英雄伝説~光の戦士の軌跡~
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第三話
前書き
仕事が忙しくなる前にプロローグくらいは終わらせたかったですねえ・・・。
「おいおいマジか……。」
カイムは目の前の光景に思わず呟いた。無理もないだろう、サラに続く形で講堂から出て暫く歩き、校舎の裏手の坂を少し下ると見えてきたのはどう取り繕って表現しても『ボロい』としか言いようのない建物だったのだ。そして他の面々の戸惑いをよそに彼女は建物内に入っていってしまった。
「こんな場所で何を……?」
「くっ……ワケがわからないぞ……?」
その様子を見ていたアリサと眼鏡の男子は戸惑い
「まあ、考えても仕方あるまい。」
青髪の女子は呟いた後周囲の生徒たちと共に建物の中に入っていった。
「な、何かいかにも”出そう”な建物だよね………?」
「……そうだな。」
紅髪の少年は怯えを見せた発言をし、黒髪の少年はそれに同意していた。
「案外本当に何かいるかもな、昔似た場所で妙なのと関わるハメになったことあるし。まあとにかく入らなきゃいかんみたいだし早く行こうぜ?」
そんな二人にカイムは声をかけた。もう自分達以外は中に入っているのでこれ以上待たせたらサラが五月蝿くなるだろうと念の為自然に会話を切ったのだ。
「ん?ああ、そうだな。」
「僕としては前半部分でもっと不安になったんだけど……。」
「ははは、すまんすまん。」
さっきよりも顔を暗くした紅髪の少年に笑いながら謝罪をしてカイムは建物の中に入っていった。右手側から感じる視線を煩わしく思いつつも。
「あれ、完全に気付かれてたよな?」
「ああ、こちらに視線を向けて伸びをする振りで軽く手まで振ったくらいだからね。」
カイムが視線を感じた先……建物が見える丘の上にいたバンダナの青年と黒いツナギの娘はそう言いながら中に入っていく面々に視線を向けていた。
「確か皇族直属料理人兼護衛のカイム・グレイスだったか?絶対それだけじゃねえよな、あれ。」
「だね。まあ料理の腕も本物だけどね。」
「見たことあんのか?…ってそういやお嬢様だったな。パーティかなんかに出席した時か?」
「ああ……正直圧巻の一言だったよ。料理している姿には不覚にも見惚れてしまった。」
「お前が見惚れるって、そりゃ相当だな。」
「そりゃあね。なんせ父上や叔父上、それに皇族や四大名門の方々も見惚れていたからね。他は言わずもがな。」
「マジかよ…。」
「そして味ははっきり言って今まで食べた中で最高の一言だったよ。私を含め食べた人は少し余韻に浸り、その後は出来る限り節度を保ちつつ、しかし出来る限り大量に食べようと静かな争奪戦になっていたくらいだ。」
「マジかよ!?……今度偶然装って会いに行こう。そして飯を作ってもらおう、そうしよう。」
「その時は私や他の二人も誘ってくれ。私も思い出したら食べたくなってきた……しかしこうして始まると感慨深いな。私達の努力が報われたのならこんなに嬉しいことはない。一年間、地道に頑張った甲斐があるというものだよ。」
「だよな~……って、お前は努力なんかしてねぇだろ。好き勝手やっただけじゃねーか。」
暫くカイムの事で色々と企んだ後、黒いツナギの娘の言葉にバンダナの青年は一瞬同意して、しかしすぐに文句を言い返していた。
「フッ、それは君も同じだろう。しかしアリサ君といい、可愛い子ばかりで嬉しいな。これは是非ともお近づきにならないとね♪」
「へえ、知り合いでもいんのか?」
表情を赤らめて言った黒いツナギの娘の言葉を聞いたバンダナの青年は尋ねたがすぐにある事に気付いて娘を睨み責め始めた。
「……じゃなくて!コナかけまくるんじゃねーよ!お前のせいでこの一年、どんだけの男子が寂しい思いをしたと思ってやがるんだ!?」
「……………(フッ)。」
しかし睨まれた娘は鼻で笑うのみ。この件に関しては全く相手にしていなかった。
「は、鼻で笑いやがったなァ?」
バンダナの青年は娘を更に強く睨み声を荒げた。
「も~、二人ともケンカしちゃダメじゃない。」
その時少女の声が聞こえた後、二人に校門でカイム達が出会った小柄な少女と太った青年が近づいてきた。
