霊力を用いて声を響かせる。
マイクのように音を大きくするというよりは、霊力を広げて浸透させる感じだ。
これで、騒めいていた体育館内の注目が全部こちらへ集まる。
「状況が状況なので、深く話す時間はない。よって、ある程度簡潔に話すが……まず、知ってもらう真実は、僕の妹、志導緋雪は吸血鬼だ」
その言葉の時点で、一気に騒めきが大きくなる。
そりゃそうだ。“吸血鬼”。それは人外の中でもポピュラーな存在。
緋雪がその存在だった時点で驚きだろう。
「嘘だと思うだろう。ありえないと思うだろう。……だけど、事実だ。正しくは、吸血鬼によく似た生物兵器……だがな」
「優輝君……」
“生物兵器”。その単語を言う時に若干拳に力が入る。
それに気が付いたのか、司が心配したようにこちらを見てくる。
……大丈夫。問題はない。
「生物兵器。……この単語の時点で皆は嫌な想像しかできないだろう。……ああ、その通りだ。僕だって思い出したくもない。……先に言っておくが、緋雪は元は人間だ。攫われ、人体実験をされた結果、こうなった」
前世の事は省く。今は伝える必要がないし、伝えるとさらに混乱する。
今話すのは緋雪の事。生物兵器と言う宿命を背負わされた事だ。
「生物兵器としての特徴を話しておこう。まず、身体能力は吸血鬼によく似たと言われるだけあって並外れている。腕力は大木を薙ぎ倒し、脚力は校舎を軽々飛び越えるだろう。……そして、吸血能力。これが吸血鬼に似ると言える所以だ」
そのまま特徴を話す。
常に血を必要とする事。
再生能力は高く、心臓と頭を潰さないと再生する事。
……そして、何よりも血を吸い続けると理性がなくなっていく事。逆に吸わなければ体が自壊して死に至る事。……それを皆に伝えた。
「緋雪は悲しんだし、嘆いた。どうしてこんな体になったのかと、どうして自分がこんな目に遭わなければならないんだと。……僕も同じだ。なんで緋雪が、妹があんな目に遭わなければならないと!何度も憤った!」
理性を失う事、血を吸わなければ自壊する事。
これを聞いて一部の人や教師陣はある程度察したらしい。
なんで緋雪が死んだのか。なぜ僕が殺したのか。
「……それでも、人間らしく生きた。体を作り変えられる前と同じように、笑って、遊んで、楽しんで……“普通”に生きようとした。僕も尽力したさ」
ああ。その後は容易に想像できるだろう。
……そんなの、“続く訳がない”と。
「でも、限界が来た」
実際、ムートの時も限界だった。
民からの恐怖は防ぎきれなかったし、シュネーの心は限界寸前だった。
「血を吸わずにいれば、自壊する。逆に吸えば、心まで“人間”ではなくなる。それに、人に迷惑を掛ける。……なら、どうするべきか?……その答えが、“死”だ」
「っ………」
何人もの人が息を呑んだ。
ああ、大部分が理解しただろう。理解してくれないと、困る。
「心も体も人ではなくなる。それを緋雪は拒んだ。せめて心は“人間”のままでありたいと。……そういって、僕に殺される事を望んだ」
実際、殺される事を望んだ緋雪の胸中が、どんなものだったか僕だって分からない。
まだ生きていたいのに、それでも死を望んだ緋雪は、一体……。
「……だから、殺したんだ。緋雪が、最期まで笑っていられる選択は、もうそれしかなかった。……これが、緋雪の、僕の妹の死の真実だ」
誰もが絶句していた。特に、緋雪の同級生だった奴は。
思いもよらなかったのだろう。こんな身近にそんな重い話があるとは。
「これを聞いて、なお僕の事を人殺しだと罵るなら罵るがいい。僕と緋雪がどう思っていたにしろ、その事実は変わらない。……変えるべきではない」
“人殺し”。つまる所“人”を殺した証とも言える呼称だ。
……それは、最期まで“人”でありたいと願った緋雪を人足らしめている事でもある。
「だけど、それで緋雪が殺されて可哀想などと、勝手な考えはやめてもらおうか。望んでない結末にしろ、緋雪は笑って逝った。“人間”のままであるために。……まぁ、身の上の話でそう思うのは構わないが。……以上だ。長々と聞かせてすまない。でも、誤解されるぐらいなら説明しておきたかった」
そういって、僕は話を終える。
……誰もが立ち尽くしている。ただでさえ驚きの連続な状況が続いているのに、緋雪の真実を話したらこうなるのは当然だ。
「優輝君、緋雪ちゃんの事を話したのはいいけど、この状況の説明は……」
