勇者にならない冒険者の物語 - ドラゴンクエスト10より -
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
転生
倉門信は、浮遊していた。
どこに、と問われると皆目見当もつかないが、淡い青い輝きの空間にいるのだと言うことだけはわかる。
両の手を見て見るが、色が褪せているようでどうにも頼りない。
視線を降ろして身体を確認して見ると、心臓のあるあたり、胸の内側に明るく燃える光球が見えて自身の身体が半透明になっている事を理解した。
なぜこんな状態にあるのか思い起こして見る。
確か、マンションの屋上から飛び降りそうな少女を思いとどまらせようとして、自殺に巻き込まれたはずだ。
アスファルトに墜落した衝撃と鈍い音。一瞬の激しい痛みが思い起こされる。
(ああ、つまり、やっぱり死んだって事だよな・・・。なんちゅーあっけない終わり方だろう。つまらない死に方したなぁ〜)
倉門信は、ため息を吐いて大きく肩を落とした。
何もないただ青い空間で、途方にくれる。
果たして、どの位そうしてぼーっとしていただろう。
ふと気付くと、彼の遥か下方に円形の神殿のような構造物があるのに気付いて目を見張る。
どうやら緩やかに落下しているようだった。
それが何かを確かめたい。その一心で神殿を凝視していると、心なしか落下速度が上がった感じがする。
より鮮明に意識して見ると、念じる強さによって落下速度も変わるし、縦横無尽に動けるらしいことが解って来た。
飛行するイメージで神殿を目標にして見ると、スーパーマンよろしく飛翔して、あっという間に神殿にたどり着いた。
円形の神殿は、5本の5メートルほどの通路が伸びており、それぞれの先に神々しい石像が飾られていた。
それぞれに近付いて石像の台座のプレートを見て見る。
刻まれていたのは知らない言語だが、何となくだが不思議と読み取れる。
額に2本の角を生やした筋骨隆々たる戦士は、オーガ族。
猿のような猫のような人のような、コロンとした小人はプクリポ族。
魚のヒレのような耳を持つ美しい魚人は、ウェディ族。
小柄で尖った長い耳を持ち、背中に昆虫を思わせる小さな羽を持つ可憐な種族は、エルフ族。
120センチほどでありながら、筋肉質な小人は、ドワーフ族。
エルフとドワーフのイメージにギャップを感じながら何となくウェディ族の像の前で呆けていると、像の台座にうっすらと海の上の光景が見える気がして、吸い込まれるようにその光景に見入る。
そこは深夜。いずこかの諸島の沖合。
眼下に見える装甲を施されたセイリングシップは、船体後方に蒸気機関を搭載している比較的に大型の輸送船のようだった。
しかしその船は、巨大な数本の触手に絡め取られ、攻撃を受け、ひどく傷ついていた。
まさに満身創痍だ。
率直に言って、ホラー・パニック映画のワンシーンのように現実味がなかった。
と、船が強烈な黄色い光に包まれるや、轟音と共に発した電撃を伴う広範囲に渡る炸裂の直撃を土手っ腹に受け、あっというまに爆散する。
倉門にしてみれば、何を見せられようとも何かを出来るわけでもなく、ただ眺めているだけだ。
何かを感じるわけでもなく、爆散した船の残骸が波の上を広がり、流されていくのを自然と追っていく。
気がつけば、倉門の「魂」は映像の世界の中にいた。
漂流する残骸の上を舐めるように飛行していると、生存者らしい影を波の内に見つけて追跡を始める。
セイラー服を纏ったウェディ族の青年が、鎖帷子を着込んだエルフ族の少女を右脇に抱えて必死に泳いでいた。
何度も、何度も、溺れそうになりながら。
見兼ねてか、声が聞こえるかどうかも解らない青年に向かって、倉門は自然と声をかけていた。
『救いたいって必死みたいだな。けど鎧着た人間抱えて泳ぐのって無茶だろう。助かりたいならそんなエルフ捨ててしまえよ』
ウェディ族の青年の表情が、心なしか険しさを増して見えた。
聞こえたのだろうか?
