英雄伝説~西風の絶剣~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
西風の兄妹と太陽と闇の姉弟
第24話 成長した姿
前書き
今回からリィンたちの年齢が一気に飛びます。
side:??
「黄金の軍馬」を紋章に掲げる古き伝統と強大な軍事力を持つ大国、『エレボニア帝国』。この国は古くより猟兵が多く出入りしている国でもある。貴族同士のいざこざ、要人の護衛、歴史の裏側に動いた暗躍……この国は常に争いの種が生まれている。そんな国は戦場を生業にする猟兵にとって動きやすい国だった。それは彼らも例外ではなかった。
エレボニア帝国西部にある紺碧の海都オルディス。四大名門と呼ばれるエレボニア帝国でも強大な力を持つ貴族の一人『カイエン』公爵が納める巨大な街の遠く離れた場所にある荒野……そこに十数人の影が動いていた。
「はあ~、退屈……」
退屈だと呟いたのは赤い髪をした少女だった。見た目は可愛らしいがその手に持つチェーンソー付きのブレードライフルが恐怖を引きだたせている。彼女の名はシャーリィ・オルランド。ゼムリア大陸に存在する猟兵団の中でも最強の一角とも呼ばれる『赤い星座』の分隊長を務めている。
「お嬢、仕事に文句は言わないでください」
「分かってるけどさ~、依頼の内容が貴族同士の恋愛の縺れによる暗殺って……いまいち気分がのらないんだよね~」
「気持ちは分かりますが隊長がそんな調子じゃ困ります」
そんな少女に注意したのは赤いプロテクターを身に着けた男性だった。
彼の名はガレス、シャーリィと同じく赤い星座に所属する猟兵で連隊長であり団長のバルデルの右腕と言われる程の実力を持っている。
彼は最近赤い星座の分隊長になったシャーリィの補佐をするために常に彼女と行動を共にしている。自分は少し早いんじゃないかと団長にいったが副団長のシグムントの進めもあったそうで結局自分が暫く補佐する形でシャーリィが率いている赤い星座の部隊に入っていた。
この部隊は比較的若いメンツで構成されており、新人教育もかねて団長から任されている。だからこそベテランの自分がしっかりしないとな……ガレスはそう思いながら山道を歩いていると何かを見つけた。
「む……止まれ」
ガレスが合図を出し赤い星座の一部隊が前進を止める。
「お嬢、分かってると思いますが……」
「うん、導力地雷が仕掛けられてるね」
彼女たちが今進んでいる道は左右を崖に挟まれた山岳地帯、そこに猟兵がよくつかう導力地雷が仕掛けられているという事は自分たちを狙う奴らがいるという事だ。
「…同業者か。さてどこから情報が漏れたか……お嬢はどう思いますか?」
「さーてね、まあ敵がいるなら殺しちゃえばいいだけだし。えへへ、リィンだったらいいなぁ」
シャーリィの言葉にガレスはため息をつく。オルランド一族は昔から優れた戦士の血を引く一族で戦う事に喜びを感じる戦闘民族でもある。
この可愛らしい容姿の少女も戦場では何人も殺してきた生粋の猟兵だ。特に最近は自分たちが敵対する最大勢力に所属する猟兵の一人にお熱のようだ。
まあお嬢と殺し合って既に二桁は軽く超えている辺りお嬢が気に入るのも無理はない。団長の息子であるランドルフの率いる部隊に所属しているザックスは敵意をむき出しにしているがガレスとしてはお嬢と互角に戦える有能な若造と思っている。
「お嬢、俺は『罠使い』の恐ろしさをよく知ってます。だからこそ言えますがこの罠は少しお粗末なものです」
「確かに直に見つけられるのなら罠の意味なんてないよね」