「……さすがに連続で聞かせるのはまずいな…。でも、知っておいてほしいしな」
司の言葉に少し頭を悩ませる。
……それに、学校の皆だけじゃなく、住宅地の人達も知るべきだ。
けど、だからと言って毎回説明していられる程余裕はない。
「……しょうがない。まず先生たちに知ってもらって、先生から皆に教えてもらおう」
「丸投げするんだね……」
「事態が事態だしな。……それに、管理局への応援要請も済ませている。夜中に緊急要請もあったから、管理局ももうすぐやってくる。そっちと連携も取らなきゃならん」
「……そうだね」
門を探している間にクロノ達に連絡を入れておいた。
ロストロギアが現在進行形で猛威を振るっているならば、すっ飛んでくるはずだ。
「とりあえず、先生達に声を掛けてくる。司達はできれば皆が変な行動をしないように見張っていてくれ」
「……校舎に戻しても?」
「大丈夫だ。……だけど、体育館にいた方が把握はしやすいな」
「分かった。こっちは任せて」
「優輝さんも、説明は任せたわ」
司、奏にそう伝え、僕は先生達に声を掛け、体育館横に集まってもらう。
「……それで、今度は何の話だ?」
体育科の近郷先生が代表して聞いてくる。
……先生方も中々に顔色が悪い。よく理解したからこそ来るモノがあったのだろう。
「……今の状況についてです。……尤も、僕も一部しか把握できていません」
「校舎に集まってきていた変な奴らの事か……」
とりあえず、簡潔に妖について話す。
幽世の門の事、そこから湧き出るのが妖である事など、必要事項を話す。
「大体は理解できた。……こんなオカルト染みた事が日本全土にか…」
「江戸時代にも同じ事があったらしいですけどね……」
「……じゃあ、それに対抗できる志導達は一体何なんだ?志導達の他にも、見かけない少女が二人いたが……」
あの混乱しそうな状況下で誰がいたのか大体把握しているのは凄いな……。
「……妖…妖怪に対抗する存在と言えばわかりやすいでしょう?」
「……陰陽師…」
「その通りです。それとあの二人ですが…式姫と言って、所謂式神に似た存在です。僕の家族でもありますけど。」
厳密には霊術使いの域を出ないけど、そこは分かりやすい説明でいいだろう。
「ただ、同時に魔導師と言う存在でもあります」
「魔導師……魔法使いか?」
「和と洋が入り混じってるな……」
榊先生の言葉に苦笑いする。まぁ、確かに入り混じってるな。
「話せば長くなりますが……簡単に言えば、地球とは別の世界では魔法が発展しており、僕らはその力を扱えるという訳です。……また、陰陽師と同じように西洋には魔術師と言うのもいますが…まぁ、今は関係ないですね」
「……頭が痛くなってきた…」
気持ちは分かりますが、今は我慢してください。
「その別世界から時空管理局と言う組織がもうすぐやってくるので、その事も言っておきます。……管理局については、警察みたいなものだと思ってください」
「警察…そうだ。警察は今どうしているんだ?」
そういえば、他の場所の状況を僕らは把握していない。
それに、警察も無力ではないはずだか……。
「身近な組織を忘れてましたね…。先生方から伝えておいてください。僕は僕の伝手で警察に伝えておきます」
「……志導、お前はどうしてそこまで…」
「誰かを守る立場って言うのは、初めてではありませんから。……大切なモノを守るのは当たり前でしょう?」
それを緋雪の事と受け取ったのかは分からないが、今ので先生達は納得したようだ。
「……では、僕らも動かなければならないので。校舎に張られた結界から出ない限り、相当安全なので皆に伝えておいてください」
「……ああ。……月並みな事しか言えんが、頑張ってくれ。無理は…するな」
「……はい」
後の事は先生方に任せ、僕は司達を連れて屋上へと向かう事にする。
アリシアだけはクラスメイトに一言言ってから来るようだ。
ちなみに、先生達には校舎からは出ないようにちゃんと伝えてある。
「優輝!」
「聡、玲菜……」
屋上に向かう途中、聡と玲菜が追いかけてくる。
「……どこに行くんだ?」
「日本全土がこんな状況になっている。その解決にだ」
「っ………」
先ほどの戦闘を見て、その過酷さを想像したのだろうか。
聡と玲菜は戦慄したような顔になり……。
「……深くは、聞かねぇ。……けど…」
