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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百十六話 決闘への序曲


決闘が半年遅れで始まります。
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第百十六話 決闘への序曲

帝国暦483年7月20日  

■オーディン

第5次イゼルローン要塞防衛戦で活躍した将兵に対して論功行賞が行われた。
宇宙艦隊司令長官エッシェンバッハ上級大将《ミュッケンベルガー》は元帥に叙された。又要塞司令官クライスト大将、要塞駐留艦隊司令官ヴァルテンベルク大将は上級大将に昇進したが、暫くはそのままの配置となった。

多くの将官が昇進し、ロイエンタール、ミッターマイヤー、ビッテンフェルト、メックリンガーは准将にケスラーは少将に、そしてキルヒアイスは少佐にラインハルトは色々な思惑があり大尉に昇進した。

ロイエンタールはそのまま要塞艦隊分艦隊司令官として任官し、ビッテンフェルトとミッターマイヤーは暫く帝都防衛艦隊に編入され暫しの休息を得るのであった。


帝国暦483年7月20日  

■オーディン シャフハウゼン子爵邸

ラインハルトとキルヒアイスはエッシェンバッハ艦隊に所属のまま暫しの休暇を貰い、足りなくなってきた、アンネローゼ分を補給するために、シャフハウゼン子爵邸に、アンネローゼ、マグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ男爵夫人、ドロテーア・フォン・シャフハウゼン子爵夫人と共に集まっていた。

実に1年近く会えなかった計算になる。ラインハルトにしてみれば、キルヒアイスが一階級上でも直ぐに抜けるとの自信と、作戦に於いてもキルヒアイスとの連携が旨く行っているために、多少の蟠りはあるが、ムキになるほどの状態ではなかった。それに姉に会える事が全てに於いて優先で、姉の前で不満を述べる事など考えもしなかったからである。

「と言う事で、キルヒアイスが偶然にもサイオキシン麻薬密売組織撲滅に手柄を立てた訳なんですよ」
「流石ね、ジーク」
マグダレーナがジークと言うが、キルヒアイスは自分をジークと言って良いのはアンネローゼ様だけなんだけどなと思っていた。

シャフハウゼン子爵夫人の愁いを帯びた顔にアンネローゼが気がつき話しかける。
「子爵夫人どうなさいましたの?何時もになく浮かない顔を為さって」
「いいえ、そんな・・・」

その言葉にマグダレーナが子細を話し始めた。

「あの件のせいね」
「あの件?」
「実はね」

「男爵夫人」
「良いじゃないの聞いて頂きましょうよ」
「ですけど・・・」

「良いから、ねえアンネローゼ、ヘルクスハイマー伯爵ってご存じ?」
「ええ、お名前だけは、確かリッテンハイム侯爵のご一門では?」
「評判はお聞きになってない?」

「ええ」
「その伯爵が何か?」
「それが酷い話なのよ」

シャフハウゼン子爵家が事業として投資していた地方の鉱山から、天然ハイドロメタル鉱脈が発見され、その採掘権を大貴族であるヘルクスハイマー伯爵が横取りを目論んでいて一方的な争いを仕掛けられていると言う。

「大体ヘルクスハイマーは門閥貴族の一員である事を鼻にかけた嫌な奴なのよ。強欲で隠見で好色で」
2人して苦笑いのラインハルトとキルヒアイス。
「あら。兎に角嫌らしい奴だって事は重要よ。大体夫人に言い寄るときだって、強引で権力ずくで手段を選ばなくって」

「んん」
アンネローゼが子供に変な言葉で言わないでと咳払いした。
「あら、二人にはこんな話は早かったかしら、あっははははははは」
相変わらず豪快なマグダレーナである。

「それはともかく採掘権の事は裁判になれば決着が付くでしょう」
「其処が嫌らしい所よ、正式な民事裁判になれば勝ち目がない事が判っているから無理矢理決闘で決着を付けようと申し込んできたのよ」

「決闘?」

「伯爵に限らず、大貴族の常套手段なのよ言いがかりを付けて決闘に持ち込み無理を通すのは、勿論その貴族自身が手を汚す事は無いわ、それを職業としているプロの決闘者達が居て代理人として戦うの」

「それでは子爵ご自身が戦う必要はない訳ですね」
「所が問題は、シャフハウゼン子爵家の代理人になる決闘者が居ないの。そうでしょ?」
マグダレーナの言葉にドロテーアは愁いを帯びた顔で少し頷いた。

「どうしてそんな?」
ラインハルトの質問にマグダレーナが答えた。

「ヘルクスハイマーとその後ろ盾のリッテンハイム侯爵家が手を回したのよ。シャフハウゼン子爵家の代理人に成らないようにって。全く汚いったらありゃしない!」
「必勝を期した訳か」

「それでどうなさいますの?」
「それが、代理人を立てられない以上、主人が自ら立ち会うか、放棄して相手の要求を受けるか。ですが、ご存じのように、主人は薬用植物の研究と旅行記の読書が唯一の楽しみの大人しい人です。荒事は全くの苦手で」

「では、相手の言いなりになるのですか!」
「ラインハルト」
「済みません」
ドロテーアが諦めモードなので、ついラインハルトが強く問い詰めたようになった為、アンネローゼがそれを窘めると、ラインハルトにしては珍しく素直に謝った。

「此方こそ申し訳ございません、折角お会いになれたのに この様な私事お耳汚しでございましたでしょう。さっ積もるお話しもございましょうし、私たちはご遠慮致しましょうか」
「お待ちください子爵夫人」

「え?」
「その決闘の代理人とは誰が成っても良いのですか?」
「ええ」

「ならば私が引き受けましょう」
「え・・」
「え!」
「まあ、素敵」

「ラインハルト」
「ラインハルト様」
「そ・・そんな・・滅相もない」

「いえ、姉上のご友人がお困りの時、黙って見ている訳には参りません、日頃から何かとお世話にもなっております。此処は一つお役に立たせて頂きたい」
「ですが・それは・」