半信半疑で、更に声をかけて見る。
『そんなに助けたいなら、体力のある内に鎧を脱がせよ。重り持ったままよく泳げてるよな。奇跡だよな』
悔しげに歯噛みして、必死に泳ぎ続ける青年。
『胸触ったりあそこ触ったりしてもラッキースケベなだけだ。気にすんな。死の間際にそんな事気にして助けられるのかよ。助けたいのか助かりたいのかどっちだよ』
呆れるように吐き捨てると、ウェディ族の青年が明確な反応を返してきた。
「精霊か悪魔か知らないが、適当な事をいうな!助けたいよ!惚れた女を助けたくない奴がいるか!ふざけるな!」
おお、溺れながらよく喋る・・・。
「力を貸せよ・・・。見てるだけじゃなくて手を貸せよ声だけ悪魔!」
『声だけ悪魔は傑作だな。残念ながらどうやら俺は浮遊霊という奴らしい。声はかけてやるからとりあえず頑張りなよ』
「くそっ、くそっ!」
悪態をつきながらも必死に泳ぐ青年。
やれやれ、と哀れむような声色で、倉門は青年に声をかける。
『おっぱい触っちゃったらラッキーくらいに思っとけ。そしてその娘の鎧を剥ぎ取れ。モラル守って溺れるのかきっちりその娘を助けるのか、はっきりした方がいいと思うぞ』
その声に反応してか、ウェディ族の青年は、波に揉まれながらエルフの少女の身体を弄り始める。
茶々を入れたい気持ちになったが、さすがに我慢して見守っていた。
やがて和装に似た軽装な衣装になったエルフの少女を抱え直し、再び泳ぎ始めるウェディの青年。
それから実に、3時間以上深夜の荒波に揉まれながら、青年は泳ぎ切った。
空が白み始める頃、ウェディ族の青年は何処かの海岸に泳ぎ着き、砂浜を身体を引きずるように上がっていき、砂浜の中程まで行った所で、エルフ族の少女を右脇に抱えたまま倒れ込んでしまう。
あ、これはちょっとイカン。かも。
嫌な予感がして倉門が声をかけようとした時、彼の左脇に倒れたウェディ族の青年によく似た幽霊が浮かび上がるのを見て、あっと声を上げる。
ウェディ族の青年は、とうとう息を引き取ってしまったのだ。
死ぬな死ぬな、死んじゃいかん。元の身体に今すぐ戻れ。
そう声をかけようとした一瞬。
ウェディ族の青年の魂は倉門の魂の存在に気付き、振り向き、寂しそうに、しかし感謝の気持ちが一杯な表情を向け、そして天高く飛び去ってしまった。
『おい! おい! ばか! 何を勝手にやり切ってんだよ! 成仏してんだよ! あの娘どうするんだ1人にしていくのか!』
天に向かって叫ぶが、答えはついに帰ってこなかった。
途方に暮れて砂浜に横たわる男女を見下ろしていると、遠くで犬の遠吠えに似た叫び声が響いてきた。
浜辺からそれほど離れていない林を見ると、ホルスタイン柄のコウモリに似た奇妙な動物が3体姿を現し、大きな口を開いて近付いてくるのに気付き、それらが恐らく浜辺で倒れている二人を食事にしようとしていると感じて倉門はダメ元で奇声を上げながら幽霊状態にも関わらず拳を振り上げて突進していく。
幽霊状態の倉門が見えるのか、コウモリに似た奇妙な動物はびっくりして林の向こうに逃げ去って行った。
そうこうしている内に日は登り、炎天下の日差しにウェディ族の青年の遺体と、寄り添うように眠り続けるエルフ族の少女の肌を焼いていく。
『とりあえず、動物系は追い払えるってわかったからいいが、どうすんだこれ・・・。勝手に成仏しやがって、諦めよすぎだろバカ魚・・・』
横たわる2人の傍に胡座をかくと、倉門は溜息を吐いて右手で頬杖をついた。
未だ目覚めぬままのエルフ族の少女の顔を覗き込んで見る。
可憐と言うものを体現しているかのような美少女だ。
だからと言って、肉体を持っていたら寝込みを襲うかといえばそんな度胸は微塵もないわけだが。
再び浜辺を見渡してみる。
砂浜自体も相当な広さだが、遠くに岩場があり、背面には防風林とまではいかなくともそれなりに樹木が育っている。
人の手が入っているようには見えなかった。
強い日差しの下、湿気もある海沿いではウェディ族の身体はそう遅くない時間で腐食が始まるはずだ。
脳や内臓がまず駄目になって異臭が出始めるのではないだろうか。
その匂いで起こされたら、この美少女エルフは気の毒だな。などと不謹慎なことを思ってみる。
しかし、それから程なくして、エルフの美少女はけだるげに目を覚ますとウェディ族の青年の腕をほどいて片膝をついて辺りを見渡し始めた。