「皆...無事に帰ってきて……」
「身近にいたお前や、司さん達があんな風に戦って…どんな人生を今まで送ってきたのか、俺にはわからん。だけど、これだけは言える……。俺は、待ってるからな!お前の友人として、待っているからな…!だから…だから絶対!無事に帰って来いよ!!」
言いたい事は他にもあったはずだろう。
だけど、それを押しこんで聡は僕たちを激励した。
「……ああ。絶対、戻ってくる。僕が約束を違えた事あったか?」
「ねぇな……ああ、一度もなかった」
軽く笑いあい、すれ違いざまにハイタッチする。
そのまま、僕は皆に視線を送り、一斉に屋上まで跳躍した。
『……状況は大体理解した。僕からも警察に伝えておこう。何、個人的な知り合いがいるから信じてもらえるだろうさ』
「では、そちらは任せます。士郎さん。魔法、霊術の分野は僕らが担当します」
士郎さんに軽く状況を説明し、警察と連携を取ってもらうようにする。
他にもリスティ・槙原さんが刑事なので連絡を取ろうと思ったのだが……。
「(……連絡先交換してない…。那美さんから伝えてもらおうにも、那美さんにも繋がらないし……)」
連絡先を交換していなかったため、伝える事が出来なかった。
しかも、那美さんとも繋がらない。
「……那美は退魔士だから、もしかしたら妖の対処に駆り出されているかもしれないわね……」
「……そうだな」
見張りを続けていた椿が、繋がらない理由を推測してくれる。
……と、そこへアリシアが追いついてきた。
「お待たせ!クロノから通信は?」
「まだだ。……そっちはもういいのか?」
「うん。皆、深く聞かずに待っててくれるみたい」
アリシアもいい友人も持ったらしい。……と言うか十中八九あの先輩達だな。
プレシアさんやヴォルケンリッターも既に集まっている。
リニスさんやアルフ、シャマルさんとザフィーラ、ヴィータは街に残っている。
とりあえず、これで面子は揃った。
『優輝!ちょっといいか…って、そっちも行動していたか……』
「クロノ、とりあえずこちらで対処はしておいた。……が、魔法と霊術についてばれた上に、日本全土に影響が出ているから人手が足りない状況だ」
『さすが、行動が早いな……。状況確認がしたい。知っている部分だけでも経緯を教えてくれ』
「分かった」
クロノからの通信に、僕は説明する。
時々椿たちの補足を交えながらも、これからの行動のために細かく説明した。
=out side=
―――……一方……。
ドスッ!
「……っと……」
場所は変わり、沖縄本島。
そこにも妖は現れており、少し騒ぎになっていた。
その中で、一人の女性が手に持った槍で他の人達を守るように戦っていた。
「あ、貴女は……」
「これで全部か?」
槍を一回転させ、立てながら他の人達に尋ねる女性。
赤い髪に獣の耳。尻尾も生えており、その恰好は身軽なものだった。
……些か、身軽すぎて露出が多いが。
「……守り人様…?」
「っ……その名、まだ知っている奴がいたのか…。まぁ、いいか」
守られていた内の一人の呟きに、女性…シーサーは頭を掻きながら言う。
だが、すぐに感じ取った気配に対して槍を構える。
「……倒した傍から湧き出てくるか…。……以前と同じだな」
「その恰好と槍は……」
「悪いが説明している暇は…っと、ない!」
キィイン!ドスッ!
再び襲ってきた妖の爪を弾き、串刺しにする。
「早く避難して警察を呼んでくれ。……オレだけでもやれる事はやるが、どこまで行けるか…」
「しかし……」
「早く!」
シーサーの大声に、他の人は慌てて避難を始める。
そして、一人残されたシーサーは……。
「妖……まさか、幽世の門が開いたというのか?なんで、この時代になって…」
再び現れた妖を薙ぎ払いつつ、シーサーは駆ける。
探しているのはどこにあるか分からない“幽世の門”。
なぜ妖が現れたのか分からないが、あり得るならそれだと踏んでいた。
「とりあえず、“門”を閉じてからあいつらと連絡を取るか」
シーサーが思い浮かべるのは、修学旅行の時偶然会った優輝達。
他の式姫とも知り合っている彼なら何か知っているかもしれないと思ったのだ。
「はあっ!」
気合一閃。見つけた妖を即座に串刺しにした。
「……やはり、衰えているか。大気中の霊力が増したとはいえ、あの時に比べればだいぶ弱まっている…。ちっ……!」
ガキィッ!