仕掛けられた罠はガレスからすればお粗末なもので猟兵をやっている人間からすれば直に分かるほどらしい。もし西風の旅団が来ていれば『罠使い』本人、またはその教えを受けている団員がこんなミスをするとは思えない。
「む、上だ!!」
ガレスが何かに気が付き上を向く、すると巨大な岩石が落ちてきた。
「地雷は足止めか!全員後方に回避!」
「「「了解!」」」
ガレスの指示で他の猟兵たちが後方に逃げるがシャーリィはその場を動かない。
「お嬢、何をやっているんですか!早くこっちに退避を!」
「……やっぱりそうだよね、ふふっ、シャーリィの相手をしてくれるのは……」
「……お嬢?」
ガレスはそう叫ぶがシャーリィは落ちてくる岩石をまるで恋人を見る目で見つめていた。ガレスはその表情に覚えがあった。お嬢が唯一認めた男を前にした時の顔だ。
シャーリィは自らの武器であるテスタ・ロッサを構えて岩石目がけて跳躍してテスタ・ロッサを振るう。
「『デスパレード』!!」
シャーリィの放った一撃は岩石を粉々に粉砕した。ガレスはシャーリィの非常識さを理解していたつもりだったがここまでとは思わなかった。
「す、すげえ……」
「流石シャーリィ隊長、とんでもないパワーだ」
まだ新人の若い猟兵達はシャーリィのしたことに驚いていた。だがその中でガレスだけが気が付いた、砕けた岩石の隙間から紅い閃光がシャーリィに向かった事に。
「お嬢!!」
ガレスが叫ぶがシャーリィは既にテスタ・ロッサを振るっていた。閃光とテスタ・ロッサがぶつかり激しい火花が飛び散る。
「あはは、やっぱり来ていたんだ。シャーリィには分かっていたよ?だってもう何回も『愛し合った』仲だもんね」
「『殺し合った』の間違いだろう?」
シャーリィに攻撃を仕掛けたのは風切り鳥が刻まれた黒いジャケットを着た黒髪の少年だった。ガレスはその姿を見て叫んだ。
「『西風の絶剣』リィン・クラウゼル!!西風の旅団か!!」
リィンと呼ばれた少年は炎が纏った刀でシャーリィに切りかかる。シャーリィは嬉しそうに笑いテスタ・ロッサを振りかざして迎撃する。落ちていく岩石の破片を足場にして二人は壮絶な空中戦を繰り広げる。
「あの二人空中戦をしてるぞ……」
「マジかよ……」
「何ボサっとしている!お嬢の援護をしろ!!」
唖然としていた新人達を叱りつけ自身も武器を構えるガレス、しかし殺気を感じた彼は体を横にそらす。すると地面に導力弾が当たりヒビができた。
「リィンの邪魔はさせない……!」
「現れたか、『西風の妖精』!!」
ガレスに発砲したのはリィンと同じく西風の旅団の象徴である風切り鳥の刻まれた黒いジャケットを着た銀髪の少女、リィンと同じ『クラウゼル』の名を持つ猟兵、フィー・クラウゼルだった。更にフィーの背後から西風の旅団に所属する猟兵たちが現れる。
昔から団に所属する古株も多数いるが今回は見かけない顔ぶれが多いとガレスは感じた。彼らは最近になって西風の旅団に入った新人たちだ、赤い星座と同じく新人の実戦練習もかねて今回の依頼を受けたがまさか自分たちと戦う事になるとは思ってもいなかったのだろう。
「お嬢の援護は無理そうだな。迎撃態勢に入る、武器を構えろ!!」
「「「了解!!」」」
ガレスは仲間に指示を出しフィーを迎え撃つ。そして戦闘が始まった。
「あはは、やっぱりリィンは最高だね!」
「付き合わされる俺の身にもなってほしいものだ」
崖を登りきった二人は崖の上で死闘を繰り広げていた。テスタ・ロッサを振りかざしてくるシャーリィに呆れながらもリィンは斬撃を放つ。シャーリィはそれをかわしながら火炎放射器から炎を出しながらライフルを乱射する。
「『クリムゾンスパーク』!!」