倉門と視線が合う。
思わずぎょっとするが、エルフの美少女は気に留めることもなく海の方に視線を移した。どうやら偶然見つめあう形になっただけで、彼女には倉門は見えていないようだ。
彼女は気が済むまで周りを観察すると、ようやくといった形でウェディ族の青年の身体をゆすって声をかけ始めた。
「おい、おい無礼者。どうやら私たちは助かったようだぞ。不本意ではあるが貴様には礼もしなくてはならんようだしな。おい、ほら、さっさと起きないか」
『いやいや・・・無駄だよお嬢さん。そいつとっくに死んでるから・・・』
エルフの美少女は倉門の声に気づくはずもなく、頑なに起こそうとしていた。
声色がだんだん震えてくる。
「貴様は勝手に私に恋文を出したり、声をかけてきたり、慇懃無礼な奴だとは思っていたが。こうして見るとまぁ顔は悪くはないな」
『それ、ほめてねーから・・・』
「ほら、さっさと起きないと砂浜のフライパンでウェディのから揚げになってしまうぞ。いや、ころもは無いからな。ウェディの蒸し焼きか?」
『怖いことおっしゃりますね。かわいい顔して』
「ほら・・・、だんだん潮が満ちてきている。ウェディといえども流石に溺れてしまうぞ・・・?」
『魚型の種族ってことは、海の中で呼吸できるんじゃないのかな・・・。地上で生活してる種族なら、というか哺乳類に分類されるなら水で呼吸できるわけではないのか?』
「・・・ほら、・・・お腹もすいただろう?・・・向こうにヤシの木がある。・・・貴様、取って食べられるようにしてくれたら・・・いろいろ・・・許してもいいぞ・・・」
『色々?! どこまでの色々?』
馬鹿な突っ込みに、エルフの美少女の言葉が重なる。
「いろいろは・・・色々だぞ・・・文字通り・・・・・・・・・・・・」
声の震えが限界に達しようとしていた。
泣いてしまうんじゃないだろうか?
聞こえないのをいいことに馬鹿な突っ込みを入れて遊んでいた自分が急に恥ずかしくなってくる。
だって仕方ないじゃないか。助けようにも体はないし、声も届かない。見ているしか出来ないのにどしろっていうのさ。
「目を・・・・・・・・・・・・」
あ、
これは、、、
やばい、、、、、、
「お前まで・・・・・・勝手に・・・助けて・・・・・・勝手に・・・・・・・・・・・・・」
どうしよう、もう見てられないんですけど。
でも、何もできないんですけど。
くそウェディめ、勝手にあきらめて成仏しやがって!
どうすんだこの状況!
「こんな事なら・・・アズランを出るのではなかった・・・・・・・・・・・・!!」
ついに涙腺が決壊して大量の涙を流し始めるエルフの美少女。
やばいー、やばいよー、何もしてないけどなんだか俺が悪いみたいな感じじゃないかー。
誰かどうにかしてー。
やりきれなくなっておろおろしていると、林の方から犬の頭を持つ軽装な人型の種族が蟹股でのっしのっしと歩いてきた。腰には90センチはあろうかという幅広の曲刀を下げている。
倉門が気付いた時には、すでにあと数歩のところまで近付いてきていた。
当然、彼のことは見えていないようだ。
「ワンオワンオ、昨日の嵐が明けたと思いやあ魚とエルフが流れ着いてるぜ」
「ワンオワンワンオ、よっくみると相当な美少女じゃワンか。これは高く売れるぜー」
「おうよ兄弟、猫島に売りに行く前にしっぽりと楽しむってのはどうだワン」
「おっ、いいねそれだねワン。おいそこのエルフ! ワンたちが恐かったら大人しくそこにまたをおっぴろげるワン!」
下品な発想の2匹(と数えることにした)が、長い舌をだらしなく振り回して唾をまき散らしながらエルフの美少女に迫る。
はじめは驚いたような表情をしたが、エルフの美少女はすぐに首を小さく左右に振り、小声でつぶやいた。
「そうか・・・。そうだな・・・。これはきっと私に対する罰だ」
ぎょっとして倉門が彼女を見る。
完全にあきらめた表情で、彼女は犬どもの前に腰を浮かし、股を広げようとしていた。
『まてまてまて! 何してんだ! どんな発想だそれは!!』
倉門が流石に焦ってやめさせようとするが、当然声は届かない。
「お、お、兄弟! こんな聞き分けの言い美エルフ初めてだワン!」
「うほ、うほ、これは今日はいい日だワンオ! 一発いくでワンオ!」
ワンオワンオワンワンオ!
