天下一の城はどちらか
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第三章
「あれも発注しよか」
「よし、そやったら大阪の味総動員や」
「名古屋には負ける訳にはいかんさかいな」
「思いきりやったるで」
「それでや!」
食べ物から別の話にもなった。その話はというと。
「大阪城の模型も置こか」
「ああ、大阪城もやな」
「それもやな」
「そや、それどないや」
彼等は大阪城、彼等の象徴を出そうというのだ。
「飾りにもってこいやろ」
「そやな。通天閣も置いてな」
「ビリケンさんのお力も借りるか」
「それに虎もやな」
本拠地は西宮の甲子園だがそれでも大阪になっていた。これは。
「阪神の旗飾ってな」
「トラッキーにも来てもらうで」
「絶対に勝つで!」
「ああ、勝つのは大阪や!」
「ドラゴンズが何や!」
遂に野球の話にもなった。
「今年のペナントも勝つわ!」
「広島でくらいまっくすの前哨戦や!」
こう言いながら怪気炎をあげつつ彼等のコーナーの用意をするのだった。彼等は絶対に勝つつもりだった。少なくとも勝利を確信していた。
しかしそれは名古屋側も同じだった。彼等はというと。
「ういろうスタンバイだぎゃ!」
「きし麺ありったけ集めるだがや!」
「味噌来たぎゃ!」
「カツもあるぎゃ!」
「海老!海老だぎゃ!」
「味噌煮込みうどんもあるぎゃ!」
しかもそれだけではなかった。
「名古屋コーチンだぎゃ!」
「手場先に唐揚げだぎゃ!」
「ささみは刺身にするぎゃ!」
「名古屋の鶏の味見せてやるだぎゃ!」
「卵もあるだぎゃ!」
鶏も前面に出す。彼等も彼等のカードをふんだんに切ろうとしていた。
「あわゆきもあるだぎゃ」
「モーニングセットも出してやるぎゃ」
「食の都は大阪じゃないぎゃ」
「それは名古屋のものだぎゃ」
「それをここで教えてやるぎゃ」
「このカープの牙城でやってやるぎゃ!」
こう叫びながら彼等の用意をしていた。そして彼等もだった。
「名古屋城、シャチホコも完璧に作ったぎゃ」
「よし、天下の城が来たぎゃ」
「駄菓子もたっぷりあるぎゃ」
「銀の柱の模型も作るぎゃ」
「そしてドアラだぎゃ!」
彼等も彼等でマスコットを呼ぶのだった。
「青が勝つぎゃ!黒と黄色はここでもやってつけてやるぎゃ!」
「山本昌のノーヒットノーランをここでもやってやるぎゃ!」
「大阪なんかには負けないだがや!」
「たわけたことはシーズン前と春先だけ言ってりゃええがね!」
「勝つのは食い物でも名古屋だぎゃ!」
「名古屋城は無敵だがや!」
こう叫びながら食材を次々と集めて舞台を整えていく。同じ階だが右と左で真っ二つに別れて大阪と名古屋は全面戦争に入ろうとしていた。
そしてだ。その大阪名古屋フェスティバルが遂にはじまった。物産展である筈だが最早それはそうとしか呼べないものになっていた。
八条百貨店広島店の前でもだ。彼等は宣伝に取り掛かっていた。
「大阪直輸入やで!甘いアイスキャンデーもあるで!」
「名古屋から来たぎゃ!ういろうだぎゃ!」
「アイスごっつう美味いで!」
「ういろうは食べたら病みつきになるぎゃ!」
こうトラッキー、ドアラを共に選挙の立候補者の様に擁立しながら宣伝をしていた。
「今年は阪神優勝や!」
「中日だがや!」
広島で堂々と主張する。お互いに。
「ドラゴンズなんかに負けるかい!」
「阪神なんか敵じゃないぎゃ!」
こう主張したのは裏目に出た。広島はある映画の舞台である。それだけにそうした筋の人が有名なのは否定できないことだろう。
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