英雄伝説~西風の絶剣~
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第23話 英雄との出会いと暗躍する陰
前書き
リィンの幼年期は今回で終わります。それではどうぞ。
side:リィン
ロイドとティオが義理の兄妹になったのを見届けてから僕とフィーもティオに自己紹介して友達になった。特にフィーとは境遇が似ていることもあってか直に打ち解ける事が出来たようだ、今も二人で何か話し合っている。
(じゃあフィーさんはそうやって甘えてるんですか?)
(うん、これは妹の特権。ティオも一杯甘えればいい)
(でもちょっと恥ずかしいです……)
(大丈夫、慣れてしまえばすっごく幸せな気分になれるから)
(が、頑張ります……!)
ヒソヒソとこちらには聞こえない声で話してるから内容は分からないがきっと女の子同士しかわからない事でもはなしてるんだろうな。
「でも俺が兄になるなんて思わなかったな」
「ロイドは兄や姉的な人はいても年下の家族は初めてだもんね」
「ああ。ちょっと不安ではあるけどそれ以上に嬉しくもあるんだよな」
「分かるよ。僕もフィーと初めて会った時同じ気持ちだったから」
僕も年上だらけの猟兵団で生きてきたから年下の家族が出来る嬉しさは共感できる。ロイドやティオも仲の良い兄妹になれるはずだ。
「でもロイドが兄ってことはガイさんもティオのお兄さんって事になりますよね」
「まあな。でも俺はロイドの親代わりもするつもりだからティオの義理の父親って事にもなるかな」
「俺にとっても兄貴は父さんでもあるからな」
ティオもこれまでさんざん苦しんできたから新しい家族の元で幸せになってほしいな。ロイド達なら簡単だと思うけどね。
「おっとそうだ。リィンとフィー、二人ともちょっといいか?」
「僕たちに何か用があるんですか?」
「ああ、実はティオを紹介するついでに二人を呼びに来たんだ」
「呼びに来た……ですか?」
「ああ、二人に……特にリィンに会いたいっていう人がクロスベル警察署で待っているんだ。一緒に来てくれないか?」
僕たちに会いたい人がいる……一体誰だろうか?まあ特に用事もないしその人に行ってみよう。
「分かりました。フィーもいいよね?」
「ん、問題ないよ」
フィーも承諾してくれたので僕たちはガイさんと一緒にクロスベル警察署に向かうことにした。因みにロイドはティオを連れて街の案内に向かった。ウェンディ達にも合わせてあげたいと張り切っていたし早速いいお兄ちゃんぶりを見せてくれた、あの調子なら何も問題はないだろう。
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クロスベル警察署に向かっている途中でガイさんが僕たちに話しかけてきた。
「二人とも、ありがとうな」
「え、何がですか?」
「ロイドやティオと友達になってくれたことだよ。俺は仕事柄家を留守にしがちだしあまりかまってやれないからロイドには寂しい思いをさせてしまっている。でもリィン達と出会ってからロイドはとても楽しそうだ。次はいつ遊びに来てくれるかなっていつも俺に言ってくるんだぜ」
「そうですか……何か照れくさいです」
「ん…ロイドもティオも友達だから…」
「これからもよろしくしてやってくれ」
「はい、勿論です」
そんな会話をしているとクロスベル警察署に到着した。ガイさんに案内されてついたのは警察署の会議室に着いた。
「えっとこちらにいらっしゃるんですか?僕たちに会いたいっていう人はもしかして警察の関係者なんですか?」
「いや違う、その人は遊撃士だ。本来は警察関係者しかはいれないんだが今回の作戦の指揮を取った人だからここにいるんだ」
「それって……」
まさかと思いながらも会議室の扉を開けるとそこにいたのは団長だった。
「よおリィン、フィー、久しぶりだな」
「あ、団長!お久しぶりです!」
「ん…元気そうで何より」
