銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百十三話 茶番の終了と亀裂の始まり
サイオキシン麻薬事件の後始末です。
同じ台詞が続きますが演出としてご了承ください。
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第百十三話 茶番の終了と亀裂の始まり
帝国暦483年3月1日
■オーディン ノイエ・サンスーシ 黒真珠の間
銀河帝国全土を震撼させたサイオキシン麻薬密売組織撲滅の余波は実に4か月に及んだ。憲兵隊、内務省警察総局、社会秩序維持局等の捜査組織が勅命により帝国全土を捜査し尽くし、サイオキシン麻薬密売だけでなく数多の不正を発見しそれらも断罪の対象と成ったのである。
驚くべき事に、帝国貴族四千余家の内、実に7割が何かしらの不正、犯罪等に係わって居た事が判明したのであるから、大混乱に陥るのも当たり前であった。しかし今回検挙された貴族の殆どは中小貴族で有り、大貴族は殆ど含まれていなかった事で、彼ら大貴族の巧みな詐術を証明した事になった。
流石にカストロプ公爵はルーゲ司法尚書が見事な詐術と言った様に今回の捜査でもボロを出さなかったが、これは当初から予想された事であった。しかし警告という形で釘を刺された為、この後カストロプ公爵の専横は薄れて行くのであった。
今回の不正貴族の数の余りの多さに貴族の反発を警戒した、リヒテンラーデ侯を含む各尚書達の話し合いで、完全に廃絶に成った家は非常に少なくなった。その結果取り潰しよりは、領地替え、爵位の降格、当主交代、一時的な謹慎処分等の方が多く成った。
それでも貴族達にしてみれば、明日は我が身との恐れにより、フリードリヒ4世からルードヴィヒ皇太子への交代を求める考えが大きくなっていくのであるが、フリードリヒ4世は軍部の支持が非常に高いために不満をぶちまけられずに居たのである。実際平民からの支持も非常に高く、皇帝に何かしようモノなら将兵の叛乱が起こりかねないのである。
更に、貴族、宗教組織には密かに監視が付き動きを警戒するようになった。これはテレーゼが地球教の監視のために序でに行うモノであるが、憲兵隊により運営され、貴族、宗教組織にばれないようにしてあるのである。 危険な組織には鈴を付けるのが1番いいことであるからと決まったことである。
そして今日、黒真珠の間でサイオキシン麻薬密売組織撲滅に活躍した者達に対する、皇帝陛下自らの御手による叙勲式が行われようとしていた。
真っ赤な絨毯がひかれる中、帝国のリヒテンラーデ侯を筆頭とする各尚書、軍務尚書エーレンベルグ元帥、統帥本部長シュタイホフ元帥、宇宙艦隊司令長官エッシェンバッハ上級大将、幕僚総監クラーゼン元帥、近衛兵総監ラムスドルフ上級大将、装甲擲弾兵総監ライムバッハー上級大将、憲兵隊総監グリンメルスハウゼン大将、各艦隊司令官達がきら星の如く並ぶ。そして今回の叙勲者達は文官、武官に挟まれるように立ち尽くしているが、殆ど者が緊張を隠せない状態で有る。
古風なラッパの音が黒真珠の間に響く。その音とともに参列者は皆姿勢を正した。
「全人類の支配者にして全宇宙の統治者、天界を統べる秩序と法則の保護
者、神聖にして不可侵なる銀河帝国フリードリヒ四世陛下の御入来」
式部官の声と帝国国歌の荘重な音楽が耳朶を打つ。そして参列者は頭を深々と下げる。
ゆっくりと頭を上げると皇帝フリードリヒ四世が豪奢な椅子に座っているのである。
陛下がゆっくりと立ち上がりお言葉を述べる。それを聞く皆が皆、緊張の趣である。
「この度は、卿等の活躍により、帝国に巣くう害毒を撲滅でき、誠に目出度き事じゃ、この事をなし得た卿等の献身、余はとても嬉しく思うぞ。此を期して帝国の有り様を良きモノとする事にする。卿等の功績を称えて、此処に褒美を取らす」
皇帝の言葉を受け継いで、リヒテンラーデ侯が褒賞者を読み上げる。
「憲兵隊総監グリンメルスハウゼン大将」
