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アタエルモノ

作者:V・B
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第四話

 
前書き
どうも、こちらも再開させていただきます。 

 

 
「いやー、一人暮らしにはちょうどいい部屋なんじゃない?机出してもいい感じだし、ベッド置いててもスペース的には余裕だしね。」
 
俺の事などお構い無しと言うように、沙紀はローテーブルの近くの床に座っていた。
 
…………多分今俺、驚愕の表情でも浮かべてるんだろうか。驚きすぎて思考回路が追い付いていない。
 
「ほら、そんなところで突っ立ってないで、座ったら?」
 
我が物顔で部屋にいる沙紀は、促すように対面を指差す。
 
…………いやいやいやいや。そうじゃあねぇだろ。
 
「なっ…………んで沙紀がここにいんだよ!尾行か?追っかけてきたのかよ!?」
 
やっと声を出すことができた俺は、勢いそのままに沙紀に向かって叫んだ。
 
「あー、ごめんごめん。これ届けに来たんだよ。」
 
そう言うと、沙紀はポケットの中から七宮学園の生徒手帳を取り出した。ここでは身分証明書にもなるものだ。
 
「あ?もしかして俺、落としてた?」
 
俺は今更になって自分のポケットを確認してみる…………確かにない。
 
「ほら、写真もヒロのだよ。」
 
証拠はこれだと言わんばかりに、生徒手帳を開いて見せてくる。そこには、つい二日前に撮ったばかりの俺の写真が貼ってあった。証明写真の割にはキレイに撮れていた。
 
「そうか、わざわざすまんな。届けてくれて…………。」

俺は感謝の言葉を口にしたが、『どうしてここに沙紀が来たのか』より分からない疑問点がまだ分かってない。
 
「んで、どうして俺んちが分かったんだよ?」
 
確か、沙紀も兵庫から来たとか言ってたし、俺の生徒手帳に住所が書いてあるとは言え、簡単ではなかっただろう。
 
「『住所検索』。住所とか場所の写真とかがあれば、ここから見てどこにあるかが、X、Y、Z、軸で分かるんだよ。」
 
簡単だった。沙紀にとっては。
 
俺は諦めたように肩を落としながら部屋に上がり、沙紀の対面に胡座をかく。
 
「んで、それだけか?」

俺は沙紀の目を真っ直ぐ見ながらそう言った。会ってから一日すら経ってないが、こいつと言う人間がどんな奴なのかは、今までの行動でだいたいわかってる…………つもりだ。
 
「あははー。そりゃあそんなわけ無いじゃん。なんなら『瞬間移動』で送り届ければいいんだし。」
 
いやいや、目の前に急に生徒手帳が現れたら腰抜かすぞ俺。
 
「そうか。で、用件は?」
 
机に肘をついて頬杖をつく俺。そんな俺を見てニヤニヤしている沙紀。
 
入学初日からなかなか混沌とした状況だ。
 
少し間があってから、沙紀は口を開いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「デートしよっか?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「…………………………(絶句)。」
 
…………この女の子には恥じらいと言うものはないのかよないんだなふざけんじゃねぇよこんちくしょう。
 
いやね?沙紀って何時間か前に俺が言った通りなかなか、と言うかかなり可愛いほうだ。そんな女の子からデートの誘い。普通なら嬉しい。
 
ただし、相手は神谷 沙紀。何してくるか分かったもんじゃない。
 
そんなわけで、可能であれば、お断りしたい。
 
可能であれば、な。
 
…………無理に決まっている。
 
この結論に到るまで、およそ十秒。
 
「…………何処にだ?」
 
結局、諦めるように言葉を吐く俺。こいつはこういう奴だ。早いとこなれた方がいい。
 
どうせこれから散々振り回されることになるんだろうしな。
 
「うんうん、素直でよろしい。それじゃ、買い出しに行こうか。」
 
沙紀はそう言いながら立ちあがり、部屋の入り口まで移動していた。
 
…………買い出し?
 