ストリップを見る観客のように、艶めかしくも恥ずかし気に腰を浮かして涙を浮かべるエルフの美少女に犬どもは発情していた。
肉体があれば、倉門も同じだったかもしれない。
だとしても、彼の理性は怒りに傾いてきていた。
『やめろ、やめろって! 何してんだよ! 諦めるよりまず逃げるとか戦うとかしろよ! なんでいきなり諦めてんだよ!』
ワンオワンオワンワンオ!
さらにはやし立てて利き手で股座をまさぐり始める犬どもに、怒りが頂点に達しそうだ。
彼女は耐えるように唇をキュッと引き結び、涙を流しながら腰を弱々しく振って見せる。
「もお、もう、我慢の限界だワン! 俺から先に行っちゃうワンオ!」
「ワンオじゃねー! ふざけんじゃねーぞこのクソイヌが!!」
場の空気が一瞬で凍り付いた。
一同の視線が倉門に集まっている。
はっと我に返った瞬間、全身に即死してもおかしくないほどの激痛が走った。
「うーーーーぎゃーーーーーー、いっっって~~~~~~~~!? なんじゃこりゃあ!! 全身打撲というか筋肉痛というか骨折してるというか内臓破裂してるというか!?」
「う、こ、この魚野郎、死んでなかったワン!」
「どっちにしたって瀕死の魚に何ができるワン! ナマス斬りにしてやるワンオ!」
犬どもが腰の曲刀を引き抜いたのを見た瞬間、倉門の頭にざざっと音が鳴るほどに急激に血が上る。
痛みは何故か消えた。
そして、大きく振りかぶって襲い掛かってくる一匹の剣を握る拳に向かって前蹴りを一閃。
ぐぎりっと嫌な音がして、犬の右拳は人差し指から小指まで綺麗に折れていた。
「あ?だワン?」
その手から転がり落ちる曲刀。
さくっと砂地に刺さる。
「あーーーー!だワン! いってーワン! 折れたワンオ!?」
何も考えずに倉門の身体は動いていた。
喚き散らす犬の顔面に向かって左ストレート。腰を回して返す刃の右フック。
倉門のパンチは、見事に犬男の顎を打ち砕いていた。
「アーオ! アンアンオ!!」
痛みに砂浜の上を転げまわる犬男。
きっと、もう一匹をにらみつけると、そいつは及び腰になりながらも切っ先だけは向けてきた。
「さ、魚ぬくせに・・・。いい度胸! だワンオ・・・。今日のところは見逃してやらなくもないワンオ」
「へーそー、じゃあさっさと回れ右して逃げ出してくれよマジで。割とマジで。頼むよ」
じりじりと後退りをする犬男は、くるりと背を向けるや、
「アーーーーオーーーーーーーン! アンアンアオーーーーーーン!」
ぴくりっと、倉門のこめかみに青筋が浮かび上がる。
そうと知らず得意げに遠吠えを続けた犬男は、どや顔で振り向いて言った。
「ばーかめぇ! 仲間を呼んだワン。貴様など刺身にしてモンスターの餌にしてやるんだワンオ!」
ばたばたばたっと、林の向こうから数体の犬男が曲刀を片手に姿を現す。
「Cドッグ見参!」
「Dドッグ見参!」
「Eドッグ見参!」
「Fドッグ見参!」
「「「「「合わせて合計、4(シー)ドッグ!」」」」
「なめてんのか!!!!!」
怒涛の勢いで倉門が流れるようにワンツースリーコンボで次々とノックアウトしていく。
え? あれ? という顔で仲間を呼んだ等の本人は呆けていた。
ゆらりっと視線だけを向ける倉門。
「あんれー・・・おあとがよろしいようで~・・・」
「意味不明なこと言ってんじゃねーぞ。そう何回も、2回も、3回も、死んでたまるかよ。というか、俺は非常に頭にきてんだよわかるか」