団長たちはこの半年間教団の残党狩りをしていた。様子は見に来てくれていたが頻繁に来れる訳じゃないのでこうして会うのは一月ぶりになる。
「もしかして僕たちに会いたいっていう人は団長だったんですか?あれ、でも遊撃士だって聞いたけど…」
「ははっ、そりゃ俺じゃねえよ。お前らに会いたがってる人はこの人だ」
団長が視線を向けた先を見ると口元に髭を生やした茶髪の男性が立っていた。顔つきは優しく一見穏やかな人物に見えるがその佇まいには一切の隙が無い。そこにいるだけで圧倒的な存在感を出している。かつて出会った『光の剣匠』と対峙しているかのような緊張感が僕に走った。
「貴方は……」
「君がリィン君にフィー君かな?俺はカシウス・ブライト。リベール王国所属の遊撃士だ。気楽にカシウスとでも呼んでくれ」
カシウス・ブライト……!リベール王国が誇る英雄で大陸に四人しかいないS級遊撃士の一人、そしてあのアリオスさんと並ぶ八葉一刀流の免許皆伝者にして『剣聖』と呼ばれる人物……実際に会ってみるとここまで凄い人がいるのかと思ってしまった。
「は、は、初めまして……僕、リィン・クラウゼルと言います…その、えっと……」
「おいおい、何緊張してるんだよ」
一応僕もユン老師から八葉一刀流の稽古を受けてますから兄弟子にも当たる人だから緊張するなっていうほうが無理ですよ……
「ははは、そんなに緊張しなくてもいいさ。剣聖やS級遊撃士と呼ばれていても俺自身はしがないオジサンでしかない。だから変に意識しなくても大丈夫だ」
「ん……よろしく、カシウス。わたしはフィーでいいよ」
「ああよろしくな、フィー」
フィーも最初は緊張していたのか表情が強張っていたが直にカシウスさんと打ち解けた。
「分かりました。じゃあ僕の事もリィンと呼んでください」
「うん、よろしくなリィン」
ふう、さっきまで緊張してたけどカシウスさんのお蔭で落ち着けた。もっと厳格な人物かと思ってたけど実際に話してみるととても気さくな人だと分かったよ。
「ところでカシウスさんはどうして僕たちに会いに来られたんですか?まだ教団の件でお忙しいのでは……」
「ああ、俺が君たちに会いに来たのは謝罪が言いたかったんだ。特にリィン、君にね」
「謝罪……ですか?」
「ああ、君が教団に捕らえられ非道な実験を受けていたという事は既に知っている。我々がふがいないばかりに多くの命を失わせてしまった。本当にすまない」
カシウスさんは僕に頭を下げる。まさかS級遊撃士に頭を下げられるなんて思わなかった。
「……カシウスさん、頭を上げてください。悪いのは教団です、寧ろ貴方方は教団をやっつけてくれたじゃないですか。それに団長や僕たちが作戦に参加できるように取り計らってくれたのもカシウスさんだって聞いてます。貴方に感謝はすれど恨むなんてことは出来ません。僕の方こそお礼を言わせてください、本当にありがとうございました」
そう言って僕はカシウスさんに頭を下げた。
「ありがとう、リィン。そういえば君は大切な人と離れ離れになってしまったと聞く。お詫びという訳ではないが俺もギルドを経由して情報を集めてみよう」
「本当ですか!?カシウスさん、お願いします、どうか力を貸してください!」
「ああ、出来る限りの事はしよう。約束する」
探し物をする事に関しては遊撃士は猟兵より優れている。これならレンを見つけられる可能性が大きくなるかもしれない。
「良かったね、リィン」
「カシウスの旦那ならかなりの情報が集まるはずだ、強力な助っ人が出来たな」
「はい!」
良かった、これで希望が生まれた!レン、待っていてくれ。必ず君を見つけて見せるから!
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「えっと、これはどういう事でしょうか……」
今僕は東クロスベル街道でスタッフを構えるカシウスさんと対峙していた。しかも隣にはフィーもいて双銃剣を構えていた。一体どうしてこうなったんだ?