「やあ、二人ともお疲れ。」
「他のヒヨコどもは一通り仕分け終わったみてーだな?」
「うん、みんなとってもいい顔をしてたかな。よーし!充実した学院生活を送れるようしっかりサポートしなきゃ!」
「フフ、さすがは会長どの。」
「おーおー、張り切っちゃって。」
笑顔を浮かべている小柄な少女を娘と青年は微笑ましそうに見つめ
「まあ、多少の助けがないと最初のうちは厳しいだろうしね。―――それで、そちらの準備も一通り終わったみたいだね?」
太った青年は二人を見つめて尋ねた。
「ああ、教官の指示通りにね。しかし何というか……彼らには同情禁じえないな。」
「ま、それは同感だぜ。本年度から発足する”訳アリ”の特別クラス……せいぜいお手並みを拝見するとしようかね。」
そして娘の言葉に頷いたバンダナの青年は旧校舎を見つめていた。
そのころ建物内に入ったメルト達は若干高くなっている場所に移動したサラに注目していた。
「―――サラ・バレスタイン。今日から君達”Ⅶ組”の担任を務めさせてもらうわ。よろしくお願いするわね♪」
「な、”Ⅶ組”……!?」
「そ、それに君達って……。」
「ふむ……?聞いていた話と違うな。」
「あ、あの……サラ教官?この学院の1学年のクラス数は5つだったと記憶していますが。それも各自の身分や、出身に応じたクラス分けで……。」
本来学院内に存在しない筈の組名を告げられ生徒達は困惑した。そんな中、眼鏡の女子は戸惑いながら尋ねた。
「お、さすがは首席入学。よく調べているじゃない。そう、5つのクラスがあって貴族と平民で区別されていたわ。―――あくまで”去年”まではね。」
尋ねられたサラは感心した後に答えた。
「え………」
「今年からもう一つのクラスが新たに立ち上げられたのよね~。すなわち君達――――”身分に関係なく選ばれた”特科クラス”Ⅶ(なな)組”が。」
「特科クラス”Ⅶ組”………。」
「み、身分に関係ないって……本当なんですか?」
サラの説明を聞き、戸惑うアリサや他の生徒。その中でカイムだけは特に動揺もなく話を聞いていた。なんせ彼はオリヴァルトに頼まれこの学院に来たのだ。流石に自分の所属する事になるクラスの内容ぐらいは把握している。
「――――冗談じゃない!身分に関係ない!?そんな話は聞いていませんよ!?」
カイム以外が戸惑う中、眼鏡の男子は怒りの表情で怒鳴ってサラを睨んだ。
「えっと、確か君は……」
「マキアス・レーグニッツです!それよりもサラ教官!自分はとても納得しかねます。まさか貴族風情と一緒のクラスでやって行けと言うんですか!」
レーグニッツ……この名前に覚えがあったカイムは記憶の中の情報を引っ張りだす。カール・レーグニッツ……帝都ヘイムダル知事にして帝都庁長官である平民出身であるものの、多数の大きなプロジェクトを成功させ、帝都庁でのし上った優秀な役人である。
そしてカール・レーグニッツは革新派でありそのトップである帝国宰相ギリアス・オズボーンの盟友でもある。故にその息子である彼が貴族を嫌っていても不思議ではない。ないのだが……あの周りすら気にしない剣幕を見るに他に何か理由があるのではないか……とカイムは直感ではあるが感じていた。
「うーん、そう言われてもねぇ。同じ若者同士なんだからすぐに仲良くなれるんじゃない?」
「そ、そんなわけないでしょう!」
二人の話を聞いたマキアスは怒りの表情で反論した。どうやら完全に頭に血が上っているようだ。
「フン………………。」
するとその時金髪の男子は鼻を鳴らして黙り込んでいた。その態度にまた不機嫌になったマキアスは金髪の男子を睨みつけた。
「……君。何か文句でもあるのか?」
「別に。“平民風情”が騒がしいと思っただけだ。」
「これはこれは……どうやら大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな。その尊大な態度……さぞ名のある家柄と見受けるが?」
「ユーシス・アルバレア。“貴族風情”の名前ごとき、覚えてもらわなくても構わんが。」
「!!!」
マキアスに睨まれた金髪の男子―――ユーシスは振り向いて名乗った。ユーシスの名を聞いたマキアスは目を見開き絶句していた。
「し、”四大名門”……。」
