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夢に出る人

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第一章

               夢に出る人
 北巽伊代は古典の授業で習ったことをその授業の後でクラスで友人達にどうかという顔で尋ねた。
「さっきの授業で小野小町の和歌出たけれど」
「あれね、好きな人が出なくなった」
「それで想われなくなったってわかったって話ね」
「あれね」
「自分を好きな人が夢に出るの?」
 首を傾げさせて言う伊代だった。
「そうなの?」
「普通逆なんじゃ」
「自分が好きだから出るんじゃ」
「自分が想うからね」
「そうだと思うけれど」
「違うのかしら」
「そうよね、けれど和歌の通りだと」
 小野小町のそれのだ。
「私を好きな人わかるわよね」
「そうそう、そうなったらね」
「私も彼氏夢に出る?」
「私も」
「そういえば私彼夢に出るし」
「私だってね」
「だったら私はどうなるのかしら」
 伊代は自分のことをここで考えた。
「やっぱり好きな人見るのかしら」
「夢にね」
「そうなるんじゃない?やっぱり」
「伊代ちゃんにしても」
「今日の授業の通りなら」
「小野小町さんみたいに」
「そうよね、まあ出て来たら」
 その時はというと。伊代は自分から語った。
「それが自分の好きな人なら」
「思い切って告白する」
「そうするわよね」
「やっぱり」
「伊代ちゃんにしても」
「絶対にね。それって相思相愛だから」
 自分が好きな相手が夢に出て来たらというのだ。
「もう迷うことなくね」
「小野小町さんは出なくなって失恋感じたけれど」
「私達は違うわよね」
「その時は告白する」
「それしかないわよね」
「何があっれもね」
「そうするわ、若しも彼が夢に出て来たら」 
 その想い人がだ、だが伊代はそれが誰かはクラスメイトに言わなかった。
「その時はね」
「それ誰?」
「誰のこと?一体」
「うちの学校の子?」
「それは告白する時が来たらわかるから」
 やはり言わない、それでこう言って誤魔化すのだった。
「いいわね」
「そこでそう言う?」
「誤魔化す?」
「ちょっとずるくない?」
「ずるくないわよ、その時にわかるでしょ」
 あくまでこう言って言わなかった、そしてこの日伊代は夢を見たら誰が出て来るのかと楽しみにしつつ寝た。 
 だが夢に出て来たのは自分の姉でだ、起きてから朝食を食べる時に一緒に食べる姉に少し憮然として言った。
「昨日夢にお姉ちゃん出て来たけれど」
「あっ、そうなの」
 姉は何でもないといった顔で伊代に返した。
「私が出て来たの」
「そうよ」
 姉に御飯をメザシで食べつつ答えた。
「何で出て来たのよ」
「何でっ言われても」
「夢には自分を好きな人が出てくれるっていうけれど」
「ああ、古典の話ね」
 姉は妹の話の根拠がすぐにわかって返した。
「私も習ったわ」
「そうだったのね」
「小野小町さんの和歌よね」
「ええ、そうよ」
「去年私習ったから」
「あの子が出て来るって思ったら」
「そのあの子が誰かは聞かないけれど」
 それでもと返した姉だった。
「それ本当なのかしら」
「自分を好きな人が夢に出て来るって」
「私は違うと思うけれど」
「その通りじゃないの?けれどね」
 それでもと返した伊代だった、茸の味噌汁を飲む彼女に。 
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