「あのカシウスさん、これは一体どういう状況なんでしょうか?」
「いきなりですまないな、君がユン老師から教えを受けたとルトガー殿から聞いたので兄弟子として君の強さを見てみたくなったので折角の機会だし手合わせをお願いしたい。駄目かな?」
「いえ僕としては寧ろ嬉しいくらいなんですけどどうしてフィーまで?」
「ん、わたしがお願いした」
僕の疑問にフィーが答えてくれた。
「わたしももっと強くなりたい、だから団長クラスの実力者であるカシウスとの戦いは絶好の機会だと思う。だからわたしが頼んだ」
「フィー……」
フィーは覚悟を秘めた目で僕をジッと見てきた。これは何を言っても聞かないな。
「はっはっは!いい目をしているな、フィー。若者の決意を秘めた姿はやはり素晴らしい物だ。リィン、君はどうなんだ?俺に挑む覚悟はあるか?」
……覚悟か、そんなものはとっくに出来ている。レンを取り戻すと決意した……いやエレナを失ったあの日から……
「……その答えは言葉ではなく自らの実力を持って伝えさせてもらいます」
僕も刀を抜きカシウスさんと対峙する。
「その意気はよし!ならば俺も人生の先輩として君たちの壁となろう!その覚悟が本物ならば俺を乗り超えて見せろ、リィン・クラウゼル!フィー・クラウゼル!」
闘気を纏いながらカシウスさんがこちらに向かってくる、僕とフィーも武器を構えてカシウスさんに向かった。
「『孤影斬』!!」
僕はカシウスさんの間合いに入る前に飛ぶ斬撃をカシウスさんに放つ、だがカシウスさんはスタッフを横に振るい斬撃を打ち消した。
「そこ!」
その隙にフィーがカシウスさんの懐に潜り込み攻撃を仕掛ける。だがカシウスさんはスタッフを巧みに使いフィーの攻撃を全てさばいていく。
「はあっ!!」
そしてスタッフの突きをフィーの腹に当ててフィーを遠ざける。追撃しようとしたカシウスさんを僕は死角から切りかかった。カシウスさんはそれを防御して僕に素早い突きを放ってくる。
「ぐっ、何だ?一撃が凄く重い……!!」
刀で受け流そうとするが攻撃が余りにも重く受け流すどころか防御するだけで精いっぱいだ。
「リィン!」
そこに先ほど突き飛ばされたフィーが援護に来てくれた。背後から来るフィーに対応するため僕への攻撃が緩くなる。
「今だ、『時雨連撃』!!」
「『リミットサイクロン』!!
僕は『時雨』を連続で放つクラフトを、フィーは怒涛の斬撃を放つクラフトを同時に放った。
フィーの『リミットサイクロン』は本来は銃弾も使うクラフトだが僕がカシウスさんの近くにいるので斬撃をメインに放っている。前後から放たれるこの連続攻撃、普通の猟兵相手ならカタが付くはずだが……
「そ、そんな……!?」
「……信じられない」
カシウスさんはまるで舞を踊るかのように回転しながら僕たちの攻撃を全て受け流していた。
「『裂甲断』!!」
そしてカシウスさんが放った一撃で僕とフィーは大きく吹き飛ばされる。
「こ、これが『剣聖』の実力……!何て強さだ!」
「ん、チート過ぎ……」
たった一撃で僕もフィーもフラフラになるほど追い詰められてしまった。全く底が見えない、剣聖……どれだけの鍛錬を積めばこんな強くなれるのだろうか……
「大丈夫か?一応手加減はしたんだが……」
「あれで手加減とか……本当にチート過ぎ……」
カシウスさんの言葉にフィーはジト目でため息をつく。確かにあれで手加減してたら本気出したらどうなるんだろうと思ってしまう。
「リィンもフィーもその年で大した実力だ。中々に修羅場を潜り抜けているようだな」
「いえカシウスさんに比べればまだまだですよ」
「でもカシウスの攻撃、一見軽そうで凄く重かった。あれ、どうやってやったの?」
フィーが僕も気になってることを聞いてくれた。
「あれは回転を利用して威力を上げているんだ」
「回転……ですか?」
「ああ、俺が八葉一刀で皆伝したのは『螺旋』の型と呼ばれる物だ。そもそも回転力は全ての武術でも使われる基本の一つでもある。様々な応用が使われるほど武術の世界では知れ渡った技術だ」
「回転……そういえば老師から手ほどきを受けた時、回転について話を聞いたことがあります。結局時間が無くて八の型以外は習えませんでしたが……」
「そうなのか?先ほど六の型に通ずる孤影斬を使っていたが……」
「あれは老師に見せて頂いた技を記憶を頼りにして再現しただけです」
「ほう、それは……(見ただけであそこまでの形に持っていくとは……もしかすると彼こそが先生が望んでいた者なのかもしれんな)」
うん?カシウスさんがジッと俺を見ているがどうしたんだろうか?