「東のクロイツェン州を治める”アルバレア公爵家”の……。」
「……大貴族の中の大貴族ね。」
「なるほど……噂には聞いていたが。」
「………?」
「……ふぁ………。」
ユーシスの本名を聞き他の面々がそれぞれ反応する中、カイムはユーシスを呆れながら見ていた。
「(全く、相変わらず話し方が偉そうだな。そんなんだからあの手のタイプが噛み付くんだろうに)。」
数年前のパーティで同年代だからという軽い理由で話しかけて以来、たまにバリアハートに行った時はよく一緒に行動したりしている。現当主のアルバレア公はともかく、ユーシスとその兄でありアルバレア家長男であるルーファス・アルバレアはカイムに好意的に接してくれる。
ただユーシスはあの話し方故に初対面だったり外側しか見ない人間には受けが悪い。カイムも最初はイラッとしたものだ。内面は人情があり子供に優しい人物なのだが。
「だ、だからどうした!?その大層な家名に誰もが怯むと思ったら大間違いだぞ!いいか、僕は絶対に――――」
一方マキアスはユーシスを睨んで怒鳴った後話しかけたがサラが手を叩いて中断させ、自分に注目させた。
「はいはい、そこまで。色々あるとは思うけど文句は後で聞かせてもらうわ。そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしねー。」
「くっ………」
その言葉を聞いたマキアスは唇を噛みしめた後、サラを見つめた。
「オリエンテーリング……それって一体、何なんですか?」
「そういう野外競技があるのは聞いたことがありますが……。」
アリサと眼鏡の女子がサラに質問したその時
「(あ………)もしかして……門の所で預けたものと関係が?」
校門で預けた荷物の事を思い出した黒髪の少年は尋ねた。
「あら、いいカンしてるわね」
リィンの質問を聞いたサラは感心した後、サラは前を向いたまま後ろに下がり
「―――それじゃ、さっそく始めましょうか♪」
壁についているレバーを下ろした。その直後カイムは床が僅かに揺れたのを感じとり
「ちょいと失敬。」
「え、きゃあ!?」
咄嗟にアリサの腰を抱き、後ろにジャンプした。前を見ると床が傾斜して対応できない面々はなすすべもなく滑り落ちていった。その際、黒髪の少年が悲鳴を上げた眼鏡の女子の方に飛んでいくのが見えた。それに少し感心しつつ上を見るとワイヤーにぶら下がったフィーの姿があった。彼女の実力は知っているがここは流石とカイムは内心褒めていた。
「お、落とし穴?」
「みたいだな。おい、サラ。これは何の真似だ?」
「いきなり人を落とすとか穏やかじゃないね。」
カイム達がそれぞれ声を上げるとサラはこっちを見て溜息をついた。その態度にカイムは若干イラッとしたがサラはそんなこと知る由もない。
「そっちの子…アリサは助けられた形だからいいとしてあんたらは相変わらずねぇ。とっとと下に行きなさい。アンタ達がいなきゃ始まるモンも始まらないでしょうが。」
そう言うとサラは着の内側から取り出した投擲用のナイフを一振り投げる。それは直線の軌道を描きながら、フィーのワイヤーを断ち切った。
「はぁ……めんどい」
そう言いながらフィーは穴の中に落ちていった。
「ほら、あんた達もさっさと行きなさい。それとも私に叩き落してもらう方がいい?」
「んなこと言われてもな……アリサ、降りれるか?」
「ち、ちょっと自身ないかな……。」
「だよな……しゃあない、これで行くか。しっかり摑まってろよ?」
自分やフィーレベルの身体能力を持っていないアリサを一人で穴に放り込む訳にはいかないので、カイムは最終手段としてアリサを持ち上げる。俗に言うお姫様抱っこである。
「え!?ち、ちょっとカイム!??」
「少し我慢してくれ。行くぞ!」
「え、きゃあああああああ!!!」
そしてカイムはアリサを抱えたまま穴に飛び込んだ。
後書き
ここの展開の通りリィンのヒロインはエマは確定です。
あとはエリゼもですかね。
ラウラとミリアムどうしよう・・・。
あと今週は仕事がかなり忙しくなるんで投稿はほぼ無理かもです、すいません。
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