茶番
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第二章
「そうしたことをしております」
「そんなこと許される筈がないわ」
率直にだ。意次は言い切った。
「到底な」
「はい、本朝では」
「そこまでしたことなぞ一度もない」
「書にはありませぬな」
「わしは聞いたこともない」
本朝、即ち日本の歴史においてというのだ。
「一度もな」
「それがしもです」
「しかもそれが常という」
南蛮、つまり欧州ではというのだ。
「こうしたことが昔から今も行われているという」
「そして宗派同士の戦もですな」
「殺し奪い焼き尽くす」
意次は忌々しげに言った。
「町も村もな」
「町や村ごとですか」
「殺して奪ってな」
「焼き尽くしますか」
「宗派が違うというだけでな」
「酷いものですな」
長谷川も話を聞いて閉口する始末だった。
「それはまた」
「そうであるな、御主も」
「それでは軍勢丸ごと火付盗賊の中でも」
「特に性質の悪い連中じゃな」
「軍勢自体がそうであるとなると」
最早というのだ。
「どうにもなりませぬ」
「戦国の世でもな」
日本のかつてのだ。
「ここまで酷いのはなかった」
「ですな、それがしも聞いたことはありませぬ」
「戦とはいえ田畑や民百姓には手出しはせぬもの」
勝てば領地とその民となる、それを無闇に傷付ける者もいないからだ。日本の戦はあくまで侍同士のことであったのだ。
「だから民が戦見物も出来た」
「手出しをしなかったので」
「しかしこの様な戦ではな」
軍勢自体が極めて悪質な火付や盗賊と変わらないならというのだ。
「逃げるしかない」
「ですな、確かに」
「そして話を戻すが」
「その異端審問ですか」
「疑われば終わりとは」
意次はあらためてこのことをだ、苦い顔で話した。
「それから酷い責め苦で吐かせ火炙りとはな」
「火炙りですか」
「御主火炙りはどんなものと考えておる」
「死罪にする者でも重罪の者です」
長谷川は意次にすぐに答えた。
「その様な者だけです」
「確かなことがわかったうえでじゃな」
「はい」
その通りだとだ、長谷川は答えた。
「さもなければです」
「出来ぬな」
「評定所もそうされるかと」
「わしもじゃ」
死罪の断を下す立ち場にある老中である自分もというのだ。
「死罪にしてもな」
「火炙りなぞは」
「打ち首でも重い」
首を刎ねてそれで瞬時に命を絶つそれでもというのだ。
「それをじわじわと焼き殺す様なことはな」
「滅多にですな」
「せぬわ、ましてや疑わしいだけでな」
「そこまではですか」
「せぬしさせぬ」
それこそ誰にもというのだ。
「させる者は幕府にも諸藩にもおらんわ」
「それこそ一人も」
「異端審問自体もないわ」
そもそも彼等自体が日本におられないというのだ。
「この様な者達が天下にいては政道も終わりじゃ」
「ですな、どう考えましても」
「しかもこの者達は魔女となった者の金を全部収められる」
「それでは」
長谷川は意次の今の話を聞いて血相を変えた、そのうえで彼に言った。
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