真田十勇士
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巻ノ百四 伊予へその十四
「根も葉もない、下世話な話なぞな」
「気にせずにですな」
「為すべきことに心血を注ぐ」
「そうあるべきですな」
「我等は」
「その通りじゃ、わしは豊臣家の多くのことを任されておる」
片桐と共にだ、執権と言っていいまでの立ち場にある。
「それならばな」
「そちらに心血を注ぎ」
「余計なことなぞ構わず」
「今もですな」
「政に励むべきですな」
「そうじゃ。それでじゃが」
ここで大野が言うことはというと。
「近頃徳川家は大人しいが」
「しかしですな」
「油断はなりませぬな」
「また何をしてくるかわからぬ」
「備えはしておくべきですな」
「うむ、どうも幕府が我等を特に害するつもりはないと思うが」
しかしというのだ。
「油断はならぬ、また何か言ってくればな」
「それを跳ね返す」
「そうすべきですな」
「大名ではない」
豊臣家はというのだ。
「わかるな」
「天下人はお拾様です」
「太閤様のお子であられるのですから」
「それを勘違いされては困りますな」
「実に」
「そうじゃ」
だからだというのだ。
「大坂城のこともな」
「常にですな」
「見張りを怠らぬことですな」
「幕府に対して」
「そしてそのうえで、ですな」
「天下人として為していく」
「そうあるべきですな」
弟達も言う、だがここでだ。
大野は弟達にだ、難しい顔でこうも言った。
「しかしな」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「わかっておるな」
こう言うのだった、ここで。
「茶々様や母上、他の女御衆の方々はそう思っておられるが」
「今の天下はですな」
治房が応えた。
「豊臣家に対して厳しい」
「加藤殿、福島殿もじゃ」
豊臣家の子飼いであった彼等もというのだ。
「近頃は違う」
「遠いですな」
「どうも疎遠です」
「どうに」
「左様ですな」
「そうじゃ、遠くなっておる」
彼等との関係がというのだ。
「それをどうしていくかじゃ」
「文を送りますか」
「これまで以上に」
「そして他の大名家にも」
「そうしていきますか」
「やり取りが絶えてはな」
それだけでというのだ。
「よくないからな」
「だからですな」
「やり取りは増やしていき」
「そしてですな」
「やがては」
「いざという時にはな」
加藤や福島にもというのだ。
「共にいてもらう」
「だからですな」
「ここは文を送り」
「その数を増やし」
「やり取りをしていきますか」
「そうしようぞ」
こう言うのだった、そしてだった。
彼等は手を打つのだった、実際にそうした大名達に親し気に文を書いて送った、だがその文を受け取ってだ。
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