テスタ・ロッサから放たれた銃弾は炎を纏いながらリィン目がけて向かっていく。
「さあリィン、これをどうやって防ぐかな?」
「新しいクラフトを覚えたのか。ならば……」
リィンは刀を一旦鞘に戻した。シャーリィはその行動に怪訝そうな表情を浮かべるがリィンがこのくらいで死ぬ訳がないと油断しないようにテスタ・ロッサを構えてリィンに向かっていく。
「七の型『無想覇斬』!!」
リィンはその場で鋭い居合斬りを放つ。すると斬撃がリィンを中心に竜巻のように広がり銃弾を全て弾き飛ばした。
「『デスパレード』!!」
シャーリィは闘気を出しながらテスタ・ロッサを縦横無断に振り回しリィンに向かっていく。リィンも後方に下がりながら攻撃をかわしていくが段々とシャーリィの攻撃速度が上がっていくことでかわしきれなくなっていきリィンの体に掠り傷が出来ていく。
「前よりも早くなってるじゃないか!戦えば戦うほど強くなるのは知ってるが最近はそれが異常に早くないか?」
「そりゃこんな極上の獲物とやり合ってるんだもん。リィンだってそう言って直にシャーリィの動きに対応してるじゃん。やっぱりシャーリィとリィンってお似合いだね♡」
「戦闘狂扱いは御免だ」
リィンは否定するが掠り傷しか当たらないという事は彼もシャーリィの動きを即座に見切って尚且つそれに付いていくほどの実力を持っているということだ。じゃなければリィンはとっくの昔にシャーリィに殺されていただろう。
リィンとシャーリィの武器が火花を散らしながら切り結んでいく。昔ならつばぜり合いなどすれば刀がチェーンソーに持っていかれてしまう所だったが今のリィンはアルゼイド流の氣の鍛錬で見た目以上の膂力を引き出している。
太刀自体もかなりの技物を使っているがそれに八葉一刀流で学んだ自身の氣を武器に流す技によって強度をより底上げしているから刃こぼれなどはしていない。
そんなリィンの成長にシャーリィは歓喜の笑みを浮かべて愛おしそうに彼を見つめた。
「ああもう♡リィンってばシャーリィに負けないようにってドンドン強くなってるね。シャーリィの事をこんなにも喜ばせてくれるなんて本当にサイコーだね♡」
「別にシャーリィの為に強くなっているわけじゃないんだけど」
「うっそだ―――!だってあたしの胸をこんなにもキュンキュンさせているのに?下だってもうビショ……」
「変な事を言うのは止めろ!」
殺し合ってるにも関わらず普通に話し合える辺り、どちらも異常にしか見えない。少なくとも普通の一般人には理解できない光景だろう。二人が戦っていると突然シャーリィが離れて武器を収めた。リィンは何事かと思うがその理由が直に分かった。
「あ、ザックスじゃん。どうしてここにいるの?」
「お嬢、戦いの最中に申し訳ありません。ですが急ぎ伝えなければならないことがありまして……」
「ん、いいよ。話して」
二人の前に現れたのは赤い星座の一員であるザックスという猟兵だった。
リィンは最初は彼が所属するランドルフの部隊が増援に来たのかと思ったが、どうやら彼一人のようで増援とは違うようだ。シャーリィが武器を収めたためリィンも一旦戦闘を中断する。
「今回の依頼なんですが一部伝えられた情報と違う事がありまして……」
「違う事?」
「はい、今回の依頼は指定された貴族の暗殺でしたが、どうやら標的と依頼者がグルになっていたそうです。お互いに雇い合った猟兵に戦わせて壊滅させたほうが貴族の娘を自身の婚約者にする……ということらしいです」
「ふーん、つまりシャーリィたちは良いように利用されたって事?」
「そうなります」
シャーリィは笑っているが明らかにキレている。自分たちを騙した依頼者に殺意を放っていた。