隙を突くように現れた妖の攻撃を槍で遮るように防ぐ。
「(“門”は……あっちか?)」
僅かに瘴気らしきものが混じっている霊力を見つけるシーサー。
それを辿るようにして、“門”を探す事にした。
「きゃぁああああ!」
「うわぁあああ!」
幽世の大門がある京都。その中心地。
そこでも妖が多く現れ始めていた。
幸いにも警察が既に応戦をしているが、範囲が広いために阿鼻叫喚となっていた。
「ひっ、あ……あ……!?」
その中で、逃げ遅れた子供が一人。
目の前の妖に怯えるようにその場にへたり込んでしまった。
「させません」
ザンッ!
そこへ庇うように躍り出た影が一つ。
子供の前に出たかと思えば、腰に携えた刀で妖の首を一閃の下に断った。
「……良かった、無事ですね」
「ぁ……」
「さぁ、早く逃げなさい。ここは私が何とかします」
「あ、ありが、とう……」
優しく声を掛けると、子供はお礼を言って避難を再開した。
「……この状況でお礼を言えるとは…良き子供を守れてよかったです」
守るべき者を守れたと、その人物……蓮は安堵する。
しかし、すぐさま刀を構えなおす。
「しかし……」
襲い掛かる蛇のような妖...七歩蛇の攻撃を躱し、切り裂く。
さすがと言うべきか、京都には妖怪の伝承が多く残っている。
そのため、他の地域と比べて妖の質と量が多かった。
「これは一体、どういう事なのですか……?」
目の前に広がる惨状。
それはまるで、かつての江戸時代。
幽世の大門が開かれていた当時のような様子だった。
「幽世の門が、現代において開いたというのですか……?」
受け入れがたい現実。それが目の前に広がっている。
各地で銃声が響いている。警察も応戦しているのだ。
「(……霊力も感じられる…。現代にも、陰陽師は残っていたのですね…。なら、私も……)」
まずは住民の安全を。
そう考えた蓮は刀を鞘に仕舞い、逃げ遅れた人を探しに行った。
「くぅ!」
「もう!何なの一体ー!?」
愛知県の三河市。その一画にて。
雷が迸り、鳥のような姿の妖…以津真天が撃ち落とされた。
「うぅ……軽く受けるんじゃなかった……」
大声を上げた女性…那美は溜め息を吐きながらそういった。
同行していた久遠も常に少女の姿を取っており、臨戦態勢を崩していない。
「それにしても、ここまでいきなり襲われるようになったのって…私達のせいじゃないよね?」
「くぅ……多分…そう?」
「嘘ー……。連絡を取ろうにもその暇がないし……」
霊力で障壁を張りつつ、那美は嘆く。
事の発端は、ニュースでもやっていた正体不明の存在…妖の正体を探るため、那美に仕事が入ってきたのだ。それを受け、今に至る訳である。
ちなみに、那美にその仕事が来たのは目撃情報から一番近かったからである。
「……もしかして、これって妖怪と言うか…妖?」
「くぅ……?神様が言ってた…?」
「う、うん。今朝から感じられる霊力は多いし、椿ちゃん達からちらっと聞いた話からずれてないし……」
「……“幽世の門”?」
「あるの……かなぁ?」
その予想は当たっているのだが、いまいち自分の予想に自信が持てない那美は、とりあえず原因を探るために移動を始めた。
目指すのは、感じられる瘴気が強くなっている方向。
それは、奇しくも幽世の門がある方向だった。
「ふっ……!」
「オオオオオオォッ!!!」
ギィン!ドォオン!!