グリンメルスハウゼン大将がフリードリヒ4世の前に進み出る。
「今回の憲兵隊の働き、誠に見事じゃ、そちに双頭鷲勲章を与え、上級大将へ昇進と伯爵に叙爵する」
皇帝の言葉にグリンメルスハウゼン大将は深々とお辞儀を行い御礼を述べる。
「ありがたき幸せ」
「内務省警察総局長ハルテンべルグ伯爵」
ハルテンべルグ伯がフリードリヒ4世の前に進み出る。
「今回の警察の働き、誠に見事じゃ、そちに双頭鷲勲章を与え、侯爵に叙爵する」
皇帝の言葉にハルテンべルグ伯は深々とお辞儀を行い御礼を述べる。
「ありがたき幸せ」
ハルテンべルグ伯爵としては、妹の婚約者カール・マチアスの麻薬密売を彼の兄フォルゲン伯爵と共に闇から闇へ葬り去ろうとした事が、陛下にばれた時点で死を覚悟していたのであるが、陛下の温情でマチアスの密売行為は全て演技という形で纏めていただき、爵位まで上昇したのであるから、これからは何があっても陛下のお役に立たねばと、心の底から感謝していたのである。
次々に叙勲や叙爵されていく関係者達次に呼ばれたのは。
「帝国軍中佐カール・マチアス・フォン・フォルゲン」
カール・マチアス・フォン・フォルゲンが少々オドオドしながら、フリードリヒ4世の前に進み出る。
「今回の卿の囮捜査、誠に見事であった。そちの囮がなければ、サイオキシン麻薬密売組織撲滅は不可能であたろう。そちに双頭鷲勲章を与え、少将へ昇進とランツベルク子爵に叙爵する」
如何にも、サイオキシン麻薬密売組織撲滅がカール・マチアス・フォン・フォルゲンの手により検挙された様に皇帝は賞めるのである。その為貴族社会でカール・マチアス・フォン・フォルゲンの名前はあっという間に広がっていった。殆どは余計なことをしてくれた憎き輩としてであったが。
皇帝の言葉にカール・マチアス・フォン・フォルゲンは深々とお辞儀を行い御礼を述べるしかない。
「ありがたき幸せ」
本人にしてみれば、本来であれば処刑されても仕方ないところを、政治的な考えから生かされているのであり、そのことを説明されたために、この後エリザベートとの結婚後は所領の星に引きこもり予備役少将として生活を行うことになった。
彼の言葉として『たとえ囮捜査とはいえ、サイオキシン麻薬の密売を行ったことは、帝国に対する罪でございます。その私がオーディンで普通に生活する事など良心が許せません、ここに全ての官職を辞することをお許しください』と記されていた。
エリザベートにしても、マチアスさえいれば良かったので、田舎暮らしを満喫していった。
実際はマチアス自身は監視付きの執行猶予という感じであったが、他の貴族からの増悪を受けていたので命が助かるだけでもましと考えていたようだ。
続いてサイオキシン麻薬密売組織の長を検挙した。リューゲン星の憲兵隊が次々に褒賞を受けていく中、キルヒアイスは自分1人で手柄を立ててしまった事で、ラインハルトに申し訳が立たないと考えながら、式典の順番を待っていた。
「帝国軍大尉エミール・キルドルフ」
キルドルフがフリードリヒ4世の前に進み出る。
「今回のリューゲンでのカイザーリング艦隊で憲兵隊に協力した働き、誠に見事じゃ、そち達が居なければカイザーリング艦隊がサイオキシン麻薬密売組織だと判らぬ所であった、そちに双頭鷲勲章を与え、大佐へ昇進と共に帝国騎士に叙爵する事とする」
皇帝の言葉にキルドルフは深々とお辞儀を行い御礼を述べる。
「ありがたき幸せ」
そして遂にキルヒアイスの番が来たのである。
「帝国軍准尉ジークフリード・フォン・キルヒアイス」
キルヒアイスがフリードリヒ4世の前に進み出る。
「今回のリューゲンでのカイザーリング艦隊で憲兵隊に協力した働き、誠に見事じゃ、そち達が居なければカイザーリング艦隊がサイオキシン麻薬密売組織だと判らぬ所であった、そちに双頭鷲勲章を与え、大尉へ昇進と共に男爵に叙爵する事とする」
皇帝の言葉に困惑しながらもキルヒアイスは深々とお辞儀を行い御礼を述べる。
「ありがたき幸せ」