(猟兵を騙した、それも赤い星座クラスの高ランクの猟兵団にそんなふざけた真似をしたのか……その依頼者は終わったな。そして俺たちの依頼者もグルか、ふざけやがって……)
リィンもシャーリィのように自身の雇った貴族に怒りを感じていた。
猟兵の世界では情報が重要となる。自らの団を生きのこらせるにはどんな些細な情報も必要になる。依頼者は猟兵にミラを払い情報を与え猟兵は依頼を実行する。そして死を乗り越えて強くなっていく猟兵団は高ランクの戦士と認められ払われるミラの額も大きくなる。
戦場の死神とまで言われる彼らにとって強さは唯一の誇りであり依頼とは信頼を得るための『約束』ともいえる。
だからこそ依頼者は猟兵に嘘などつくことは出来ない。ましては自分たちの知らない所でいいように使われていれば誰でもいい気はしない、自分たちに嘘をつくという事は相手から舐められているようなものだ。そんな真似ができるのは自分たちの恐ろしさを知らない無知な奴だ。
「ねえリィン、悪いけど今回はお互い無かったことにしない?なんか冷めちゃった」
「同感だな、俺もバカな貴族に用事が出来たし今回はここまでにしておこう」
リィンもシャーリィももはや戦う意思はなかった。シャーリィは戦いが好きだが猟兵としての本分は弁えており利益がなくなれば無暗に戦わないし無関係の一般人を巻き込もうともしない。リィンはシャーリィのそういう所を好いていた。
「さーてと報復はするとして……ザックス、他の皆は?」
「ガレス隊長たちも既に撤退を始めました。後はお嬢だけです」
「なら私たちも行こっか。またね、リィン」
「お、おい!?」
「あはは、顔真っ赤―――!」
シャーリィはリィンの頬にキスをするとその場を後にする。ザックスも後を追うが何故か一瞬リィンに殺気を込めた目で睨みつけその場を後にした。
「……行ったか。しかしザックスは何故俺に敵意をむき出しにするんだ?西風の旅団とはいえ俺だけ異常に敵意が強くないか?」
リィンは自身が何故殺気を向けられているのか分からずに首を傾げる。そこに崖を上がってきたフィーが現れた。
「リィン、大丈夫?」
「フィーか、俺は大丈夫だ。皆の被害は?」
「ん、怪我をした人はいるけど重症者はいない。赤い星座も直に撤退したんだけど何かあった?」
「まあ互いの依頼者が不義理を働いたようだ」
「……そう」
不機嫌そうに表情を強張らせるフィー、彼女も猟兵として自分なりの誇りを持っているのでいい気分はしないだろう。リィンはそんなフィーの頭をそっと撫でる。
「報復はするから安心しろ。殺しはしないが社会的には死ぬかもな」
「ん……リィン、もっと強く撫でて」
「って聞いていないし……」
嬉しそうにリィンの右手に頬ずりするフィーを見て苦笑するリィン。背は伸びたがまだまだ子供のようだ。
「皆を連れて戻るぞ、フィー」
「ん、了解」
そして二人はその場を離れて行った。後日サザーランドとオルディスに住む中級貴族の家が片方は見る影もないほど破壊されもう片方は自身の犯してきた犯罪を日の出にさらされて憲兵に逮捕され社会的信用を失った。
これはまだ序章ですらない。リィン・クラウゼルとフィー・クラウゼルの物語は始まりを迎えようとしていた。
「因みにリィンの頬からシャーリィの匂いがわずかにするけどなにされたの?なにしたの?ねぇ答えてよ」
(何で分かるんだよ……)
後書き
次回はリィンとフィーのデート回で二話くらい後に空の軌跡編に入る予定です。
ーーー オリジナルクラフト紹介 ---
『クリムゾンスパーク』
炎を纏った銃弾を無差別に放つ技。火傷60%、即死30%。
ページ上へ戻る