「えっと、何を?」
 
ビクビク、とまでは行かないが若干怯えている俺。さすがに犯罪とか、アブナイこととかはしないだろう。多分恐らく願わくば。
 
「生活用品一式かな。ここに受かるとは思ってなかったから、まだまだ買うもの多いからねー。」
 
それを聞いてホッと胸を撫で下ろす俺。良かった、マトモな内容だ。まぁ、荷物持ち位なら手伝ってやろう。
 
「ホントは『言霊』で取り出してもいいんだけど…………あれはチート過ぎるからねぇ。できる限り温存したいんだよ。」
 
なんだその『コトダマ』って。どんな漢字か分からないけど、絶対危ない奴だよね。
 
「取り合えず、シングルのひとつと、百五十リットル位のと、IHは…………流石に厳しいか。『言霊』使おう。」
 
…………うん?
 
「待って、シングル?」
 
シングルってなんだよ。いや、他の二つも明らかにおかしいけども。
 
「あー、人増えるかもだし、二段にするかな。」
 
は?二段?
 
「あのー、沙紀さん?何を買おうとしているんですか?」
 
俺は怖くなってきて、恐る恐る沙紀に聞いた。

「えっと、ベッドと冷蔵庫とIHとレンジとかかな。」
 
「…………………………(絶句)。」
 
本日二度目の絶句。流石に顎が外れるんじゃないかと思うほど口を開いてしまった。
 
「…………まておい、お前の部屋にはそんなものまでないかよ。」
 
俺は相変わらず笑っている沙紀にそう言った。流石にその辺は親御さんが買ってる、もしくは借りた部屋にあるはずだ。
 
「いや?そもそもアパートとか借りてないし。」
 
「……………………はい?」
 
アパートを借りていない?
 
「いや、でも確か兵庫から来たとか言ってただろ?親戚がいる…………なら、そこに泊まるよな?」
 
それじゃあ、寮か?だとしても、あそこにはベッドは全部屋完備だし、小さいキッチンにレンジもあったはずだ。
 
「ボクはさっきの教室に寝泊まりするから。あそこに居住空間作ろうと思ったら、色々足りないじゃん?だからだよ。」
 
「あー、成る程な。」
 
確かにそれなら家具や電化製品も必要だな。それならカーペットとかも買っといたら楽かもしれないな。
 
………………………………。
 
うーん、こいつはアホなんじゃね?
 
うん、なにかやらかす前に止めといた方が良いだろう。
 
「お前大丈夫か?学校に住むとか、先生に見つかりでもしたら…………。」
 
「『ウソ写し』&『ボクの空間』。」
 
「で、電気とかの問題もあるし…………。」
 
「『ボルトマン』で電気大量。」
 
「ほ、ほら!ここに運び入れるときに見つかるかもだし!」
 
「『瞬間移動』。最悪『言霊』。」
 
「風呂とかどーすんだよ!」
 
「銭湯近いし、校内にシャワールームあるし、最悪『キレイ好き』か『言霊』。」
 
「飯は!」
 
「作れる!」
 
「トイレは!」
 
「学校の!」
 
「課題は!」
 
「『答え合わせ』でバッチリ!」
 
「部活は!」
 
「やる気はない!最悪作ってやる!」
 
「おやつは一日?」
 
「「さーんびゃーくえーーーーーーーん!!」」
 
パチン、とハイタッチをする俺と沙紀。
 
 
 
 
なんだこれ。
 
 
 
 
「と言うわけで、ボクが学校に住むことにはなんの問題も無いんだよ、ホームズ。」
 
「テメェがワトソンかよ。」
 
少なくとも原作だったらこのあとホームズに論破されたりするんだろうけど、論破できる気がしねぇ。
 
「さてと、それじゃあ行きますかね。近くにホームセンターがあるから、そこにしようかな。」
 
そう言うと、沙紀は扉を開けて、外に出た。
 
………………付いて行かなかったらどうなるんだろ。というか、付いかないって選択ができるのだろうか。
 
 
 
ムリだな。
 
 
 
俺は諦めて部屋の鍵を持って、外に出た。
 
 
 