「ご心配なくこう見えても軍人です武器の扱いには慣れております。相手の決闘者がプロだと言うなら、私も戦闘のプロです。決して後れを取るような事は有りません。それとも子爵夫人は私の実力をお疑いですか?」

「いいえそう言う問題ではなく」
ドロテーアは心配顔のアンネローゼの事を言っているのであるが、ラインハルトは未だ判っていない。その心の内をキルヒアイスは推測し心配している。

「ラインハルト様、ならば私が」
アンネローゼは、キルヒアイスの言葉に更に憂いが深くなる。
「生憎だがキルヒアイス、此は先に手を挙げた者に優先権がある」

この様な話の中。ラインハルトがシャフハウゼン子爵家の決闘代理人を引き受ける事になった。



帝国暦483年7月22日  

■オーディン 

ラインハルト・フォン・シェーンヴァルト大尉が、と言うより、グリューネワルト伯爵夫人の弟が、シャフハウゼン子爵家の代理人として決闘に望むという噂は、たちまちの内にオーディンの貴族社会に広まった。

サロンではその噂が絶えない。

「お聞きになりましたか?れいの決闘の件」
「グリューネワルト伯爵夫人の弟御が決闘者の真似事を為さるとか」
「まあ、男爵といっても、所詮は帝国騎士《ライヒスリッター》上がりの俄男爵、その様な下賤な真似が似合いと言う事」

「違いない」
「あははは」


帝国暦483年7月22日  

■オーディン ノイエ・サンスーシ ベーネミュンデ侯爵邸

「お母様、グリューネワルト伯爵夫人の弟が、ヘルクスハイマー伯爵と決闘するそうですね」
「あら、その話を何処から聞いたのかしら?」
「お父様から、聞きましたわ」

「全く陛下も駄目ですね、子供に決闘の事を話すなんて」
「駄目なのでしょうか?」
「貴方には、血なまぐさい事を見させたくないのですよ」

「それにしても、ヘルクスハイマー伯も相変わらずですわ、先頃の綱紀粛正で無理を通す馬鹿な者達を陛下が懲らしめましたのに、喉元過ぎれば熱さを忘れるかしらね」
「マルガレータが可哀想ですわ」

「本当ですわ。あの様な父親では、マルガレータの教育も憂いますわね」
「それなら。お母様、お父様に頼んでマルガレータを預かりましょうよ」
「御学友として迎え入れるのも良いかも知れませんわね」

「そうなると、妹みたいで可愛いですわ」
「そうですわね」

「けど、グリューネワルト伯爵夫人もお気の毒ですね」
「そうですね。彼女も弟御が決闘では気が気でないでしょうね」

「お母様、見に行っては駄目ですか?」
「駄目ですよ。危ないですからね」
「けど、決闘って死合いですよね?」

「試合みたいですけどね。危ない事も有るんですから。この母に心配をかけさせないでおくれ」
「判りました。お母様」
「はい、じゃあ昼餉にしましょうね。ヘレーネ昼餉の支度をなさい」

帝国暦483年7月23日  

■オーディン ノイエ・サンスーシ ローエングラム伯爵邸 テレーゼ・フォン・ゴールデンバウム

「それで、お母様に頼んだんだけど、見に行っちゃ駄目だって」
「殿下、それは当たり前の事でございますよ」
「マルティナ、それはそうだけどね」

て言うか、OVAでは483年の1月に有るはずだった、ヘルクスハイマー伯爵家とシャフハウゼン子爵家の決闘がサイオキシン麻薬密売組織撲滅の影響で起こらなかったし、綱紀粛正の影響でヘルクスハイマーも悪さをしないと思ったから、決闘も起こらないかと思ったんだけどね。

まさか、半年経った今始まるとは、私もビックリだね。それにしても、今回の決闘は、お母様がアンネローゼを怨んでないし、グレーザー医師も母様の所じゃなくアンネローゼの所だから、グレーザーも悪さをしないだろうし、それなら黒マントも出てこないから、見に行っても大丈夫だろうけどね。

「殿下。侯爵夫人にご心配お掛け為さらぬように、お願いします」
「そうね、見に行かないわ。その代わり、ルッツは射撃の天才でしょ、その腕前を射撃場で見せて欲しいな」
「殿下」

「殿下が決闘へ行くよりましですから。ルッツ中佐頑張ってください」
「バウマイスター少佐、酷いですな」
「まあ、冗談はさておき。先込式燧石点火滑空拳銃《フリントロックピストル》だと、グリューネワルト伯爵夫人の弟もまともに扱えないんじゃないかしら」

「殿下、確かに先込式滑空拳銃ですと通常のブラスターに比べて扱い辛いと思います」
「其処で、ルッツが指導してきてくれないかしら」

「小官がでありますか?」
「ヘルクスハイマー伯爵が理不尽をしてるからね。お母様もヘルクスハイマーの横暴は呆れていたから、素人のシェーンヴァルト男爵に少しは援護をしようかと思ったのよね」

「なるほど、そう言う訳でしたか、判りました」
「ルッツお願いね」
「御意」

ルッツ中佐が翌日射撃場で先込式燧石点火滑空拳銃《フリントロックピストル》の扱いに四苦八苦していた、ラインハルト達の前に現れ颯爽と使い方のコツを教えたのは、この世界ではテレーゼのお話から始まった事であった。

テレーゼ自身は、結局はラインハルト暗殺なんかないんだから、父様とアウリス爺様に頼んで、オフレッサーにお忍びで決闘へ連れて行ってもらおうと考えながら居たのである。
 
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