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枕元

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第二章

 時間だけが過ぎる。けれどだった。
 どうしても寝られず見てしまう。そうしていると。
 枕元に何かが来た。それは。
 暗がりの中なのでよくは見えない。しかし大輔は恭介の話を本格的に思い出してしまった。
(来た・・・・・・)
 こう思って見た。だが暗がりの中でどうしても見えずに恐怖が余計に大きくなる。だが起き上がることはできなかった。
(若し起き上がっても)
 その妖怪には牙と爪がある。多分虎や熊の様に。それを考えるとだった。
(起き上がったら殺される)
 八つ裂きにされて内蔵を引き摺り出されて地獄に連れて行かれる、だからだった。
 どうしても起き上がれなかった。それでだった。
 動けなくなった。まるで金縛りにあった様に。彼が恐怖で布団の中で震えている間に。
 その何かは彼の枕元に来た。そこに正座したのがわかる。
(来る・・・・・・)
 大輔は本能的に悟った。尋ねてくるとだ。
 その尋ねてくる言葉が来るのがわかる。だがそれは中々発せられない。
 一秒が一年の様に感じられた。大輔は布団の中で震えながら質問を待った。そして遂にだった。
「ねえ」
(来た・・・・・・!)
 心の中で覚悟を決めた。その質問が来ることを。
 それで心で身構えた。だがそれ上に怖かった。その彼に。
 枕元にいる何かはこう言ってきたのだった。
「ねえ大輔」
「!?」
 聞き慣れた声だった。その声は。
「お兄ちゃん知らない?」
「あれっ、お母さん!?」
 その声にびっくりして枕元をよく見た。するとだった。
「ひょっとして」
「ひょっとしてじゃないわよ」
 確かに母だった。間違いなかった。
 母は寝巻き姿で大輔の枕元にいた。そこから彼に言うのだった。
「お兄ちゃん見えないけれど」
「お兄ちゃんいないって」
「そうなの。何処に行ったの?」
「寝る前に一緒にいたけれど」
「リビングで?」
「うん、お兄ちゃんビール飲んでたよ」
 このことを言うのだった。起き上がってから。
「それもかなりね」
「そういえばそうだったわね。それじゃあね」
 母はそれを聞いて納得した顔になった。それからだ。
 恭介にだ。こう言ったのだった。
「お風呂場に行って。多分ね」
「そこで寝てるの?」
「いつも飲み過ぎたらお酒を抜く為だって行ってお風呂に入って」
 そうしてだというのだ。
「そこで寝るんだから。だからね」
「お風呂場見に行って」
寝てたら起こして。全くいつもいつも」
「お兄ちゃんお酒好きだからね」
「飲むのはいいけれどね」
 だがそれでもだと言う母だった。
「飲んだ後はお風呂なんか入らずにね」
「ちゃんと寝ないと駄目なんだね」
「そう。おかしな癖があるんだから」
 母はぼやきながら大輔の枕元から去った。そうしてだった。
 大輔は起き上がって布団から出てそのうえで兄を探しに風呂場に向かった。すると恭介は裸で浴槽の中にいてそこで気持ちよさそうに寝ていた。
 恭介はこの後母にこってりと絞られた。しかしその次の日にはだった。
 夜にはまた美味そうにビールを飲み大輔にこう言うのだった。
「御前の通ってる小学校な。お兄ちゃんも通ってたけれどな」
「小学校に何かあるの?」
「あそこの音楽室のベートーベンの絵だよ」
 今日もまた怪談を話すのだった。
「あれな。夜になったら動くんだよ」
「動くって?」
「そうだよ。目とか口が動くんだよ」
 ありたきりの学校の怪談を話す。
「俺のダチが昔見たんだよ」
「夜になんだ」
「ああ、それでな」
 恭介は今日も大輔に怪談を話していく。そうしてだった。
 大輔は恐怖に震えるのだった。大輔にとって夏の夜は涼しいものになった。


枕元   完


                        2012・7・25 
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