 
―ホームセンター『住み家』―
 

 
 
 
と言うわけで、俺は沙紀と一緒に全国展開されているホームセンター、『住み家』に来ていた。今は冷蔵庫を見ている所だ。
 
「最近の家電は凄いねー。氷が作れるんだねー。」
 
………………本気なのか嘘なのか。いや多分嘘だろう。沙紀は冷蔵庫の氷を作るところ(名前は知らない)をカパカパ開けていた。
 
「ねぇねぇ、なんで冷蔵庫って内容量をリットルで表すのかな?分かりにくくない?」
 
沙紀は中くらいで黒っぽい色の冷蔵庫の前で商品説明を見てそう呟いた。確かに、もっと他に分かりやすい表記とかあったはず…………いや。
 
「多分、リットルより分かりやすい表記が無かったんじゃないか?」
 
それならリットルな理由も分かる。
 
「んー、考えられない話じゃ無いね。後で『調べて』おこうかな。」
 
沙紀は無邪気に笑った。どーせこいつの『調べる』だからろくな方法じゃねぇな、と勝手に決めつけた。恐らく大きく間違っては無いだろう。
 
「んで、なんで俺がこんなことに付き合わされてんのか、だいたい予想ができたけどさ。もしかして荷物持ちか?」
 
だとしたら、正直勘弁して貰いたい。どうやって一人で家具の数々を持つんだよ。

「一応言っとくが、俺には超能力みてぇなもんはねぇからな?アメリカ軍人みてぇな怪力も無いし。」
 
すると、沙紀はこちらの顔を見て、ニッと笑った。
 

 
 
 
「大丈夫大丈夫。『貸す』から。」
 
 
 
 
 
 
『貸す』?店のトラックとかか?いやそれなら借りるだろ。
 
じゃあなんだ?
 
「そうだねぇ…………『極』でいいかな。となると……………………『右目』かな。ちょっと手貸して。」
 
何やら物騒なことを言いながら、沙紀は半分無理矢理俺の手を取った。女の子に手を触られるのは生まれて初めてだ。いや、そんなことはどうでもよくて。
 
 

 
 
 
「『右目』。」
 
 
 
 
 
 
沙紀がそう言った直後。俺の視界が半分になった。
 
「!?」
 
俺は沙紀の手を振り払おうとした。しかし、沙紀は俺の手をしっかりつかんで放さなかった。
 
 
 
 
 
 
 
「『極』。」
 
 
 
 
 
沙紀はそう言うと、俺の手を放した。俺はそのまま後ろに下がり、置いてあった姿見で自分の右目を見た。右目には特に変化は無く、ただただ『視力が無くなった』らしい。
 
「テメェ……………………何しやがった!」
 
俺は沙紀を睨み付けながらそう言った。
 
「あー、だから。『極』を与えるには『右目の視力』が代償として必要なんだよ。用事が終わったら返すから。」
 
……………………流石に鵜呑みにはできない。恐らく、『極』と言うのは今まで俺が見てきた『能力』で間違い無いだろう。
 
つまり、俺には今、沙紀の能力である『極』を持っていると、沙紀は言いたいんだろう。
 
「知らねぇよ!なんだよ『極』って!」
 
平日のこの時間だからか、沙紀がなにか使ってるのかは知らないが、周りに人はいない。だから、沙紀はこんな提案をしたのだろう。
 
「んじゃ、この冷蔵庫持ち上げてみて。」
 
「は?」
 
俺は気の抜けた声を出してしまった。冷蔵庫を持ち上げる?それとこの状況となにが関係するのか。
 
「いいからいいから。早くする!右目の視力返さないよ?」
 
沙紀のその言葉に、俺は渋々冷蔵庫の前に移動し、両手で冷蔵庫を持った。
 
 
 
 
 
 
 
小石を持つように軽々と持ち上がった。
 
 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。こちらはまだシリーズとして新しいので、しっかり設定を作れました。次回は、まーた説明から始りますね。なんかすいません。
それでは、また次回。 
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