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振り返ってはならない

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第三章

「食えないとです」
「本当に何の意味もない」
「その通りですね」
「それでだ」
「はい、こうした話も」
「少なくとも俺は否定しない」
 警部は懐疑的な顔だがこう言った。
「まさかと思ってるがな」
「それじゃあ」
「どう考えても普通の事件じゃないしな」
「首に二つ穴が空いていてですね」
「血を吸われてるなんてな」
 そうした怪奇な事件はというのだ。
「どうしてもな」
「そうですか」
「ああ、だからな」
 それでというのだった。
「この事件はな」
「吸血鬼の可能性が高いですか」
「むしろそうとしか思えないだろ」
「普通の人間は血を吸いませんし」
「そんな穴空けるか」
 普通の人間が、というのだ。
「そもそもな」
「だからですね」
「後は科学的な捜査もしてるがな」
「傷口からのDNAの調査とかですか」
「ああ、それもしてるが」
「そこからも何かわかりますか」
「ああ、それが出てもわかるかもな」
 こうした話をだ、署内で二人で話した。そして。
 そのうえでだ、二人は犠牲者の傷口からDNAの検査の結果を待ってそれを聞いた。その結果わかったことはというと。
「有り得ないらしいぞ」
「有り得ない?」
「ああ、人間じゃないらしい」
「血を吸った奴は」
「傷口に犯人の唾液が付着していたがな」
 口を付けたからであるのは言うまでもない、牙を突き立てたその時に。
「その唾液のDNAがだ」
「人間のものじゃない」
「ああ、はじめて見る種類のやつらしい」
「そうした生物のものですか」
「そうだったらしい」
「と、なると」
「そもそも我が国に血を吸う生物がいるか?」
 警部はこの時は真顔でチンに問うた。
「一体」
「チスイコウモリとか」
「蛭はいるがな」
「蛭は」
「すぐにわかる、それに蛭がそんな血の吸い方をするか」
 牙で穴を開けてそこからというのだ。
「ないな」
「はい、絶対に」
「そもそも蛭に血を吸われて死ぬか」
 そこまで至ることではないというのだ。
「そんな話はないな」
「相当に特殊なケースですね」
「特殊も特殊だ」
「今回の事件と同じだけですね」
「ああ、それはない」
 蛭の仕業ではないというのだ。
「絶対にな」
「俺もそう思います」
「そしてだ」
 警部はチンにあらためて言った。
「この事件の犯人と思われる奴のDNAはだ」
「どういった生物かがですか」
「わからないらしい、人に近いらしいが未知の存在らしい」
「未知、ですね」
「これで答えは出たと思わないか?」
「はい、吸血鬼ですね」
 はっきりとだ、チンは警部に答えた。
「それも我が国の」
「前に話していたやつだな」
「女夜叉です」
 この妖怪だとだ、チンは警部に話した。 
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