「まあとにかく君たちなら直に理解できるだろう、いつかより強くなった君たちと手合わせをしたいものだ」
「はい、その時はよろしくお願いします」
「ん、次は必ず一撃入れて見せる」
「ああ、楽しみにしていよう」
カシウスさんとの戦いは僕たちに大きな影響を与えてくれた。これでまた一歩強くなれたような気がした。
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カシウスさんと別れた僕たちは団長とガイさんも一緒に買い物をしてベルハイムに向かっていた。
教団の件もあらかた片付いたようでもうすぐこの街ともお別れになってしまうらしい。なのでティオがバニングス家の一員になった記念も兼ねてパーティーをすることになった。
今はロイドがティオを外に連れ出してるのでこちらに来ていたウェンディとオスカーも加えて準備をしている最中だ。
「飾りつけはこんな物かしら?」
「ウチから出来立てのパンを持ってきたぞー」
「マリアナさん、パスタの出来はどうかしら?」
「うん、完璧ね」
「おいゼノ。まだ酒は飲むな」
「まあまあ、そう固い事言わんで、な?唯の景気づけやって」
途中で合流した西風の旅団の皆も混ざり結構大規模なパーティーになってきてる。人数が多すぎるから警察署から許可を貰い、オスカーの幼馴染が経営しているパン屋にある外のスペースを使うことになった。近所の人たちも集まってるし凄い事になりそうだ。
「これはティオもビックリするだろうな」
「しかし集まり過ぎじゃないか、これは……」
「まあ偶にはこういうのもいいだろう」
「俺まで参加していいのだろうか?」
「無礼講だって、旦那も楽しめよ」
アリオスさんはあまりの人数に少し呆れていたがガイさんとセルゲイさんは笑っていた。あとさっき別れたカシウスさんも来ていた。部外者だから遠慮しようとしたらしいが団長が無理に連れてきたようだ。
パーティーの準備が大体終わり後はロイドとティオを待つだけとなった。ロイドには既にこのことを話しているので知らないのはティオだけだ。
「ロイド兄さん、どうして私の目を隠すんですか?」
「いや、実はティオにプレゼントがあるんだけどビックリさせたいからちょっと我慢してくれないか?」
「そうなんですか?楽しみです」
おっとロイド達が戻ってきた。ティオに目隠しをして抱っこしながらこちらに歩いてくる。そしてティオを指定した場所に座らせて目隠しを外して皆がクラッカーを鳴らした。
「「「「「ようこそ、クロスベルへ!!!」」」」」
ティオは一瞬ポカンとした表情を浮かべたが皆が自分の事を祝ってくれたのを理解したのか涙を流しながら笑った。
「皆さん……ありがとうございます」
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side:??
クロスベルから離れた湿原地帯に二つの影が何処かに向かい疾走していた。
「ヨアヒム様、教団は恐らく壊滅しました。残党も殆どやられて襲撃を受けなかったロッジも『結社』や『教会』の奴らにあらかた潰されてしまったようです」
「構わんさ。私さえいればグノーシスを完成させることなど容易い。まあしばらくはおとなしくしている必要があるがその間に新しい隠れ蓑でも探すとしよう」
「自分が所属していた組織が潰れても顔色一つ変えないとは……貴方はやはり狂っていますね」
「ふっ、見損なったかい?」
「いいえ、自分が仕えるのはヨアヒム様唯御一人だけです。何処までもお供致しましょう」
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「これでお終いね」
ゼムリア大陸の何処かにある教団のロッジ、そこに血塗れになった少女が大きな鎌を持って立っていた。少女の周りには教団の戦闘員が血塗れになって山のように積まれていた。少女に付いた血は全て返り血で少女自体には傷一つない。
「レン、どうやら終わったようだな」
「あ、レーヴェ」
少女に声をかけたのは銀髪の青年だった。彼も少し返り血を浴びているため少女同様にこのロッジを壊滅させた人物だ。
「それにしてもレーヴェったら相変わらずの強さよね。あれだけいた改造魔獣を一瞬で消しちゃうんだから」
「レンこそ大分強くなったと思うがな」
「まだよ、こんなんじゃ足りないわ……もっともっと強くなって必ずアイツを殺してやるの」
「……」
少女は笑っているがその目には強い憎しみが込められていた。
「待っていなさい……リィン・クラウゼル」
後書き
次回からようやく『空の軌跡』にむけて物語が進みます。ここまで来るのに大分かかりましたがようやくエステルとヨシュアが出せます。まあ二話ぐらい後になりそうですが……
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