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真田十勇士

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巻ノ百六 秘奥義その十一

「それを観るのも楽しみじゃ、ただ」
「ただ?」
「ただといいますと」
「何かじゃ」
 首をやや傾げさせてだ、こう言った大久保だった。
「江戸にたまに不穏な気配を持つ者を感じる」
「不穏?」
「不穏といいますと」
「真田じゃ」
 その鋭い目で言った。
「この前城で半蔵殿とお話したがな」
「真田の者がですか」
「江戸に来ていますか」
「たまにしましても」
「とはいっても源三郎殿ではない」
 信之ではないというのだ。
「平八郎殿の娘婿のな」
「と、いいますと」
「それではですな」
「九度山に追放となっている」
「あの御仁ですか」
「いや、子の方のじゃ」
 大久保にはわかったのだ、そして服部にもだ。
「そして家臣のな」
「あの十勇士ですか」
「一騎当千の豪傑揃いという」
「あの御仁と共に追放になっている次男殿のですな」
「その家臣の」
「あの者達の気配じゃ」
 江戸で感じるものはというのだ。
「たまに感じる、そしてな」
「江戸を見ていますか」
「この町のことを」
「そして城もですな」
「ひいては幕府も」
「見ておるのう、間違っても物見遊山ではない」
 大久保にはこのこともわかっていた。
「そしてじゃ」
「天下を見てですな」
「これからの動きを見極め」
「そのうえで、ですな」
「どうするかを考えておられますか」
「多くの者は知らぬが」
 しかしという言葉だった、大久保の今のそれは。
「真田家は父親だけではない」
「あの鬼謀の御仁」
「あの御仁だけではないですか」
「ご子息もですか」
「厄介ですか」
「しかもその下の十人じゃ」
 つまり十勇士達もというのだ。
「この者達と対することが出来るといえば」
「それこそですな」
「幕府にもそうはおらぬ」
「そこが難しいですな」
「その十勇士達の動きが気になる」
 実にというのだ。
「幕府に何をするか」
「そこも気になるので」
「だからですな」
「気をつけていきますか」
「幕府の為に」
「そうする、若しまた見掛ければじゃ」
 その時はというのだ。
「容赦せぬ」
「切りますか」
「そうされますか」
「江戸市中は刀は抜けぬ様になっていくが」
 それでもというのだ。
「捨て置けぬわ」
「だからですな」
「若し再び江戸で強い気配を感じ」
「それが真田家の者とわかれば」
「その時は」
「わしが成敗する」
 流刑の者が勝手に出ているのでそれが出来るというのだ。
「容赦なくな、だからな」
「はい、我等もです」
「そうした話を聞けばお伝えします」
「そしてそのうえで」
「ご助力致します」
「頼むぞ、しかしな」
 大久保はここでさらに言った。
「相手は強い、手を出してやならん」
「ですな、伊賀十二神将に比肩するとか」
「伊賀者達の中でも最強と詠われる十二神将程となりますと」
「我等の相手になるか」
「言うまでもありませぬな」
「今江戸で相手が出来るのはわし位じゃ」
 槍の使い手として知られる自身のみとだ、大久保は語った。
「それも一人が精々、二人か三人となるとな」
「到底ですな」
「大久保殿でも相手にならぬ」
「そうした者達ですな」
「だから軽挙はならぬ」
 間違っても十勇士達に向かうなというのだ。
「よいな」
「はい、では」
「その様にします」
「そしてです」
「江戸で好き勝手はさせぬ様にしましょう」
「その様にな」 
 大久保は感じ取っていた、真田の者達が動いていたことを。そのうえでそれを防がんとしていた。幕府の安泰の為に。


巻ノ百六   完


                 2017・5・8 
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