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茶番

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第三章

「異端審問の者が性質が悪ければ」
「金持ちを魔女と言ってな」
「その金を巻き上げられまする」
「責め苦と火炙りの後でな」
「恐ろしいことになりまする」
 さしもの長谷川も蒼白となっていた。
「まさに」
「天下は大いに乱れる」
「はい、その者達によって」
「茶番で多くの罪なき者が責め苦を受け殺されてじゃ」
「銭を巻き上げられまする」
「しかもそれを幕府や諸藩が許しておるとなるとじゃ」
 それこそとだ、意次はまた言った。
「言うまでもないな」
「天下は大いに乱れ」
「政道は腐りきる」
「全く以て」
「わしは貿易はしたい」
 南蛮の国々とだ、意次はそのうえで国を富まそうと考えているのだ。新田開発と商いを栄えさせることが彼の政の根本だ。
「しかしな」
「こうした者達はですな」
「決してじゃ」
 例え何があろうともというのだ。
「本朝には入れぬ」
「そうあるべきですな」
「入れればな」
「宗派の違いで酷い戦になり」
「この様なふざけた茶番がまかり通る」
「そして天下は大いに乱れますな」
「そうなるからじゃ」
 だからこそというのだ。
「それはせぬ」
「ご老中もまた」
「学問はよい、しかしな」
「切支丹はですな」
「入れぬ、何があろうとな」 
 こう長谷川に言うのだった、そして実際にだった。
 田沼意次も切支丹は許さず幕府は彼の後もそれこそ幕府の歴史が終わるまで切支丹を許さなかった。それは何故かというと。
「幕府の統治に邪魔だったからだ」
「人は神の下に平等というキリスト教の教えが身分制度にとって迷惑だったんだ」
 こうした意見がある、だが。
 真実は史実をよく調べるとわかる、その真実はというと。
「キリスト教の宣教師達は日本人を奴隷として売り飛ばしていた」
「欧州では当時惨たらしい宗教戦争と異端審問が蔓延っていた」
「幕府はこのことを知っていた可能性が高い」
 このことがわかる、そのうえでだ。
 幕府はそれこそあらゆる手段を使って切支丹達を否定し弾圧していた、弾圧自体は今から見れば批判されるべきことだ。
 だが意次は長谷川に言った。
「寺社奉行にはな」
「これからもですな」
「切支丹についてはじゃ」
「決して許さぬ様にと」
「言っておく」
「民と国を守る為ですな」
「そうじゃ」
 その通りというのだ。
「だからこそな」
「これからもですな」
「民は奴婢にせぬ」
 誰一人として、というのだ。
「そして異端審問もさせぬ」
「絶対に」
「戦とはいえ非道を極めることもじゃ」
「させませぬな」
「全てな、だからこそじゃ」
「これからも切支丹だけは」
「入れぬ」
 日本にというのだ。
「どれむ下らぬ、しかも非道な茶番じゃ」
「そうした茶番はですな」
「本朝ではさせぬ」
 こう言ってだ、意次は蘭学は許しても切支丹は頑として許さなかった。これは彼だけでなく後の者達も同じだった。
 幕府は大政奉還のその時まで切支丹を許すことはなかった、それは彼等のそうしたことを知ってでのことだったことは近年まで言われなかった。キリスト教の教理が幕府にとって邪魔だったということになっていた。しかし真実はこうしたものだったのだ。彼等の真実を幕府が知っているが故のことであったことは覚えておかねばならないだろう。弾圧をした是非は別にして。


茶番   完


                        2017・3・15 
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