振るわれた大きな拳を、刀で弾くように逸らす。
逸らされた拳は横に逸れ、地面に窪みを作る。
青森県陸奥市。下北半島にある恐山と呼ばれる山の一画で、大きな鬼と一人の少女が戦闘を繰り広げていた。
「っ!」
続けて薙ぎ払うように振るわれる足。
少女はそれに手を添え、その勢いで飛び上がる事で回避する。
「はぁっ!!」
―――“斧技・雷槌撃”
「ヌゥウウウッ!!」
御札から斧を取り出し、刀からそれに持ち替える。
同時に雷を纏った一撃を振り下ろす。
それに対して鬼は腕をクロスさせてそれを防ぎきる。
……斧の一撃は重く、本来なら腕は両断されるはず。
しかし、鬼の皮膚は堅く、その一撃ですら軽い傷をつける程度しか効かなかった。
〈何ともまぁ、頑丈だねぇ〉
「軽口叩かない!……まったく、面倒なものね…!」
ガードされた際に間合いを取って着地した少女はそう呟く。
対し、首に掛けた小さな西洋剣のアクセサリーからの声はどこか他人事だった。
「マーリン。良い手はないかしら?」
〈何とも言えないね。妖相手は君の方が知っているだろう?〉
少女…土御門鈴はデバイスであるマーリンに尋ねる。
……が、返ってきた言葉は所謂“自分で頑張れ”だった。
「まったく……!」
「ォオオオオッ!!」
そこへ、休む暇を与えんとばかりに鬼の攻撃が迫る。
鈴は“そういうと思った”とばかりに溜め息を吐き……。
「久しぶりに、手応えあったわ」
―――“刀奥義・一閃”
その拳を躱した上で、首に一太刀。
綺麗な軌道を描くその一撃は、見事に首を断った。
闇雲に攻撃をしても徹らないのであれば、一点に集中させればいい。
その一太刀に込められた力は、まさにそういったものだった。
〈お見事〉
「まぁ、これぐらいはね」
小さな傷を何度も与えていたとは言え、ほぼ一撃。
それだけで鈴は鬼の妖を仕留めた。
「封印……っと」
〈……ところで、これは君が言っていた“幽世の門”かな?〉
「……ええ。何の因果か、現代において再び開かれた。……嫌な予感がするわ。すぐに移動しましょう」
すぐに下山を開始する鈴。
降りた先には土御門家が手配した車があった。
〈魔法関連の事だけど、夜中に緊急要請があったよ。それも無差別にね。発生源は京都。……“幽世の大門”も京都にあったよね?〉
「……魔法が関わっていると言うの?」
〈憶測だけどね。……尤も、無関係ではないと思うよ。偶然にしてはタイミングが合いすぎている〉
「……………」
下山の間、鈴は思考を巡らす。
「……もし、幽世が関わっているのなら、私や現代の退魔士だけでは対処できないわ。……助っ人を見つけに行くわ」
〈助っ人……当てがあるのかい?〉
「この状況下だからこその…だけどね。それに、協力してくれるとも限らない」
〈……それは、一体…〉
マーリンにとって、鈴と出会ってから辿っても特定の頼る相手はいない。
助っ人となる人物はいないと記憶していたが……。
「……助っ人は妖よ。妖と一概に言っても、中には理性がある者もいるの。さっきの大鬼だって、会話はしなかったけど理性はあったでしょう?」
〈なるほど……。それで、その妖の名前は?〉
麓に停めておいた車に乗り込み、運転手に岩手県に向かうように指示する。
そして、マーリンの問いに対して……。
「……悪路王よ」
その名を告げた。
「………あ、力が戻ってきた」
「本当?もしかしたら、誰かが倒してくれたのかもね」
「これなら元に戻れるかな。咄嗟に作った式神の体だと違和感があって……」
「そうだね……」
「“こっち側”からも何とかできないかな?」
「ちょっと考えてみるよ」
……動きがあるのは、現世だけではない……。
後書き
七歩蛇…“しちほだ”とも読む。四本の脚が生えた蛇型の赤い竜のような姿をしている。七歩も歩く事がができない毒を持つ事からこの名前を持つが、訓練を積んだ陰陽師や式姫には大したことはないらしい。
以津真天…鳥の姿をした妖。意味ありげな漢字だが、実際は当て字らしい。“いつまでも鳴く”ではなく“いつまで”と鳴くからこの名が付いたらしい。
斧技・雷槌撃…打属性依存の斧技。筋力による防御無視ダメージが大きい。雷と共に強力な一撃を放つ技。非常に使い勝手が良く、簡単に大ダメージが出せる。
大鬼…鈴が倒した鬼の妖。鬼の伝承は広く伝わっているので、割とどこにでも現れる。守護者となっていたので相当強い。見た目はでかくて厳ついありがちな鬼。
悪路王…今の所名前のみ登場。蝦夷の首長や盗賊の首領、鬼など諸説ある存在。この小説(と言うかかくりよの門)では鬼となっている。同一視される阿弖流為は彼の別側面の存在みたいな扱い。ちなみにイケメン。
中途半端(にわか知識も良い所)に知られたのなら、むしろ誤解されない程度まで説明していくスタイル。小学校が同じだった面子は愕然としており、そうでない人達も優輝の気迫から軽々しく考える物ではないと理解させられています。
後半の方であっさりと屠られた鬼ですが、その剛腕から繰り出される一撃は霊力と魔力の相性関係なしになのはの防御をあっさり貫きます(しかも本気ではない普通の一撃)。おまけに防御力も高いという中々の強敵ですが……あっさり屠られました。127話で椿たちに屠られた龍神も本来なら中々強い扱いです。相手が悪かったんや……。
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