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うぬぼれ竜士 ~地球防衛軍英雄譚~

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第12話 オンナとオンナの前哨戦

 ――翌日。

「よく逃げずに来たわね。そこだけは評価してあげる」
「……」

 ペイルウイングの装備に身を包む2人の美少女。彼女達は今、とある通りの路地の前にいる。
 彼女達の近くに控える関係者達は皆、真剣な面持ちでその動向を見守っていた。

「ペイルウイングの強さは、機動性にある。地形や障害物を問わず、あらゆる状況下で誰よりも早く現場に到着できる能力は、この兵科の戦闘力に直結する」
「――?」
「ペイルウイングなら、わかっていて当然よね? その能力を競って――優劣をつけましょう。私とあなた。どちらが義兄さんの側に相応しいか」

 かりんは不敵な笑みを浮かべ、ビッグベンの頂点を指差す。

「目標地点は、あの時計台の上端。あそこにたどり着くまでの経路は、各人の自由。いかに速くあそこに到着できるか――それで決着を付けるわ」
「……空の公道レース……ということね。いいわ、受けて立つ。リュウジを、あなたに渡すわけには行かないわ」
「フン……まるで私達が奪いに来た、とでも言いたげな物言いね。――私達は、返してもらいに来たのよ。かけがえのない家族をね」

 空中でのレースなら、住民に危害が及ぶことはない。僅かな逡巡を経て、フィリダは決闘を受諾した。
 恐れることなく、毅然と向き合ってくる彼女の姿勢に、かりんは鼻を鳴らして背を向ける。そして、首にかけたロケットペンダントを開き――生前の姉を写した写真を見遣った。

「見ててね……姉さん。私は必ず、義兄さんを取り返して見せる」

 その黒い瞳に、確かな決意を宿して。

「おいおい、こんな民間人もいる街中でレースしようってのか? あの乳牛女。EDF隊員として、どうなんだよ全く」
「公的には、EDFのプロパガンダを兼ねたパフォーマンスということにしてある。それに、2人とも他国の支部にまで名が知れている実力者だ。心配はいらない」
「――お上の道楽には困ったもんだ。ダシにされてるアスカも災難だぜ」
「あはは……」

 一方、外野では。決闘の行方を見守る3人の男達が、ヒソヒソと言葉を交わしていた。ダシ扱いを受けたリュウジは苦笑いを浮かべ――ふと、かりんと目が合う。

(怪我だけはしないように、気をつけてくださいね。かのんさんも、きっと心配していますよ)
(……あぁ、見てる……! 義兄さんが私を見てる……! 厭らしい目で私のカラダを……! ダメ、ダメよ義兄さん、姉さんが見てる前で! で、でも、義兄さんが望むなら……私は……)

 ――アイコンタクトは、まるで噛み合っていなかったが。

「あはは……まぁ、今はどちらも怪我なく終わることを祈りましょう」
「フィリダの応援はいいのかい?」
「私の応援なんていらないほど、彼女は強いですからね。それに、かりんさんの機嫌を損ねてしまいますから」
「やれやれ……女の苦労が絶えねぇなぁ、お前」

 ため息をつき、2人の戦姫を見遣るアーマンドはそこで一度言葉を切ると――彼女達を穏やかに見つめるリュウジの横顔に視線を移す。

「しかしよ。お前が結婚してたと聞いた時は意外だったぜ。周りの女どもがキャーキャー言ってても眉一つ動かさなかったお前が、よろしくヤッてたなんてな」
「はは……彼女は――かのんさんは、他の方とは違うところがありましたから」
「へぇ、どんな?」

 戦友の問いに、リュウジは天を仰いで過去を思い返す。

 あの戦禍の中で、自分に向けられた眼差し。他の誰からも貰えなかった、その視線を――

『安心してくれ。君達は、オレが必ず守る。例え、命に代えても――!』
『――だめ! そんなこと、言わないで! あなたも生きて! 自分を、見捨てないでっ!』
『……!』

 ――言葉を。

「……」
「アスカ?」

 暫しの、沈黙。それを破るべく、アーマンドを見遣る彼は、華やかな笑みを浮かべていた。

「……私を称えてくださる女性の方は、確かに大勢いました。自分なら出来ると、背中を押してくれる人も」
「そりゃ、そんだけ顔がよけりゃな。それに『伝説の男』にゃ及ばないってだけで、俺達からすればお前も大概モンスターだからな。お前に縋りたがる女は多いだろうさ」
「けれど……『自分を見捨てないで』と願われたのは、彼女と関わった時が初めてでした」
「……へぇ」

 フィリダとかりんを見ているようで、見ていない。ここではない、遠い何処かを見つめる眼差しで、リュウジはビッグベンが映る空を見上げていた。

(――かのん。君を失った今なら、わかる。強さが欲しいと口で言いながらも――オレはずっと、探し続けていたんだろう。強くないオレでも受け入れてくれる、温かい場所を)

 一文字竜士に戻るなら、自分は実力以上の強さを求められるようになる。自分が逆立ちしても敵わなかった「伝説の男」の、代わりを果たすために。

(たぶん……ここが、そうだったんだ)

 そんな生き方を、かのんは望んだだろうか。自分に「自分を見捨てないで」と願った彼女が。リュウジに必要以上の強さを求めなかった彼女が。そんなことを望むのだろうか。

(兵士としての強さなんて要らない。EDFも民間人もない。みんなが共に手を取り合って、大切なものを取り返すために生きる。そんな風に暮らしていけるこの街に、オレは今――君に似た安らぎを感じてるんだ)

 そう逡巡するリュウジの視線が、かりんの手の内にあるロケットペンダントに向かう。その中に仕込まれているであろう、妻の写真へ。

(……君と、離れるのは嫌だけど。けど、君にも、オレ達の子供にも――できれば、故郷の日本で。この先も生きていく君の家族を、見守ってあげて欲しいんだ)

「よし。2人とも、準備はいいな」
「はい。いつでも行けます」
「……当然」

 横一列に並び、飛行ユニットを展開する2人の姫君。その後ろ姿を、リュウジは静かに見守る。

「――用意、始め!」

(魂のままでもいい。生まれ変わっても構わない。だから――どうか。いつまでも。義父さん達を支えてあげてくれ)

 そして――義父の合図と同時に、鮮やかなジェットの軌跡を描いて飛び去って行く義妹を、無言で見送っていた。
 
 

 
後書き
キャラクタープロフィール 05

名前:一文字(いちもんじ)かりん
性別:女
年齢:16
身長:159cm
体重:42kg
兵科:ペイルウイング
趣味:テニス、義兄のブロマイド収集
スリーサイズ:B94.W57.H89 
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