「あのう・・・、そこのご婦人に手を出そうとしたからでしょうか・・・?」
「俺が今まさにまた死にそうになってるからだよ! 怪我のせいで!!」
怪我のせいと言いながらよく動く身体で、ハイキックをお見舞いする。
倉門のハイキックは見事に犬男、シードッグの延髄にクリーンヒットしていた。
「ゴブラッ、意味わかんねーんですけどワンオ・・・・・・」
つぶやきながら頽れるシードッグを見下ろしていると、だんだん痛みが復活してくるのを実感した。
激しく動いたせいか、痛みがさらに倍。
「ふ、・・・ふふふ・・・。マジで。・・・いやマジで・・・。こんな身体で人を抱えて泳ぎ切ったあいつ尊敬するわ・・・。これは・・・死んで当然だよな・・・。頑張った。うん。お前頑張ったよ。よくやった。そしてまた死ぬ俺・・・・・・・みたいな・・・・・・?」
「お、おい! 倒れてはだめだ! しっかりしろ!」
あわてて支えてくれるエルフの美少女。
この激痛がなければ、さぞおいしいシチュエーションなのにな。と、心なしか残念に思う。
「お、終わったようですにゃあ。いやー、助けに入ろうかどうか迷ってたんですが、おにいさんおつよいですにゃあ~」
(なんだろう、この死にそうな状況で癇に障る話し方が聞こえる。声色はかわいいっぽいがなんかむかつく)
「そ、その恰好は僧侶か!? 頼む! 治癒の魔法をかけてくれ! 今すぐにだ!」
「なんぼもらえますかにゃ? 無償で~というわけにはいかないんだにゃあ~。こうみえてこの破戒僧ジアーラちゃんは慈善事業で僧侶をしているわけじゃなく冒険者として僧侶をしているわけであって」
(どうでもいいわそんなもん。にゃーにゃーと。お前は猫か)
「緊急だと言っている! 金なら後で払う、だから今は治癒の魔法を・・・」
「えーどうしよっっっっっかなぁーーーーー。後で払うってミニ浴衣に下半身下着のエルフにすごまれたってなあーーーーー!」
(やばい、こいつすごいむかつく。というか、もう感覚がなくなってきた。・・・というか・・・)
「どう見たってお金持ってるように見えないしにゃああああ!?」
「くっ、貴様には人情というものがないのか!?」
「人情で人は食っていけないにゃ」
「この、くされオーガが!!」
「にゃっは~、ほめられちった~~~」
「ほめとらん!!」
(あー・・・なんかもう・・・視界真っ暗だし・・・もうどうでもいいや・・・あ、別の人の身体で死んだ時って、俺の魂どうなるんだろう・・・流石に消えるかな・・・?)
ぐらりっと円を描くように大きく揺れるウェディの身体。
あっという二人の女の声が聞こえた気がした。
倉門は、再び意識を闇の淵に落とそうとしていた。
「にゃ!? マジで死にそうだったにゃ!?」
ばたりっと、砂浜に仰向けに倒れ込む。
「ああ、まて! 死ぬな! 目を開けろー!」
「あああ、あんなに動いてたのに死にそうって矛盾してるにゃ! これ、どうすればいいのかにゃ?」
「治癒の魔法だ!」
「もうまにあわにゃい気がする・・・けどまあいっか! ベホイミ!」
(遅いよ・・・・・・・・・・・・)
闇に落ちる直前に治癒らしい魔法をかけられた気がしたが、感覚を失っている状態でははたして身体が回復したのかどうかなどかけらもわからなかった。
むしろ、解らないかもしれない。
だって、どうやら自分の身体ではないようなのだから・・・。
ページ上へ戻る