お礼をするキルヒアイスであったが、その心境は非常に複雑だった。
ラインハルト様を階級で抜いてしまった、ラインハルト様は来月やっと中尉になる、所が自分は大尉になってしまった。このままだとラインハルト様と一緒に居る事が出来ない。アンネローゼ様とのお約束を守る事が出来ないでは無いかと。しかも自分が男爵に叙爵とは、これもラインハルト様と同格になってしまった。自分はどうしたら良いのだろうかと、悩むキルヒアイスであった。
その後皇帝が式場から姿を消し、厳かな式典が終わると、会場にはホッとした空気が流れた。
今回の叙勲は程度により、第一級、第二級、第三級双頭鷲勲章が叙勲され、平民には帝国騎士を、帝国騎士には男爵を、爵位持ちには一階級上の爵位が叙爵され、領地、終身年金、高利回り証券などが下賜された。
その結果、キルヒアイスは帝国騎士から男爵となり、新たに両親共々キルヒアイス男爵号と終身年金、高利回り証券と標準男爵屋敷が下賜され、キルドルフは平民から帝国騎士となり、終身年金が下賜されたのである。
今回の叙勲、叙爵で少数の帝国貴族と多くの帝国騎士が誕生した。殆どの彼らは陛下の温情に感謝しますます陛下への忠誠度が上がっていったのである。
彼ら新貴族や新騎士が後々まで、フリードリヒ4世とテレーゼの強力な手足となっていくのである。
また、彼らの活躍と陛下の温情を聞いた下級貴族、帝国騎士、平民の間でますますフリードリヒ4世への敬愛の情が深くなり、元々高かった陛下に対する軍の支持率の上昇として現れたのである。
この日の主な叙勲及び叙爵名簿
グリンメルスハウゼン大将→上級大将 第一級双頭鷲勲章 伯爵
キルヒアイス准尉→大尉 第一級双頭鷲勲章 キルヒアイス男爵
キルドルフ大尉→大佐 第一級双頭鷲勲章 帝国騎士
カール・マチアス・フォン・フォルゲン中佐→少将 第一級双頭鷲勲章 ランツベルク子爵
ハルテンブルグ伯爵→第一級双頭鷲勲章 侯爵
ニードリヒ大佐→少将 第一級双頭鷲勲章 帝国騎士
キスリング中尉→少佐 第二級双頭鷲勲章 帝国騎士
その他叙勲、叙爵者多数。
■オーディン 軍務省 事務局
ラインハルト・フォン・シェーンヴァルト少尉は先頃のカイザーリング艦隊におけるサイオキシン麻薬密売組織撲滅摘発時に何も出来ないようにされていたために、何ら功績を挙げられずに配属先が消滅したため、功績を挙げたキルヒアイスと違い、称される事もなく取りあえずの暫定処置として軍務省の事務局で書類整理を命じられていた。
「全く、何でこの俺が椅子に座って書類整理をしなければ成らないんだ!大体俺にジッとしているという事を命じるとは、悪意を感じる!」
たった一人で書類と格闘しながらブツクサと言っている姿はある意味異様である。
「しかも、ノイエ・サンスーシに万が一の事態が有ることを憂慮し姉上に会うことも許され無いのだ 、しかももう九ヶ月だぞ!つくづく連中が忌ま忌ましい。これでは、何時になったら、姉上をお救い出来るのか、このような書類仕事などより、早く前線へ行き、武勲を挙げなけれならない」
話し相手のキルヒアイスが式典参加中なために、ぶつくさと独り言を言いながら仕事をしている。
「大体キルヒアイスもキルヒアイスだ。少しでも俺に連絡をしてくれていれば、俺が先にバーゼル達を取り押さえて武勲をあげられたモノを、いくら憲兵隊に止められたからと言っても、連絡のしようがあっただろうに、全く残念だ!」
ラインハルトはキルヒアイスに与えられる栄華の数々を未だ知らない状態であるが、それを知った時どのような顔でキルヒアイスと対面するのであろうか?
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カール・マチアス・フォルゲンは、贄として生かされています。
マチアスの貴族名をランツベルクに変更。
ドイツの刑務所の名前です。
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